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59.来訪

 翌朝。

 一眠りして朝を迎える。

 既に一度アンデッドの群れに襲撃を受けているので、ここは敵地だという認識だ。

 そんな場所で寝るなと俺自身に言いたいが、疲労で頭が回らない状態で夜通し強行軍なんてしたら絶対に途中で倒れる。

 夜間にまた襲撃を受ける可能性もあったので、俺としては見付からない事を祈って身を潜める方針だったのだが、カード達がどうやら先手を打っていたようだ。

 俺と言う弱点が見付かる位ならと、囮として夜通しこの結界内を徘徊して回ったとの事。

 カード達が交代でやれば、俺が寝てる間の7時間かそこら程度、大した時間じゃないのだろう。

 一応、この結界の抜け道が無いかを探すのと、周囲の地形やら色々探索する目的でもあったようだ。

 俺が寝ている状態でも、カード達は出現出来るからこそ出来る方法だ。

 おかげで、俺は充分な睡眠を取る事が出来た。

 それと同時に、カード達からの報告も上がる。

 やはり、結界には抜け道は無く、このままでは出る事は出来ないそうだ。


 結界を無理矢理破壊すれば、この場から逃げられないという問題諸々をガン無視して、本来の目的であるグランエクバークの首都を目指せる。

 その為には、結界をカード達の力、それも圧倒的な破壊力で攻撃して破壊しなければならない。

 結界を攻撃すれば、即座にレイウッドという男に勘付かれる。

 そうなれば再び、アンデッドの集団を差し向けられる。

 倒す事は、簡単だ。

 効果の無い小粒の集団、数で押し潰す戦法。

 そうだと既に分かっていて、デッキを編集する時間もある。

 何度やってこようが、何度でも撃退出来るだろう。

 だが、それでは結界を破壊出来ない。

 アンデッドを撃退し、そこで終わらずに結界に攻撃を仕掛ければ良いのではと考えた。

 カードが戦う、ではなくカードで戦う、の状況ではカードゲームのルールが適用される為、マナ上限という制約を無視出来るのは既に分かっている。

 マナゾーンを増やして、マナ数を増やせるならパワー10000の壁なんてどうとでも越えられる。

 だが、それも出来なかった。

 どうも目の前のアンデッドを倒した時点で、こちらが勝利した扱いになるらしく、またアンデッドを放置して結界を攻撃、という事も出来なかった。

 何故そうなるのか、理由も原理も不明だ。

 ただ、出来ないという事だけは分かった。


 となると、カードで戦うではなくカードが戦う、という手段になるが。

 その状態だと最大出現上限7マナというのが非常に厄介だ。

 モルドレッド使用不可の現状、パワー10000の壁を超える手段は、連合総長 (ドラゴン)位しか無い。

 (ドラゴン)であらば到達出来るが、それには攻撃回数が必要なので、現実時間で十数分時間が必要だ。

 そして、召喚には3マナ必要だ。

 だがその間、再びアンデッドの集団に襲われるだろう。

 結界とやらをガンガンと殴り付けている間、相手が気付かず無視してくれる、なんて事は有り得ない。

 カードで戦うのであらば、俺はカードのルールで戦える。

 だがカードが戦う最中は、俺はカードゲームのルールで守られる事は無い。


 前衛ユニットが活性状態で存在する時は、後衛ユニットとプレイヤーを攻撃する事は出来ない。


 エトランゼの基本ルールの一つだ。

 だが、それはカードゲームとしてプレイしてる時のみだ。

 この世界には、俺が守られるルールなんて存在しない。

 そして俺が死ねば、カードも出現する事が不可能になる。

 (ドラゴン)が結界破壊に勤しんでいる間も、俺はアンデッドの群れに追い掛けられる訳だ。

 そして(ドラゴン)もまた、アンデッドの対処に追われる事になる。

 俺が逃げて、(ドラゴン)が結界破壊に集中する。

 その為に使えるのは、4マナだけだ。

 4マナでその間、十数分を耐え凌ぐ。


 正直、苦しい。

 何が苦しいって、俺が邪魔だ。

 俺が完全にウィークポイントであり、俺が一番足を引っ張ってる。

 自衛、出来ないからな。

 自衛出来ない、パワーも無い、攻撃されたら即死。

 邪魔でしょうがない、俺という存在が必要ない。

 デッキから抜きたいんだけど、不可能なんだよなあ……


 それから、囮役も兼ねているので当然ではあるが、夜の間に何度か戦闘にもなったとの事。

 アンデッドの群れは、やはり個としては弱い、というのがカード達の総評だ。

 だが数が多過ぎて対処し切れず、最終的に包囲されジリ貧で敗走する事になる、という結果で終わったようだ。

 単騎で何もかも蹴散らしていけるような、そんな大型ユニットを出現させるマナ的余裕も無いしな。

 モルドレッドがそのタイプなんだが、使えないし。

 包囲網からの脱出は、空を飛べたり逃げ足が速いタイプの連中は逃げ遂せられたらしいが、そうでない奴等は出現状態を解除するという強制離脱手段で事なきを得たようだ。

 何時でも何処でもログアウト脱出とかずりーなマジで。

 囮役が絶対に持ってちゃいけない系の能力だわ、しかもこれ俺の持ってる全てのカードが出来るんだろ?

