66.呪いの正体
再び、相手ターンへと移る。
レイウッドが再び、死霊を呼び起こす。
これで、アンデッドトークンの数は5体まで膨れ上がる。
更には、レイウッドの破壊効果が発動する。
再び、雷撃を伴った破壊効果がアルトリウスを襲う。
だが。
「もう一度だ。その効果は無効にし、相手フィールドのカードを破壊する」
再び、アルトリウスの効果を起動する。
パリーイング・ダガーを装備しているので、一度だけ破壊されないが、ここは敢えて起動する。
もう一度、対象はレイウッド!
ただでさえ盾でもう2枚も寝てるんだからはよ墓地に落ちろリッピ!
「魔鏡滅流剣!!」
雷撃に加え、アルトリウスの白い魔力も加わり、絶大な破壊力を伴い、真っ直ぐにレイウッドへと伸びる!
――また、破壊されない。
もう一度やったらテキストが分かるのかと思ったが、そういう訳でもないらしい。
「――ふん、器用な事だな。私の魔法を受け流し、更に自らの力を上乗せし、跳ね返すとはな。それだけ有能ならば、私の妾にしてやっても良いぞ?」
「腐敗臭を漂わせた男なぞお断りだ、来世から出直せ」
レイウッドの誘いを、戦い同様に一閃するアルトリウス。
完全に興味なし、だな。
「まあいい、それならば貴様の魂も私とリズリアの世界、その糧となって貰うまでだ」
迫り来る、ゾンビの群れ。
アルトリウスは、前のターンに攻撃宣言を行った。
今は疲弊状態となっており、防御に参加する事は出来ない。
「リズリアさん、その攻撃は自衛して下さい」
「分かった。だが……これだけの量では、スバルを守りきれないぞ」
「大丈夫です。リズリアさんが前衛に、活性状態で立っているならば、この攻撃は俺には届きません」
トークンに、俺を直接攻撃出来る能力は無い。
リズリアは、短剣を両手で構え、ゾンビの群れへと振り抜いた。
腐敗し、骨も露出しているようなボロボロの肉体。
リズリアの細腕であっても、一太刀で骨ごと両断していく。
剣ならば、まだ分かるのだが……短剣でそれを成すのか。
リズリアは女性だが、俺より腕力は上なのかもしれない。
俺じゃ、それは出来る気がしないな。
リズリアが言った通り、リズリアの横を抜けてきたゾンビの群れは俺へと向かってきた。
だが、その攻撃は全て盾によって阻まれる。
今、前衛に立っているのはアルトリウスとリズリアの2体。
その双方が疲弊状態ならば、俺を守るユニットは居なくなってしまう。
だが、1体でも活性状態で前衛に居てくれれば、俺には届かない。
「――女の影に隠れて震えてばかりか。随分と情けない男だな」
「まあ、そうですね」
多分、レイウッドはこちらを挑発しているつもりなのだろうが。
言ってる事は事実だし、別に何とも思わない。
それに……煽ってるつもりならば、レベルが低いな。
もっとドギツい煽り文句を言ってくる奴、カードゲーマーの中には沢山居たぞ。
まあ、ロールプレイ中位しか聞かないが。
大会とかでそんな事言ってると、罰則食らうのがオチだからな。
再び、俺のターンへと移る。
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ」
再び、アルトリウスが活性状態へと戻る。
「マナゾーンにカードをセット、疲弊させて虹マナ1と黒マナ1を得る」
一応、アルトリウスやリズリアが活性状態で居る限り、レイウッドがどれだけアンデッドトークンを増やそうとも、俺には攻撃は届かない。
だが、数が増えるというのは厄介だ。
二人が居る限り攻撃は届かないが、逆に言えばこの二人のユニットが居なくなれば、俺はこの大量のアンデッドトークンの攻撃に晒される事になる。
そうなれば、数の暴力だ。
一気にライフや盾を剥がされ、下手すればそのままライフも削り切られ、死も見える。
レイウッドを破壊出来ない理由は、分からない。
だが、アンデッドトークンは破壊できている。
数は、減らしておいた方が良いだろう。
レイウッド単体だけであらば、パワーは確かに高いが、盾を消費すれば最悪、攻撃を阻止する事は出来る。
さて、どうするか。
今、手札には幻影家政婦 インペリアルガードが存在している。
だが、インペリアルガードのパワーは1000。
素の状態では、アンデッドトークンと相討ちになる数値だ。
出来ればパワーを底上げしたい所だが、現状では数値を上げる手段が存在していない。
これでは、出した所ですぐに破壊されるだけだろう。
今は、召喚を待つべきタイミングだ。
「リズリアさん、あのアンデッドを減らして下さい」
「分かった!」
俺の指示に従い、アンデッドの群れへと切り込むリズリア。
アンデッドトークンのパワーは、1000。
それを破壊するのに、わざわざパワー4000ものアルトリウスの攻撃権利を使う必要は無い。
リズリアのパワー2000でも、普通に破壊は可能だ。
レイウッドは、まだ何か隠し玉を持っていると見るべきだ。
ならば、万全を期してアルトリウスの権利は残しておくべきと判断した。
「俺はこれで、ターンエンドだ」
再び、俺の手番を手放す。
「……ふむ、成る程。ある程度把握してきましたよ。貴方のその力は、こちらの行動に対し制限を掛けるモノと見ました。だが、完璧に阻止は出来ないし、貴方自体はこの力を無視すればただの凡人以下の力しか無い、そうでしょう?」
レイウッドが、自らの予測を口にする。
細かいルールまでは流石に把握出来ないようだが、それでもこの力の外側自体は既に看破しているようだ。
「そうですね。俺自体はロクに力が無いですからね。カード達に助けられなければ、雑魚という評価も正しいと思いますよ」
「随分とあっさり認めますね」
「事実ですから」
レイウッドがアンデッドを生み出す速度に対し、アンデッドトークンを減らす速度が追い付いていない。
手数が、足りない。
マナが、足りない。
くそっ、何でか分からないが、呼吸も荒れてきた。
レイウッドが何かしてるのか?
