表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/268

82.魔法と科学の潜入工作

 空を眺める。

 天気は曇天、雨は降っていないが、空に浮かぶ月は雲に覆い隠されて視認する事は出来ない。

 アサシンスパイダーが戻って来るまでは、暇だ。

 脳内でデッキ回しをしながら現実逃避する。

 じっと大人しくしてた方が、誰かに見付かる可能性も低いだろうしな。


 アサシンスパイダーは行ったきりで構わない。

 全てのカードがそうなのだが、戻って来る時だけは実体化を解除するという、一瞬で俺の側にまで戻って来る手段が使える。

 なので、探索時間には帰還時間というのは含まれない。

 今使ってる時間がイコールで調査時間なのだ。

 ここにヘンリエッタという人物が居るのなら、それで良し。

 居ないならさっさと次に向かうとしよう。

 俺には分からんが、この地は負の魔力とやらが凄いらしいが、それを解決するのは本来の目的ではない。

 邪神の欠片が現れたとか言うならば、エルミアとの約束があるから倒しもするだろうが、これは別問題だ。

 何かこれでこの世界の人に不利益が発生すると言うならば、この世界の人々が勝手に解決するだろう。


 ……ヘンリエッタという人物の顔を見た事があるのはガラハッドとジャンヌだけだ。

 外見の特徴を共有してこそいるが、この二人が直接視認しない限り、これだという確証は得られないだろう。

 なのでアサシンスパイダーが確認するのは、この二人が言った特徴に合致する人物が居るか否かという点だ。

 それと、内部構造か。

 仮に居るなら、奪還する際には最速で到達して離脱する必要もあるだろうからな。


主人(マスター)、アサシンスパイダーが戻って来ました」

「ああ、もうか? 案外早かったな」


 身体が小さいからこそ見付からずに忍び込めるのだから文句は言えないが、身体が小さいから移動速度が遅い。

 その為、これだけ大きな館をくまなく探すとなると、かなり時間が掛かるのではないかと考えていた。

 下手すれば夜が明けてしまうかもしれないな、とも。

 だが、時計が無いから正確には分からないが、俺の体感で二時間か三時間程度で探索は終わったようだ。


「アサシンスパイダーからの情報だと、ガラハッドやジャンヌの伝えた特徴と合致する人物をこの館内、地下二階部分で確認したそうです」

「ん、他人の空似ってオチでなければ、ビンゴかな?」


 一番臭そうだった場所だったから、命中したのは朗報か。

 草の根掻き分けてという手段を取らずに済んだな。


「…………その、主人(マスター)。何と言いますか……」


 ダンタリオンが、妙に言い淀んでいる。


「何か問題があったのか?」

「……この館内に、主人(マスター)は入らない方が良いです」

「理由は?」

「……」


 黙して答えないダンタリオン。

 答えないというより、どう言えば良いか分からなくて言い淀んでいる感じだ。


主人(マスター)が、見ない方が良いモノが多過ぎます」

「例えば?」

「……その、ですね。この館内に、奴隷が沢山居たんですよ、女性の。裸とか見られたら、やっぱり恥ずかしいと思うんですよ」


 あー、成程ね。

 何となく予想出来た。

 ぐうー、ずっとしゃがんでたから身体がこった。


「確かにそうだな。でも、俺が目視で状況確認出来ないと状況に応じてカードの召喚や発動が出来ないから、不利だぞ? 可能性を上げる為に取れる手は全部取るべきだ」


 別に女の裸が見たいとかそういう訳じゃなくて。

 そもそも人助けの時に女の裸がどうだこうだキャーキャー言う歳でもないだろ、ガキじゃあるまいし。


「あー……確かにそうなんですけど……危険ですよ?」

「ここまで来て今更過ぎるだろ。警備室は何処だ? 取り敢えずそこを押さえないと話にならないからな」


 静かに済ませるにしても、強硬策を取るにしても、中枢を押さえるのは基本だ。

 というか、センサー類が生きてると穏便に済ませる方法が取り辛い。

 監視カメラや赤外線等を無力化出来れば、後はバエルやダンタリオンが好き放題に動けるようになる。

 不可視になって、人心を書き換えてしまえば、魔法では誤魔化せない電子的な情報以外は自由自在だからな。


「……じゃあ、私の個人的な感情で主人(マスター)をこの中に入れたくない、って言ったら止まってくれませんか?」

「それなら、別に入らなくても良いな」


 ヘンリエッタなる人を助けるのが、ガラハッドやジャンヌの望み。

 その為に取れる手は全部取るべきだ。

 だが、それがダンタリオンの願い。

 カード達の願いを叶える事が、俺の願い。

 だがカード同士、相反する願いを持つ事もある。

 その時は――


「でも先約はガラハッドとジャンヌだからな、そっちのお願いが最優先だ。何を見せたくないのか知らないけど、気遣い無用だ」


 家族の死(アレ)より見たくないモノなんざ、この世に存在しないだろ。

 最悪はもう見たんだ、もう残ってるのなんざそれ未満しか無いだろうさ。


「……分かりました、これ以上は何も言いません」

「悪いな。俺にとっては、お前の願いもガラハッドとジャンヌの願いも等しく大切な願いなんだ。だから、先の方を優先させてくれ。それじゃあ、さっさと行こうか」


