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91.カード効果とは

 戦いとも呼べぬ、ゲームですらない。

 禁止カードの乱れ撃ちで、全てが終わった。

 パワー5000のバエルならば、都一つ、跡地とはいえ、丸ごと灰に出来る程の力なのだ。

 10億を超えたパワーになったインペリアルガードの攻撃ならば、最早言わずもがな。

 死体すら、残っていない。

 きっと痛みも感じる間もなく、一瞬だっただろう。

 敵だとしても、無意味に苦しめるのは趣味じゃないからな。


 夜が明ける。

 最後に残ったのは、傷付いた虜囚、僅かに残った投降した捕虜。

 それ以外の全てが、皆殺し。

 その捕虜も、指で数えられる程度しか残っていなかった。

 軍門に下る位ならば死を選ぶタイプだったのか、それともメイド服の女に負ける訳が無いと思っていたのか。

 そこまでは分からないが……彼等の名誉の為、君主の命は絶対という忠誠心を持った誇り高き兵が大半だった、そう考えておく事にする。


「これからどうするんですか、主人(マスター)

「兎にも角にも、彼女達を治療しないと駄目だろうな」

「――え? あれ? んん!? 旦那様(マスター)! 旦那様(マスター)!? で、出られた! 出られましたよ!?」


 ダンタリオンの問い掛けに、最優先事項で答える。

 生傷の絶えない……程度ならまだマシだ。

 中には杜撰な申し訳程度の治療で済ませられていたり、対処しなければ感染症等で死んでしまうかもしれない人達が大勢居る。

 彼女等を助けたいと言った。

 だから俺は、そのカード達の願いに答えなければならない。

 そうでなければ、俺はカード達に助けられるだけのお荷物になるだけだ。

 死なせては、助けた意味が無い。


「何でか分からないですけど、出られましたよ旦那様(マスター)!」


 左右に激しく揺れる視界。

 ちょっと、揺さぶらないで。

 一体どうしたのさアルトリウス。



 …………



「――ねえ、何で出られてるの?」

「私が知るか、出来るようになってたんだから」


 顔を見合わせるダンタリオンとアルトリウス。


 ちょっと。

 今しなきゃいけない事あるんだから余計な混乱要素持ち込まないで。

 え?

 何でアルトリウスが出られてるの?

 俺のマナ数って、7だったはずだよな?

 今出てる合計が、3+5で8になってるぞ。

 バエルのような誰かを召喚する系の能力によってはこの計算式を覆す事もあるようだが、この二人の組み合わせでそれが発生する事が無いのはとっくに分かっている。

 そしてこのマナ数ってのが、邪神の欠片を倒した数と比例してるから、アレを倒す事がマナ数の増加条件だったはずじゃないのか?

 俺は今回、邪神の欠片なんて倒して無いぞ。


 ……それはともかくとして、だ。


「ブ――えるえる、負傷してる人達を全員治療してやってくれ」

「今ちょっと言い直してましたよね聖上(マスター) (`ε´)」


 口を尖らせるブエル。

 治療対象が女性の為、やる気無さそうな表情で片手間感を隠しもしない所作で治療を施していく。

 背中の大量の裂傷や、内出血や骨折まで、完璧に治していくブエル。

 やっぱ治療性能おかしいな。

 だが……


「――なあ、えるえる。もしかして、"怪我"しか治せないのか?」


 既に治療を終えた女性達を見る。

 成程、確かに"傷"は全て治っている。

 だが――完璧に治ってはいない。


 切断されたとしか思えない手足や耳、抉り出された眼球、抜き取られた歯。

 これらが、治っていない。


「……そうです。アタシは、死んでさえいなければどんな怪我も治せます。だけど、病気や欠損してしまった身体を治す事は出来ません」


 真面目な表情と口調で答えるブエル。

 その口調の方が話し易いからずっとそのままで居てくれないかな。


「何で駄目なんだ?」

「アタシの力は、"治癒"であって"復活"じゃ無い、という事なんでしょう。どうしたらそこも含めて治せるのかは――すみません、アタシには分かりません。きっと、アタシには分からない何かの"ルール"があるんだと思います」


 ルール、か。


「いや、それでも助かった。ありがとう、ぶ……えるえる」


 ならそれを考えるのは、俺の役割だ。

 力を持ち、力を振るうのがカード。

 ならば、それをどう動かすか決めるのは、プレイヤーである俺の役目だ。


「私ならば恐らく可能だぞ、師匠(マスター)


 自らの顎を白骨化した指で撫でながら、ビフロンスが姿を現す。


「私の力は、魂をベースに肉体を再構成する力。ブエルの言葉で言うならば、私の力は"復活"だ。肉体はボロボロではあるが、魂自体にはなんら損傷は無い。私ならば、彼女等を元の身体に戻す事も可能だろう。尤も……後天的ならばともかく、先天的に、つまり生まれながら手足が無いような人間は、ベースとなる魂の情報がそれに準じている都合上、本当の意味で元に戻る事にはなるがな」


