63.噛み合わない手札
デッキをシャッフル、上から7枚をドロー。
今回、初手はこれで良さそうだ。
引き直しは無しで確定。
デッキトップから、召喚コスト5以下のユニットが出るまでめくる。
ファーストユニットは、幻影家政婦 インペリアルガードだ。
盾ゾーンにカードを5枚セットし、戦闘開始。
デッキからカードが出てきた。
こっちの先攻って訳か。
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップを経てメインステップへ」
そして、このゴーレム2体を確認する。
名称:鉄の護衛騎士(1)
分類:ユニット
プレイコスト:???
文明:黒
種族:アンデッド/ゴーレム
性別:不明
マナシンボル:黒
パワー:5000
1:【永続】【効果】このカードは戦闘では破壊されない
2:【永続】【条件】相手フィールドに2体以上ユニットが存在する時
【効果】このカードは破壊されない
げっ。
何か妙に打点が高い。
しかもそれに加えて耐性持ちかよ。
パワー5000、挙句戦闘で破壊されないって何だよ。
しかも、こちらが召喚するという行動に適用が左右されるものの、ユニットが2体以上になると、戦闘だけでなく効果でも破壊されなくなってしまう。
これを相手に、インペリアルガードスタートは……不味いな。
「……マナゾーンにカードをセット、これでターンエンドだ」
出来る事が無い訳ではない。
だが、今は手札を切りたくない。
カードゲームというのは、そのターンそのターンだけを考えれば勝てる訳では無い。
状況に応じて、何処で動くか何処で耐えるか、判断を下す必要がある。
今は、耐えるべきターンだと判断した。
時間が、動き出す。
鉄の護衛騎士が、その手にした黒光りする大剣を振り回す!
前衛には、インペリアルガードが立っている。
その為、この剣は俺に届く事は無い。
が、しかし。
「すまん、インペリアルガード」
振り回した剣が、インペリアルガードへと迫る。
回避は出来ず、その大剣を腕で受け止めようとするが、止まる訳が無い。
身体がくの字に折れ、勢いは止まらず、壁に向けて吹き飛ばされ、叩き付けられる!
敵のパワーは5000、何の補助も受けていない状態では、パワー1000のインペリアルガードに成す術は無い。
光の粒子となって消滅し、墓地へと送られた。
しかしこれで、1体目の鉄の護衛騎士とやらは攻撃は終了した。
だが、もう1体の鉄の護衛騎士の攻撃は残っている。
大剣が、俺に向けて振り抜かれた。
――さて、これをどうするか。
二つの選択肢がある。
一つは盾で受ける、そしてもう一つは――
だが、その選択をこんな序盤でして良いのか?
おとなしく盾で受けた方が無難な回答だと思うのだが。
後で不測の事態が起きた時、かなりヤバくないか?
「その攻撃は、ライフで受ける」
とか何とかゴチャゴチャと考えたが。
結局このカードを使う事に決めた。
エトランゼというカードゲームにおいて、プレイヤーがユニットから攻撃を受ける際、取れる行動は二つ存在する。
一つは盾で防御する事。
そしてもう一つが、ライフポイントで直接受ける事だ。
盾は0になっても敗北はしないが、ライフポイントが0になるとゲームに敗北する以上、盾で受け止めた方が良いだろうと考えるかもしれないが、それはエトランゼというカードゲームを良く知らない物言いだと言わざるを得ない。
これは大抵のカードゲームで言える事なのだが。
戦闘を行う際、その戦闘で使用される攻撃力というのは、序盤は低く、終盤になればなる程、その数値は大きくなる。
例えばパワー1000のユニットを戦闘で倒すのに、パワー2000のユニットを使用したとしよう。
逆に相手がこちらのパワー2000のユニットを戦闘で倒すには、パワー2000より上のパワーが必要となる。
単純なパワーでの殴り殴られを繰り返していれば、盤面に存在するユニットのパワーはどんどん膨れ上がっていく事になる。
