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#3.酷く賑やかな精神世界

番外編でお茶濁し

「戻って来たカード達も増えた事だし、折角だから顔合わせしてくれば? どうせ時間なら沢山ある事だし。もしかしたら、誰かと気が合うかもしれないよ?」


 ダンタリオンがそんな提案をし、それもそうだと思った為、私はまだ見ぬカード達を訪ねる事にした。

 ここでの時間の流れは、外の時間の流れとはまた別の流れとなっている為、ここで時間を使い過ぎた、という事は皆無。

 いくら話しても外では大して時間が経っていない状態にも出来るので、それならば顔合わせ位はしておくべきだろう。


 ……ええと。

 最初にモルドレッドという人物の所に行くと良い、とダンタリオンは言っていたな。


「失礼する。モルドレッド殿――」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! 私の゛ッッッ!!! 御父様(いとしのひと)があ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! あんな間男(マスター)にッッッ!! あられもなく白い柔肌を――ぐぎい゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」

「ふわあああぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 それは、戦場を超える何かであった。

 極大の爆裂音に、絶え間無く炸裂する光の暴風。

 どんな戦場でも見た事が無いような、想像すら凌駕する暴威。

 あの時、邪神の欠片と相対した時ですら、ここまで恐怖を感じてはいなかった。


 ――私は今日、ここで死ぬ。

 それを前にして、私はただ悲鳴を上げ続ける他無かった。



―――――――――――――――――――――――



 あの時の事を、振り返ってみる。

 思い出すだけで背筋が寒くなるが、アレがモルドレッドという人物の本気の戦闘光景なのだと理解した時、その圧倒的な強さに……少しだけ、少しだけ憧れもした。

 怒りで発狂し、感情のままに暴れ散らす。

 それだけで、何もかもが破壊されていく。

 戦闘技術もへったくれもない、純粋な、暴力ではあるが――あれもまた、力の一つではある。

 あの力があれば、確かに、邪神の欠片など物の数ではない。

 そう断言した、スバルの言葉も信じられるというものだ。


 モルドレッドは強いと、スバルも、他のカード達も、口を揃えて言っていた。

 その強さというのは、あの時訪ねた私も否応なしに納得せざるを得なかった。

 人外の域の戦闘砲火。

 例え死なないとしても、何の覚悟もしてない人が行き成り総火演の真っ只中に放り込まれたような状態である。

 錯乱位してもおかしくない。

 事実、私もあの時の光景を「何だか凄かった」程度にしか覚えていない。

 恐らく、それ以上の情報は頭が記憶する事を拒否したのだろう。

 極度のストレス下に人が置かれると、自分の心を守る為にストレスの原因となる記憶が曖昧になるとも聞いた事がある。

 恐らく、私の記憶もそうなったのだろう。

 凄かった、強かった、それだけ覚えておこう。

 それと、モルドレッド殿には安易に近付かないでおこうと決めた。

 私の手に負える相手ではないからな……うん。

 何であんなに怒り狂っているのかも、分からなかったし。

 触らぬ神に祟りなしだ。



―――――――――――――――――――――――



 次に訪れたのは、ブエルというカードの居る場所だ。

 目の前に広がるのは、色とりどりのステンドグラスを組み合わせて描かれた、人の形を取り、白い翼を携えた――天使と思わしき肖像。

 それらが光によって照らし出され、神々しさを湛えている。

 大理石の石柱に壁、そして白く磨き上げられた石床に、敷かれた赤い絨毯。

 高位の神官が説法や祝辞を述べる為に用意されたであろう壇や、参拝した信徒が腰掛ける為のいくつもの長椅子。

