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62.希望、願い

 自分には、復讐を果たす力が無い。

 自ら命を絶ち、死へ逃げようともしたがそれすら許されず。

 終わりの見えない地獄の中、復讐心だけを頼りに、ここまで来たと。

 俺の持つカード達ならば、それを果たせるかもしれない――


「――とか何とか、勝手に抜かしてるけど。どうするの主人(マスター)?」


 一旦、カードでの戦いが終了した事で、姿を現したダンタリオンが方針を求めてくる。

 一応、またアンデッドの群れが現れる可能性も考え、カード達に周囲の警戒をお願いしつつ、リズリアの話に耳を傾けた。


 ずっと、復讐心だけを頼りに、これまでを耐え続けていた。

 何百年という年月を、孤独に耐えながら。

 長く生きても百年そこらの人間である俺に、その重みと辛さというのは理解出来ないのだろう。

 だが――共感する部分が、無い訳でもない。


「――復讐、か」


 ダンタリオンと共に周囲を警戒していたジャンヌが、そうポツリと呟いた。


「復讐なんかした所で、何も生まれないでしょうに」

「それをお前が言うのか」

「? 何がですか?」


 聖騎士 ジャンヌのカードの元ネタ。

 それは最早、言うに及ばず。

 オルレアンの乙女、人々に騙され、火刑に処された悲劇の聖女。

 そんな史実に基づき生まれた、このカード。

 騙され、殺されたのだ。

 この世全てを呪っていてもおかしくなさそうだが。


「復讐なんて、建設的な考えではないじゃないですか」


 真顔で、そう言ってのけた。

 恨んでいる節など、何処にも見えない。

 そんな下らない事をする位ならば、前を向いて先に進む。

 清廉潔白、純粋な乙女、そんな感じだ。

 白文明だなぁ。

 でもまあ、もし恨んで怨嗟の声に濡れた状態とかになってたら、白文明じゃなくて黒文明になってそうだしな。


「復讐は何も生まない、か。そりゃそうだな」

団長(マスター)もそう思いますよね?」

「だけどそれでも、人は復讐に走るんだよ」


 一度肯定したにも関わらず、続けた言葉を理解出来なかったのか。

 ジャンヌが首を傾げる。


「これは俺の持論なんだが。復讐は例えるなら、借金の返済だ。だからこそ、借りを返すって言うんだ。返さねば前に進めないし、返してやっと0に戻れるだけだ。返さなきゃ、マイナスの人生を歩み続けるだけだ」

「借金の返済、ですか……?」

「踏み倒しても良いが、そうした時一番辛いのは自分だ」


 ――復讐をする、しない。

 仇を討つのも、復讐なんかに囚われず、前を向くのも。

 俺はどちらも、否定しない。

 ある意味、どちらも正しくて、どちらも間違い。

 正解は、渦中の本人にしか選べず、決められない。

 本人にとって納得出来た答えこそが正解であり、それを外野がやれ復讐は良く無いだとか野次を飛ばすのはお門違いだ。



 落ち着いたリズリアが、その場から立ち上がり、俺に対し急に泣き付いた非礼を詫びた。

 別に、気にしてなんていないのだが、一応受け取っておく。

 その後、リズリアは自分の知っている事を、俺に対し伝えたいと言う。

 それは、リズリアが今まで見て、体験した、その全ての戦闘情報。

 数多のアンデッドを、突然呼び寄せる事。

 城に仕掛けられた、殺意に溢れた罠。

 そして、一度は殺したはずなのに、死なないレイウッド。


「――これが、私が知っている全てだ」


 まあ、知っていたり前もって教えられた情報だったが。

 最後の情報は、初耳だった。

 殺しても死なない、か。


「済まない。隠していたつもりは無かったんだ。だが、教えた所でどうせ無意味だと、そう思ってしまったんだ。どうせ、レイウッドに勝てる訳が無いと、決め付けてしまっていた。だけど貴方なら、本当にレイウッドを殺せるかもしれない。私という、終わらない時間を終わらせてくれるかもしれない」

「……所で、何でレイウッドという人を殺すと、リズリアさんを殺す事になるのですか?」

「多分だけど、レイウッドとかいう奴が仕掛けた魔法は、原理は全く予想出来ないけど、術者である本人が指定したモノを、不死身にする類の魔法なんだと思いまます。それを何とかしないと、レイウッドを殺せない。そして、それを何とかした時は、術の反動の類で同時にリズリアも死ぬ事になる――そういう事なんだと思います」


 俺の疑問に、ダンタリオンが推察を交えて答えを述べる。

 魔法に関しては、俺はサッパリだ。

 だが魔法のエキスパートと言って良いダンタリオンがそう言うならば、きっとそういう事なのだろう。

 専門家の声には耳を傾けるべきだ。


「……そもそも、私はそのレイウッドという人と話をしに来ただけで、戦うとか殺すとか、そんな物騒な話は、ちょっと」


 建前は大事だ。

 あとデッキ構築も大事だ。

 何となく、レイウッドという男とは戦う事になる気はするのだが。

 ちょっとデッキ構築を変えよう。

 それでも、戦わずに済むのであらば、それに越した事は無いだろう。

 殺しても死なない、というリズリアの言葉が妙に引っ掛かる。

 戦わない為には、一応迷い込んだ人だという体を保たねばなるまい。


「……最後にどうするのか、それを決める権利が私には無い事は分かってる。だが――」


 死なない、か。

 死なない相手を、殺す手段。

 それをカード効果に置き換えるならば――この辺り、か?

