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86.悪魔の言葉

切る場所見当たらなくてちょっと長いです

 階段を上っていく。

 開けた部屋に出るや否や、突き付けられた無数の銃口。

 吼え猛る火薬の咆哮。

 その銃弾は全てが永久凍土の皇女、その数メートル手前で阻まれる。

 不可視にして鉄壁のヴェールがそこにあるかのようで、その位置に達した銃弾が次々に氷結し、空中で運動エネルギーを失ったかのように地面へと転がった。


「えー、こういう時は口だけでも『動くな! 動けば撃つ!』みたいな警告するもんじゃないのー?」

「侵入者は例外なく殺せって命令なんだろ、そういう命令なら警告するだけ無駄だからな」

「こんな幼気な少女で無抵抗の私を問答無用で撃つなんて――気に入らないわ」


 永久凍土の皇女の周囲に、銀風が舞う。

 その風に触れた床や壁面に霜が走る。

 それが何らかの魔法の予兆だと察したのだろう。

 目の前の兵達が、弾幕の濃度を上げて来た――が。


吹雪(ミチエーリ)


 強烈な吹雪に耐え切れず、館内の窓ガラスが一斉に外に向けて爆ぜる!

 その猛吹雪が敵兵達を飲み込んで行き、一人、また一人と地へと伏す。

 吹雪が止むと、それでもまだ立っている敵兵の姿が散見される。

 再び銃を発射しようとするが――動かない。

 引き金を引いても銃弾は飛び出さず、完全に無力化されていた。

 銃が動かない事を知るや否や、心の支えが折れたのだろうが。

 俺と永久凍土の皇女が一歩、また一歩と足を進める度に、それだけで一人また一人と膝を折っていく。


「永久凍土の皇女の第一効果。このカードのパワー未満のパワーを持つユニットは攻撃出来ず、効果も無効になる」


 永久凍土の皇女のパワーは3000。

 つまりパワー2999以下のユニットはこのカードが出現すると同時に攻撃も効果も使用不能になる。

 このカードは、強烈な格下殺しの効果なのだ。

 雑魚がどれだけ群れようとも、永久凍土の皇女に対しては傷一つ付ける事が出来ない。

 だが最初にこちらに向けて銃撃を行っていた所を見ると、相手のパワーは最初は3000以上になっていたようだ。

 銃で武装した兵の集団だし……そういえば、エルミアのパワーも3000だったな。

 彼女と目の前の敵兵集団の戦闘力が同格と考えれば――まあ、納得するものはある。

 エルミア、初めて会った時も単身で邪神の欠片を食い止めてたしな。

 そこから逆に考えると、銃で武装した集団であらば相手の効果にもよるが邪神の欠片を討伐出来るだけの戦闘力を目の前の敵兵は持っていたという事になる。

 流石の軍事国家、その大貴族の私兵だけある。

 だが、そこまでだ。

 一度永久凍土の皇女の効果を受ければ、そのパワーはどれだけ群れようとも等しく2000下がる。

 そうなれば実数値で見るならパワー4999以下は全員無力化される。

 これを超えるには、パワー5000以上が必要だ。

 パワーだけで見るならばそれは……バエルやジャンヌと同格という事。

 そんな奴、この世界にそうホイホイ居ないだろ。

 それ程の人物が割と簡単に居るような世界なら、邪神の欠片がこうも災害扱いされるような事になってないはずだ。

 もしそうだったなら、邪神の欠片は災害ではなく地球の感覚で言うなら「クマが出た」位の脅威で収まってるはず。

 生身で相対するには恐ろしいが、猟師が罠や銃を使えば普通に仕留められる程度の脅威でしかない。


 カードゲームというのは、パワーだけ高けりゃ勝てるという物ではないんだよ。

 カード達の性能が忠実に再現され実体化するのであらば、その理屈はそっくりそのままこの世界でも通用する。


「このまま全部制圧するぞ。だから頼んだ、永久凍土の皇女」

はーい(ダー)!」


 ――屋敷が、凍り付いていく。

 この警報を受けて、とっくに外部の警備もこの屋敷に向けられているだろう。

 だが、屋敷ごと吹き飛ばす訳にも行かない。

 たかだか一兵士如きが、グランエクバークの誉れ高きシャール家の邸宅を吹き飛ばすという決断を下せる訳が無い。

 それが許される程の責任を隊長や団長に委譲しているとは思えないんだよな。

 何故かと理由を聞かれれば……勘だ。

 勝手に行動して、責任問題になれば物理的に首を切られかねない。

 それ程の危険を独断で冒すとは到底考えられない。

 そうなると、大火力の使用は制限されてしまう。

 屋敷の中で戦うとなれば携行火器が火力の限界だが、その火力では永久凍土の皇女を倒せない――というよりそもそもの話、無垢の大結界を潰さない限り、相手側はどうにもならない。