 天井までの距離も遠く、天井は薄暗く霞んで、よく目を凝らさねば天井も見えない。

 更にその天井にも芸術品の如き絵画が描かれており、この空間自体が国宝の如き存在感を放っている。

 神々しく、清浄で、技術と美と文化の粋を集めて建立された場所なのだろうと察せられる。

 私が住んでいた、フィルヘイムの王城と比較しても遜色が無いか、下手すれば華美さでは負けるかもしれない、そんな空間。

 もしここに天使が舞い降りたとしても、然程驚きはしない程度には、神聖さがある。

 生憎、私は見る事が出来るだけで、この空間に入る事は出来ないが。

 私の居る、この荒れ地のような廃墟のような、そんな空間を隔てる、透明な間仕切りのようなモノに阻まれ、その煌びやかな世界には足を踏み入れる事は出来ない。


 ここが、ブエルの存在する空間だというのか?

 悪魔だと聞いていたのだが、本当にそうなのか?

 こんな場所に悪魔が入り込もうものなら、即座に浄化されてしまいそうなものだが。


「んあ~? 誰~?(σω-)」


 ……居るのは分かっているのだが、居た。

 長椅子の部分に、まるで酒で酔い潰れてベンチでくたばっているかのような体勢で、寝転がったブエルが。

 酒瓶を持たせたらしっくり来るだろう。

 聖職者然とした服装に似つかわしくない、余りにもだらしない恰好である。


「……ん? 何だ、最近来たとかいう新入りの女か……一体何の用さ⊂⌒っ*-ω-)っ」


 微妙に体勢を変えて、長椅子の手摺り部分に頭を乗せてこちらを見てくるブエル。


「どうも、始めましてブエル殿。エルミア・フォン・フィルヘイムと申します」

「 え る え る っ て 呼 べ 」


 ズイッと迫るブエル。

 笑顔なのに、背後から黒いオーラが立ち昇っているかのように幻視する。


「……えるえる殿?」

「殿は要らないなぁ~。殿って言葉が可愛くなーい(・ε・)」


 口を尖らせ、それでいて気が抜けるようなおどけた口調で話すブエル。

 見た目と、言動が全く一致していない。

 ダンタリオンという人物に関しては、深謀遠慮を巡らせているが故に、私の頭が追い付かず、何を考えているか理解出来ない所があったが。

 ブエルという人物は、単純に何を考えているのかサッパリ理解出来ない。


「エルミア……そっかー、貴女もえるえるって言うんだ」

「えるえる……??」

「えるえるもえるえるってゆーんだ、えるえるちゃん」

「エルミアです」


 そう、よく分からない。

 ほーほー、とか言いながら色んな方向から、品定めするかのように見てくる。


「んー、女なんかどうでも良い感じだけど、えるえるちゃんとは気が合いそうだナ~☆ えるえると一緒に、アイドル界のスターダムにのし上がろうよ」


 どうしよう。

 何か、懐かれた。

 何を言ってるのかはサッパリ理解出来ないが、何となく好意を持っているのだろう、という事は言動から察せられた。


「取り敢えず、その鎧は全然可愛くないナ~☆ そんな鎧脱ぎ捨てて、えるえるみたいにもっと可愛い服着ようよ(*゜▽゜)ノ」

「脱げと言われても、代わりの服なんて無いのだが……」

「えー?(・ε・)えるえるみたいにマジカルチェーンジ!(ゝω・)v とか出来ないのー?(=ε=)」

「良く分からないです、出来ないです」


 んー、と考え込んだ後。

 ブエルは手をポンと打ち鳴らし、満面の笑みを浮かべた。


「そーじゃん! ジョン・レイニーが居たじゃん(☆∀☆) あのカードならきっとえるえるのリリカルマジカルえるえるモード☆ミ(ゝω・)v と並べても遜色無い服作れるかも~☆彡」

「えっと、どなたですかそのジョン・レイニーという方は?」

「どんな服でも一瞬で作ってくれる、テンションがちょっとウザいファッションデザイナーだよ~(・ε・)」


 私は、貴女のテンションがちょっと、その、ウザいです。

 断じて口には出さないが。


「ま、今はまだ戻って来てないみたいだけど~……もし戻ってきたら、えるえるちゃんに相応しい、アイドル活動を頑張れる位フリッフリで可愛いアイドル衣装を作ってくれるよう頼んじゃお~(〇艸〇)」