 セーブポイントという名の俺が足引っ張ってる訳だが。


 まあ、そんな事はどうでも良い。

 やっぱり、一人の意見を鵜呑みにしないで、他の人物が居るというのであらば、そちらの意見も聞くべきだろう。


「色々考えたけど、そのレイウッドって人物が居る場所を訊ねようと思うんだ」

「結局、この問題に関わる事にしたんですね」


 やや不服そうに、ダンタリオンが口を尖らせた。


「……駄目か?」

「これは、主人(マスター)には関係無い問題です。無視出来るなら、無視した方が良いのではないかと考えるのですが」

「まあ、(ドラゴン)ならこの結界を壊せるっぽいけど、それを成すのは中々難しそうだし。話して分かるようなら、結界から出して貰えるかもしれないじゃないか」

「本当に、そう思ってますか?」


 半目でジトーっと睨んでくるダンタリオン。


「いや、まあ、うん」


 多分、駄目な気がする。


 ……本心を言えば。

 死者が死者として眠る事が出来ない、この土地の現状。

 それを、俺は、見過ごせない。

 そしてリズリアの話から察するに、このアンデッドを生み出し操っているのは、レイウッドという男で間違いないのだろう。


 俺の我儘(ワガママ)かもしれないけれど。

 死者は死者として、きちんと弔ってやりたい。

 そして、死者を道具のように扱うレイウッドという人物。

 俺はそれが例えどんな内容であろうと、その意見に同意する事は出来ないだろう。


「……主人(マスター)。何でもかんでも背負っていたら、何時か重荷に押し潰されて、死んでしまいますよ?」

「別に、背負ってなんかいないさ」


 ダンタリオンが心配しているが、それは杞憂だろう。

 誰かを助けて回る。

 そして、助けた人物を見捨てられず、背負い込む。

 物語の主人公が陥りがちなパターンだ。

 だが生憎、俺は物語の主人公なんかじゃない。

 背負えないモノは背負えない、そう割り切っている。


 ただ。

 死んでしまった者に、土を被せ、弔いの言葉を述べてやる。

 それ位なら、してやっても良いじゃないか。



―――――――――――――――――――――――



「そういう事なら、私も協力しよう」


 恐らく、レイウッドとは戦う事になるだろう。

 その事をリズリアに報告すると、彼女はそう返答した。


「正面から行くのは得策じゃない。すぐにアンデッドの群れに囲まれる事になる。何度も使える手ではないが、城に入る抜け道が――」

「いや、正面から行きます」


 俺の回答に対し、呆気にとられるリズリア。


「そんな、裏口からコソコソとか泥棒みたいじゃないですか。こっちは他人の土地に迷い込んだ側なんですから、ちゃんと正面から尋ねるのが礼儀だと思うんですよ。ちゃんと非礼を詫びて、経緯を説明して、許して貰って出して頂ければなぁ、と思いまして」


 ……口ではそんな事を言っているが。

 絶対、そんな感じじゃ済まないだろうという確信もある。


「何を馬鹿な! あんな男と対話なんて不可能だ!」

「礼を失しては本当に、対話が不可能になりますからね」

 

 まあ、俺の本心は別なんだが。

 それを口にしたら、蜘蛛の糸より細い可能性が切れてしまう。

 無意味に可能性を減らすのは愚者の考えだ。

 それが例え無いに等しい可能性でも。

 そのゼロコンマの先が、何かを変えるかもしれないのだから。

 0%より0.1%の方が良いだろう。


「お前達は何とも思わないのか?」

主人(マスター)の考えと気持ちが、私達にとっての最適解ですから。主人(マスター)がそうすると決めたなら、言う事なんて何もありません」

「そういう事だ」


 リズリアが水を向けるが、ダンタリオンとバエルは諸手で賛成状態なので、聞く耳持たずである。

 最後はこちらの判断に従ってくれるが、完全なイエスマンではないので、カード達もちゃんと考えた上でそう発言してはいるのだが。


「無駄に死ぬだけだぞ」

「何か、罠的なモノがあるとか?」

「以前、正門には大量に罠が仕掛けてあるのを確認している。発動して効力を失効しているのもあるだろうが、それをこの何百年もの間、直さず放置しているとは到底考えられない」


