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68.銀の銃弾

 これ以上、俺に出来る事は無い。

 レイウッドがリズリアを敢えて守った事により、俺の盤面は完全には崩壊してはいない。

 ターンを終了し、レイウッドが更にアンデッドを増殖させる。

 数が、更に増えた。

 だが、リズリアが前衛に立っている限り、俺に攻撃は届かない。

 リズリアを無視してアンデッドトークンを俺に差し向けるレイウッド。

 リズリアが活性状態で、前衛に立っている。

 その事実がある限り、エトランゼの基本ルールによって俺は守られたままだ。


 仮に通ったとしても、盾の内容が分かっている現状。

 盾で受け止める気満々であるが。

 低攻撃力相手にとは言うが、3枚がカウンター呪文確定なのはもう分かっているんだ。

 最悪、3枚目を割れば起爆するのは決まってるからな。


 ……レイウッドが、微妙に苛立っているように見える。

 レイウッドは、リズリアを自分のモノにしたいのだ。

 決して、リズリアを殺したい訳ではない。

 だからこそ、連魂包縛(れんこんほうばく)呪印(じゅいん)の効果を使い、わざわざ俺の場のリズリアを守ったのだ。

 だが、リズリアが前衛に活性状態で存在する限り、アンデッドトークンはどれだけ数が増えようとも、俺にその手を届かせる事は出来ない。

 レイウッドは、リズリアを殺さずに、俺を殺さねばならない。

 だが俺を殺すには、リズリアを殺さねばならない。

 そういう構図になってしまっていた。


「――フン、情けない男だな。リズリア、こんな自分の影に隠れてコソコソしているような男など見切って、私の下に来い」


 おーう。

 リズリアの影に隠れてコソコソの部分は全く反論出来ないな。

 カードゲームというルール上だから、堂々とさせて貰うが。

 リアルでこれやったら俺、クソ野郎同然だな。


「ふざけるな! そんな事をする位なら、死を選んだ方が余程マシだ!!」

「強情だな」


 苛立ちを一旦、心の内に押し込めた後、余裕の笑みを浮かべるレイウッド。

 レイウッド視点では、実際余裕なのだろう。

 リズリア単体では、レイウッドには太刀打ち出来ない。

 戦えるユニットは連魂包縛(れんこんほうばく)呪印(じゅいん)によって全滅し、そもそもこちらはレイウッドに対し仕掛けた攻撃がことごとく失敗に終わっている。

 そして時間が経つ度に、レイウッドを守るアンデッドの群れは増え続けていく

 俺が劣勢、レイウッドが優勢――という考えだろう。


 リズリアに向けられていた視線は、俺へと向けられ。


「貴様を守っていた女は、皆死んだぞ?」


 挑発のつもりだろうか?

 こちらを舐め切った態度で、レイウッドはそう言ってのけた。


「そうだな」

「……随分と冷酷だな。いざとなったら、リズリアを囮にして自分だけ逃げるつもり、か? もしそうなら、実に卑怯で薄情な男だな。リズリアの背に隠れている事といい、雑魚で下衆とは救いが無いな」