 ビフロンスの効果を、思い浮かべる。



 5:【起動】【条件】1ターンに1度

 【効果】このユニット以外の、機械族以外の自分のユニットを任意の数選択する。選択したユニットを墓地へ送り、墓地に送ったユニットのパワーの合計以下のパワーで、機械族以外のユニット1体を自分の墓地から召喚する



 この効果の事を言っているのだろう。

 一度フィールドを離れたユニットは、原則的に情報がリセットされる。

 ここで言う情報とは、四肢を失ったとか怪我をしているといった事柄だろう。

 だから、ビフロンスの能力で一度彼女達を墓地へ――死亡させ、再度復活させる事でそういった情報をリセット出来る。

 ビフロンスが言っている事は、そういう事だろう。


「……待て。それ、本当に足りるのか?」


 この世界でカードが実体化した時、そのカードが持つ能力をなるべく再現する形でカード達はその姿を取る。

 この実体化している最中の効果の処理が、時々妙な挙動をする事がある。

 影響を及ぼせる効果の範囲があるとかが、その最もたる例だ。

 元々のカードゲームでは、効果範囲なんてものは指定された範囲なら全部及ぶモノだ。

 フィールドと言われたら、フィールドだ。

 この世界がフィールドならば、フィールド全てに影響――つまり世界全体に影響を及ぼせねばおかしい。

 それこそ、フィールドのユニット1体を選択とかならば、星の裏側に居る者も指定出来ねば駄目だ。

 だが実際には、そんな事は出来ていない。

 (カード)のルールではなく、世界のルールに従っている部分も所々ある。


 で、だ。

 ビフロンスの効果は、簡単に言えばフィールドと墓地のユニットの交換だ。

 フィールドのユニット1体を犠牲にする事で、そのユニットのパワーを超えない範囲で新たなユニットを出す事が出来る。

 機械族のユニットだけ対象外なのは、機械は命、つまり魂を持たないから復活も何も無い、という事だろう。

 この新たなユニットというのは、選択したユニットを一度墓地へ送り、今墓地へ送ったばかりのユニットを再び選択して出す事も可能だ。

 例えばだが、完全殺戮(ジェノサイド)細菌兵器(ウイルス)E.V.O.L.A.(エヴォラ)だ。

 このユニットは召喚成功時に自身にカウンターを乗せ、そのカウンターを使用する事で様々な効果を起動できる。

 だが、自力でカウンターを増やす効果は有しておらず、一度使ったカウンターは減ったままになってしまう。

 この乗っているカウンターというのが、リセットされる情報の一つなのだ。

 ビフロンスの効果でE.V.O.L.A.(エヴォラ)を墓地へ送り、再び召喚する。

 ビフロンスは墓地から"召喚する"という判定なので、この場合E.V.O.L.A.(エヴォラ)に再びカウンターが乗るのだ。

 これにより、効果を連続使用する事が可能――そんな使い方も可能。

 今回ならば、身体の一部が欠損してしまった女性達を一度死亡させ、再度復活させる事で身体の一部が欠けている、という情報をリセットするという事になる。


 パワーを参照し、その数値以下を出せる。

 ……本当に、そのままで出るのか?

 パワーって、何処を参照してるんだ?

 魂だというのなら問題無いが、身体を参考にしていたら?

 身体の一部が減っているのだから、パワーが低下している、という事も有り得る。

 格闘家やスポーツ選手が手足を失ったら、失う前と同じように戦えるのか?

 答えはノーだろう。

 ビフロンスの効果では、元に戻せないんじゃないのか?


 いや、それ以前に。

 折角助けた彼女達を死なせる、という選択肢自体に拒否感がある。

 元に戻す為だと、彼女達に言い聞かせて――殺すのか?

 それで本当に戻るとしても、そのやり口はこの世界の在り方とはかけ離れたモノだろう?

 カード達のルールに巻き込む、という事でもある。


「……ビフロンスの選択肢は、最終手段だな。他にどうしても手が無いなら、それを試す」


 殺して蘇生、という手段は最終手段だ。

 なのでビフロンスや死者蘇生の書という発想は一旦封印だ。

 次に思い付いたのは、手札やデッキに戻し、改めて召喚するという発想。

 手札やデッキに戻るのは、墓地に行くのと違い、死んでいる訳じゃないのだろう。

 例えるならば、フィールドが戦地で、手札やデッキは戦禍が及んでいない内地、みたいな見方も出来る。

 遠く離れた土地に移動させているだけであり、こういう考え方ならばユニットが死んでいる訳じゃない。


 でもさ、手札やデッキって、この世界では何が該当するんだ?

