81.ドリュアーヌス島
湿地帯からドリュアーヌス島に向けて移動する。
道中で日を明かし、日没後にドリュアーヌス島に到着出来るように調整しながら移動を終える。
ドリュアーヌス島の周囲には、レーダー網だけでなく島の周囲を取り囲むように巡洋艦が巡回しているとの事だ。
島外の時点でこの状態なのだから、島内は更に警備網がキツいのだろう。
「――さて、それじゃあ行くか」
そう、既に移動は終了していた。
現在俺は、ドリュアーヌス島の丁度上空に居た。
超時空戦艦 アサルトホライゾン。
単身で大気圏離脱も可能な、事実上の無限エネルギーを用いて建造された飛行可能な戦艦、という設定を持つカードだ。
このカード自体もその無限エネルギーを用いて戦闘を行う事も出来、防御性能も非常に優秀。
更には次元跳躍すら可能という、何かもう、うん。
すごい。
あらかじめダンタリオンの飛行能力で俺がギリギリ大丈夫な程度の高度まで上昇した後、アサルトホライゾンを召喚。
その後はアサルトホライゾンで更に超上空まで移動した後、ドリュアーヌス島の上空まで移動した。
超々高度に位置するこのカードの存在を、対空レーダーでは捉えられない。
それはこうして、見付けられていないという事実が証明している。
もしかしたらレーダー網には引っ掛かっているのかもしれないが、このカードの欺瞞能力を超えられていないが故に見付かっていない、というパターンも有り得るが。
アサルトホライゾンの召喚を終える。
直後、当然ではあるが俺の足場が消滅した。
ダンタリオンが俺を抱え、この上空からドリュアーヌス島内に向けて降下を開始する。
周囲の気圧は非常に低く、呼吸もままならない極限状態。
なので、アサルトホライゾンを撤収すると同時にダンタリオンを召喚し、周囲を空気の膜で覆って貰った。
この状態であらば、呼吸は可能だ。
敵が飛んでくると想定するなら、普通は横からだろう。
予備動作も察知出来ないまま、いきなり真上から落ちてくるとは流石に相手も予想出来ないんじゃないかな?
更に、ああいう対空レーダーは飛んでくる航空機のような巨大な物体を感知する為のモノであり、空から落ちてくる人間という小さな物体を捕捉出来るようには出来ていない。
そして夜間、光る物も持っていない俺達を目視で発見される事もまず無い。
完璧とは言えない作戦なのかもしれないが、無策で正面突撃するより余程勝算があるだろう。
バレたなら、そこから作戦を立て直すだけだ。
見付かった相手が人の目である分には、ダンタリオンが誤魔化してくれると言ってくれてるしな。
臨機応変は、カードゲーマー必須の技術だ。
どうせ見付かる。
さてどうするかと、周囲を見渡し考えながら降下するが、拍子抜けな事に発見される事は無かった。
カード達が有能なのか、作戦がバッチリ決まってたのか、それとも相手が無能だったのか。
まあ、カードが有能だったって事なんだろうな。
俺の作戦が決まってる、ってのは……無いな。
俺は、大体裏目を引く運命の下にあるらしいからな。
ドリュアーヌス島に無事潜入出来た。
着地するや否や、バエルが姿を現す。
その後、バエルの効果によってダンタリオンも出現した。
「――主人。この島、ヤバいです」
開口一番、ダンタリオンがそう言った。
「ヤバいって?」
「専門家じゃない私でも、この場所の負の魔力が異常なのが分かります」
「我も同意見だ」
「これで何も無い方がどうかしてます。この場所、絶対に何かあります」
ダンタリオンが一度姿を消し、今度はビフロンスが姿を現した。
そのビジュアルで夜に現れると、流石にビックリするわ。
「――師匠。この地に溢れた負の魔力、先の亡都と同等――否、それ以上かもしれん」
先の亡都。
ビフロンスが言及しているのは、リンブルハイムの事だろう。
俺には魔力なんてものは見えも感じもしないが、カード達がそう言うならそうなのだろう。
「何が原因か、までは特定出来ないが……ロクでもない事だけは確かだ。この島の至る所から、死者の声が聞こえてくるからな」
「ほう? 分からんのかビフロンス。だとしたらお前はまだまだだ、と言わざるを得んな」
「分かるのか?」
「この感じ、人の欲望と怨みと死の苦痛の魔力が交じり合った感じだな。よくもまぁ、ここまで……! 人の欲が生み出す魔力は、やはり大したものよ!」
口角を吊り上げ、何だか愉快そうに笑うバエル。
バエルが楽しそうで何よりです。
「欲望と怨嗟と死に塗れた島、か」