 ユニットは戦闘・カード効果で破壊されない。


 破壊されない。

 現実に置き換えるならば、死なない。

 確か……連魂包縛(れんこんほうばく)呪印(じゅいん)だったか?

 レイウッドが生み出したあの魔法。

 今使っている無垢の大結界は、それの亜種みたいなものだ。

 どれだけのパワーを誇ろうが、戦闘ではなく効果で破壊を試みようが。

 無垢の大結界が健在である限り、決して破壊されない。

 そしてこの効果があれと違う点は、コストが不要な事と、自分相手を問わず、お互いに影響する。

 相手が自分の、つまり今の状況であらば俺の永久凍土の皇女を殺そうとしても、そもそも殺せない。

 そして逆に、パワーで勝っており永久凍土の皇女で相手に攻撃を命じても、こちらも相手を殺せない。

 更に付け加えるならば、自分で自分の、相手が相手の、というのも不可能な為、相手が相手のユニットを破壊する事も出来ない。

 つまり、相手が人質を取って人質を殺すぞと脅して来ても、無垢の大結界が健在であるならば、構わず永久凍土の皇女を暴れさせれば良いだけだ。

 だって、相手が相手のユニットを破壊出来ないという事は――相手は人質を殺せないんだから。

 まあこちらが相手を殺せないのも同じなんだが、だからこそ永久凍土の皇女という選択だ。

 こいつの効果は、破壊じゃない。

 パワーダウンと効果無効化だからな、無垢の大結界を擦り抜けられるんだ。



 永久凍土の皇女の効果により、館内の人々は分け隔て無くその冷気に飲まれ、体力気力を削ぎ落され、地に伏した。

 銃口を向ける敵も、助けるべき虜囚も、全て。

 ただそこに君臨するのは、永久凍土の皇女のみだ。

 ……ったら、凄く絵になるんだけどな。

 残念ながら余計な付属物である俺という存在がある為、その絵には影が落とされている。

 まあ絵になるとかどうとかは今はどうでも良い。

 監視カメラの映像では、映っているのは廊下や客室、それと地下の映像だけだった。

 何かありそうな場所の映像は無い。

 だが逆に言えば、監視カメラの映像が無い部屋だけ探せば、お目当ての場所に辿り着けるという寸法だ。


「ちょっと失礼するよ親友(マスター)


 永久凍土の皇女が、ひょいと俺を懐に抱き寄せた。

 俺のすぐ側を、黒い影が通り過ぎていった。


氷の(リオート)抱擁(アブヤーチイ)


 その影を、白く細い指が捉えていた。

 相手の頬を滑るように撫でた。

 糸が切れたかのように、脱力し床に転がる黒装束の人物。

 全体パワーダウン効果じゃない、攻撃を介する方の効果を使用したのだろう。

 なら、ダウンした数値は3000だな。

 ジャンヌやバエルを超えるパワーを持っていないと、行動不能にさせられる。

 それを耐えろというのは流石に無茶振りというものだろう。


「助かった、ありがとう」

「私と親友(マスター)の仲じゃんかー。礼なんて不要っしょ」


 先程から永久凍土の皇女が数回に渡り、全体弱体化効果をぶっ放してるから、ほぼほぼ制圧出来たモノだと思っていたが。

 まだ動ける人物が居たようだ。

 油断してた訳では無いが、油断は禁物という事だ。


「お邪魔しまっ!」


 永久凍土の皇女が扉を開け放つ。

 扉を開けた途端爆発とかしたら俺が巻き込まれる可能性があるので、取り敢えず少し離れておいた。

 少し離れた位置でそれを確認し、特に問題無さそうだという事を確認した上で、俺と永久凍土の皇女は部屋へと侵入した。


 かなり天井の高い部屋だ。

 本棚や寝床、作業机といった最低限の家具は並んでいるが、全体的に小ざっぱりした印象を覚える。

 そんな中、左側の壁面に存在する巨大な金属扉が異様な存在感を示していた。


「――酷く騒々しいと思ったら、やはり侵入者だったか」


 若くは無い、壮年男性の鋭い声が飛ぶ。

 一目で高貴な人物だと分かる、高そうな紺色の装束。

 鳶色の頭髪をオールバックで撫で付け、鋭い青の眼光が真っ直ぐにこちらへ向いていた。


 ……永久凍土の皇女で弱体化しているように見えない。

 何か無力化する手段があるのか?


