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57.灰は灰に、塵は塵に

 デッキをシャッフル、初期手札の7枚をデッキからドロー。

 マリガン(引きなおし)はせず、ファーストユニット、英雄女王 アルトリウスで確定させる。

 その後、デッキの上から裏側のまま5枚の(シールド)を展開。


「俺のターン、ドロー」


 デッキから飛び出した、ファーストドローを引き抜く。

 最初の手札、そして相手フィールドの盤面を確認する。



 名称:アンデッドトークン(1)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:アンデッド

 性別:不明

 マナシンボル:黒

 パワー:1000



 目の前に現れたゾンビ――アンデッドトークン。

 特に余計な効果は持っておらず、それ自体は弱小ユニットでしかない。

 だが、数が多い。

 このトークンが合計で、10体存在している。

 あのゾンビ一体一体が仮にトークンだったとしたら、10では済まない程の数になっているはずだ。

 以前、砂漠で邪神の欠片と戦った時の兵達と同様、ある程度の群、その一群でトークン1体分としてカウントされているのだろう。


「マナゾーンにカードを1枚セット、英雄女王 アルトリウスの効果発動。自身に装備呪文が装備されていないので、デッキから装備呪文を一枚選択し、装備する」

剣よ来たれ(コーリングアームズ)


 アルトリウスが効果名を宣言し、その空いた手に一振りの剣が握られる。

 

 等間隔で、刀身に節目のような線が走った、白銀の剣。

 柄の部分には蛇の意匠なのか、鱗のような模様が刻み込まれている。

 それ以外は、特に変わった様子の無い、長剣であった。


武装隷獣(アームズスレイブ)-サーペントソードをデッキからアルトリウスに装備。この効果により、アルトリウスのパワーは3000アップする」


 一度、ターンを終える。

 先攻は、攻撃出来ないからな。


 止まった時が、動き出す。

 堰を切ったように押し迫る、亡者の波。

 だが、前衛に居るアルトリウスを無視して俺に攻撃を届かせる事は出来ない。

 前衛に活性状態のユニットが存在する時、相手は後衛やプレイヤーを攻撃する事は出来ない。

 そういう効果を持っていれば話は別だが、それも無い。

 展開された盾が、迫る手を全てはじき返す。

 盾が健在である限り、決して俺に手を触れる事は出来ない。

 無論、アルトリウスにもその手は迫るが、サーペントソードを装備した現在のアルトリウスのパワーは5000。

 パワー1000のアンデッドトークンに勝機は無く、容易くあしらわれる。


 打つ手が無いのか。

 再び時が止まり、デッキからカードが1枚飛び出す。


「俺のターン、ドロー。リカバリーステップを通してメインステップへ」


 数は、多い。

 だがパワーも低く、特に厄介な効果を持っている訳でもない。

 こういう状況は、フィールドにそれを上回るパワーのユニットが1体出現するだけで、停止する。

 これが実際のカードゲームであらば、そういうパワーで勝るユニットは除去効果で飛ばされるのがオチだが、それも無い。

 アルトリウスの壁を越えられないのであらば、俺にその手は届かない。

 例え周囲全てが、アンデッドの群れに囲まれていたとしても、だ。

 それが、エトランゼというカードゲームのルール。


「マナゾーンにカードを1枚セット、1枚を疲弊させて虹マナ1を得る――頼んだぞ、アルトリウス。バトルだ。アルトリウスで、アンデッドトークンを攻撃」

旦那様(マスター)の望むがままに」


 そしてこれで、終わらせる。 


「サーペントソードの効果。装備ユニットは前衛ユニット全てに攻撃出来る」


 アルトリウスが、サーペントソードを振るう。

 サーペントソードは、いわゆる蛇腹剣である。

 現実では拝む事が難しい――ゴムの如く伸び、鞭の如くしなる、"飛ぶ"斬撃。

 さながらそれは、飛び掛かる蛇の如し。

 剣とは思えぬような、間延びした風切り音。

 急襲する剣。

 その刃が、腐敗した肉体を撫でるようにして食い込み、まるでチェーンソーの如く抉り削る。

 一振りが、幾十幾百のアンデッドを切り裂き、薙ぎ払う。

 

