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73.Rest In Peace

 ――行く手を阻んでいた壁は、消え失せた。

 連魂包縛の呪印は破壊され、この地に生み出された呪いの時間は、終わりを告げた。

 再び、あるべき時の流れがこの地に戻ったのだ。

 牢獄は破られ、魂の囚人は再び、この世の輪廻へと帰って逝った。


 ただ、一人を除いて。


「――本当に、終わったんだな……」


 服が汚れるのも気にする様子も無く、その場に座り込むリズリア。

 目を向けた先は、かつての鳥籠。

 故郷であり、亡国であり、最早この地で生きる者は、誰も居ない……在りし日の、都。

 時の重みで滅び去った街並み。

 かつての栄華を感じさせる物は、歪に在り続けた王の居城のみ。

 それも、最早維持する者が居なくなった、王亡き城。

 ここもやがて、時の重みの前にゆっくりと、塵に帰っていくのだろう。


「――不味いな」


 そう呟いたのは、ビフロンスであった。

 その視線の先は、先程まで俺達が居たオーレン城に向けられている。


「何がだ?」

「この地に負の魔力が溢れ過ぎている。このまま放置すれば、この地はアンデッドの巣窟になるぞ」


 ――元々、この場所はレイウッドの手によって死霊の坩堝となっていた。

 連魂包縛の呪印により、周囲に存在していた霊魂の類は全て絡め捕られ、レイウッドとリズリアの命を長らえる為の糧として消費されていた。

 だが、今はそれが存在していない。

 長い間、アンデッドによって魔力的に汚染され、更にはレイウッドが消費しないまま、連魂包縛の呪印に溜め込み続けた魂が一気にこの土地に解き放たれた。

 飽和状態で留められていた魂が一気に解放された為、大半は霧散したらしいが、一部が滞留したままらしい。

 結果、アンデッドが自然発生し易い環境になってしまっている――らしい。


「――それじゃあ結局、救われて無いな」


 生まれるのは当然、この地に囚われた魂による死霊だ。

 折角これで、自由になれたはずなのに。

 それでは余りにも、可哀想だ。


「何か、対処手段はあるのか?」

「全ての原因は、この地に溜まってしまった負の魔力や霊魂だ。それを全て吹き散らしてやれば良い」


 高濃度の魔力、そして汚染された土地。

 これらが原因となっているのであらば、その原因を排除すれば良い。

 即ちこの城、そして周囲一帯。

 かつてリンブルハイムと呼ばれていた国、その首都全て。

 それを、吹き飛ばす。


 俺の価値観で言うならば――火葬が一番相応しい。

 何もかも、灰に帰してやればいい――と。


「しかし、都市一つ丸ごと火葬……か。出来る奴、居るのか?」

「呼んだか盟約主(マスター)!!」


 現れたのは、バエルであった。

 その足元には、本体である王冠を被った猫も居る。

 だらりと地面に転がり、のんびりと尻尾を振っていた。

 めっちゃリラックスしてんな。


「え、出来るの?」

「何を驚いている! この(オレ)盟約主(マスター)の力が有るのだ! この程度出来て当然だろう!!」


 当然だと思ってるのはカード達だけであって、俺からすると当然でも何でもないです。

 だって都市一つ丸ごと焼き尽くすとか、やってる事が核兵器レベルだぞ?

 大言壮語……じゃ、無いんだろうなあ。

 悪魔の王が、出来ると言っているのだ。

 わざわざ嘘を言う意味も感じられない。


 このまま放置すれば、救われない魂がまた出て来てしまう。

 だが、バエルが焼き払うという事は――リズリアの故郷を、跡形も無く消し去ってしまうという事でもある。


 本当に、それでも良いのだろうか?

