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67.連魂包縛の呪印

「――連魂包縛(れんこんほうばく)呪印(じゅいん)、か。これが、お前の隠し玉、そういう事か」


 レイウッドに向けて、その言葉を放つ。

 レイウッドが僅かに、眉根を歪ませた。

 返答はしない。

 だが、その態度は俺の予測が的を射ている事を物語っていた。


「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ。マナゾーンにカードをセット、疲弊させて虹マナ1、黒マナ1、白マナ1を得る」


 マナも増えてきた。

 そして、越えねばならないモノも見付けた。


「俺は、黒マナ1を使用して幻影家政婦 インペリアルガードを召喚、今回は後衛に召喚する」


 3発目、起動だ!


「そしてインペリアルガードの効果発動。自分フィールドのユニット1体を選択し、そのユニットを破壊する。更に他のフィールドのユニットを選択し、このターン、対象に選択したユニットは疲弊状態となる」


 インペリアルガードの、妨害効果。

 普段は幻影を生み出す効果を重視しているが、インペリアルガードにはこういう使い方も存在している。

 疲弊状態となったユニットは、攻撃に参加出来ず、防御も行えない。

 この効果をレイウッドに使用すれば、破壊出来ずとも疲弊状態にする事は出来る。

 だが。


「俺は、インペリアルガードの効果をアルトリウスを選択して発動する。アルトリウスを破壊"対象"に選択し、レイウッドを疲弊させる」


 アルトリウスに対し、インペリアルガードの効果を使用。

 アルトリウスが、インペリアルガードの効果の"対象"に指定された。


「そして、アルトリウスの効果発動」


 デッキの上から10枚を墓地へ送る。

 インペリアルガードの効果を無効にする。

 そして――フィールドのカード1枚を破壊する。


 コンボと呼ばれる、この動き。

 これにより、インペリアルガードの疲弊効果を、擬似的に破壊効果へと変換させる。


「フッ、愚かな。何度私に刃を向けようと――」


 レイウッドは、無視。


「対象は――連魂包縛(れんこんほうばく)呪印(じゅいん)だ」


 俺の足元に向けて、宣言する。

 目を見開くレイウッド。

 咄嗟に妨害しようと動こうとし――今は俺のターンだ、攻撃するという方法での妨害は出来ない。

 止めたきゃカード効果で――



 2:【強制】【条件】このカードがカード効果の対象になった時

 【効果】その発動と効果を無効にし、相手フィールドのカード全てを破壊する



 ――何だと?


 認識できていない、隠されたテキスト部分が判明する。

 コイツ……耐性まで持ってやがるのか。

 聞いてないぞ、そんな事。

 まあ、相手が教えてくれないのだから、聞いてる訳が無いのだが。

 カードゲームであらば、相手に効果を訊ねられた時には説明するのが礼儀なのだが――それを相手に求めても、駄目なんだろうな。


 黒く、おぞましい、闇の波動としか言いようが無い――地の底から湧き上がる、負の感情。

 幻聴が、聞こえる。

 その声は、正に断末魔。

 苦しみ、死を望み、死を振り撒き、引き摺り込む。

 その波動が、絶対的な破壊となって周囲に吹き荒れる!

 俺にその破壊は、届かない。

 だが、俺の盤面は――


 波動が、インペリアルガードを切り刻んでいく。

 防ぐ手立ては無い。

 その破壊は、リズリアも飲み込んでいくが――健在。

 恐らく、レイウッドが意図的にリズリアを守ったのだろう。

 自分の女にしたいと抜かしてる奴が、その女を殺したら意味が無いからな。


 更に、パリーイング・ダガーがアルトリウスを守る。

 例え、どんな破壊であろうが一度だけ、その破壊から身を守る――


「私の最高傑作に! 薄汚い手で触れるなァァァ!!」


 断末魔を切り裂く、レイウッドの絶叫。

 その間隙を突く、一筋の雷撃。

 それは、レイウッドの放った破壊効果。

 対象は、破壊効果を免れた、レイウッドにとっての異物――即ち、アルトリウス。


 おい、何だそれは!

 何故このタイミングで動ける!?

 お前の効果は全て露見済みのはずだ!

 まだ何か見落としてたとでも言うのか!?



