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49.手掛かり探し

 カード達と一緒に、もぬけの殻となった洞窟内を探索していく。

 生活痕が色濃く残る空間を、虱潰しに探る。


「――おいマブダチ(マスター)! こいつもかっぱらって行こうぜ! ナーリンクレイ製のワインだ、いっちょ異世界の酒とやらを堪能しようぜ?」

「真面目に探す気が無いなら戻れビリー」

「俺、酒飲まないんだけど」

「んだよつれねえなあ、ノリ悪いぜマブダチ(マスター)!」

「真面目に探して頂けませんか?」


 俺、ダンタリオン、ビリー、インペリアルガード(トークン)の四人で何か情報が無いか、手分けして探していく。

 家探しは、してる。

 だがビリーの方は、遺された嗜好品を漁る方に興味津々のようだ。


「おいダンタリオン」

「何よ」

「火」

「呑気に煙草吸おうとしてんじゃないわよ! 邪魔しかしないならもう帰りなさいよ!!」


 キレるダンタリオン。


「わかった、わーかったから。そんなキレんな、小皺が増えるぞ」

「……どうせ死なないんだから、殺しても良いんだよ?」

「手を止めないで下さい、ダンタリオン」


 インペリアルガードになだめられ、舌打ちしながら捜索を続けるダンタリオン。

 へいへい分かりましたよ、といった態度を隠しもせず、煙草を吸いながらビリーも本腰を入れて家探しに没頭する。

 火は自分で付けたようだ。

 ライター持ってるなら自分で付ければいいのに。


「取り敢えず契約書や旅券の類を探してるけど、それで良いんだろ?」

「そうですね。絶対にそういうのを残してるはずです」

「処分されてる可能性は?」

「無くはないかもしれないけど、低いはずよ。こういう手合いは、仮に上からの命令で動いてるとしたら、指示出してる連中から裏切られないよう、相手方の弱み――物的証拠を残してるだろうからね。もしここの賊の単独犯なら、殲滅した以上これであと腐れなくおしまいだから、徒労にはなるけどそれはそれで良し、よ」