 レイウッドが深読みしつつ、徹底的にこちらを煽って来る。

 いや、全然的外れなんだが。

 それに、そんな煽り文句を聞いても、俺の心の水面には波紋一つ立ちやしない。

 そもそも、逃げようにも逃がしてくれないだろうが。

 逃がしてくれるなら、こんな風にレイウッドと相対する事も無かっただろうに。


 ……いや、それも、無いか。

 死者を弄ぶレイウッドという男を、俺は放置出来なかったと思うな。



 デッキから、カードが排出される。

 再び、俺の行動ターンが回って来たのだ。


「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ」


 引いたカードは――反撃の狼煙。


「……マナゾーンにカードをセット、疲弊させて虹マナ1、黒マナ1、白マナ1を得る」


 対象を指定する除去では破壊出来ない。

 それ以外で破壊しなければならない。

 レイウッドを倒すのは、現状不可能。

 いくつかの抜け道は存在するが――その抜け道は、既に先程までのアルトリウスのデッキコストにより、墓地に送られてしまった。

 その抜け道ルートは、使えない。

 ならば、この連魂包縛(れんこんほうばく)呪印(じゅいん)を破る事こそが、俺達の勝ち筋。


 それを、破る。

 一点の光明が――俺の手札に舞い込んだ。


「黒マナ2、白マナ2、虹マナ1、合計5マナ使用。手札から呪文カード――銀の銃弾(シルバーバレット)を発動」


 それは、どんな局面であろうとも。

 必ず解決策(シルバーバレット)として働く、俺の切り札(ジョーカー)

 頼んだぞ、銀の銃弾(シルバーバレット)



 俺にとって一番のユニットがアルトリウスならば、一番の呪文はこの銀の銃弾(シルバーバレット)――そう言って良いだろう。

 銀の銃弾(シルバーバレット)にとっての最良の組み合わせの一つ、そしてアルトリウスにとっての最良の組み合わせの一つ。

 相乗効果(シナジー)を形成し、1+1=の答えを、3にも4にも書き換えてしまう、そんな組み合わせ。

 俺が最も使い慣れた、アルトリウスと双璧を成すと言っても過言ではない。

 その、切り札の一つを叩き付ける。


「俺はメインデッキのカード1枚を選択し、そのカードをサイドデッキの1枚と交換する」


 このカード自体は、相手に一切干渉しない。

 だが、サイドデッキという本来使っているデッキとは関係ない、盤外(サイドデッキ)から――敵に対しての致命的な猛毒(ジョーカー)をデッキに混入する。


 エトランゼというカードゲームは、公式ルールでは二本先取のルールで行われる。

 先に二回、勝利した方が勝ち。

 そして本来サイドデッキというのは、一度対戦が終了し、相手のデッキ傾向を見て、対策カードをそのサイドデッキに用意した中から、メインデッキと取り換えていく。

 互いにそうしてカードを取り換え、更なる読み合いを行う――

 それが正しい使い方であり、それ以外のタイミングでサイドデッキに触れる事は許されない。


 だが、その例外を行うカード。

 それこそが、この銀の銃弾(シルバーバレット)だ。

 戦いが終わった後ではなく、戦いの最中に、サイドデッキから1枚、メインデッキと取り換えられる。


 たった1枚、取り換えるだけ。

 されど、1枚が取り換えられてしまうのだ。


 メインデッキに入れないからこそ、通常時にデッキの動きを阻害しない。

 このカードがもたらす可能性は無数に考えられ、枚挙にいとまがない。

 そして、相手との戦いにおいて不要と判断したカード1枚が、フィニッシュカードへと化ける。

 例えるならばそれは、後出しじゃんけん。

 相手が数を並べるならば、殲滅呪文を。

 強力なユニットを立てるならば、確実に一体を葬るカードを。

 防御を固めて籠城を決め込む気ならば、盤面をひっくり返すカードを。

 動向を見た後で、回答となるカードを混ぜ込む。

 それこそが、銀の銃弾(シルバーバレット)のみに許された、強力無比なオンリーワンエフェクト。

 その相手を殺す致命の刃を、この先進む運命(デッキ)に配置する。


「そして墓地のこのカードを追放し銀の銃弾(シルバーバレット)の第二効果発動。1枚ドローし、その後手札1枚をデッキに戻しシャッフルする」


 ドロー。



 銀の銃弾(シルバーバレット)でデッキからぶっこ抜いてサイドに送ったでしょ!?

 何でラス1のリッピが手札に来るんだよ!?

 嫌がらせか! リッピ手前俺の足を引っ張る気満々なのか!?

 マジでデッキから引き抜くぞお前!!

