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45.宴

 星々と月が、漆黒の闇の中煌めく。

 聞こえる音は、背後の洞窟から響く遠い喧噪のみ。

 紫煙が宙に舞い、風に流され霧散していく。


「――ったく、俺もあっちで遊びてえよ」


 咥えた煙草を足元に吐き捨て、革靴で踏み潰して火を消す。

 喧噪の元へ視線を向けながら、男は苦々しく表情を歪めた。


「こんな所に人なんざ来る訳無いだろうに」

「しょうがねえだろ、お頭の命令なんだから」

「お頭、警戒心強いからなぁ」


 ネーブル村を襲った賊のアジト、その洞窟入り口で退屈そうに警備に当たる男達。

 数は5人で、有事の際に備えて各々が剣や弓、軽装ではあるが防具で身を固めている。


「ここに来てどん位経ったっけか?」

「んー? 大体、3ヵ月って所じゃねえか?」

「なら、そろそろ河岸変える頃合いだろうな」

「もうか? いくら何でも早過ぎやしねえか?」

「お頭は慎重過ぎる位慎重だからなぁ、国の連中に嗅ぎ付けられる前にトンズラするだろうさ」


 この洞窟がある場所は、リレイベルの領地に属してはいるが、フィルヘイム領とも非常に近い位置に存在している。

 このような場所に、仮にリレイベルの軍勢が来たとすれば、下手すればフィルヘイムとの間に緊張を生みかねない。

 国境付近という非常に火種を生み出しやすい場所に陣取っており、仮に国が未開の地であるこの土地を含め、国土中を探し歩き、結果見付け、フィルヘイムと交渉した上でここまで軍を送る――この一連の流れを行うともなれば、3ヵ月では足りないだろう。

 電撃的速度でそれを達成したとしても、討伐軍を送るとなればそれなりの数に膨れ上がる。

 そうなれば感知も容易く、すぐに尻尾を巻いて逃げ出せるだろう。

 そういった事情を、ここに居付いた賊全員が認知している為、どうしても警備は退屈な空気となってしまう。


 ましてや、中でお楽しみ(・・・・)の最中ともなれば猶更だ。


「――おい、アレを見ろ」


 一人の男が、その余りにも目立つ光景を見て声を上げる。


「焚き火……?」


 光の無い闇夜の森の中、煌々と燃える焚き火の光。

 その目立ち過ぎる光は、昴の指示でインペリアルガードが着火したもの。


「軍の奴等が嗅ぎ付けたのか?」

「中の連中に報告してくる」

「そうしろ。あの場所見て来いカルロ」

「チッ、しょうがねえ……」


 一人は洞窟内の仲間に連絡を行い、カルロと呼ばれた男を含む三人が焚き火の燃えている場所へ向けて出発した。

 そう、確認せざるを得ない。

 後ろ暗い連中は、誰が近くに来たのかを確かめざるを得ない。

 交戦する気は無いだろうが、偵察は必要だ。

 それは、昴の思惑通りの動きであった。



 偵察に向かった三人は、戻らなかった。

 何か異常が発生したという事実だけは明らかになり、洞窟に潜む襲撃犯達の警戒レベルが一気に引き上げられる。

 しかし、追撃が無い。

 ここを狙って来た人物であらば、もう既に潜伏する意味も無く、こちらに存在を察知されている以上、何時までも引き延ばす意味も無い。

 やがて薪が燃え尽きたのか、いつの間にか火も消えていた。

 逃亡か、交戦か。

 どちらにせよ、いざとなれば即座に動き出せるように全員が準備を済ませている。


 戻らない事が分かっても、こんな夜中に大勢は投じられない。

 襲撃犯達にとっては歩き慣れた場所ではあるが、それでも夜の原生林は危険に満ちている。

 故に、日が昇るまで警戒しながら様子見する。



 夜が明ける。



 開けた場所で、何かが動いている。

 双眼鏡を用い、監視の者がそこを確認する。


 ――逆さに吊り上げられた、三人の男。

 衣服は全て剥ぎ取られており、全裸の状態。

 そして、下腹部から胸に掛けて胴体が真っ二つに切り開かれており、そこから臓器が露出し、重力に引かれて垂れ下がっている。


 動いていたモノは、ゴブリンであった。

 男の死体から、腸を引き摺り出し、適度な大きさに切り取って取り分ける。

 まるでこれから、保存食を作るとでも言わんばかりの行動。

 肝臓を取り出し、摘まみ食いとばかりに口にする。

 血抜きの済んでいない臓器から血が溢れ、ゴブリンの口元を赤く染め上げた。


「ぐっ……!? あいつ等……喰われてやがる……ッ!?」


 その三人の男とは、襲撃犯が向かわせた人物であった。

 目撃した監視の人物が、あまりの惨状故に吐き気を催したが、辛うじて耐える。


「ゴブリン風情がァ……!! 弓だ! 弓を持って来い!! 舐めやがって! ぶち殺してやる!!」


 自らの同胞を殺害し、食い散らかす魔物。

 それを目の当たりにし、激怒しない訳が無かった。


 ゴブリン目掛け、降り注ぐ矢の雨。

 いや、矢だけではない。

 氷の槍が、雷の矢が、炎の弾丸が。

 魔法という理を用い、それを操る者達がその殺傷力をゴブリン目掛け、解き放った。

 それらは真っ直ぐに、狙い違わずゴブリンへ――


 直後、強烈な風が吹き抜ける。

 その風は壁となり、ゴブリンに向けて放たれた攻撃を全て押し流し、防ぎ切った。


 ゴブリン達に、被害は無い。

 攻撃の為に姿を現していた賊の集団と、ゴブリン達の視線が交差した。

 ゴブリン達は食事を中断し、横に置いていた武器を手に取り、駆け出す。

 その先は当然、襲撃犯の居る洞窟の方向であった。



―――――――――――――――――――――――



 ――懸念は、杞憂であった。


 焚き火を確認しに来た襲撃犯、その全員を確認。

 数は三人のみ、であらば問題は何も無い。


 同時に、一瞬で喉笛を掻き切り、偵察しに来た襲撃犯を絶命させる。


 ユニオンダガー持ちのインペリアルガード5体、パワー5000に対抗出来る賊がそう何人も居たらこっちが困る。

 もしそんな奴がいたらここの賊は邪神の欠片の2~3体位だったら倒せる事になっちまうぞ。

 そしてそれ程の腕があるなら、多少人格に問題があろうがその腕だけで日の当たる場所で立派な地位で豪遊出来るのだから、こんな所で燻ってる理由が無い。


「仕留めました、御主人様(マスター)