「はーい、侵入者でーす」


 素直に答える、永久凍土の皇女。


「貴方にはどうやら効果の影響が届いて無いようですね」

「ああ、この部屋と金庫室は特別性でね。魔法効力を無効化する力があるのだよ。元々この部屋も金庫の一つだった場所でな、以前魔法で爆撃して強奪を働こうとした不届き者が居たので、その際に強化したのだよ」


 そう断言し、高級な机に寄り掛かった体勢を直しながら、目の前の男が永久凍土の皇女へ、次いで俺へと視線を流す。

 ……俺達も、その不届き者の一人な訳だが。


「何が望みだ? 君達が望むモノを与えようじゃないか」

「随分とあっさりとした対応ですね。賊である私達にそこまでする理由は何でしょうか?」

「道中に居た、黒装束の連中を倒してここに来たのだろう? なら、私が抵抗するだけ無駄だというものだ。私は無駄な事はしない主義なのだよ。金が欲しいなら、そこの金庫にある金を好きなだけ持って行けば良いさ」


 目の前の男の口振りからして、やはりあの黒装束の人物は相当な実力者だったらしい。

 実際、永久凍土の皇女のパワー3000未満封殺の判定から外れてたしな。

 流石に5000未満ではあったようで、一度でも効果を使用された時点で沈黙したが。


「そこが金庫室ですか? もしそうなら、開けて頂いても宜しいでしょうか?」

「拒否したら?」

「勝手に開けます」

「……分かった、開けよう」


 左側の金属扉――金庫に何らかの暗証番号と、恐らく網膜認証だろうか。

 男が複数の解錠処理を終えると、電子音と金属の軋む音と共に、俺の背の丈より二回り程大きい、金庫の扉がゆっくりと開いていく。

 非常に重い扉である為か、開き切るのに時間が掛かるようだ。


「――恐らく、君達は噂に聞いた"勇者"なのだろう? それに逆らうなど、天に唾するのと同意義だ。無駄な事をする程、無意味な時間の浪費は無い」

「違いますよ」

「隠しても無駄だ。フィルヘイムに勇者が現れたという話は、このグランエクバークにも届いている。だというのに、フィルヘイムの連中は勇者の存在を臭わせるだけで、外交のカードとして切り出してこない。大方、フィルヘイムの連中は勇者の囲い込みに失敗したのだろう。であらば、現れたにも関わらず行方知れずで、宙に浮いたままの勇者は一体、何処に行ったのかな?」


