78.集いし機兵団
酷い目に遭った。
ダンタリオンが放してくれなくて、気付けば朝になってた。
ダンタリオンが隣でめっちゃツヤツヤしてます。
幸せそうな顔しやがって、やっぱダンタリオンは可愛いな。
カードで見てるだけだと無表情な感じだと思ってたけど、こうして実体化した状態だと、思っていた以上に愛らしい表情を浮かべてくれる。
俺は寝たはずなのに疲れが取れません。
「昨晩はお楽しみでしたね、とか言えば良いのか? おいおい、これ完全に徒労じゃねえか俺」
調査の為に野に放っていたロビンが姿を現す。
リッピには車を追わせているから無駄足ではないが。
ロビンは、まあ。
ドンマイ。
手掛かりから喰らい付いてくるのは想定外だったからな。
というか、手掛かりがあっちから喰い付いてくるとか逆に罠を疑うレベルなんだが。
何か何処かでヘマして探られるような事でもあったか?
俺とダンタリオンはギルドカードっていう紐で繋がってるから、そこに辿り着かれたら何らかの方法で探られたと考える事も出来る。
ギルドカードってのがこの世界でいう身分証明書だから、作ればそうなる危険性も考慮はしてたが。
あの当時は利便性の方に天秤が傾いたから、作ったのはやむなし。
「……入って来るなって言わなかった? 私、主人以外の男に裸体見せる気は無いんだけど」
消えて、再度出現。
脱いだ服は相変わらずそのままだが、即座に着衣した状態で出現するダンタリオン。
「そいつは失礼。だけど良いのか? 向こう側で主の正妻様が嫉妬の竜になってるぞ?」
「ちゃうねん」
「今はアルトリウスが出現するのはともかく、私が居なくなるのは不味いからね。ザマーミロ、役得役得。そこで泣きべそかいてろ正妻気取りめ、主人の正妻の座は私が奪う」
天使のような悪魔の笑みを浮かべるダンタリオン。
まー、入国手続きで俺とダンタリオンはペアで行動してるって事になっちゃってるからな。
この都市に居る限り、俺とダンタリオンが居なくなっては困る。
人の目が無い場所に限っては例外だが。
あと、以前にマーリンが作った魔法の道具から発せられる電波……魔法で動いてるから魔波? みたいなのを受け取るのに、マーリンかダンタリオンのどちらかが表に出ていないといけない。
更に付け加えれば、ギルドカードを有しているのは俺とダンタリオンだけだ。
なので、今現在は原則的に常時ダンタリオンが表に出ている必要がある。
「あんなおっかねえ女に正面切って宣戦布告するたあ、そんなちっこいなりしてとんでもねえタマだなお前」
「ちゃうねん」
「カードの性能は、甲乙付け難しって主人も前々から言ってたからね。だったら、女としての魅力でも勝つ――もしくは拮抗まで行ければ、勝負はどうなるか分からない」
「ちゃうねん」
弁明するように、デッキから飛び出したアルトリウスのカードに向けて声を掛ける。
俺は、カードの願いを裏切りたくないんだ。
それをダンタリオンが望むなら、答えてあげたいんだ。
付け足すなら、そもそもただの凡人の俺がダンタリオンの力押しに勝てる訳無いじゃないか。
お前は俺の嫁だ、今でもその意見は変えてないから許してくださいアルトリウス。
何でもしますから。
―――――――――――――――――――――――
「それから、主人が寝ている最中に起きた出来事なので、起きるまで報告を待っていた事があるのですが……そろそろお伝えしても良いですか?」
「何だ? 厄ネタか?」
「いいえ、朗報の方です」
ダンタリオンが――そのカード達の名を、口にする。
「――伝説の魔法戦隊、最終兵機神、V.A.、銀河戦艦……ちょっと、口で伝え切れない位、しっちゃかめっちゃかになってきてます。主人、今すぐ手持ちのカードの再確認を……今も尚増加中ですから、大変な事になってます」
ええと、あいつ等は――
機械系、いや伝説の魔法戦隊は機械じゃねえって。
そうじゃなくて……
――メカ系要素の強いカード、か!
このグランエクバークは、現代の地球と比較してもなんら遜色がない所か、下手したら地球よりも上かもしれない程の機械技術が栄えている。
ありとあらゆる場所に機械が溢れており、機械が身近にある状態が常だった。
そうか、"それっぽい"場所に居座ってたから、ようやく戻って来たって訳か。
今まで不自然な位にメカ系絡みのカードがすっこ抜けてたお蔭で、まともに回るデッキ選択肢がアルトリウス中心の騎士デッキしか無かったんだよな。
待て待て、そんなに戻ってきたらカードプールが大騒ぎだぞ。
今までパワー不足を実感するタイミングがそれなりにあったが……
メカ系カード連中は、パワー馬鹿の比率が滅茶苦茶高い。
つーか、伝説の魔法戦隊とか脳筋の極みじゃねえか。
「うげっ……本当に最終兵機神がある……」
放射線大放出系環境破壊カテゴリの最終兵機神まで戻って来やがった。
こいつ等絶対実体化させちゃ駄目だろ、原子炉搭載した兵器だぞ?
