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46.反撃

「お頭! 敵襲です! ゴブリン達が攻めて来やがった!!」


 俺――アイゼン・ベルグランツはその報告を聞いた時、何の冗談かと思った。

 一度寝たにも関わらず、まだ悪酔いしてるのかと考えた程に。


「ゴブリン、達?」

「そ、そうです! しかも何か、妙に強いんです! 変な武器も持ってやがるし、もう何人もやられました!」


 ゴブリンは、この世界に居る魔物の中でも最弱の部類に入る、言ってしまえば雑魚みたいな相手だ。

 不意でも突かれない限り、成人男性が負ける要素は何処にも無い。

 それをゴブリンも分かってるから、普通は相対すれば逃げていく。


 そんな奴が、攻めてきてる?

 それが本当ならば、明らかに普通じゃない。


「――背後に何か居やがるな」


 壁に立て掛けていた、愛用の獲物である長剣を手に取り、鞘から抜き出す。

 部屋から出ると、アジトの中で戦闘音と怒声が聞こえる。

 成程、襲撃者が来ているのは確かなようだ。


 ゴブリンは、強者を見れば逃げ出す。

 そしてゴブリン基準での強者とは、それなりに肉の付いた成人男性であらば全員該当するような、雑で低い基準だ。

 当然、ここに居る連中は商品(・・)を除いて全員該当しており、間違ってもゴブリンが武器を振り上げるような相手ではない。



 それでも尚、ゴブリンが攻めてくるとすれば――何者かによって指示されている、という線しかない。



 ある程度高位の魔物ともなると、下位の魔物を支配し、下僕のように扱う事もある。

 恐らく、今ここを襲撃しているというゴブリンもその類なのだろう。

 ……変な武器、ってのが気になるが。

 取り敢えず、俺達を拿捕する為に現れた軍隊の線は消えたな。

 逃げるにせよ、撃退するにせよ。


「何にせよ、確認しなきゃ始まらないな」


 夜の報告で上がっていた焚き火とやらは、恐らくゴブリンを従えた上位の魔物が暖を取る為に起こした、といった所か?

 つまり、相手は魔法も使うと見るべきだな。


 喧噪の元に、慎重に近付く。

 やがて、交戦している部下達と、それを食い破ろうとしているゴブリンの姿を確認する。

 成程、確かにゴブリンだ。

 木の枝を尖らせ、槍にした奴。

 木の枝ではなく、質の悪い金属の刃物を持っている奴。

 それと一匹だけ……成程、確かに妙に魔力の篭った短剣を持っている奴が居るな。


「お頭!」

「お前等、そのまま抑えてろ。一匹ずつ確実に始末する」


 剣を構え、身体に魔力を巡らせる。

 身体能力の向上を図り、勢いよく地を蹴る!

 洞窟の壁を蹴りながら、部下の頭上を飛び越える。

 ゴブリンを擦れ違いざま、一閃!


「まず一匹!」


 切った直後、斬り捨てたゴブリンが光の粒子となって消えていった。

 死体が、残らない?

 疑問が浮かぶが、その疑問を考える前に、もう一匹のゴブリンを斬殺する。


「たかがゴブリンに手こずるとはな、弛んでるぞテメェ等!」


 ――妙な短剣を所持したゴブリンが、その短剣を上段に構える。

 それを、鉄板を仕込んだ盾で防ぐ部下。


 防、げない。


 何の冗談だと言いたくなる程、まるで濡れ紙を割くが如く、容易く、音も無く。

 部下の一人が、盾ごと片腕を切り裂かれた。


「チッ!」


 アレは、ヤバい!

 ゴブリン自体は、部下でも対応出来る程度の実力でしかなく、脅威でもなんでもない。

 にも関わらず、部下達が押されている。

 その原因は間違いない、あの短剣だ!

 アレを何とかせねば、無駄に部下が死ぬだけだ!


 狙いを変え、手近のゴブリンではなく、短剣を持ったゴブリンへ向け突進する!