 仮に存在するとして、何処が参照されているんだ?

 一つだけ分かる事は、この世界のルールにおいて、俺のデッキ枚数は40枚以上ではないという事だ。



 1:【永続】【条件】自分のデッキが40枚以上

 【効果】このカードを手札からプレイする際、コストを0に出来る



 ダンタリオンの第一効果、条件付きの召喚コスト踏み倒し効果。

 俺のデッキ枚数が40枚以上ならば、バエルの例から見てダンタリオンは常時ノーコストで召喚出来てなければおかしい。

 だが実際には、ちゃんと3マナを支払わねば実体化出来ない。

 つまり、俺のデッキ枚数は39枚以下という判定になっているという事。


 いやそもそも、俺のデッキって、あるのか?

 カードゲームをプレイしている最中は、ちゃんとデッキはある。

 だがゲーム中以外のカードって、デッキなのか?

 もしかして、手札なんじゃないのか?

 それも仮定で、手札ですらないのかもしれない。

 ゲーム中ではないのだ、ゲーム中では有り得ない、訳の分からない第三のルールで動いている事だって考えられる。


 ……死なせる訳ではないのだろうが、フィールドから移動させてリセット、という発想は止めた方が良さそうだ。

 だから異次元ツアーガイドも一旦考慮外だな。


 フィールドから離せば簡単にリセット出来るし、だからこそユニットに及んでいる何らかの影響をリセットする時は、とっととフィールドから離してしまうのが一番だと考えて来た。

 だけど、フィールドから動かさずにカード情報をリセットする方法を考えろとなると……一気に選択肢が狭くなるな。

 突風……は、違うな。

 アレはユニットの前衛後衛を移動させるだけの効果だから、リセットはしていない。

 カードを裏側にするって概念がエトランゼにもあればなぁー。


 フィールドから離さずに、情報リセット――か。

 リセットとはちょっと違うが、"初期値に戻す"ってのは、どうだろうか?


「呪文カード、真実を照らす光を発動。フィールドに存在する全てのユニットのパワーは、カードに記載されたパワーと同じ数値になる」


 発動した瞬間、手にしたカードから強烈な白い閃光が放たれる。

 うおっ、まぶしっ。

 取り敢えず目を閉じて逸らして、上に掲げておいた。

 閃光が、周囲を無差別に貫いて行き――数秒程でその光は収まった。


 この呪文は、互いのユニットに及んでいる強化や弱体化を全てリセットする――ではなく、正確には"上書き"するタイプのカードだ。

 効果が限定的であり、その分マナコスト0で使用可能という利点はあるのだが、如何せん直接ユニットを破壊どうこうする効果のカードではない為、使い所が難しい。

 相手の強化値をリセットしてバトルで破壊するなら、そもそも最初から報復の隠し刃みたいなカード使って直接ユニットを破壊した方が、手っ取り早く脅威を片付けられる。

 更に言うなら、こっちが強化系の呪文を使って上から殴り倒すとかでも結果は変わらないしな。

 同じ結果に出来るカードが多数存在する為、敢えてこのカードを使うという発想はまず無い。


 もし、身体の一部が欠損するというのが、パワーダウンという判定になっているのであらば、この真実を照らす光であらば、元の数値――つまり、欠損前の肉体に戻るという事になる。

 ……カード効果の処理的に考えれば、確かにそうだけどさ。

 いやいやいや、そんな馬鹿な。

 駄目元で使ってみたけど、これ発動条件も無いしマナもノーコストなんだぞ?

 仮にこれで元に戻るなら、この世界の人々にとってノーコストで何度でも使える欠損系の傷痍治療カードって事になるぞ。

 ノーリスクで失った手足が元に戻る。

 イエスの奇跡か何かかよ。

 まあ発動条件が無いとは言うが、エトランゼの基本的なルールとして"空撃ち"は出来ないというのがあるが。

 空撃ちというのは、例えばフィールドにユニットが誰も居ないのにユニットを破壊するカードは使えない、という基本ルールの事だ。

 なので今回の場合だと、真実を照らす光は大原則として、フィールドにパワーが変化しているユニットが居ないと発動すら出来ない。



 つまり発動したという事は、誰かパワーが変化しているユニットが居たって事になる。



 ……誰が?


「――え、何で――何で!? 私の足が!?」

「私の目――目が、見える!!」


 いやいやいや、そんな馬鹿な。

 カード効果の処理的に考えれば、確かにそうだけどさ。

 イエスの奇跡か何かかよ。

 真実を照らす光って、エトランゼだと割と地味なカードだったはずなんですけど。


「ほう、このような解決手段があるとはな。流石は師匠(マスター)だ、我らの考えの限界を遥かに超越した発想だと言わざるを得ない」

「お、おう。そうだな」


 駄目元の適当だったんですけど。

 何か、戻っちゃいました。

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