リンブルハイムという地も、レイウッドという男の欲望が生み出したモノだったな。
あの場所のようにアンデッドが徘徊しているという訳ではないようだが、あそこと同等以上……か。
もし俺に魔力なんてものが見えたり感じたりしたのなら、あの時を上回る地獄が目の前に広がっている事を自覚したって事か。
でもその前に。
「ちょっと声のボリューム落とそうな、バエル。一応今は隠密行動中だからな」
「む……」
何かこう、バエルはすぐに声が大きくなるな。
―――――――――――――――――――――――
降下中はレーダーの的にならないようにダンタリオンと俺だけで突入したが、島内に侵入してからはバエルを中心にして動く。
バエルには人を不可視にする能力があり、それを俺というウィークポイントに使う事で、見付からずに動きやすくするのが目的だ。
俺とバエルは行動中は黙ってるように伝え、黙るようにした。
俺は捕捉されないように、バエルはすぐにうるさくなるのでそもそも喋るなという訳だ。
バエルが出ている限り、72魔将のカテゴリに属しているカード達はバエルを通じて誰でも出現出来る。
バエルは俺に不可視の魔法を用い、俺の護衛に専念する事で、他のカード達が自由に行動出来るようにした。
一体だけとはいえ、状況に応じてダンタリオンとシャックスとビフロンスが好きに動ける。
警備の内側に入ってしまった状況でこれは、そもそも普通の人に対処しろという方が無理というものだ。
ダンタリオンだけでも無理ゲー感半端ないのに、そこにこの二体はオーバーキル感が強い。
……ブエル?
アイツは戦闘要員じゃないから留守番だ。
屋敷の前までは、72魔将の独壇場。
無双状態で島内をサクサクと進む事が出来た。
だが、屋敷の中はそうも行かないだろう。
屋外という広大な範囲をカバーできる機械的センサーなんてたかが知れてるが、屋内という限られた範囲であらばいくらでも考えられる。
それらの機械的センサーを全て掻い潜らねば、屋内の探索は不可能。
……またE.V.O.L.A.に探らせるか?
あんまりそういうの良く無いと思うなー。
E.V.O.L.A.は最後の手段として、他の方法でどうにか出来ないか考えてみよう。
今現在、俺はバエルの魔法によって不可視状態にされている。
肉眼で捕捉されないのは既に確定しているが、監視カメラ越しでもこの不可視の能力が働くのかは不明だ。
人に見えない、というのが肉眼で見えなくなるという状態なのか、人がそこに存在しているという認識が出来なくなるのか、どっちなのか。
前者ならば監視カメラには引っ掛かるし、後者ならば監視カメラに映っても問題ない。
監視カメラだけどうにかしても、赤外線センサーとかはどうしようも無いだろうしな。
各種機械的センサーを掻い潜るか、そうでなければ――
「アサシンスパイダー、召喚」
見付かっても問題無いユニットを召喚するか、だ。
アサシンスパイダーは、ハエトリグモのような見た目をしている……毒蜘蛛だ。
身体は当然小さく、家の隙間から容易く中に侵入出来る。
そして、コイツがセンサーに引っ掛かる事はまず無いだろう。
こんな小さな蜘蛛にまでセンサーが反応してたら、館内中のセンサーが毎日炸裂してやかましい事この上ないだろう。
アリ一匹侵入を許さないセンサーというのは、現実的に考えれば普段からセンサー暴発しまくりの欠陥センサーなのだ。
そんな警報鳴りまくりの状態に人が居たら、正常性バイアスが働いてセンサーの意味が無くなる。
こういう小さな虫程度は、センサーを擦り抜けるべきなのだ。
そして肉眼では、ただの蜘蛛にしか見えない。
というか、そもそも見付けるのが困難だと思われる。
ハエトリグモだぞ? 指先に乗る位の小ささだぞ?
そこに居ると意識して注視しなきゃ見付けられないぞ、そんなの。
アサシンスパイダーを偵察として、館に放つ。
このユニットの召喚コストは1なので、残念ながらここでバエルは一旦退場だ。
不可視の魔法が解けてしまうが、機械的センサーが無い場所に既に移動済みだ。
肉眼で発見されてしまう危険性が生まれるが、人の目はダンタリオンが誤魔化してくれるだろう。
後は、アサシンスパイダーが館内の状況を持って来てくれるのを待つだけだ。
身体が小さいからこそセンサーも肉眼も擦り抜けてくれるのだが、逆に身体が小さい分、移動速度は人と比べて遅い。
ちょっと時間は掛かるかもしれないが、それはまあ、我慢する他無いだろうな。
安易にE.V.O.L.A.をぶっ放すより余程健全だ。