「チッ……厄介な。ならば、これはどうでしょうかね!」
舌打ちしながら、杖を振るうレイウッド。
今までの雷撃――ではない。
雷撃による破壊効果を持つ魔法が効かないとみて、魔法で組み上げられた、紫色の鎖がアルトリウスの手足に絡み付き、身動きを拘束した。
2:【速攻】【条件】1ターンに1度
【効果】相手フィールドのユニット1体を選択し、そのパワーをエンドステップまで半分にする
思わず、目を見開く。
何だコイツ!?
パワー半減効果まで持ってるのか?
しかもこれは、速攻判定。
吸魔の杖と、自身の効果を複合させれば……実質、パワー12000のユニットであるとも言える。
更に、破壊対象もパワー10000以下と、最上級クラスのユニット以外であらば、ほぼ全てが対象範囲だ。
強い。
今まで見てきた、邪神の欠片と比べる方が失礼な程に。
だが――これも、対象を指定する効果だ。
アルトリウスならば、再びカウンター出来る。
だが……破壊効果の対象にした所で、レイウッドには通用しないのだろう。
アンデッドトークンを破壊しようとも考えたが、それもあまり旨みを感じない。
そもそも、アルトリウスの対象カウンター効果はノーコストではない。
発動する都度、10枚という決して安くないデッキコストを支払っているのだ。
デッキが尽きれば、ライフがどれだけ残っていようが、ゲームに敗北する。
もう既に、2回もアルトリウスの効果を使用している。
だというのに、もう一度使うのか?
次に使えば、合計で30枚ものカードを墓地に送る事になる。
デッキ総枚数の、半分だ。
まだレイウッドを倒す道筋も見えていないのに、もうデッキの半分を削るのか?
それは後々、自らの首を絞めかねない。
「――その効果は、通そう」
アルトリウスのパワーが、半減させられた。
これにより、パワーは2000まで落ちてしまう。
突如、レイウッドが姿を消す。
一体何処へ――
鈍い、金属音。
そこへ目を向ければ、切り結ぶアルトリウスとレイウッドの姿。
今までの戦法が効かないと見て、完全に手を変えてきた。
だが……レイウッド、お前は魔法使いタイプじゃなかったのか?
そっちから距離を詰めて来るのは完全に予想外だったぞ?
自らの鉄製の杖を、魔法を行使する為の補助具ではなく、完全に打撃武器として振るい始めるレイウッド。
パワーは、レイウッドの方が上。
攻撃を止める、という選択肢もあるが……
攻撃阻止にもデッキコストが必要――
レイウッドの杖が、アルトリウスの頭部目掛け振るわれた。
遅れて、風切り音が聞こえてきた。
腰を落とし、それは容易くかわすアルトリウス。
手首を返し、杖で突きを放つ。
突きは受け止める訳にも行かず、自らの短剣を這わせ、滑らせるようにして攻撃を誘導し、回避する。
だが、突如杖から手を離し、レイウッドの空いた片手から放たれる――掌底。
まさかの打撃攻撃、しかも身動きを阻害された状態では、アルトリウスも回避が間に合わない。
くぐもったような声を上げるアルトリウス。
胸部下の辺りに直撃し、石壁に勢い良く叩き付けられる!