 それに気付き、ゴブリンはその短剣の切っ先を俺へと向ける!


「馬鹿が!」


 所詮はゴブリンか。

 短剣の切れ味は恐ろしいが、動きが余りにもガサツ、稚拙!

 リィンライズ育ちの俺に、そんな愚鈍な横薙ぎが当たるかよ!


空裂閃(くうれつせん)!!」


 短剣が当たるのを待ってやる義理も無い。

 刀身に空気の刃を重ね、切り裂いた箇所をズタズタに引き裂く、魔法剣。

 ゴブリンはその一閃の直撃を胴体に受け、血飛沫と共に両断された。


 手にした短剣が地面に転がり、ゴブリンと共に光の粒子となって消えていく。


「――チッ、あの短剣も魔法で生み出された類か」


 実物で無いのが、少し惜しいな。

 手に入れば高く売れ――いや、あれ程の切れ味ならば、俺の武器として使った方が良いか。

 だが、手に入らなかったのならば所詮、捕らぬ狸の皮算用か。


 短剣を持っていたゴブリンを倒した途端、残りのゴブリン達に動揺が走ったのが目に見えた。

 この襲撃部隊の頭だったのだろう。

 途端に統率が失われ、我先に背を向けて敗走するゴブリン達。


「逃げる気か!」

「カルロ達の仇だ! 一匹残らずぶち殺せ!!」


 部下達が(とき)の声を上げる。

 ……ここは一つ、部下の好感度を上げる為にも乗っておくか。


「身内の仇だ! 俺達を舐めたツケを払わせてやれ! 絶対に逃がすなよ!」


 俺の声を聴いた部下達が、更に士気を高めていく。


 ……まだ外には恐らく、このゴブリン達を指揮しているであろう上位の魔物が居る。

 それは間違いないはずだ。

 だが、たかが魔物。

 他の奴等ならばいざ知らず、この俺であらば魔物如きに遅れは取らん。


 部下の士気は最高潮。

 俺が先頭を走らずとも、危険な一番槍は部下が進んでやってくれるだろう。

 俺は、背後から様子を見させて貰う。


 不意打ちさえ喰らわなければ、俺に負けは無い。

 その不意打ちを喰らう役は、部下にやらせるさ。


 負ける気は無いが――最悪、部下を捨て駒にすれば逃げるのも容易いだろうしな。

 どう転んでも、俺にとって本当の意味での負けはねえよ。



―――――――――――――――――――――――



「……やっぱりな」


 ゴブリンでは勝てない厄介な奴が居るな。

 一切のクールタイム無しで再度召喚出来るから別に数が減るのは問題無いんだが。

 ゴブリン達には、理想は中に居る被害者以外を殺しながら侵攻、次善策として逃げ回りながらでも良いから全ての部屋と通路を探れと指示してある。

 勝てない敵が居た以上、探索重視に切り替わるだろう。

 で、探索しつつ、逃げ惑っている振りをしつつ、人質の居る場所だけは絶対に突き止める!

 威力偵察ってヤツだな。


 特定完了。

 人数は? ……人数が予定より多い? 多分他の場所で、以前から捕まってたんだろう。

 でも、特定漏れは無いんだな?