 全てに攻撃出来る。

 そしてアンデッドトークンは、その全てが前衛に立っていた。

 鎧袖一触。

 パワーで劣るアンデッドが、どれだけ数を束ねようとも。

 全体攻撃効果を付与されたアルトリウスに敵う道理は無い。



 一太刀で、その全てが地へと伏し、消えて逝った。



―――――――――――――――――――――――



 亡骸は光の粒子となって爆ぜ、塵と化して散っていく。

 これで、死者が救われたのかどうかは知らないが。


「――何処の誰かも知りませんが。成仏して下さい」


 少なくとも、これ以上苦しむ事が無い事だけは確かだ。

 真っ直ぐ、黄泉路に向かえる事を、切に望む。




「――何故、この地に来た」


 手を重ね、祈りを捧げている最中。

 抑揚の無い声が静寂を破る。


 それは、女性であった。

 燃えるような赤毛に、鋭さを感じさせる目元。

 赤黒いカクテルドレスを着ており、脚部を包む布の部分はザックリと裂けていた。

 デザインというより、動き辛いから意図的に裂いたように見て取れる。

 白い両足にはベルトが巻かれており、そこには短剣を納める鞘が取り付けられていた。

 端正な顔立ちで、美女と呼ぶに値する程の美貌を持つが、同時に近寄りがたい雰囲気を持つ。

 とても整った容姿なのに。

 何故美しいと、美人だと感じないのか。



 それはきっと、人間の美ではなく、人形の美。


「ここが、忌避すべき地になったという事実。もう、外に居ても分かっただろうに」


 美しくとも。

 そこには、生気が無かった。


 女性と俺との直線状に立つバエルとダンタリオン。

 俺を背にかばう形だ。


「フン。さしずめ先程の亡者共を差し向けた元凶か」


 嘲るように鼻を鳴らすバエル。

 しかし、目の前の女性はそんなバエルの態度が気に入らなかったのか。


「あんな奴と一緒にするな――!!」


 今までと、雰囲気が変わる。

 明らかに言動で見て取れる――怒りの色。


「さて、どうだかな。口ではどうとでも言える、貴様が何者かなど(オレ)盟約主(マスター)にとっては関係の無い話だ」


 そんな女性の怒りに対し、我関せずの態度で接するバエル。


「とっととこの目障りな結界を破って、こんな辛気臭い場所とはオサラバさせて貰うだけだ」


 堂々とした強い口調で言い放つバエル。

 偉そうに御託述べてるけど、実際に破るのは(ドラゴン)だよな?

 現状、お前のパワーじゃ突破出来ないだろ。


「無駄だ。この結界は破れない、破れた試しなど、一度も無い」

「フン。盟約主(マスター)を見くびるなよ? この程度の結界、破れて当然だ」

「……そう自信満々に言い放った奴も、今まで沢山見てきたよ。だが、今まで誰一人として、この地から生きて出られた者など居なかった」

「ほう」


 相変わらず、バエルは俺に背を向けた状態のままなのだが。

 言葉から漂う気配の変化を感じ取れた。

 これが、殺気というものなのだろうか?


「その次は、貴様等も先程の骸の仲間にしてやろう、とでも言う気か? もしそうならば、面白いジョークだ。テムズ川の水中観光ツアーの片道キップをくれてやるぞ? 土産として重石もくれてやる。帰りの便は無いがな」

「テムズ川って名前だけは聞いた事あるけど、何処の川だっけ? アメリカ?」

「南イングランドの川だから、イギリスの川だよ主人(マスター)

「あー、アメリカじゃなくてイギリスなのか。英語圏のドキュメンタリー番組で聞いた名前だったから、アメリカかと思ったがそっちか」

「……少々、呑気過ぎやしないか盟約主(マスター)? ダンタリオン貴様もだ、状況を理解してるのか?」

「私は別に油断してない。主人(マスター)の疑問に答えてただけ」

「呑気っつーか、カード達がどうにも出来ない状況なら俺にどうにか出来る訳無いんだから。呑気というより、割り切りとか諦めの類だな」


 一度、咳払いをして空気を変えるバエル。


()るというのなら、いくらでも相手になるぞ? 72の将星の長たる、この(オレ)がな」


 バエルの足元に居る猫が、濁点混じりの長い鳴き声を上げ始める。

 あ、これアレだ。

 オスの野良猫同士が威嚇しあってる時に聞いた鳴き声だ。


「戦うというのなら、相手が違う。私を倒した所で何も変わらん。そもそも――」


 何かを言おうとしたが、諦めたように口を閉ざし、赤毛の女性は俺達に背を向けた。

 バエルが俺でも分かる位に殺気を振り撒いているのに、その動作は余りにも無防備であった。

 殺される事は無いと、高を括っていうようにも見える。


「取り敢えず、場所を変えよう。ここに何時までも留まっていては、奴から第二波を受ける事になる」

「奴?」

「ちょっと待って。貴女に付いて行く前に質問して良い?」


 足を進めようとした、赤毛の女性に対しダンタリオンが質問を投げ掛ける。

 足を止め、振り返る赤毛の女性。


「何だ?」

『貴女は私達の敵? 味方?』


 ――ダンタリオンが、"質問"する。


「敵ではない」

『私達を何処に連れて行くつもり?』

「私の隠れ家の一つだ。そこならば、レイウッドに見付かる事も無いからな」

「レイウッド?」


 誰? だろうか?


「ダンタリオン」


 バエルが、ダンタリオンに対し水を向ける。

 その意図を察したダンタリオンが、自らの結論を口にする。


「付いて行っても問題無い。安心して良い訳じゃないけどね」

「成程、まあ如何なる脅威があろうとも、この(オレ)の手で捻じ伏せるまでよ」


 多分、またダンタリオンが真偽を確かめていたのだろう。

 俺には、目の前の彼女の胸中を知る術など持ち合わせていない。

 だがそれでも、彼女が何も嘘を吐いていないというのは、雰囲気で察する事が出来た。



 彼女が帯びた気配が――敗者のモノであったからだ。

 


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