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54.ペンギンと猫と王

 ――その後も、買い食いをしながらもツェントゥルム内を散策していく。

 噴水広場を訪れたり、ギルドと併設された庁舎を見て回り、図書館を訪ねたり。

 図書館に着くや否や、ダンタリオンが物凄い勢いで図書館内に黒い靄を充満させ始めた。

 どうやらエルミアも見えているらしく、俺と一緒に困惑していたが、俺やエルミア以外には見えていないようで、図書館に居る他の人々は至って普通である。

 靄が収まる頃には、ダンタリオンは満足した表情を浮かべていた。

 なんでも、この図書館内に存在する知識を吸収していたらしい。

 目新しい情報や知識が得られたようで、ご満悦のご様子。

 巡っている場所自体は観光客となんら変わらないのだが、観光名所で買い物したり説明を受けたりしたりはしていないので、足を止めない弾丸旅行みたいなものである。

 流石に疲れてきたので、一旦休む事にした。

 船の乗り入れ口である波止場に腰掛ける。

 港に停泊したいくつもの船と、遠くに広がる水平線を眺めながら、買っておいた食事にありつく。

 潮風が心地よく、何となく疲労が抜けて行く感じがする。


「あ、ペンギンだ」


 誰かに飼育されている様子は無い。

 どうやら、野生のペンギンのようだ。


「ここ、結構温かいけどペンギンなんているんだな」

「ペンギンって、別に寒い場所にしか居ない訳じゃないですよ?」


 ダンタリオンから補足を受ける。

 種類によっては、なんでも赤道直下という暑い地域に生息しているペンギンも存在するらしい。

 それを考えれば、別にこの場所にペンギンが居るのは不思議でも何でもないようだ。

 よくよく考えたら、日本の水族館の屋外に普通にペンギン居るじゃないか。

 ペンギン=寒い場所、という考えはただの固定概念にしか過ぎなかったようだ。


 ……浜辺に固まっている、ペンギン。

 それを岩陰から狙う、一匹の猫。

 機を見計らい、ペンギンに向けて突進する猫!

 それに気付き、海へと一目散に逃げ出すペンギン!

 捕食者と被捕食者。

 食う者と食われる者。

 砂を蹴り上げ、獲物に牙を突き立てんと駆け抜ける!

 弱肉強食の世界が、目の前で繰り広げられていた。

 だが、どうやら時運はペンギン側に味方したようだ。

 突如海から押し寄せた大波に怯み、僅かに足を止める猫。

 その大波に乗り、海中へと逃げ遂せるペンギン達。

 どうやら今回の生存競争は、海のきまぐれに愛されたペンギン側の勝利で終わったようだ。

 トボトボと帰っていく猫。

 心なし、気落ちしているようにも見えた。

 くいっぱぐれたのだから無理もないか。

 ちょっと餌付けしたくなる気持ちが湧いてくるが、そういうのは良く無いので抑え込んだ。


「……は? え? アイツが戻って来たの? 何でこのタイミングで?」


 困惑しているダンタリオンの声に気付き、声のした方向へ振り向く。

 そこに、ダンタリオンは居ない。

 というか、エルミアまで居なくなっている。

 身に着けていた身を隠す為の外套だけが、地面に投げ捨てられていた。

 持っていると消滅してしまう為、手放してから姿を消したのだろう。


「にゃーん」


 妙にドスの利いたにゃーん。

 足元を見ると、猫が居た。

 茶トラの毛並みが良い猫だ。

 一点を除き、何処にでも居るような猫の一匹にしか見えない。


 その問題の一点――何故か戴冠している、煌びやかな冠に目を向ける。

 猫の頭上に乗るような、随分と小さな冠だ。

 小さいながらもキラキラと輝く宝石が埋め込まれており、随分と手の込んだ装飾品である。

 動いたらすぐに頭上から落ちてしまいそうだが、首を持ち上げてこちらを覗き見ている体勢であるにも関わらず、冠は縫い付けられたかのようにピクリとも猫の頭上から動かない。


