76.情報収集と散策
管理局での監査を終え、俺とダンタリオンは宿を取り、勇者様の歴史探訪をしつつ、銃火器を扱う専門店へと向かう。
管理局で伝えた目的通り、行動させて貰おう。
何処にも不審な行動は見られないし、実際俺とダンタリオンは不審な行動をしていない。
俺やダンタリオンがわざわざ目立つ必要は無い、という事だ。
探りを入れるのは、他の連中に任せておこう。
手始めに、リッピとロビンをこのロンダーヴに放っておいた。
ハッキリ言って、リッピはかなり目立つ鳥だ。
こんなのが飛んでたら、否応無しに人々の目に留まるだろう。
だが現状、飛んでいても監視の人々がスルーしてくれるような存在で、飛行可能なカードがリッピしか居ない。
飛べる奴自体はダンタリオンも含めて普通に居るのだが、人が空を飛んでたら監視網の目がそれを見逃してくれたりはしない。
リッピならば、目立つし「何だあの鳥」とか思われるかもしれない。
だけど、そこまでだ。
リッピ=俺、という紐付けをする事は不可能。
不審な目で見られても、俺に辿り着けないなら無意味だ。
そしてロビンには、奴隷商店を巡って物色、もとい情報収集をお願いした。
目立たぬように行動するとは思うが、嗅ぎ付けるような行為はそれを嫌がる相手にとっては非常に目立つだろう。
そんな行動を俺やダンタリオンが取れば、間違いなく目を付けられる。
俺とダンタリオンは、ギルドカードという身分証明書を入手し、登録済みだ。
それは同時に、この世界の情報網に既に取り込まれている事を意味している。
何か問題を起こせば、即座に特定され、根掘り葉掘り探られるだろう。
そんなリスクを犯す訳には行かない。
そして、リスクを犯さねばならないのであらば、足の付かない奴にお願いするべきだ。
だから、リッピとロビンだ。
リッピはただの鳥だ。
監視カメラとか盗聴器とか持ってる訳でもない、ただの鳥だ。
警戒する意味もない。
そしてロビンは――ある程度蛇の道に通じてるような奴で、血気盛んじゃない奴がコイツしか居なかった。
こっちに関しては完全に消去法での選択である、もうちょいマシや奴が居てくれれば……
龍やビリー、シャックス辺りの方が余程適任なのだが。
シャックスはダンタリオンが出ていないといけない都合上、マナ不足で出られず、龍とビリーは……こいつ等、放置したら絶対に問題起こすだろ。
最悪騒ぎになったとしても、俺達は知らぬ存ぜぬ我関せずを貫いて、騒動が鎮まるまで待つというのもあるが。
騒動を起こした挙句、それを更に燃え上がらせるような人選は無しだ。
龍とビリーは、性格的に間違いなくそっちの人選になってしまう。
こいつ等、間違いなく喧嘩を売られたら買うタイプだしな。
銃火器を取り扱っている専門店へと足を運ぶ。
適当にダンタリオンと会話を合わせながら、物色するだけで終わった。
言い訳を作りたいだけなので、適当にやっぱり俺には合わないなと結論を出して終わりだ。
そもそも俺が銃を持っても、どうしようもないだろ。
護身用とか言うけれど、そもそも銃が欲しいならビリー辺りから借りれば良いだけだ。
更に言うなら、常時俺の側に世界滅ぼすレベルのカード達が居るのに、俺が銃を持って足しになるような状況が想像出来ない。
原子力発電所の前でマッチの火で明かりを確保しているような感じだ。
その後は、過去の勇者様とやらの歴史を辿るべく、史跡を巡る。
過去の勇者様が用いたという、戦闘用ロボットなんかが展示されていた。
搭乗型のようで、なんと実際に乗り込んで動かす事が出来るらしい。
デモンストレーションとして、実際に職員が動かしてみせてくれた。
五階建てのビル位の大きさがあるのに、異常なまでに軽快な動きであった。
ジャンプしてみせた時は、着地の衝撃でダンプカーが道路を通り過ぎる時を遥かに超える振動が伝わって来た。
この国じゃ、こんなロボットが防衛戦力に加わってるのか。
恐ろしいな、この点に限って言えば現代地球より技術力上なんじゃないか?