 後者になるだろうとは予想したけど、案の定。

 やはり伏兵が居たようだ。

 雑魚だけの烏合の衆であらば、ユニオンダガーによるゴリ押しで片が付くと思ったのだが。

 カードゲームと違い、こうして実体化したカード達が戦う際は単純なパワーの比べ合いで勝負が付く訳では無いようだ。

 俺達の世界(エトランゼ)のルールで戦うか、この世界のルールで戦うか、という違いなのだろう。


「――ゴブリン達から、洞窟内の情報を受け取りました。御主人様(マスター)の読み通り、奴等はゴブリンを掃討するべく追撃に出ました」


 インペリアルガードから報告を受ける。

 身内が目の前で殺され食われ、それを成した相手が弱気になって背を向けたらそりゃ逆襲しに来るだろ。

 背後に魔法使いが居るのはバレてるが、これだけ鬱蒼とした木々の中に降りて来れば、常識的な範囲なら攻撃は不可能。

 木が邪魔で射線が確保出来ないからな。

 賊は身内の仇であるゴブリンを血眼になって探すだろう。

 もうカードに戻ってるから居ないけど。



 はい、これでアジトの中はスッキリ。

 でもゼロじゃない。

 これでもぬけの空になりました、なんてなってたらいくらなんでも賊の頭空っぽ過ぎるだろってなるし。


 だが、かなりの数の戦力が洞窟から出払ったのは間違いない。

 ゴブリンからの報告によれば、短剣を装備したゴブリンを討ち取った腕利きも、掃討の為に外に出たらしい。

 これに関しては、ラッキーと言えよう。 

 

 じゃ、ここからは見敵必殺サーチアンドデストロイで。

 悪いが加減して生きたまま捕らえる、なんて事をしてる暇は無い。

 抵抗を許さぬ為に即殺だ。


「――ま、主人(マスター)! 主人(マスター)! ちょっと、ちょっと……!?」


 さて洞窟に向かうか。

 そのタイミングで、ダンタリオンから声が掛かる。

 ……何故か、酷く混乱している。


「何だ、どうしたダンタリオン? もしかして、何かトラブルか?」


 所詮、争いとは無縁の日本育ちな一般人である俺が考えたような作戦だ。

 いくらでも穴があるだろうし、トラブルも起きるだろう。

 それに関しては、場当たり対応するしか無いが――


「ある意味、トラブル……なんか、いっぱい戻って来た。問題児が」

「戻って来た? ……カードがって事か?」


 頷くダンタリオン。

 問題児が戻って来たかー、誰だ一体。

 エトランゼで問題児。

 該当カードが多過ぎてそれだけの情報じゃ何も分からねぇ。


「どっちにしろ、今更動きは変えられない。突っ込むぞ」


 すぐには引き返せない程に、賊を洞窟から引き離せた。

 見付からないようにダンタリオンに抱きかかえられながら、洞窟近辺目掛け、弾丸の如き勢いで突入する!

 こっからは、速度が命だ。

「――成程ね、大体状況は分かった」

「要は全部ぶっ潰せば良いんだろ?」

「ま、そういうこったな」

「違いますので木刀下ろして下さい、そっちも銃抜かないで下さい」

「うふふ……♪ 誰だか知りませんけれど、私と御父様(いとしのひと)との時間を奪うだなんて――見付け次第殺す」

マブダチ(マスター)がここ制圧し次第、残ってるモノを頂くとするか」

「この人達もカード、で良いのか? 誰なのだ?」

「そっちの男達が3バカ、こっちは知らん――ええい付き纏うな! 貴様なんぞ知らん! 私の身も心も旦那様(マスター)だけのモノだ!」

「3バカって、こいつ等と一括りにするんじゃねえよ」

「ア゛ァ゛!? テメェ俺の事舐めてんのか!?」

「何キレてんだよ、島国のサルはカルシウム足りてねえのか?」

「俺が島国のサルならダチ公(マスター)も同じになるじゃねえか、設定上俺とダチ公(マスター)は同じ日本出身だぞ?」

「おっと、コイツは失言だったな」

「これだからメリケンは」

「うるせえぞ中東の土人が」

「ほう、俺様にまで喧嘩売る気か? 喜んで買ってやるぜ? おチビちゃん?」

「鼻の穴増やされたいみたいだな、テメェ……!」

「うるさい奴等戻って来ちゃったな~ ┐(´ー`)┌ヤレヤレ」

「うるさいのはお主も大概じゃろう」

「えるえるうるさくないモン(○`ε´○)」

「お前達……(マスター)も私達も今は交戦中なのだぞ、緊張感は無いのか?」

「無ぇな」

「無い」

「ある訳無いだろ」

「この程度で死ぬような間男(マスター)なら、私の間男(マスター)に相応しく無いですわ」

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