 ……探るというより、ほぼ確信しているような口振りだ。

 何となく察しているのかもしれない。

 推理要素はいくつもあるので、俺が勇者とやらだと悟られても無理は無いか。

 動き辛くなるからと隠すようにはしていたが、何時までも隠し通せるとも思っていないので、そろそろ潮時という事なのだろう。


 さて、目標の一つである、敵の首根っこを押さえるという点に関しては達成出来たか。

 ここでいう首根っことは、シャール家の血族の誰かの身柄を押さえるという事である。

 それさえ成せば、一先ず一息吐ける。

 まだ油断は出来ないが。

 永久凍土の皇女を撤収し、ダンタリオンを召喚する。

 そして、ダンタリオンの能力を用いて目の前の男に質問をする。


 やはり目の前の男はシャール家当主、ヴィンセント・シャールで間違いないようだ。

 当主の首根っこを掴んだなら、これ以上虜囚に危害を加えられる事も無いだろう。

 虜囚を人質に取ったとしても、こちらもシャール家当主を人質に取ればイーブン。

 いや、この国の利益を考えれば替えの利く虜囚なんぞより当主の命の方が上、それを加味すればこちらの方が上だ。

 一番確認したかった事項を確認出来たので、無垢の大結界を解除する。

 これで敵味方から死人が出るようになってしまうが、永久凍土の皇女は撤収済みなので既に冷気は屋敷から退き始めている。

 凍死者が出る事は無いだろう。

 その後はバエルを召喚し、バエルを中継して72魔将が自由に動けるようにしておく。

 今の状況、72魔将の複数の力が必要だ。

 凄いくるくるカードが入れ替わってるな、この世界に来てから一番目まぐるしいぞ。


「ヒュー! こいつぁすげえや。流石天下の大貴族様ってか?」


 口笛を一つ鳴らすシャックス。

 目の前に並び積み上げられた金貨、紙幣、金塊、宝石。

 そのどれもが一般市民では到底手にする事が出来ない輝きであり、選ばれた者のみが見る事が出来る光景と言えるだろう。

 大貴族様の金庫としては、文句無しで満点の煌びやかさだ。


「必要なのは奴隷契約書だけだ。そもそも盗った所で持って歩けないだろ」

「つってもよお、一つや二つ位盗っても良いだろ? 相棒(マスター)だって興味あるだろ?」

「興味無い」


 この世界じゃ、金があってもカードは買えないからな。

 だったら衣食住があるなら、それ以上は不要だ。

 人間が身の丈を超える金銭を求める理由は、たったの二つしかない。

 贅沢と、安心だ。

 あれが欲しいこれが欲しい、その欲望を満たす為に金が必要。

 例え明日働けなくなろうが、国が無くなろうが、これだけ金が有れば安心だ。

 その二つが、人が身の丈以上の金を求める理由。

 俺の欲しいモノは、金があった所で手に入らないモノばかり。

 カード達の力があればいくらでも安心出来るし、協力してくれないというのなら、俺はどう足掻いてもその時点で野垂れ死にだ。

 自分の力ではどうしようも無い以上、金は俺に安心を与えてはくれないし、そもそも金で安心したいとも思わない。

 だから俺には金は必要ない、そういう事だ。


 それに、カード達がこういった貴金属類を抱える事は出来ない。

 実体化している最中に持つのは問題無いが、持ったまま実体化を解除すると、手荷物も一緒に消えてしまう。

 俺が今までダンタリオンの手荷物であるギルドカードを所持していたのも、これが原因だ。

 なのでカードに戻る時は必ず私物は手放している必要があるが、こんな金塊とか俺に預けられても困る。

 紙幣だって一枚二枚はともかく、数百数千枚と増えればこれまた大荷物になる。

 目の前の財宝の山に目が眩んだ所で、持って歩けないなら一定以上は完全な重石になる。

 そもそも、盗る気も無いしな。


「それがあの二人の願いだからな。虜囚の首に掛けられた縄をとっとと切って、この島からオサラバするぞ」

「悪党退治はしないのか盟約主(マスター)? そこに悪党が居るぞ?」


 含み笑いしながら、バエルが親指で指し示す。

 その先に居るのは、ヴィンセントである。


「悪党を俺達が裁く理由も権利も無いな。裁きを下すのは法や国民であって、異邦人(・・・)じゃない。そもそもの話、俺個人は正義の味方って柄じゃないしな」


 異邦人とは、言わば外国人だ。

 外の国の人にとやかく言われたら、人の国に口出しするなと言いたくもなるだろう。

 度が過ぎれば、内政干渉だ。

 シャール家に何か問題があるとして、それを解決するのは国民の責務だろう。

 請われてもいない事を勝手にする必要は無い。


「はいはい分かりましたよっと。んじゃま、とっとと奴隷契約書とやらを搔き集めますかね」


 お目当ての代物を探すのは、シャックスに一任する。

 シャックスには、隠された財宝を見付け出すというフレーバーテキスト上の設定がある。

 カード効果としてそれが現れている訳ではないが、その能力はこの世界でも生きている。

 なので、どれだけ金銀財宝の山に埋もれていても、お目当ての代物の場所が即座に分かってしまうという事だ。


「――成程。君は、私と良く似た人種のようだ」

「何?」


 シャックスが金庫内を物色している最中、ヴィンセントが俺に向けて口を開く。

 一応側にはバエルが控えているので、何か余計な事をするようなら即座に制圧、場合によっては殺すように指示を出しているので、何も問題は無いとは思うが。


「目と表情を見れば分かる。これ程の財貨を目にすれば、例えそれが他人の物だったとしても、何かしらの反応を見せるものだ。羨望、欲望、妬み、そういった感情を発露するのが当然であるにも関わらず、君は何も変わらない。心の底から、この金銀宝石がただの路傍の石と同じだとみなしている」