 そこまで考えられない馬鹿だったら、お手上げだけど。

 と、ダンタリオンは続けた。


「そんな間抜けじゃねえ事を祈るよ」

「祈ってないで手を動かしなさい」

「動かしてるさ、今は一杯やるのに手一杯だ」

「帰れ!!」


 先程見付けていたワインボトルの封を開け、グラスに注ぎ、一杯呷るビリー。

 振り向いたらそんな状態だったので、怒鳴り声を上げるダンタリオン。


「煙草と酒呷って主人(マスター)のマナ無駄遣いするしか能が無いなら、こめかみ撃ち抜いて死んでなさい!」

「ひでえな」


 ケラケラと、ダンタリオンを揶揄うように笑うビリー。


「――おい、ダンタリオン」

「何よ」

「酌しろ――おおおおぉぉぉ!? 待て待て待て! 今のはマジで死ぬぞ!!?」


 お酌を命じた直後、ダンタリオンの射線から咄嗟に身を捩るようにして回避するビリー。

 直後、ビリーの背後の壁に深々と、猛獣の爪で引き裂いたかのような傷跡が刻まれた。

 もう猶予は無いとばかりに、ダンタリオンは無言で殺しに来た。


「戻る気無いなら私の手で送り返してあげる。死ねば戻るしかないからね」

「OK、落ち着け。真面目に探すから、だからその本を下ろせ、な? ……よし、良い子だ」


 ゆっくりと、ダンタリオンに言い聞かせるような喋り方でなだめるビリー。

 これ以上は勘弁とばかりに、ようやく真面目に探し始めた。


 部屋を移動し、次々に家探しを進める。


「――臭ぇな」


 その内の入った部屋の一つで、ビリーが呟く。

 部屋の隅に置いてあった、作業机に目を光らせる。


 机を、蹴り倒した。

 木が悲鳴を上げながら圧し折れ、ビリーによって踏み砕かれた机から、力無く中身が零れ落ちた。


「荒っぽいわねえ……」

「……それっぽいのがあったな」


 そこから出てきた、書類らしきモノの一部を取り出し、提示するビリー。

 それを受け取り、ダンタリオンが紙面に目を滑らせる。


「――これがそうみたいね、良く分かったわねビリー」

「ま、勘みたいなモンさ。用事はこれで済んだだろ? 早くこんな辛気臭い洞窟から出ようぜ、もう飽き飽きだ」

「ならあんただけ向こうに帰ってなさい」

「……何て書いてあったんだ?」

「書いてあるというより、定期券ね。グランエクバーク行のチケットが、未使用で何枚もあるのよ」

「何度も向こうに行く用事がある――そういう事か?」

「そういう事よ」


 つまり、お得意先とやらがグランエクバークに居る……か。


「それだけだと、情報として弱くないか? もう少し何か欲しい所だが」

「なら、これで良いんじゃないか?」


 更に、ビリーがもう一つの物品を提示する。

 封筒だ。

 封蝋は破られており、中に手紙も入っていない。

 ただの、空の封筒だ。

 宛先の類も書かれておらず、情報は無いように思える。


「――こっちの方が余程重要じゃない。こっちを先に出しなさいよこっちを」

「今見付けた所なんだから無茶言うんじゃねえよ」

「その空の封筒がどうかしたのか?」

「コレ、封蝋に紋章が刻印されてる」


 ダンタリオンが開いていた封筒をペタリと閉じると、破れていた封蝋が形を取り戻す。

 注視すると、成程、確かに何かの刻印が施されてる。


「これ、グランエクバークのシャール家の紋章だね。場違い甚だしいわ。大方、コイツがここの依頼主って所でしょうね」

「お貴族様かよ」

「タダの貴族じゃなくて、大貴族様ね。確か王家とも懇意にしているレベルの、超権力者よ」


 口笛を鳴らすビリー。


「そいつぁートンだ大物が出てきたなぁ」

「他には無いの?」

「生憎、それで全部だ」

「本当に?」


 訝しむダンタリオン。

 後出しで超重要証拠を提示したものだから、明らかにビリーを疑っている。


「本当だって、俺を信じろよ」

「頼りない限りね」

「ひでえな」

「でもこれで、この後行かなきゃならない場所は分かったわね」

「行先は、グランエクバークか。なら、そろそろ外で待たせてる人達を送り届けないか? もう必要な情報は揃ったんだろ?」


 本来の目的は、攫われた人達を救い出す事。

 外に出て、陽の光を一身に受ける。


 救出した女性達は、疲弊しており、怪我も所々あり、下着以外の服を身に着けていなかった。

 それ自体には気付いて居たのだが、その時はそれを気にしている余裕は無かった。


「……このまま移動する訳にも行かないか。服がいるな」

「適当なものを見繕ってまいります」


 シュバッ! と迅速に動き出すインペリアルガード。

 行動が早いね。


「それから、ブエル」

「 え る え る っ て 呼 ん で  o(*≧д≦)o」

「……えるえる、そこの女性達の怪我を治してやってくれないか?」

「えー、何でえるえるが女なんか治療しなきゃいけないのさー(・ε・)」

「頼むよ」


 お願いする事しか出来ないけど。


「……んー、そうだなぁ。じゃあ、その内見返り下さいね? 聖女の奇跡はタダじゃないんですよー?」


 と、聖女然とした悪魔がそう言った。


「見返り……俺に出来る事なんてたかが知れてるぞ?」

「またまたー、聖上(マスター)ってば謙虚なんだからー(゜ε゜) 」

「まあ、出来る範囲なら構わないぞ」

「やったー♪ それならえるえる、頑張っちゃうゾ~☆」


 スキップしながら、ブエルは女性達の下に近付き。


「えい」


 治療を終わらせ、消えた。

 簡潔であった。

 御大層な詠唱とか、魔力が渦巻くとか、神々しい光とか、何も無かった。

 気付いたら治ってた、という言葉が実にしっくりきた。

 突然、怪我が治った事に女性達は困惑してる。

 俺も困惑してる。

 何だそれ、そんな雑で良いのか。


「――男物ではありますが、女性でも着られるような服を用意してまいりました」

「あ、ありがとう」

「礼には及びません、御主人様(マスター)