「じゃ、このまま焚き火は放置して火を消そう。それから、準備も進めてくれ」


 ここから先は、良く見えるようになる日の出まで待つ。

 襲撃犯の衣服を剥ぎ取り、逆さに吊るす。

 ……別に辱める目的ではない。

 というか、死体に鞭打つ行為は俺自身が許せない。


「呼応するゴブリン、ゴブリンのゲテモノシェフを召喚」


 インペリアルガードを引っ込め、必要なユニットを召喚する。


 作戦とは、こうだ。

 人質を取られなければ、カード達に負けは無い。

 ならば、人質を使われないようにすれば良い。


 少し前に思い出したのだが、俺は以前ダンタリオンと共にゴブリンと遭遇していた。

 なのでもしかしたらと思い確認した所、案の定ゴブリン系のカードが手元に戻って来ていた。

 今回は、それを使う。


 人質を使わせない、その方法とは――魔物による襲撃だ。


 人質とは、「親族友人同胞を殺すぞ」と脅すから効果があるのだ。

 それらに該当しないモノを利用しても、相手を止めるには至らない。

 この世界の人々にとって、ゴブリンとはただの敵であり、ゴブリンからすれば人間は、食糧の一部でしかない。

 知性も低く、言葉が通じる相手でもない。

 例え賊が「人質を殺すぞ」と言ってもゴブリンには通じないし、そもそも可能なのであらば、賊も人質も全員殺して食糧にしたいのがゴブリン側の本音だろう。

 この構図になった途端、賊の切り札であった筈の人質という存在は、ただの紙切れ、お荷物と成り果てる。


 ま、言うなれば"人外縛り構築"みたいなものか。


 人質を囮にして自分達は逃げる、という使い道があちらには残っているだろうが、その手段を取ってくれるなら万々歳だ。

 無抵抗で人質の解放に成功する訳だ、相手からすれば理想的な人質の使い方かもしれないが、こちらにとっても完璧な終わり方に等しい。

 理想の着地点は、ここ。

 だけどまあ、この結末は理想的過ぎるからそうは行かないだろう。


 それに、まだそこに辿り着く条件も整っていない。



 日の出が訪れる。


 相手側からも、こちらを良く視認できるようになった頃だろう。


「よし、食べて良いぞ」


 俺の指示を受け、ゴブリンのゲテモノシェフが先程殺害した賊の血抜き、解体作業を始める。

 その光景は、凄惨の一言。

 南無南無、合掌して冥福を祈る。


 ……殺した以上、ちゃんと食べて供養するという考え方がある。

 人間の偽善的な考え方かもしれないが、それもまた、弔い方の一つだ。

 別にカード達は食わなくても死なないのだが、食わなくても死なないからって、食ってはいけないという訳でもない。

 点滴打ってれば食わなくても死なないんだから、一生点滴で過ごせ、なんて言った日には大ブーイング必至だろう。

 さりとて人肉嗜食(カニバリズム)に走る訳にも行かないだろうから、食べるのは当然、人間以外の種族だ。

 ゴブリン達に(通訳を介して)聞いてみた所、「折角の機会だし、可能なら一度食べてみたい」と言っていたので、食べて貰う事にした。


 しかし凄まじい光景だ、知ってたけど。

 その光景を見た事で、洞窟の奥から複数人、合計十名程度か? 戦闘要員が顔を出した。

 例え悪党でも、身内が目の前で食われてる所を見たら怒って穴から出てくるよな。

 今喰ってるゴブリン達からすりゃ、ただの弱肉強食なんだが。


 ゴブリン達を狙い、放たれる攻撃。

 矢だけでなく、魔法というこの世界特有の攻撃手段も存在しているようだ。


「ダンタリオン、飛んで来る弓や魔法だけ全部落とせ」

「了解」


 で、遠距離攻撃がゴブリン達に飛んで来るのは予想出来るから、それは全部ダンタリオンに撃墜させる。

 だけど、ダンタリオンが本気出したら実力差が圧倒的過ぎてビビッて引き篭もるのが目に見えてるから、この世界の一般人の常識的な範囲の威力の魔法で撃墜する。

 ただ、精度だけは異常でも構わないが。


 ゴブリン達に攻撃が飛んで来た。

 だから、そこに人が居るのは分かった。

 つまりゴブリン達にとっての"エサ"がそこに居る訳だ。

 当然、ゴブリン達は向かってくる。


「ユニオンダガーを呼応するゴブリンに装備。バトルと行こうか、呼応するゴブリン、ゴブリンのゲテモノシェフで洞窟の賊に攻撃」


 ここで分岐点。

 敵の数が少ないなら、仕留めた上で持ち帰り、同じ場所でゴブリン達の食事にする。

 敵の数が多いなら、ビビッた振りをしつつ脱兎の如く逃げる――と、見せ掛けて威力偵察を行う。


 ……俺の予想だと、後者になりそうな気がするなぁ。

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