 1:【速攻】【条件】1ターンに1度

 【効果】このユニットのパワー以下のユニット1体を選択し、破壊する



「何だよそりゃ……」


 心中を言葉として吐き捨てた。

 今まで見ていた、レイウッドの効果テキスト。

 それが――書き変わっていた。

 そんなの、アリかよ。

 だが、それも"対象"を指定する効果。

 再び、アルトリウスの効果を使えば――



「――スマン、アルトリウス」

「御武運を、旦那様(マスター)


 ――雷撃に貫かれ、粒子となって消えていくアルトリウス。


 駄目だ、それは。

 4度目は、致命的。

 デッキ枚数を40枚削るのは、危険だ。

 そもそも、初期ユニット、盾、手札、ゲーム開始時点で60枚の内、13枚のカードが削れた状態でスタートするのは、エトランゼのどんなデッキでも変わらない。

 そして、既に俺は3回、アルトリウスの効果を起動してしまっている。

 合計、43枚だ。

 更に、通常のドローも加わるのだ。

 4回目を使用した途端、合計枚数が53枚になる。


 デッキ枚数に余裕が、無い。

 デッキ切れ(ライブラリアウト)で敗北しかねない。


「――フン、中々粘ったようだが、ようやく死んだようだな」


 額の汗を拭いながら、空いた片手をかざす、レイウッド、

 それは何かを掴むような素振りをして――


「……あの女の魂は、何処へ行った?」


 何の事だ?

 ……あ、そうか。

 恐らく、これでアルトリウスが死に、その魂は連魂包縛の呪印に囚われ、レイウッドに利用される――

 そういう、事か。


「悪いが、アルトリウスの魂はここにある」


 破壊された、アルトリウスのカードをレイウッドに見せる。

 そのカードを墓地へ移動させる。


「俺が死なない限り、カード達の魂は俺と共にある――って事だ」

「……成る程な。凡人かと思っていたが、どうやら魔術に関しては中々やるようだな。私と類似した術――か」


 推測を重ねていく、レイウッド。

 類似……してるのか?



 いや、そうなんだろうな。

 カードに魂が宿っている。

 それは逆に言えば、カードに魂を囚われている――とも、言い換えられるのだろう。

 カード達がそれを気にしている様子が皆無なので、認識が希薄になりがちだが。


 肉体を持たない、他者の魂を利用している。


 その一点に関しては……俺は、レイウッドと変わらないのかもしれない。



 アルトリウスもインペリアルガードも、予期せぬ破壊効果によって、墓地へと送られた。

 だが、テキストがこれで判明した。

 レイウッドの時といい、これでもう間違い無い、確信した。

 俺が見えていないテキストは、そいつが効果を適用した時点で初めて見えるようになる。

 そしてどうやら、認識出来ないテキストというのはあるようだが、それ以上効果が隠れていないという事だけは最初から分かるようだ。

 更に、見えているはずの効果が書き変わる事もある――か。

 厄介極まりないな。



 1:【起動】【条件】このユニットを疲弊させる

 【効果】このユニットのパワー以下のユニット1体を選択し、破壊する



 ――レイウッドの効果欄が、元に戻っている。

 良く見れば、レイウッドの息が少しだけ、本当に少しだけ、荒れているような気がする。

 ……もしかして、無理して魔法を行使した……のか?


 そもそも、自由な意思を持つ存在を、カード効果という形で無理矢理、型に当て嵌める。

 その方が無茶と言うものだ。

 効果は、変化する。

 だが、全く新しい効果が生えてくるのではなく、既存の効果が変化する……か?

 それならば、まだ対処のしようがある。

 いや、もしかしたら違うのかもしれないし、俺の見当違いのパターンも考えられるが。

 それでも、脳裏に浮かんだ効果が変化する事がある。

 その可能性がある、というのを知れたのは大きい。

 今後もそうなるかもしれないと、疑ってかかる事が出来るからな。


 未知のカード、未知の効果。

 例えるならばそれは、地雷が埋まっている事が分かっている地雷原。

 踏破せねば勝利は得られず。

 踏み抜けば、両足を失う程の重症を負うかもしれない。


 だが、死んでさえいなければ、俺には関係ない。


 10000あるライフが1になるのと、1あるライフが0になるのでは、天地の差がある。

 ライフがどれだけ減ろうが、ゼロになってさえいなければ、それは敗北ではない。

 だがライフがゼロになれば、そこで潰える。

 その見えない地雷原が、即死に追い込む罠でなければ。

 踏み越えるのみだ。

 どれだけ追い込まれようと、関係無い。

 ありとあらゆるゲームで、共通して語られる格言。


 死ななければ、安い。


 見えないテキストだというのなら、全部踏めば良い。

 一度踏めば、そのテキストが判明する。

 テキストさえ分かれば、もうその罠は二度と踏まなければ良いだけだ。

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