83.再会
カード達の力で無事警備室を無力化出来たので、騒動を起こさずに館内を動けるようになった。
地下へ向かう階段を見付ける。
警備員が詰めていたので、ダンタリオンの能力で無力化する。
人心掌握と改竄、酷過ぎるな。
機械に対しては何も出来ないが、こんなもん相手からすればどうやって対処すれば良いんだってレベルなんだが。
地下へと移動する。
……何だ、この臭いは。
何と言うか……公衆トイレにチョコレートをぶちまけたような臭いとでも言うべきか。
鼻が曲がりそうな臭いという表現があるが、正にこの臭いの為にあるような文句だ。
「こっちです。足元が暗いので気を付けてください」
ビチャリ。
何か、水気のある物体を踏み付けた。
足元が薄暗いので何だか分からんが、酷く不快だ。
時々聞こえる、くぐもったような声。
その声の正体には勘付きつつも、無視して目的地だけを目指す。
地下二階。
何で屋敷に牢屋があるんだよ、悪趣味な。
ここにも警備で詰めていた人が居たので、ダンタリオンが無力化する。
休憩中だったのか、呑気にトランプ遊びに興じていたのでアッサリであった。
その室内に転がっているモノがまた、堕落と退廃極まる代物ばかりだ。
酒や煙草位ならまだしも、何か剥き出しの錠剤やコルク栓で封をされ小瓶に入った謎の液体。
使用済みの注射器に、床に散らばったゴミの山。
仮眠用と思われる寝床では、二人の女性が全裸で力無く横たわっていた。
まあ、そんな事より先急ぎましょうか。
目的はそこじゃないんだ。
「ヘンリエッタさん!?」
監視カメラの映像で確認出来た場所に到着するや否や、ガラハッドが牢へと飛び付いた。
ガラハッドの声に気付いたのか、俯いたままだった女性が顔を上げた。
服装は摩耗で千切れたようなボロ切れだし、先程の映像ではよく見えなかったのだが、首には鈍色の首輪が取り付けられていた。
髪もボサボサで、頬もこけている。
俺は割と痩せ型の体型なのだが、鏡で見た俺よりも余程目の前の女性は痩せていた。
その時点で、異常だと言える。
「ガラ、ハッド……さん……?」
「くそっ、鍵が!」
「そりゃ掛かってるだろうな」
牢に入れてる時点で、逃がす気ゼロだからな。
これで鍵が開いてたら間抜けにも程がある。
ただまぁ、手枷が壁面の鎖と固定されてるから、鍵が開いてたとしても手首を切り落としでもしない限りは逃げられないのだが。
「退けガラハッド! 私が斬り破る!」
ジャンヌがそう言うや否や、抜き放った銀閃が牢を切り裂いた。
……バエルとジャンヌって、素のパワーが同じなんだよな。
バエルは以前、土地丸ごと焼き尽くすような魔法を使ってたけど……パワーだけなら、アレと互角なんだろジャンヌって。
ひえっ。
牢屋が可哀そうになるレベルなんだが。
鉄格子如きじゃ止まらないわそりゃ。
「その人が、ガラハッドとジャンヌが言ってた探し人で間違い無いのね?」
「ああ、間違いない」
「もう、大丈夫だ。遅くなって、本当に、ごめんなさい……っ!」
手枷と繋がっていた鎖を両断し、ヘンリエッタを抱きしめるジャンヌ。
「よし、じゃあもうここに用事は無いわね。とっとと撤収するよ」
「待て、ダンタリオン! ここには、他にも沢山の囚われた人達が居るだろう!? 彼女達を置いていく気か!?」
踵を返したダンタリオンの肩を掴み、食って掛かるガラハッド。
「ええ、そうよ」
「お前だって見ただろう!? ヘンリエッタさんだけじゃない、ここでは大勢の人達が――」
「じゃあ何? ここに居る人達全員を助けるとか言い始める気なの?」
「当然だ! 何故見捨てる前提で居るんだ!」
「――調子に乗るなよ、ガラハッド」
ダンタリオンの声色が変わり、周囲から冷気が漂う。
ただの比喩表現なのだが、何だかそんな気配を感じた。
「ただでさえ、主人はガラハッドとジャンヌのわがままを聞き入れてくれて、見たくも無いモノも見ながら、こうして貴重な時間を使って助け出したってのに、この上更にわがままを言う気?」
「だが――」
「だがもしかしも無いのよ。そもそも助けるって、どうする気なのよ? 家も無い食糧も無い、こんな状態で何十人も主人に背負わせて身動き取れなくして、それで助けられたからって満足する気? 今この場だけどうにかするんじゃなくて、今後の生活の保障までしなきゃ本当の意味で助けたとは言わないのよ? そんな自分だけが気持ち良くなりたい自己満足のオナニーに主人を巻き込む気なら――主人の重石にならないよう、この館に居る人間全員の息の根止めてやる」
――ダンタリオンの声色に気圧されたのか、ガラハッドとジャンヌが僅かに後退った。
その言葉には、一切の迷いが感じられない。
これでガラハッドやジャンヌが本当に首を縦に振ったなら、マジでこの建物に居る人達を皆殺しにしてしまいそうだ。
「ダンタリオン、質問して良いか?」
「何ですか主人」
「取り敢えずヘンリエッタさんの身柄は確保したけど、ダンタリオンは他の人達を助けたくは無いのか?」
「助けると、今後主人がロクに身動きが取れなくなります。無力で守らねばならない人物を何十人も抱えたら必ずそうなります。そもそも助ける義理なんて無いですから、見捨てた所で何の問題もありません」
「ああ、そういう長期的な視点とか現実的な考えは今は良いんだ。俺の事は抜きにして、ダンタリオン個人が助けたいか助けたくないか、それだけが聞きたいんだ」
「……」
ダンタリオンが、チラリと視線を横へ向ける。