それ以外は事前にダンタリオンから話を聞いていた通りの内容であり、知りたいのならダンタリオンから改めて話を聞けば良いかと結論を出した途端、俺の脳は流し聞きモードへと切り替わった。
より深く調べようという気にもならない。
知識欲の塊であるダンタリオンだけはキッチリ調べていたみたいだが。
ダンタリオンの知識欲を満たせたなら何よりである。
この間、ずっとダンタリオンとは手を繋ぎっぱなしである。
時々、感触を確かめるように俺の指をにぎにぎしてくる。
「これ、完全にデートですよね主人」
蠱惑な笑みを浮かべ、上目遣いでダンタリオンはそう言った。
「……そうか」
そうなのか?
そのデートプランに図書館って如何なものか。
活字好き同士でならばアリなのかもしれないが、俺は別に可も不可も無くだ。
ダンタリオンの知識欲を満たす為に、こうして図書館まで来た訳だが。
来て早々、謎の黒い靄を図書館中に充満させ始めた。
この靄で図書館中の本を知識として吸収しており、ここで読み取った情報は全てダンタリオンのイラスト、その背後に映っている蔵書庫に収められるらしい。
こうして情報を読み取ってしまえば、何時でも後で読み返せるらしい。
そこまで本の虫ではない俺は、ダンタリオンが知識吸収を行っている間、図書館の中を見回す。
このロンダーヴにある図書館は広大だが、その面積に対して配置されている人員が妙に少なかった。
何故かと思ったが、周囲を見ていればそれは何となく察せられた。
大量の書籍を管理する、電子端末。
図書館内の天井付近に点々と設置された、監視カメラ。
出入口に設置された、防犯ゲート。
これ程広いと案内や盗難対策に多くの人手が必要なのだろうと思ったが、機械を導入してその人員を削減。
だからこの人数でも回っているのだろう。
この分だと多分だが、本にも防犯タグの類が付いていて、盗もうと外に出そうとした瞬間、ブザーが鳴るのだろう。
本当、日本とかの現代技術レベルと大差無いぞこれ。
ここに居るとここが異世界だという事実が曖昧になってくる気がする。
「――もっと早く知りたかった……」
図書館の机に突っ伏しながら、ダンタリオンが疲労感に満ちた溜息を吐きだした。
何をと聞いた所……このロンダーヴの東に広がる湿地帯では、原因不明の神隠しが発生する為、近付く事を禁ずる――というモノだ。
「そんなの知ってたら、初めから迂回してここ目指してたよ……必要な知識がその時無くて、遅れて入って来た時程苛立つモノも無い……」
ダンタリオンが愚痴ったその内容は間違いなく、先日訪れた亡国――リンブルハイムとレイウッドの事だろう。
そこに何度も調査に向かわせても、一人たりとも帰って来ない。
神隠しと呼ばれるのも納得である。
フィルヘイムやリレイベルの図書館で情報を漁った際には、この情報は何処にも存在していなかったらしい。
調査員を向かわせても戻ってこない、それに加えてこの問題は他国の問題であり、自国には関係ない。
更には誰でも書き込め、場合によっては追記する事も出来るネットと比べ、書籍に情報を残すのは少しハードルが高い。
となれば、そんな自分の国には関係が薄そうな、一地域の情報が他国の図書館に本と言う形で存在していないのも、頷けるのかもしれない。
それに関する情報があったとしても、図書館にその書籍が存在していなければダンタリオンの知識蒐集も意味が無い。
ダンタリオンは、その知識欲から率先してこの異世界の知識を吸収していく。
だが、ありもしない情報を知る事は出来ないのだ。
有能な情報源があってこそ、ダンタリオンの知性は輝く。
このグランエクバークの図書館は、どうやらその有能な情報源足り得たようだ。
ダンタリオンが必要だと思った情報をしっかりと回収出来たようで、図書館を出る頃にはダンタリオンの機嫌は回復していた。
こういう目的で来たんですよー、という言い訳分は行動した。
滞在日数は最大で二週間と伝えている以上、それ以上になるようなら改めて申請を出さねばならない。
その二週間で、何らかの糸口位は掴まねばならないだろう。
鍵となるのは、今現在野に放っているリッピとロビンだ。
あいつ等がどれだけ情報を拾って来てくれるか、だな。
情報が揃わなければ、今後の予定を組み立てる事も出来ない。
出来れば、早めに切欠が手元に来てくれる事を祈るとするか。
俺の引き運じゃ、祈った所でどうせ来ないだろうけどな。