 リズリアに問うた所、あっさりと快諾してくれた。


「――元々、私も私の国も。あの時に滅んでいたんだ。朽ちて果てる、その自然の在り方に逆らい、歪に今まで存在し続けていた。それが今、元に戻るだけさ」


 あの城が無くなる事が、寂しくないと言えば、嘘になる。

 だが、寂しさ以上に、呪いと復讐の象徴という負の面が大き過ぎる。

 何しろ、生きていた年月よりも囚われていた年月の方が、圧倒的に長いのだ。

 あまつさえ、死霊を生み出す呪いの地として染まり上がってしまったのならば、消し去ってしまった方が、この地で潰えた人々の為だ、と。

 そう、リズリアは心中を吐露した。

 この地で過ごした人が、そう言うのだ。

 ちゃんと、成仏させてやるべきだろう。


「――じゃあ頼んだ、バエル」


 俺には、そんな力は無い。

 だから、それだけの力を持つカードに、お願いした。

 レイウッドの遺した呪いを完全に断ち切り、あるべき姿に返してくれと。


盟約主(マスター)に代わり、迷える魂に引導を渡してやろう」


 バエルの周囲に、自然の物とは思えぬ不自然な風が巻き起こる。

 足元から吹き荒び、バエルの衣服や頭髪をバタバタとはためかせる。

 その風に、吹き上げられた粉雪のような、白く細かい輝きが混じる。


「この(オレ)が直々に葬ってやるのだ! 迷わず真っ直ぐに、黄泉路への旅に付くが良い!!」


 空を走る、赤い軌跡。

 それは空に巨大な幾何学模様――魔法陣を描き、構築していく。

 小さな点が、大きな円へ、そして巨大な魔法陣へ――


「そして、刮目するが良い!! これが、これこそが!! 72魔将を統べる、王の力!!」


 それは何処までも拡張を続け、頭上全てを覆い尽くすのではないかという程に広がり――


「汝は開闢を告げる純白の星! 顕現せよ、その輝きで世界を照らせ!!」


 言霊が世界を歪め、魔の法が顕現する。

 天空の魔法陣に光が宿り、その光が煌々と、輝きを増していく。



「プロメテウスノヴァ!!」



 俺の正面に立ち、ダンタリオンが何らかの防御魔法を展開する。

 その防御魔法越しでも伝わる、強烈な熱気。



 天地開闢を告げる、真なる炎。

 そう言われても納得出来るような、純白の業火。

 世界が、白に染まっていく。

 膨大な熱量から発せられる光が、何もかもを飲み込み、塗り潰していく。

 臭いさえも焼き払い、緑を、水を、楼閣を。

 先日まで俺が見ていた、その全てが――焼失していく。

 ダンタリオンが、防御魔法で保護してくれなければ、この余波だけで俺は死んだだろう。

 それだけは、断言出来た。


 光が、止んでいく。



 残るのは、焦土の地。

 地面すら溶解した、原初の星を彷彿させる光景。

 効果範囲外に残っていた水が、クレーター状に蒸発した跡地に流れ込み、水蒸気をもくもくと立ち昇らせている。

 何だかスッキリした表情を浮かべて、バエルはその姿を消した。


「こ、これ程の土地が――こんな、あっという間に――」


 開いた口が塞がらないとはこの事だな。

 エルミアがこの惨状を目の当たりにし、ポカンとそのままの状態で停止していた。

 後、俺も停止していた。

 ふわー。

 湿地帯なのに、この周囲にあった水辺があの一瞬で蒸発してるんだが。

 なんだよこれ。

 バエル、お前パワー5000だろ?

 そのパワーで、これ程の所業成し遂げんのかよ。

 じゃあパワー5000より上の連中は何処までやれるんだよ。


 世界滅ぼせんのか。

 E.V.O.L.A.がパワー6000だからな。

 ヤバい。

 エトランゼのカードパワーインフレが酷過ぎて、世界って、星ってこんなに脆かったっけと思ってしまう。

 予想だが、5桁に足突っ込んだパワー連中は宇宙規模の戦いやらかしそう。

 星一つ滅ぼす、銀河系を滅ぼすとか。

 ついうっかりで星壊してしまいそうな……ひええ。

 何処の戦闘民族だよ。



―――――――――――――――――――――――



 歪に在り続けた、不死の亡都。

 天国への道を阻まれ続けた、罪無き魂達。

 その全てが解き放たれ、留まった迷える魂も、バエルの放つ極大魔法――その炎によって焼き尽くされ、消えて逝った。



 終わらない時間が、終わる。



 理に背いた都は、煉獄の炎で焼かれ、あるべき亡都へ姿を戻す。



 何もかもが焼失した、かつての亡都。

 リンブルハイムという国は……今日やっと、滅び去ったのだ。

 その跡地に改めて向き直り、目を伏せ、手を合わせる。

 通りすがりの異邦人(エトランゼ)である俺が祈った所で、何の意味も無いのかもしれないが。


安らかに(Rest In)眠って下さい(Peace)


 この地で亡くなった、全ての人達に、黙祷を捧げた。


 安らかに眠れ(レストインピース)、か。

 そんなカードもあったな。


 カシャッ。


 デッキから、1枚のカードが排出された。

 カシャッ、じゃねーんだよ。




 俺達は本来の目的を達するべく、進路を西へ向ける。

 向かうは、六大国家の一つにして、世界最大の軍事力を有する、軍事国家。

 機械帝国 グランエクバークへ向け、再びその足を進めるのであった。




煉獄の亡都編、完



第四章ではようやくグランエクバークに乗り込みます

予定では第五章はほのぼの(?)話になる予定なので、次の第四章がある意味序盤の最終章とも言える

早く書き終わると……良いなぁ……

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