エトランゼの、特にインフレしまくった後期のカードプールでは、終盤所か中盤辺りですらパワー10000という数値を軽く超えてくるのだ。
プレイヤーが相手の攻撃を受けざるを得ない時、エトランゼにおいてベターとなる回答がある。
それは、相手ユニットのパワーが低い時はライフで受け、パワーが高い時は盾で受けるというものだ。
これは、盾というカードの性質が影響している。
盾ゾーンのカードは、相手ユニットからの防御手段として使用出来る。
防御に使った場合、そのカードは自分の手札に加わる。
そして、盾で受けている限りは自分のライフにはダメージが入らない。
盾ゾーンのカードというのは、相手ユニットからの攻撃を一枚につき一度、受け止められる。
どんなパワーであろうと、一度受け止められるのだ。
そう、例え相手ユニットのパワーが1000だろうがそれこそ10万を超えていようが、一回の攻撃で一回、だ。
ライフで受ければ即死級のパワーを有しているユニットの攻撃であろうと、盾で受ければ一枚の損失で受け止める事が出来るのだ。
そんな強力な防御手段を、たかがパワー1000のユニットの攻撃を防ぐ為に切るのは、勿体ないと言えよう。
ましてや、エトランゼのゲームスピードであらば、終盤が近付けばライフ10000なんて容易く吹き飛ぶと言っても過言ではない。
盾ゾーンのカードは、その即死級打点が直撃コースで飛んで来た際の、保険的防御手段として残しておく。
これが、ベターな回答なのだ。
無論、これはベターであってベストではない。
どんなカードゲームでも、盤面状況によっては最適解というのは変化する。
自分の手札を増やす為に、わざと低いパワーのユニットの攻撃を盾で受け、盾ゾーンのカードを手札に持ってくるというのも、戦略の一つだ。
――剣の一撃が、俺の身体へと直撃する。
パワー5000。
その数値は、俺の初期ライフの半分。
現実に置き換えるならば、言わば半殺しだ。
頭部だけは、手で抱えて防御しておく。
衝撃、そして真横へと吹っ飛んでいく感覚。
ダンタリオンの魔法が効いているのか、勢いのまま地面を転がったが、痛みは感じなかった。
その攻撃で俺のライフが減った事により、俺の身体が削れたかのように消えていく。
ライフ5000分、丁度半分だ。
「スバル!?」
丁度、離れていたリズリアの所にふっ飛ばされたようだ。
結果的にリズリアの近くに来てしまった為、リズリアが俺のフィールドに干渉し始めた。
「済みません、こっちがふっ飛ばされておきながら言うのも何ですが、また離れてて貰っても良いですか?」
「だ、だが! 片足も無くなってるし、それに――」
「後で戻るんで、大丈夫です」
「後で戻るってどういう事だ!?」
「大丈夫なんで、本当、今は離れてて下さい」
念を押すと、しぶしぶながら、リズリアは俺の側から離れていく。
これでよし、巻き込みたくは無いし。
ライフを半分も失った。
だが、これで条件は満たされた。
「俺がダメージを受けた事で、このカードはこのターン、プレイコスト0で発動する事が出来る」
ライフを5000も失うにも関わらず、敢えて盾を使用しなかった。
理由はこれだ。
「速攻呪文、報復の隠し刃を発動」
このカードは本来、発動するには3マナが必要だ。
だがしかし、このカードは自分がこのターン、ライフを減らしていた際にプレイコストを軽減する効果が存在している。
この効果を適用する為に、敢えて盾ではなくライフで受け、自らのライフを減らした――という事だ。
「相手フィールドのユニット1体を破壊する」
効果は単純明快。
ただ、相手フィールドのユニットを1体、破壊する。
どうせどちらも攻撃済みなので、適当に1体を選択。
直後、俺に剣を当てた巨大な鎧の周囲から、闇夜を塗り固めたような、漆黒の刃が無数に生えた。
鈍い金属音と共に、鉄の護衛騎士の全身を貫いた。
巨大な音と共に崩れ落ち、地に伏した。
強烈なダメージを食らう事になったが、これで1体、始末完了。
痛みは感じないんだが、何か身体が震えてる。
痛みが無いから分からないだけで、身体に結構ダメージが来てるのか?
