聡子の場合~4
49歳をまもなく迎える同期入社2人。
恋愛なんて縁遠いと思われた2人の出会いを全13話で描きます。
京助と別れて家で寛いでふと聡子は思った。
これはまさに『デート』ではないか、と。
最後にデートしたのはいつだったか。
32歳の時に同期の彼氏の友達と2~3回デートして付き合い終了したのが最後?いやいや、33歳の時に後輩の結婚式の二次会で出会った新郎の先輩と1回デートしたのが最後?
いずれにしてもデートなんて…干支が一回り以上してしまってるくらい久しぶり。
毎日体重計に乗ってコントロールしていた聡子はその頃には51kgだった。Mサイズのお洒落な服を少しずつ買い揃えつつある頃だった。
日曜日は気合い入れてお洒落したらバカにされないかと勝手に心配になり、シンプルにクリーム色の織り生地のカットソーと下は紺色の膝丈のフレアースカートにした。
いつも作業着の京助は長Tシャツとジーンズのシンプルな格好で現れた。逞しい身体にTシャツはよく似合った。
2人は久しぶりも久しぶりの動物園を純粋に楽しんだ。
お昼時に動物園の中のレストランで食べていたときのこと。2人の周りは家族連ればかりだった。
「家族連ればかりだね(笑」
「そうだなぁ」
「私、若い頃は子供欲しかったなぁ」
「うん、俺も」
聡子はちょっと下を向いて言った。
「…京助くんは若い女の子と付き合えば子供作れるじゃない…」
京助は聡子をじっと見て、ちょっと横を向いて隣の幼児を見ながら言った。
「俺、子種無いんだよ」
「は?」と聡子は鳩が豆鉄砲を食らったような形になった。
「俺さ、1回結婚したことあんだよ、若い時。子供出来なくてさ、検査したら精子0だって言われて…それで子供欲しい元嫁に離婚されたんだ」
ワイルドガテン系の京助から衝撃の告白を聞き、聡子は言葉を失った。
聡子の高校の時からの親友のみちるは不妊症だった。欲しくて欲しくて何度も何度も繰り返し不妊治療を受け、40歳でやっと女の子を授かった。その苦労を横で見てきた。今みちるは忙しくてなかなか会えないけれど。だから京助が当時苦しんだのが目に浮かぶ。
「ごめん…言い辛いこと言わせて…」
聡子は半泣きになった。
京助は慌てて「ごめん、俺の中では消化してんだけど、こんなこといきなり聞かされたら引くよな。ごめん!」と謝った。
「引いてないよ。私が悪いもん」
「いや、俺がいきなり言うから…」
「そんなことない、ごめんね」
ごめん合戦をし続け、2人ははた…と気付いて笑い出した。
「私もう産めないし…似た者同士なのかな…」
「うん、俺は聡子ちゃんとだと気楽でいいんだよ」
一呼吸置き、
「落ち着くしさ…」
レストランを出た後、奥の方の不忍池へ移動中、京助は聡子の手を握った。
聡子はドキドキしたが、大きなゴツゴツした京助の手で手を握られると、すごく恥ずかしくて嬉しくて、少女のような気持ちになった。
「聡子…」
あまりひと気のないところで京助は立ち止まると、聡子の肩を寄せ、そっとキスをした。
「聡子」とちゃん付けでなく呼ばれたことにどぎまぎしていた聡子はちょっと不意打ちのようになってしまった。
「俺と付き合ってくれる?」
聡子はもうパニック状態だった。いや、幸せ過ぎてどうしたらいいか、わからなかった。
ただ、黙って真っ赤になって頷いた。
明るくて優しい素朴な京助が好きになっていた。日焼けして逞しい身体の京助にドキドキした。
次の日曜日もデートすることになったが、京助は出掛けようとしたものの、京助が1日しか休日がないために疲れを心配した聡子はインドアを提案した。
結局京助のアパートに行き、レンタルビデオを観ることになった。
シャワーしかない狭い6畳のワンルームのアパートは、かなり古かった為に家賃は破格だった。京助は日給制とはいえそれなりに稼いでいるが、堅実な性格だった為にほとんど貯蓄へ回していた。
レンタルビデオを観終わった時、京助は聡子の肩に腕を回した。
「いい…?」
優しく力強いキスをし、京助は聡子を求めてきた。あまりにも久しぶり過ぎて聡子は身体をかたくした。
「聡子…嫌…?」
「違うの…久しぶりなの…」
泣きそうな顔で聡子が答えると、京助は「優しくするから」と聡子に優しくキスした。彼自身も若くはない。ゆっくり時間をかけて聡子を求めた。