 試しにリズリアに聞いてみたのだが、本当に罠があるらしい。

 仕掛けててもおかしくは無いよなあ。


「ダンタリオンやバエルはどう思う? こちらがあくまでも迷い込んだ者だという体を保つ為に、正面から行こうとしている俺は、やっぱり駄目か?」

「……リズリアが言うルートとやらが安全である保障も無いですし、主人(マスター)がこれから進む道が虎口へ通じると認識しているなら、別にどちらでも良いと思います」

盟約主(マスター)が行くと決めたのならば、(オレ)も存分に力を振るおう! 72の将星、その王たるこの(オレ)が味方なのだ! 死霊の群れ程度、雑兵にすらならんわ!!」


 僅かな思考時間の後、結論を述べるダンタリオンと、強気なバエル。

 まあ、カード達が否定しないのであらば、そのまま進めよう。


「だけど、バエル。今回お前は使わないぞ?」

「何だと!?!?」

「バエルをデッキに投入(イコール)72魔将デッキが確定するからな。そして、72魔将デッキを組める程、今のカードプールは広くない」


 重いんだよ、バエル。

 足元の茶トラ猫がやたら尻尾をバタバタと振ってるが、使わないもんは使わないんです。

 その重さに見合った効果だとは思うが、カードプールに乏しい現状、場に出す為のコストが重い、というのは平常時よりも更に尚、苦しい。

 場に出せないならば、そのカードは手札で腐ったまま、死蔵する事になる。

 それは余りにも致命的だ。

 マナゾーンにでも置くか? 別にそれはバエルでなくても良いよな?

 だから現状、比較的軽いコストで回せるデッキしか使用出来ない。

 もしくはカードプールが充実しており、従来のデッキ構築に近付けるデッキか。


 現状だと当然、使うデッキは決まってる。


「本当に行く気か? ただ死ぬだけだぞ?」


 蔦に覆われた正門前へと移動する。

 俺とリズリア、そしてバエルとダンタリオンが立つ。

 リズリアは相変わらずこちらの身を案じているが、問題は無い。


 それに、死ぬなら死ぬでその時はその時だ。


 ダンタリオンに目配せし、頷く。


「すみませーん。私、昴という者なんですけど。ちょっと道に迷ってしまいまして、ロンダーヴまでの行き方を教えて頂きたいのですが、お時間頂けないでしょうか?」


 低姿勢で呼び掛ける。

 あくまでも、こちらは迷い込んだ人だという体だ。

 声を届ける為に、ダンタリオンの魔法で俺の声を拡張して貰った。

 予想通りではあるが、返答は無い。

 否、ある意味返答はあった。

 目の前には、蔦に覆われた城壁と門。

 背後には、鶴翼の陣のような形で、俺達を包囲するように現れた、アンデッドの群れ。

 これが、俺の呼び掛けに対する返答という事だろう。


「巻き込まれるので、リズリアさんは離れてて下さい」


 やや不安そうに、だがやがて何かを思い出したかのような素振りを見せながら、リズリアはこの場から離れる。

 アンデッドの群れに囲まれている状態だが、壁面の蔦を上手く掴みながら、何処へと去っていった。

 何か、普通の女性かと思ってたけど握力凄いな。

 いや、数百年前とか会話から出てくる女性が普通な訳無いか。


「よし、じゃあやるか」


 これより先は、死地。

 信じられる、頼れるのはカードの力のみ。

 それを改めて、頭で反芻(はんすう)した後。


「その前に、少し良いですか主人(マスター)


 どうしたのかと思ったら、ダンタリオンが何やら魔法を詠唱し始める。

 それが終わると、俺に青白い光が灯った。


「――この道を行くと決めたのなら、もうそれには何も言いません。ですが、これ位はさせて下さい」

「……何かしたのか?」

「痛覚を麻痺させました。これで、主人(マスター)が感じる痛みは無くなったはずです」


 痛覚を麻痺?

 本当か?

 試しに腕を爪でつねってみる。

 ……痛みというか、触覚自体が何も感じなくなっている。

 両手両足を動かしてみるが、それらを動かすのには何の問題も無い。

 以前、局所麻酔というのを受けた事があるが、腫れるとか痺れるとかそういう感覚も無く。

 本当に、痛みだけを感じなくなっている。


「ただこれは、元に戻せる保証が無かったので今まで使用を控えていたのですが。"実験"のお蔭で、この状態はブエルならば治せる事が判明したので、ようやく使えました」


 例え、死に直結するような重症を負ったとしても。

 この魔法が効いている間は、俺は一切痛みを感じないらしい。


「……余計な御節介でないと良いのですが」

「いや、凄く助かる」


 痛いのは、やっぱり嫌だからな。

 それに、痛みを気にしなくて良いのなら。

 極限ギリギリ、首の皮一枚までは命を投げ捨てる戦法も普通に使い易くなる。

 取り敢えず、ブエルに治療して貰うまではこの状態らしいので、今回の一件が終わるまではこのまま行こう。

 では、改めて。


「――交戦(エンゲージ)


 再び、その言葉をこの地に刻む。

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