 心中に吹き荒れる理不尽の嵐が、喉元まで出掛かったが抑える。

 表情には出さない、どれだけ理不尽なドローを突き付けられても、ポーカーフェイスを貫く。

 身内とワイワイやる戦いなら表情も変えるが、大会でもそれをやる奴はまず居ない。

 やるとしたら、三味線(ブラフ)の類だ。


 ……そして、手札(リッピ)を戻す。

 リッピなんて居なかった。

 そうだな、うん。

 これで、その致命的な猛毒(ジョーカー)を引ければ理想的。

 だが、そう上手く行く訳も無い。

 しかしそれでも、手札の回転自体は行えている。

 手札に来るんじゃないリッピ、お前はデッキから直で墓地に行くのが仕事だろうが。

 これだけデッキを削ったのに何でまだデッキに居るんだよ、マジで。


 相手を絶命させるに足る、一撃必殺の刃は既にデッキに混入された。

 後は、どうやってそこに辿り着くか。

 素引きは、難しい。

 確かに相手を絶命たらしめる、必殺の一撃。

 だがそれは、デッキに1枚しか仕込めず、普通にやっていては引き当てるのは難しい。

 これが、物語の主人公ならば。

 主人公補正という名の運命力で、強引に掴み取る所なのだろうが。

 俺には、主人公補正(デスティニードロー)は無い。

 運に、運命に、期待などしない。

 普通にやって引けないから、俺は普通じゃないルートを選択する。

 引き当てる以外にも、手段はあるんだよ。


 まだそれ(・・)は、デッキに眠っているのだから。



「俺は、これでターンエンドだ」


 そして増える、アンデッドの群れ。

 合計、10体。

 盾は健在。

 だが、その飽和攻撃を受け止める事を考慮すれば――最早、ライフ10000と5枚の盾。

 それは、薄氷に等しい。

 何らかの方法で、リズリアを排除されたならば、俺は無防備となる。

 リズリアは俺を頼り、今この場に立っている。

 だが現状では、俺の命はリズリアによって守られている状態と言える。


「情けない限りだな、本当」


 レイウッドの言葉を、肯定する。

 俺は、カード達に守られている状態だ。

 カードが無ければ、容易く死ぬだけだ。


「俺のターン、ドロー」


 再び訪れる、俺のターン。


「――これは」


 そして、引いたカードに目を落とす。


 それは、デッキに入れた覚えの無いカード。

 知らぬ間に増えた、デッキのカード。

 ――デッキ枚数を数える。

 いや、違う。

 増えてはいない。

 枚数変わらず。

 総合計は60枚のまま、だ。

 デッキ内のカード、何かがこのカードと挿げ変わった……?

 それに、銀の銃弾(シルバーバレット)で確認した時点では、俺のデッキ内容は変化していなかった。

 今、正に丁度。

 この時、デッキ内容が書き換わった。

 それは、確定的だ。


「…………」


 死んだ者に、安らぎを。

 死して尚、眠る事が許されない亡骸達。

 弔ってやりたいと、そう思った。

 そんな事を考えた俺の手に、このカードが舞い戻るのは、何かの皮肉か?


 躊躇いが、生まれる。

 これを使う事は、ある意味レイウッドがやっている事と同じ事を、俺がしている事になるのではないか?

 死者を利用するレイウッドに対し、負の感情を抱いている俺が。

 死者を呼び起こして、利用するのか?



 ――ああ、でも。


 死者を苦しめたくない、弔ってやりたい。

 そんなモノは、"俺個人の感情"にしか過ぎない。

 俺の感情なんぞよりも、俺の主義主張なんぞよりも。

 優先せねばならない事がある。



 カード達の願いを、叶えてやりたい。

 カード達に、勝利を。



 その目的の為であらば。

 俺の主義主張なんぞ、道端に吐き捨てた痰よりも価値が無い。

優先順位を決めて、必須項目の為なら他は容赦なく切り捨てる。

カードゲームとはシビアな物なのです。

特に勝利を追い求めれば求める程、ポリシーなんてものはどんどん削ぎ落されていく。

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