監視カメラの映像を見た時点で既に把握していたが、ヘンリエッタという人物は、この館内に囚われていた一人にしか過ぎない。
他にも居るのだ、彼女と同じような目に遭ったであろう人物が。
「――邪魔になるなら、切り捨てますけどね」
「それは助けたい、って意味で良いんだな?」
「……」
ダンタリオンは答えない。
「なら、そうすれば良いじゃないか」
「主人、それは――」
「それとさ、ダンタリオンは俺が身動き取れなくなるのを気にしてたけど。この程度は重荷にならない、そして実際重荷になってないなら問題無いだろ? 更に付け加えるなら、もう基本的に俺は動く気が無いって言ったらどうする?」
現在のマナ数。
大量に戻って来たカード群。
そして、カードを実体化出来るという現実。
今ならば、成せる。
「――それは、どういう意味ですか、主人」
「そのままの意味だよ」
ガラハッドとジャンヌの方へ頭を向ける。
「助けたいんだろ? だったら、助ければ良いじゃないか。それがお前達が持っている、己の在り方なんだろう? それを曲げる必要なんて無いし、ハッピーエンドで終われるなら、それが一番だよ」
「……ですが、ダンタリオンの言う事も道理ですし……」
「ダンタリオンの言った事は気にするな。と言っても、結局の所俺はカード達の力を借りないと何も出来ないんだけどな。だが、ダンタリオンの言う事も一理ある。助けたなら、お前達が責任持って背負えよ? この場から救出してそれで終わりにするなよ? 俺がそれを背負う義理は無いんだからな」
「それは、勿論!」
ガラハッドとジャンヌが、周囲の牢を力技で解放していく。
まあ、ジャンヌのパワーの前じゃ牢屋なんて爪楊枝で作った檻程度でしか無いんだろうな。
「主人。人道的に、という感情なのは理解しますが。ここに居る人達はシャール家にとっての"資産"という事を理解していますか?」
ここに囚われている人達。
それは恐らくだが、以前街中で見掛けた"奴隷"と呼ばれている人達なのだろう。
法的にも認められた制度であり、財産――つまり資産だ。
それを不当に横から掻っ攫おうとしているのだ。
家宅に押し入り、金銭を奪い逃亡する。
俺やカード達がこれからしようとしている事は、そういう事だ。
「ああ、それなら問題無い」
そう、問題無い。
開き直ってしまえば、な。
「――こいつ等に"資産"だから奪わないでくれ、って言い分が通用すると思うか? こいつ等の流儀に、俺も習えば良いだけだ」
「ッ……!」
ダンタリオンに提示した、二枚のカード。
ビリー、そしてシャックス。
アウトロー、盗賊。
必要ならば俺は、こいつ等側に立ってしまえば済むだけだ。
「相手が大貴族様となれば、間違いなく権力側、法を生み出す側の立場だ。法律を作る側に対して、法律で戦ったら勝機はゼロだ。同タイプならともかく、相手の土俵に乗らないのは、カードゲーマーの基本だ」
まあ、敢えて乗りに行く奴等も居るんだが。
そうやって勝てるのは、主人公とかそういう奴等だけの特権だわな。
主人公でも何でもない、二流以下の俺は現実的な方針で行かせて貰う。
「強硬策に出る場合は、相手が大貴族様だって聞いた時から、初めからこの路線で行くって決めてたんだ。悪いな、ここからは"無法"の戦いだ」
カード達が望むなら、俺は勇者でも盗賊でも何でもなってやる。
今回は、賊になるってだけだ。
「それから、ダンタリオンが俺の事を心配して色々言ってくれてるのは分かってる。俺も別に、考え無しの無策でこんな事言ってる訳じゃないからな」
「何か、考えがあるのですか?」
「俺には何の力も無い。カード達に助けて貰わなきゃ、何も出来ない。だが逆に、カード達が俺に力を貸してくれるなら――何でも成してみせるさ」
結局他人の力頼みという点は、変わらないが。
ここに居る人を助けたいと、行動を起こした。
だからあの二人はそれに対しての責任を背負わねばならない。
俺が責任を背負う必要は無い。
だが。
責任を背負うのがあいつ等なら、責任を取る場所を用意するのは――俺の役目、だな。
「所で、ヘンリエッタさんの首輪なんだけど。こういうのって何か小細工仕掛けられてそうな気がしてならないんだが、普通に壊して大丈夫なのか?」
「――良い読みしとるの、同胞。厄介な魔法が仕込んである、魔道具の一種じゃよ、この首輪」
ダンタリオンと交代で、マーリンが姿を現す。
ヘンリエッタの首に取り付けられた、首輪の様子を確認して、そう断言した。
「コイツは、信号を受けて爆発する――のではなく、逆に信号を受けなくなると爆発するタイプの首輪じゃな。この首輪外さんと、ここから連れ出して信号を受け取れなくなった途端に爆発して、このお嬢さんは死ぬぞ」
「解錠出来るか?」
「外せるが、時間が必要じゃの。一日あれば、何とか終わるといった所か。だがそれじゃあ、遅過ぎるのじゃろ?」
「ああ、遅過ぎるな」
「だったら、大本を叩きに行く他あるまいて」
ああ、こりゃもう穏便には無理だな。
強硬策に移行決定だ。
さて、それじゃあ本丸に――ここが本丸か。
親玉の面拝みに行こうかね。
11月11日
一方その頃俺の家では
ドコドコドン ミ ))←俺
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_ ヽO丿 __ /O> O ○ッキーの日!!
( () ∧/ ←俺 〔 TV 〕 __ /V \
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