「その人物がどんな人かは知らないのだが、そんな事を頼んだら迷惑だったりするのでは?」

「ああ大丈夫だいじょ~ぶい(ゝω・)v アイツは気に入った女性には無料でいくらでも服作ってくれるから。えるえるちゃんなら顔も綺麗だし気に入られる事間違いなしだよ~( 0w0)ノ 」


 迷惑なのでは、というささやかな抵抗も破られた。

 アイドル衣装、というのが良く分からないが。

 ふりふりとか言っていたし、もしかして式典なんかで着るドレスとかああいうタイプの服だろうか?

 アレは着てると堅苦しいし動き辛いから、出来れば着たくないのだが……


「……しかし、こうしてこの場に居る方々と言葉を交わしていると、聞いた事が無い初耳の人物の名前を頻繁に聞くな。一体、あとどれ程居るのだ?」


 ジョン・レイニー、異次元ツアーガイド、太古の(エンシェント)超魔導都市(スペリオルシティ)……ええと、これは人物名……なのか? 絶対に違う気がする。

 ビフロンスにアスモデウス、リアクター・ガーデン……駄目だ、とても全部は覚えきれない。

 顔を見て、自己紹介でもされれば覚えられるのだろうが。

 顔どころか姿すら見てもいないのに、名前だけ会話の断片として提示されても、とても覚えられる訳が無い。


「ん~……まあ、適当に一万位居るって思えば良いんじゃなーい?(・ε・)えるえるも正確にどれだけ居るのかは興味ないから知らないけど♪~(=ε=)」

「い、一万……」


 恐らく、かなり適当な物言いであるが故に、この一万という数字も相当大雑把なのだろう。

 それより多いかもしれないが、少ないかもしれない。

 その少ないも、一千二千違ってもおかしくなさそうだ。

 でも、千とは言わなかった。

 それはつまり、最低でも千という単位には余裕で達しているであろう事が察せられる。

 恐らく、最低でも五千か六千位か?

 その数字も相当低く見積もった数字だ。

 おおよそなので、全く当てにはならない。


「――私は、ここでやっていけるのだろうか?」


 私が実際に、その力を目の当たりにした人物。

 ダンタリオン、そしてアルトリウス。

 二人の自己申告ではあるが、この二人は単純な力だけで見るのであらば"弱い"と言っていた。

 あれだけの力を、邪神の欠片を葬る、その実力を目の当たりにした後で、弱いと言われても。

 しかし、口を揃えて下から数えた方が早い。


 私が英雄に見えるのであらば、それはマスターの力あってこそ。


 ――そう、断言した。

 マスター……つまり、スバルの力。

 ――モルドレッドという存在を知った事で、確かにこの二人よりも格上の存在が居る、という事に関しては納得したが。

 それでも下から数えた方が早い、というのには納得しがたい部分がある。

 断片的に耳にする、他のカード達とやらに会ってみれば、納得出来るのだろうか?

 あの、英雄と呼ばれてもおかしくない、二人ですら弱いのであらば――私は一体、何だと言うのか?


「だいじょぶだいじょぶ☆ えるえるちゃんにはえるえると一緒にアイドル界の頂点に立つっていう大仕事が待ってるから☆ミ(ゝω・)v」

「そこじゃないです」


 空間を隔てる、この境界を乗り越える事は出来ない。

 もし乗り越えられたら、私に付き纏ってベタベタしてきそうな雰囲気を漂わせるブエル。


 この越えられない境界線に、ちょっとだけ感謝するのであった。


ダンタリオンが最初にモルドレッドの場所に行かせたのはただの嫌がらせです

モルドレッドがブチギレてるのは昴とアルトリウスのほにゃららした事実を知ったからです

エルミアがブエルにロックオンされました

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