――だから。
「受け流しの短剣-パリーイング・ダガーの効果。このカードを装備したユニットは、1ターンに1度だけ、戦闘・効果では破壊されない」
これを装備している限り、アルトリウスは戦闘だろうが、効果だろうが、一度だけ破壊されない。
その効果の通り、完全にレイウッドの攻撃が直撃していたにも関わらず、アルトリウスは健在。
「――貴様、接近戦も出来るのか。魔術師だと思って完全に油断していたぞ」
「接近されたら無力な魔法だけに頼るような、愚行は犯しませんよ。そもそも、私は元々軍属ですよ? 接近戦も出来て当然でしょう」
破砕され、崩落した石壁の中から立ち上がりつつ吐き捨てるアルトリウス。
そうなのか?
いや、この世界の常識は知らんが。
だが何となく、エルミアとかを見ていると、レイウッドの言っている事は少々常識から外れているようにも思える。
さて――このターンで、レイウッドの効果が完全に判明した。
名称:亡国の妄執鬼 レイウッド
分類:ユニット
プレイコスト:???
文明:黒
種族:アンデッド
性別:男
マナシンボル:黒
パワー:3000
1:【起動】【条件】このユニットを疲弊させる
【効果】このユニットのパワー以下のユニット1体を選択し、破壊する
2:【速攻】【条件】1ターンに1度
【効果】相手フィールドのユニット1体を選択し、そのパワーをエンドステップまで半分にする
3:【起動】【条件】ターンに1度
【効果】自分フィールドにアンデッドトークン(黒/不明/アンデッド/1000)3体を召喚する。このターン、自分は攻撃出来ない。
4:【永続】【条件】自分フィールドに他のアンデッド族ユニットが存在する時
【効果】このユニットは攻撃対象にならない
これが、全て。
じゃあ何で、アルトリウスの効果で破壊出来ない?
これで、闇に包まれたカード効果は全て割れた。
吸魔の杖にも、レイウッドにも、破壊を防ぐ効果は――無い。
何故?
状況的に、考えられる事は一つしかない。
まだ何か、見落としている。
周囲へと意識を向ける。
そうでなければ、アルトリウスの効果が通用しなかった理由が、説明出来ない。
必ず、その何かが存在しているはずなのだ。
そして――足元で、それを見付けた。
推測が、確信へと変わった。
名称:連魂包縛の呪印
分類:永続呪文
プレイコスト:???
文明:黒
カテゴリ:魔法陣
マナシンボル:黒
1:【速攻】【条件】フィールドのアンデッド族ユニットが破壊される時【コスト】墓地のユニット1体を追放する
【効果】その破壊を無効にする
2:?????
3:?????
レイウッドと吸魔の杖、だけではない。
越えねばならない障害は、合計で3枚、存在していた。
3枚あるなら4枚目があってもおかしくないと思い、思考時間が許す限り周囲を探してみたが、これ以上は見付からなかった。
これが、最後の壁。
成程、コレが原因か。
この呪文がある限り、レイウッドは不死身。
レイウッドを倒しても、墓地のコストを追放する事で、破壊を免れる。
先程レイウッドを確かに倒したと思ったのに、倒せていなかった理由はこういう事か。
墓地コストという限りのある、有限の復活回数であるが故に、底を突けば倒せるのだろう。
そこでふと、浮かぶ疑問。
――レイウッドが使っている、"墓地コスト"って何だ?
「この国の維持には、魔力が必要なのでな。お前達も、私とリズリアの世界の礎となって貰おう」
「まあいい、それならば貴様の魂も私とリズリアの世界、その糧となって貰うまでだ」
先程から言っている、レイウッドの言葉――
ああ――そういう、事か。
理解、した。
理解、出来てしまった。
――だから、不死身か。
「これは――殺せない、な……」
レイウッドが、墓地コストとして使用しているモノ。
それは、この国でかつて生きていた、人々の命。
最早帰るべき肉体を失ったにも関わらず、尚も縛り付けられる囚われの魂魄。
死して尚、眠る事を許されぬ、苦悶の生命。
国一つ、全てだ。
一体何十、何百、何千万の命が、使われたのだ?
それが全て、墓地に存在している――最低でも、万は下らないだろう。
最低でも数万回、連魂包縛の呪印は復活コストを蓄えている。
そして――きっとコレが、全ての元凶。
カード効果を見て、何となく察した。
破壊無効。
それはきっと、現実に置き換えるならば……死ななくなる、が妥当。
レイウッドを死から遠ざけている。
リズリアを、そしてこの国の人々を、終われない生へと縛り付けている、原因。
レイウッド、そして連魂包縛の呪印――この二つが、諸悪の根源。
レイウッドは、殺せない。
無理だ。
その有限だが、無限に思える墓地の数の前では、相手の復活コストが尽きる前に、俺のデッキが尽きる。
デッキの回復手段は、備えてはいるが。
デッキ枚数を数万も回復し続けられるようなカードは、デッキに入っていない。
――ならば、どうするか。
「だったら、方法を変えるだけだ」
レイウッドを倒す事は不可能。
結論は出た。
だがそれでも、勝つのは俺達だ。
その壁、超えてみせよう。