この異世界の土地をチェルノブらせる気か?
……っつーか、V.A.使って良いの?
マジで?
かつての世界大会優勝カテゴリとかいう、ガチ中のガチテーマだぞこいつ等。
V.A.絡みのカードを全て確認したが、一部除きほぼ全て揃っていた。
全力とは言い難いが、6~7割位の出力は出せる。
安定したハイスペック、間違いなく現状使えるデッキの中では頭一つ二つ抜けたデッキだ。
弱点が無い訳じゃないから何時でも使えるとは言えないが……これは、普段使いのデッキをアルトリウス中心から切り替えるべきかもしれない。
他に戻って来たカード次第ではその限りではないが。
理由やこだわりが無いなら、強いデッキやカードを使う。
カードゲーマーなら当然の選択だ。
「ん。あー、まぁまぁ、戦えるようにはなったかな?」
「まぁまぁ、ですか」
「やっぱ"エヴォフォ"も"レゾフォ"も無いのが辛いわ。何だかんだ言って、あのカードには依存してたんだなぁ、って実感するわ」
はいはい、無い物ねだり無い物ねだり。
足らぬ足らぬは工夫が足らぬ。
そもそもめっちゃカードが増えただろうが、少なくとも今までのカードプール状況を鑑みれば雲泥の差だ。
今までが自転車なら今はナナハン位のデッキは組めるだろうが。
ジェット戦闘機や戦艦を求めてたらキリが無いだろう。
「……ちょっと、デッキを組みたいから外出とか情報共有とか後で良いか?」
「ええ、勿論構いません」
最優先で組むべきはV.A.だな。
世界大会優勝という、その実力を大々的に示したそのカード群をデッキとして形にしない手は無い。
そもそも組めるデッキの幅が一気に広がったんだ、組めるデッキは全て組んでおいた方が良い。
咄嗟にデッキが無くて使えない、という事態はそれで避けられる。
複数デッキを所持する事に、メリットはあってもデメリットは無いからな。
カードを揃える為の金が掛かる、増えたデッキが場所を圧迫するという、デメリットとなるべき点がこの世界では皆無であるが故に、メリットだけになっている。
「――なあ、ダンタリオン。主の言う"まぁまぁ"ってどの程度のもんなんだ?」
臨機応変に立ち回れる、アルトリウスを主軸とした既存の円卓の騎士デッキ。
破壊力だけなら他の追従を許さない超絶脳筋テーマ、伝説の魔法戦隊。
奇抜な事は出来ないがカードパワーの暴力で兎に角全ての水準がハイスペック、V.A.。
……他にも戻って来ているカード次第では組めるデッキがあるかもしれないが、ひとまずこの三つをしっかりと形にするか。
今までの戦いで、打点不足という事態に何度も直面したからな。
打点を叩きだせるデッキの一つや二つはあった方が良い。
「……私達が普段考えている"良い"っていう基準の、二倍も三倍も高い位置が主人の言うまぁまぁ、だと思うよ。多分ね」
「マジかよ。そろそろ搦め手無しの真っ向勝負でこの世界の国の一つや二つ落とせるんじゃねーのか?」
「主人の言う"素晴らしい"とか"最高"に至っては――私達の想像が及ぶ領域に無いと思う」
何かさっきからロビンとダンタリオンがごちゃごちゃ話してるが、気にしない。
本当に俺に伝えなきゃならない話なら、面と向かって伝えてくるだろうし。
……円卓の騎士デッキに共喰いウロボロスを入れたい……
でもアレ、種族がドラゴンだよな?
今までのカードプール復帰傾向を鑑みると、アレが戻って来るには俺がドラゴンと遭遇しないといけないって事になるんだが……
この世界、ドラゴンって居るのか?
あんまりお目に掛かりたくは無いなぁ……
何だかやたらと新たなカード名が登場してはいるが、今後全て出てくるのかと言われると謎
そんな訳で、今までのカード群の中で明らかにすっこ抜けてた"メカ系"カード群参上
歯抜けとはいえ大会覇者となったカード群が戻ってきた時点で、見え辛いがこの話で戦闘力激増してます
カードゲーマーにとっては知識とカードプールこそが力である