 尋ね人を確保して、それで終わりだ。

 それを終わらせたら……さて、どうしたものかね。



―――――――――――――――――――――――



 外に設置してある監視カメラの一つを、ダンタリオンの魔法で発した電撃で破壊する。

 アサシンスパイダーからの情報で、ここを破壊すれば監視カメラに死角が生まれる事が分かっている。

 扉に駆け寄り、バエルによる炎の魔法で窓ガラスを溶かす。

 割った方が余程早いのだが、割ると音が鳴るので、それを嫌った形だ。

 溶解した窓ガラスから中に手を突っ込み、鍵を解錠する。

 監視カメラを破壊した時点で、故障を疑うだろう。

 一気に監視カメラを全て破壊すれば、故障ではなく襲撃を警戒する。

 なので、油断して貰う為に破壊する場所は一ヵ所だけだ。


 故障したのだろうと、警備兵が監視カメラに向かう。

 そうなれば、この穴の開いた窓ガラスにも気付くだろう。

 流石にこれは不自然過ぎる、見付かれば即座に警報が鳴らされて当然だ。

 そうなる前に、警備システムを総括している警備室を押さえる。

 ここさえ押さえてしまえば、後はどうにでも出来る。

 だが失敗した時は、穏便な方法ではなく強硬策に出るしか無いだろう。


 監視カメラを確認しに来た警備兵の一人を、ダンタリオンの能力で認識を改竄し、問題無いと勘違いさせて、その後は警備室へ向けて一直線に進む。

 警備室の扉を、シャックスが勢い良く蹴破る!


「な――」

「邪魔するぜェ!」


 シャックスが、俺の太腿程はあるんじゃないかという筋量に溢れた右腕を、虚空を引き裂くように振るった!

 振った直後に、異変が起きる。


「えっと、あ、あれ……?」

「俺、は、確か、うーん……?」

「お前等の思考能力は"盗"らせて貰ったぜ?」


 シャックス、お前そんなもんまで盗めるのか。

 目に見えないし触れないモノすら盗めるとか、何だそれ。


「後はお前で何とかしろダンタリオン」

「了解。『私達、恋人じゃない。恋人のお願い、聞いてくれるよね?』」

「しょ、しょうがないなぁ……」

「他ならぬ、ダンタリオンのお願いだからなぁ……でも、今回限りだよ?」


 シャックスが無力化した警備兵を、ダンタリオンが認識を書き換え、掌握する。


「はー……原初的過ぎるだろこの警備システム……こんなんじゃ内部に入られた時点で即アウトじゃないか、もうちょっとやる気起きるシステム組めよな全く」


 初見とは打って変わり、妙に饒舌なマティアスが、手にしている携帯端末を用い、警備システムを管理しているであろうパソコンにアクセスしている。


「あー、自動プログラム如きに解析突破されるとか僕の出る出番無いじゃないかー。はいはい赤外線センサー解除、監視カメラ停止ー、マイクもオフにしちゃいましょうねー。電話もシャットアウトねー、レーダー網も警報システムと繋がってる部分を消去して、はいオワオワリー。小学生でも出来るんだよなぁこの程度さぁ!」


 めっちゃイキイキしてるな、マティアス。

 イキイキし過ぎてイキリになってる。


「何か、最初の時と違わないかお前?」

「おひゃああぁぁぁ!? ま、まマま主任(マスター)!? ど、どうもおはようございます! きょ、今日は何用でございますでしょうか!?」


 あ、元に戻った。

 今は真夜中だよ。

 そして用事はさっきお前が済ませたんだよなぁ。


「何か調子乗って監視カメラを切ってたけど、ちょっと中の監視カメラだけ一旦画面に表示してくれるか?」

「ふひっ! ご、ごめんなさいすみません今付けます!」


 挙動不審過ぎるぞマティアス。

 だが手際は良く、再度館内の監視カメラの映像が画面に表示された。



 ――映像の画質は、そこまで良くは無い。

 だがそれでも、随分と肌色率の多い映像だな。

 まぁ、それはどうでも良い。


「地下二階の映像はどれか分かるか?」

「そ、それならこの下段モニターにう、映ってるのがぜ、全部です……」

「ガラハッドかジャンヌ、どっちでも良いから確認してくれるか? ここに映ってる中に探してる人は映ってるか?」

「――この角度じゃ見えない、向きは変えられないのか?」

「む、無理ですよ。この監視カメラ、向きが固定されてて動かせないんですから」

「……顔は見えないが、雰囲気は……この人が似ている、気がする」


 壁面から伸びた鎖。

 その鎖に手首を繋がれた、俯いた人物を指さすジャンヌ。

 俯いてなければ顔を確認出来たのだが、こっちの声は聞こえないのだから仕方あるまい。


「じゃ、そこに行くか」

「それじゃあ、何か通信があっても問題無いように伝えておいてくれますか?」

「分かったよ、でもあんまり変な事はしないでね?」


 警備室に詰めている警備兵からの連絡が途絶えても、異変は察知される。

 なので警備兵にダンタリオンが無難な受け答えをするように伝え、警備兵はそれを遵守する。


 館内の移動中に誰かに出くわすかもしれないが、人に見付かる分にはダンタリオンやバエルがどうとでもしてしまうだろうさ。

 この二人の防げない、機械的なセンサー類はマティアスが全て無力化してくれた。

 これであらかたクリア、後はあの映像の映っていた地下二階へとさっさと向かう事にしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