 ザリッ、という足音が聞こえた。

 足音がした方向へ目線を移動する。


 金髪碧眼、目鼻立ちの整った、男である俺でも思わず見惚れる程の美男子。

 年齢は恐らく、二十代前半程度だろう。

 布量の多い、金糸の刺繍をあしらった豪華なファーコート。

 片手には杖が握られており、その杖には水晶が埋め込まれており、宗教的な意味合いを持たせた装飾が施されていた。

 コートの下に着込んだ白い礼服の胸元には、勲章の数々が輝きを放っており、それだけで近寄り難い、高貴な人物なのだろうという畏敬の念を周囲に抱かせる。

 頭上には、足元に居る猫の被っている王冠をそのままサイズ変更したような冠を戴冠しており、陽の光に照らされて煌めきを放っていた。



 ――凄まじい、既視感。

 というか目の前のイケメンな男よりも、足元の猫の方が余程見覚えがある。

 冠を被った猫、その正体は悪魔の王。

 ダンタリオン同様、目の前の人間は従属で、この猫こそが本体。


「悪魔王 バエル、か」

「ふはははははは!! 久しいな盟約主(マスター)よ! この(オレ)が来たからには、盟約主(マスター)に二度と危機が訪れる事は無い! 大海を覆い隠す大艦隊に乗った気で居て構わんぞ!!」


 耳を反射的に覆いたくなるような大声に加え、見ているだけでうるさい身振り手振りオーバーリアクションを絡めつつ、目の前のイケメン――悪魔王 バエルが言い放った。

 都市散策を続けた結果、目的に適したカードかは置いておくが、目が覚めるような大物が戻って来たのは間違いない。



 悪魔王 バエル。

 72魔将を統べる頂。

 ダンタリオンを含む、72魔将というカテゴリに属するカードはいくつか手元に戻っていたが、この目の前の存在こそが、それらを総括する王。


「……主人(マスター)を危難に晒させる気は無いのは同意だけど、相も変わらず五月蠅い奴」


 先程姿を消していた、ダンタリオンが再び姿を現す。


 …………うん?


「計算が合わないぞ? 今、合計10マナになってないか?」


 俺が実体化出来る限界マナ数は、7だったはずだ。

 そしてこのバエルを召喚する為に要するマナは7。

 このバエル1体で、全てのマナを使い尽くしており、この状態では他のカード達は出現不可のはずだ。

 いや、待て。


「まさか、それ有効なのか?」

「ふぅん! 盟約主(マスター)の世界のルールに従っている以上、この(オレ)にそれが出来ない道理など無い!!」

「マジか」


 以前の(ドラゴン)の時にも思ったけど。

 そのカード効果、有効なのか……マジか……


 バエルには、召喚成功時に発動する効果が存在している。

 それは、72魔将のカテゴリに属しているユニット1体を選択し、デッキから召喚する芋づる式効果。

 配下無き王など王ではない。

 臣民揃ってこその王であり、その家臣を引き摺り出す。


「じゃあ、ダンタリオンだけじゃなくてブエルもシャックスも可能って事か」

「当然だ!」


 断言するバエル。

 バエルを召喚すれば、他の72魔将カテゴリに属するユニット1体をマナコスト踏み倒して出せる。

 現状バエル以外に一番重いのが6マナのシャックスだから、条件付きで13マナまで行けるようになっちまったぞ。


「やっぱり強いなバエルは」

「実に今更な感想だな! 盟約主(マスター)!! 72の悪魔の頂点に立つこの(オレ)以上の強者などおるまい!!」


 まあ、移動手段という最大の目的に対しては何の役にも立たないんだけどな。

 この猫に乗って海を渡る訳にも行かないしな、何の虐待だ。

 向かうべきは、水平線の向こうにある大帝国、グランエクバーク。

 バエルが戻って来たのは大きいが、このカードは移動手段にはならないだろう。


「……ペンギン、戻って来てたりしない?」

「ペンギン? 戻ってきてるよ主人(マスター)


 バエルが引っ込むと、俺の足元に一匹のペンギンが姿を現した。

 見た目はまんま、かの有名なコウテイペンギンである。

 俺の下腹部程度の背丈があり、めっちゃデカいペンギンだ。

 だが、ただのペンギンならばカードとしてデザインされたりしない。

 ペンギンが背面に背負った、巨大なロケット推進装置。

 カード名はズバリ、ロケットペンギン。

 まんますぎて安直なネーミングである。


「ロケットペンギンなら、現状の問題解決になるんじゃないか?」


 超音波みたいな鳴き声を上げるロケットペンギン。

 その鳴き声は賛同なのか否定なのか、どっちなんだ。

 リッピやフェンリルもそうだが、やっぱり人型相手じゃないと何言ってるのか理解出来ない。

 言葉が通じる相手じゃないから、ボディーランゲージ以外での意思疎通は不可能であった。

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