 インペリアルガードは女性達に服を手渡し、それを着るように指示する。

 それに従い、囚われていた女性達はようやく、まともな衣服を着る事が出来た。


 その後、全員で移動を開始する。

 しかし、徒歩ではない。

 俺含む、凡人の移動速度では近くの集落まで数日掛かってしまうだろう。

 なので、飛んで移動した。

 ダンタリオンによる空中往復で、カード達の活動限界距離刻みで、石の水切りが如く移動し、近くの村まで辿り着いた。

 村に到着した所で、女性達に金銭を手渡し、そこで別れる事にした。

 各々の故郷まで帰る為の馬車代と、食費、それに多少の雑費を含めたものをダンタリオンが配分した。

 手渡した金銭は、洞窟に遺されていた襲撃犯達のものである。

 ビリーの奴がどうも、根こそぎ頂いてきたらしい。

 ……悪人に配慮する必要は無いし、そもそも死んでるし、元の持ち主に返そうにもお金に名前が書いてある訳でもなし。

 どうしようも無いので、残ったお金は懐に納める事にした。


「その金で今日はパーッと豪遊しようぜマブダチ(マスター)! 女でも買って、上から下まで夢心地――」


 脱兎の如く逃げ出すビリー。

 雷の刃を飛ばしながら追い掛けるダンタリオン。

 それ以上言わせないとばかりに、鬼気迫るモノがある。



「――ああ、そうか」


 気持ちも落ち着き、戻って来たカード達を思い浮かべ、気付く。


「"悪党"、か」


 悪党と出会い、悪党のカードが戻って来た。

 (ドラゴン)、シャックス、ビリー、モルドレッド。

 言われてみれば、こいつ等は不良だったり、盗賊だったり、アウトローだったり、裏切り者だったり。

 種類は違うが、それでも"悪党"という括りに分類される連中だろう。


「そうか、モルドレッドが戻ってこなかったのはそういう理由だったのか……」


 騎士とは出会ってるにも関わらず、アルトリウス達同様に騎士であるはずのモルドレッドだけ何で戻ってこないのか不思議でしょうがなかったんだが。

 モルドレッドは、騎士であり悪党であるから、片方だけでは"それっぽい"の条件を満たして無かった、という事か。


 複合要素を含んでいるカードは、その全ての条件を満たさない限り、戻ってこない。

 そう考えて良さそうだ。

 恐らくまだ手元に戻ってこないカードは、そういう理由が絡んでいると考えて間違いないだろう。

 ……んー?

 でも俺、悪魔にもエルフにも会った事無いぞ?

 ダンタリオンを始めとするソロモンの悪魔系列のあいつ等、何で戻って来た??

 やっぱり、法則が全然分からん。



 ……取り敢えず、デッキ、組み直そう。

 モルドレッドはインです、当然です。

 危険だけど、強いからね。

 アルトリウスと相性最悪で相性最高なのだ、入れない理由が無い。


 その場で腰を下ろし、カードを取り出してデッキの編纂を始める。

 とうとう反撃で銃を撃ち始めたビリーと、それを防ぐダンタリオンを横目で見ながら、淡々とデッキの修正を行う。


「……銃弾……」


 ふと思い浮かべた、そのカード。

 デッキケースから、一枚が飛び出す。

 無意識に、反射的に、そのカードを取り出し。


「――――来たか」


 ポツリと、呟く。

 そうか、戻って来たか。

 俺の魂のカード(フェイバリット)は、英雄女王 アルトリウスだ。

 それは決して、変わらない。

 一番はアルトリウスだが、それに匹敵するカードという意味であらば、いくつか存在する。

 何度も使い続け、愛着の沸いたカード達。

 その中の、一枚。


 アルトリウスは、"このカード"と組み合わせる事で、敵の弱点をピンポイントで抉る反撃制圧挙動が可能となる。

 そしてこのカードは、アルトリウスに必要な必殺の剣を用意し、手札の回転を促す。

 相性最高の、アルトリウスにとっての相棒と言うべきカード。



 ――銀の銃弾(シルバーバレット)



 必殺のカードが、再び手中へと舞い戻った。



―――――――――――――――――――――――



 ――翌朝。

 再び舞い戻ったカード達と共に、俺達は旅立つ。



 目指すは、機械帝国 グランエクバーク。

 大海原の向こう側、フィルヘイム及びリレイベルと睨み合う形で北方に位置する、世界最大の軍事力を誇る大国。

 そこに、ヘンリエッタという女性が居るはずだ。

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