聡子の場合~3
49歳をまもなく迎える同期入社2人。
恋愛なんて縁遠いと思われた2人の出会いを全13話で描きます。
渋谷が来なかった。
たまたまかと思ったが、渋谷はその次の週も来なかった。
結局1ヶ月半後に渋谷は現れた。
「久しぶり。どうしたの?」
渋谷は頭を掻き、
「いや、ちょっとミスって労災になってさ…」
と言った。
労災?ということは怪我?と聞くと、同僚が上から工具を落とし、それが肩に当たって肩の骨にひびが入った。ひびといっても幸い軽かったが、それでも仕事復帰に1ヶ月と少しかかったという。
私が毎週木曜日に来たから嫌だったのかなと勘ぐっていた聡子はホッとした。
「大変だったね。もう大丈夫?」
「うん、サンキュ。治すにも寝てるしかないから、仕事に行けないのが辛かったなぁ」
休めたらラッキーと思ってしまった聡子はちょっと顔にそれが出てしまった。
「あ、俺らさ…月給じゃないからね…」
ちょっと恥ずかしそうに渋谷が言った。
逆に申し訳ない気持ちになり、慌てて聡子は言った。
「いや…でも頭でなくて良かった」
渋谷はそりゃそうだと笑った。「それは医者にも言われた」だそうだ。
久しぶりに渋谷と飲んだのは楽しかった。聡子にとって木曜日は既に日常になってしまっていた。
ひょんなことから下の名前の話になり、その日以来、聡子ちゃん・京助くんと下の名前でお互い呼ぶようになった。木曜日は相変わらず焼き鳥の会だった。
そんな関係が2ヶ月経ち、聡子が毛嫌いする誕生日が迫ったときのことだった。
大きな溜め息をついてしまった聡子に「どしたの?」と京助が聞く。
「いや…さぁ…また年取るのかなぁと思って」
「誕生日?いつ?」
「明日…」
「そりゃめでたいじゃん!」
「めでたくなんかないよ、どうせ週末だから残業だしさ、京助くんはまだ若いけど、私来年大台だよ?あ~やだやだ、違う話題にしよ!」
と聡子は最近出来た話題の激安食べ放題の店の話を始めた。
次の日、聡子は想定通り…いや想定より1時間多く残業になってしまった。なんだかな~ととぼとぼ帰り道を歩いていて、そうだ!京助くんはいないけど、夜も遅いからケーキなんてだめだし、そもそも食べたいと今思えないし、余計侘しいし…と焼き鳥屋へ向かった。
すると店の斜め前に京助が立っていた。
「あれ?どしたの?」
聡子が素頓狂な声をあげた。
「おう!」
京助は聡子の方へ来ると「誕生日おめでと!」と小さな包みをくれた。
「…え?」
「誕生日だろ。いくつになっても元気に生まれて今元気に生きてる記念日でめでたいじゃん!」
「うん…」
「じゃな!おやすみー!」
京助は軽く右手を挙げると走り去ってしまった。
びっくりしてとても焼き鳥どころではない。
帰って包みを開けると、ピアスだった。小さな小さな花が10個連なっていて、花の芯の部分に小さなジルコニアが埋め込まれていて、ゆらゆら揺れて可愛いピアスだった。
焼き鳥屋へ行かなかったので、結局晩御飯は春雨ヌードルになってしまったが、幸せな誕生日だった。
翌日そのピアスをして、はたと気付いた。
(一番に見せたいのに…連絡先すら知らないな…)
木曜日、聡子はその日もそのピアスをして焼き鳥屋へ行った。
「よう!」
京助が先に来ていた。
「あ、この間はこれ、ありがとう!」
聡子は隣に座ると京助にお礼を言った。
「うん、似合ってる」
京助がはにかんだ。
「これ、すごく可愛くてすごく気に入ってるの!本当にありがとう!」
聡子はすごく嬉しそうに笑った。
「安物だけどな」
「すんごく可愛いよ!貰ったから…本当は一番に見せたかったけど連絡先わかんないから今日になっちゃった」
すると京助がフム…と考え、
「そだな、連絡先お互い知らないよな。よし、メアド交換しようよ」
とLINEだけでなく、電話番号もメアドも交換した。
「あのさ…」
そろそろおあいそという時に京助が切り出した。
「日曜日さ、どっか出掛けない?」
「え?」
「いや、予定あるなら別にさ…」
「…掃除洗濯くらいしか予定ないよ?」
「…ぷっ…なんだそれ。侘しいな」
「ほっといてよ。京助くんはどーなの」
「…それに買い出しがオマケにつくよ」
「なにそれ!」
2人は『普段1人だと絶対行かないところ』へ行こう!ということで、動物園に行くことにした。
13話を一旦書き上げましたが、ゆっくり見直したいので、1日1~2話のアップにします。ご了承ください。