 ……金、ね。

 この異世界とやらに飛ぶ前に、大金を手に入れてるからな。

 その経験のお蔭で大金で目の色が変わる、なんて事態になっていないのだろう。


 あんな経緯の金なら、要らないから家族を元に戻してくれと、どれだけ思った事か。


「君は、私と同じだ――世界に、飽いている」

「……飽きてる?」

「君の仲間達との会話を聞いて居れば、それ位は察せられるとも。君は、自分の意思で動いていない。ここに来たのも、誰かにそう頼まれたから来た。そうなのだろう?」


 確かに、そうだな。

 邪神の欠片を倒すのは、エルミアの願い。

 今ここで、ヘンリエッタと、それ以外の虜囚を助け出すという判断も、ガラハッドとジャンヌの願い。

 それを成す為に俺はここに居るだけで、俺が自らそれをしたいと決断した訳ではない。


「私と君は、きっと仲良くなれると思うのだ。だからどうだね? 私と君で、手を組むというのは」

「手を組む、ですか?」

「ああ、そうだとも。今回の件も含め、君が欲するモノであらば何でも用意しよう。奴隷達を解放しろと言うなら、少なくとも今私の手にある分の奴隷であらば、全て君に譲ろう。今日の襲撃も、不幸な出会いだったという事で揉み消しておこう。悪い話では無いと思うが、どうかね?」

「――そうですか……」


 手を組む理由は、無い。

 そして手を組まない理由も、無い。

 悪党だから手を組まない、という理由は俺には無い。

 それを言ったら完全に賊側のビリーやシャックスはどうなるんだという話だ。

 あいつ等は悪党だから、毛嫌いして使いません、と?

 そんな訳無いだろ、使うに決まってる。


 ここまでの道中、確かに俺は酷い目に遭っているであろう、奴隷達の姿を目の当たりにしてる。

 それを指示したかどうかは別として、ヴィンセントがそれを認めているのは間違いないだろう。

 だが、この奴隷という仕組みが、法と絡み合い、刑罰を兼ねているというのが厄介だ。

 囚われている人々が全員、ヘンリエッタとやらみたいに無実の罪で囚われているのか?

 中には強盗殺人のような凶悪犯罪を犯した果てに、奴隷の身に堕ちている者も居るんじゃないか?

 もし仮にそうならば、その被害に遭った遺族としては、犯人である奴隷は、死ぬ程苦しい目に遭ってしまえば良いと思うだろう。

 俺だって、もし家族が死んだ原因が事故ではなく他者の悪意だったとしたら、その犯人を決して許さない。

 どれだけ許しを請おうが、絶対に追い詰めて、始末するだろう。


 奴隷が無実の罪なのか、受けて当然の仕打ちを受けているだけなのか。

 それを俺に確かめる術は無い。

 人数が多いから、ダンタリオンに一人一人質問して確かめて貰おうにも時間が掛かり過ぎるしな。

 こんな敵地で睨み合いしながら、そんな悠長な事はやっていられない。


「手を組んで、どうする気ですか?」

「そうだな、何なら君と私だけの楽園をこの世界に築いてみるかね? 何処かで聞いた言い回しだが、"世界の半分をやろう"というヤツだ。勇者である君は力を振るい、私は君が持たない力以外の事を受け持つ、というのは?」


 少し気を向けた事で、ヴィンセントがより踏み込んだ内容にまで言及してくる。

 ……この世界の半分、か。

 そんな物貰った所で、どうしろと。

 金が要るのか? 地位が要るのか? 名声が要るのか? 女が要るのか? 国が要るのか?

 ――どれもこれも、特別欲しいとは思わない。


 俺の欲しい物、か。

 俺は一体……何が欲しいんだ?


相棒(マスター)、言われた通り奴隷契約書とやらを搔き集めて来たぜ」

「そうか、助かる」

「それでよ、ちょっと気になる事があるんだが……」


 契約書類を俺に手渡しながら、シャックスがそれを口にする。


「――この金庫、隠しブロックがあるな。まだ何か本音を隠してやがるぜ、そこのおっさんはよぉ」


 シャックスのその言葉とその後で、俺の心は大きく揺れつつも、今後の方針を定める事となった。

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