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、そしてメインステップ」
うーん……
初手は悪くなかったんだが、そこからの流れがイマイチ……
ドローしたカードは、霊鳥 リッピだ。
引きが、弱い。
「仕方ない。マナゾーンにカードをセット、疲弊させて虹マナ1を得る。そして虹マナ1を使用し、霊鳥 リッピを召喚」
「ピピッ!」
召喚する場所は当然、前衛だ。
これでリッピが居る限り、相手の攻撃はこちらに届かない。
だが、パワーでは負けている。
次のターン、確実に殺られるだろう。
リッピはやられるのが仕事だ、仕方あるまい。
「これで、ターンエンドだ」
鉄の護衛騎士が、リッピに向けて大剣を振り抜いた。
両断された。
勝ち目無し、当然の結果であった。
「リッピの効果発動。このカードが破壊された事で、俺は無色マナ1を得て、1枚ドローする」
マナ損失を抑えながら、1枚ドローで手札損失も抑える。
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ」
ぐ……虹マナシンボルが多過ぎる。
虹マナは確かに優秀なのだが、マナゾーンに置く時は必ず疲弊状態で置かなければならないというルールが存在する。
このせいで、マナを出すテンポがワンテンポずつズレている。
「マナゾーンにカードをセット、そして疲弊させて虹マナ2を得る」
そして、場に出せるユニットが尽きた。
手札が、カウンター呪文まみれになってやがる。
そんなに多く入れたつもり無いのに、どうしてこんな事に。
いや、一応治癒師 ブエルが3マナで出せるので、正確には召喚出来るユニットは存在している。
だが、ブエルはフィールドに出したくないというのが本音だ。
このカードは、場に出すより手札に居た方が有能なのだ。
無論、最悪の場合は壁にするが……まだ、その最悪の状況とやらにはなって無い。
「仕方ない、ここはこのままターンエンドだ」
ここは、耐えるターンだ。
スマン、アルトリウス。
次のターンで5マナ達成予定だ、次のターンからは頼むぞ。
そんな事を、手札に二枚引き込んだアルトリウスを見ながら考える。
再び俺に向けて迫る、鉄の護衛騎士。
迫る殺意の刃。
俺のライフは5000、そして相手のパワーも5000。
直撃すればピッタリライフ0だ、この攻撃は絶対に通せない。
「その攻撃は盾で防ぐ」
当然、選択肢はこれしかない。
盾ゾーンのカードが1枚破砕し、俺の手札へと加わる。
おい、聞いてないぞ。
さっきの身を削る思いで発動した報復の隠し刃は何だったんだ。
これが発動出来るって知ってたら、そもそもダメージなんて食らう必要無かったじゃないか!
「カウンター呪文、天罰の火発動」
盾ゾーンから手札に加わった、カウンター呪文を発動する。
コスト0で発動し。
「相手の前衛ユニット全てを破壊する」
巨大な爆炎が、鉄の護衛騎士を焼き尽くしていく。
その巨影は欠片一つ残さず、炎の中に消えていった。
周囲を見る。
他に、敵の姿は見当たらない。
これで、終わりのようだ。
戦いが終わった事で、先程削れた俺の身体も元通りになった。
「終わりましたよ、リズリアさん」
「おい、大丈夫なのか……?」
「別に大丈夫ですよ」
戦いが終わったので、リズリアを呼び戻す。
心配そうに俺の全身を見ていたが、何処も問題無さそうだと確信した後、安堵の溜息を吐いた。
別に問題無い。
ちょっと、身体がだるい感じがするだけだ。
ライフは半分減らしたが、それは盾で受け止めなかった結果だしな。
盾は4枚も残ってたし、ハッキリ言えば余裕の部類だ。
これで、四階に行ける階段の道は開いた。
特に何の意味も無い場所に、こんな護衛を置いておく理由は考えられない。
多分、この奥にレイウッドとやらが居るんだろうな。