 そんな事を考えている最中、リズリアが口にした、縋るような声。


「――お願いだ……もう、一人は嫌なんだ……ッ!」


 ――チクリと、胸の奥が痛んだ。

 一人は、嫌だ。

 父も母も、仲間も。

 皆、居なくなってしまった。

 俺一人だけ置いて、大切な人達は、皆、先に逝ってしまった。


 孤独だと言っても、俺には話せる相手は居た。

 それが赤の他人だったとしても、会話する相手はそこら中に存在はしていた。

 だが、リズリアにはそれすら居なかった。

 本当の、真の意味での、孤独。

 居るのは、憎むべき仇だけ。

 そんな環境で、何百年。


 それは俺の味わった、家族との死別による孤独よりも、何百倍も、苦しいモノだったのだろう。

 本当に誰も居ない、死ぬ事も許されない、永遠に等しい孤独。

 そのリズリアの悲痛な声色が、それを物語っている。


「私には、何も出来ない……貴方に縋るしか、道は残っていないんだ……!」

「そう。でも、貴女が苦しもうが何だろうが、私達には何の関係も無い」


 伸ばした手を、無慈悲に叩き落すダンタリオン。

 その口調は平坦で、憐憫(れんびん)の情は欠片も無い。


「とっととここから出る。それが最優先事項な筈です、そうですよね主人(マスター)

「うん、まあ、そうなんだけどな」


 ……それでも。

 リズリアの肩を持ってやりたい。


 そんな気持ちが、沸々と湧き始めるのを、心の奥底で感じつつあった。




 探索を進めている城の中は、非常に綺麗であった。

 綺麗ではあるが、それは豪華絢爛というより、小ざっぱりという雰囲気だ。

 調度品や装飾の類がある訳では無いが、掃除が行き届いている感じだ。

 だが、城の中は何処にも人影は無い。

 それ以前に、あの荒れ果てた周囲の外観と、この城の中の光景の乖離が激しすぎる。

 この空間だけ時間が切り離されたかのようで、実際そうなのかもしれない。

 リズリアが言う、数百年の時を経て、何も変わらない城内。

 そんな綺麗な城内を、探索していく。

 何処に居るのかまでは分からないので、ダンタリオンにお姫様抱っこして貰ってそのまま飛んで移動する。

 結構内部は広いし、階段が上にも下にも伸びているので、俺の足で探してたら日が暮れそうだ。

 ダンタリオンと俺、そこにリッピ、インペリアルガード、ロビン、フェンリルの4体が加わり、手分けして城内を散策する。

 手数は多いに越した事は無いので、攻撃、防御、移動手段を全て有しているダンタリオンが俺の側に付いている。

 他4名の選択理由は、単純に1マナで出せるというだけだ。

 フェンリルはデカいので城内を探索出来ないが、この城には中庭もある。

 それと、外に居るという可能性も考え、フェンリルが中庭や城の外の探索だ。

 それ以外は総出で、敵地であるこの城内を見て回る。

 一応ここは敵地なので、敵から襲撃を受けるかもしれない。

 だが、各個撃破されて戦力が減る、という心配は必要ない。

 俺さえ無事なら、カード達は俺の側でリスポーン出来るし、実際カード達もそういう考えで行動しているらしい。

 俺が襲撃を受けなければ、問題無い。


 リズリアから、この城の間取りを聞いておいた。

 なので、何処に何の部屋があるかは分かっている。

 だが、肝心の尋ね人であるレイウッドという男が何処に居るかは、皆目見当が付かない。

 この城は地下1階、地上4階、計5階層で構築されているらしい。

 そこに鐘塔を加えたのが、このオーレン城の全貌との事。


 下はカード達に任せ、俺とダンタリオン、そしてリズリアは上へ向かう事にした。

 理由は無い、何となくこっちに居そうな気がしただけだ。

 地下はロビン、二階をインペリアルガード、鐘塔方面は飛んで行けるリッピに任せた。

 俺とダンタリオンは三階から探索を開始し、他の連中は自分の受け持ち箇所が探索終了し次第、合流する事にした。

 んー、探すと言われてもなぁ。

 何処から探すか――そう考えていたら、階段部分で妙なのを見付けた。


 巨大な武器を携えた、鉄の甲冑。

 四階に向かう階段を塞ぐように存在しており、しかもそれが二つ存在していた。

 ただ、その鉄の甲冑の大きさが異常だ。

 天井スレスレ、そして俺の身長から推測するに、4~5メートル位はありそうだ。


 ほへー、って感じで眺めていると、甲冑の隙間から覗いた、赤い光。

 僅かに軋む、金属音と共に――甲冑が、動いた。


「……もしかしてこれ、ゴーレム的なヤツか?」

「そうですね、まんまゴーレムです主人(マスター)


 そのゴーレムは、手にしていた巨大な武器を緩慢な動作で振り上げ――


 振り下ろした。


 先程まで俺が立っていた場所に、その武器は突き刺さった。

 床に僅かだが、ヒビが走る。

 ダンタリオンが俺を抱えて、横に移動していなければ直撃していただろう。


「攻撃してきたって事は、敵って事で良いよな? 言い訳としては充分だよな?」

「充分過ぎると思いますよ」


 ダンタリオンからもOKサインが出たので、取り敢えずこのゴーレムを片付ける事にしよう。


「ちょっと、また離れてて貰っても良いですか? こっちの戦いに影響するんで」

「だ、だが……いや、分かった……」


 リズリアにはこの場から離れて貰うようにお願いする。

 何か言いたそうだったが、しぶしぶといった様子で、俺から距離を取るリズリア。

 リズリアが近くに居ると、以前のようにリズリアが俺のフィールドに存在する扱いになってしまうのだろう。

 それでデッキの回り方に影響してしまうと不味い。


「――交戦(エンゲージ)

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