43.実験
襲われ、攫われた村人達を助け出す。
そう結論を出した昴とカード達。
昴は何か増えたカードが無いか、確認作業に没頭している。
私情もあるだろうが、必要な事ではある。
カードが増えれば、昴の取りうる手段が増加する。
カードの能力が現実のものとして発現するようになっている状況ならば、猶更だ。
「インペリアルガード、ちょっと」
そんな昴の側で控えていたインペリアルガードを、ダンタリオンが手招きする。
その後、ダンタリオンが姿を消す。
カード達の集う、精神世界へと移動したのだろう。
それを確認したインペリアルガードも、昴の護衛を他のカードに任せ、一度姿を消す。
「何ですかダンタリオン」
「ちょっとお願いがある。主人をこれから、私達が戻って来るまで"絶対に"ネーブル村に入れないで。そして、遠ざけておいて」
「……理由は?」
「まだネーブル村とその周辺に賊の残党が居るかもしれないからそれの捜索と掃討、あと出来れば、そういう理由でネーブル村から更に主人の距離を離しておければベスト……これが、表向きの理由」
「ほう、では裏の理由は?」
「ちょっと"実験"をしておきたい。主人の為に、必要な事だと判断したからね」
「"実験"ですか」
「主人は優しいからね。何をするか、本当の事を話したら絶対にやめろって言うだろうし。だから、これは私が勝手にやる事、そういう事よ」
「……分かりました、ではその理由で御主人様を離しておきましょう。私めは、知らぬ存ぜぬで通させて頂きます。何をするかも、聞かなくて良いのでしょう?」
「助かる。お願いね」
話が済んだので、インペリアルガードは再び昴の下へと戻る。
その後、ダンタリオンは次の相手に話を振る。
「ブエル。ちょっと協力しなさい」
「アア!? ×××も挟めないようなガキがアタシに指図すんじゃねーよ!」
美少女の表情は見る影もない。
修道女姿で口調がまるでヤンキーか何かかとツッコミたくなる、ブエルが姿を現した。
「主人の為に必要な事よ。それと、主人にバレちゃいけない事でもある。貴女の治療の力が必要なの、主人の為と考えられるなら、協力して」
「……何でアタシが」
「前々から考えていた事ではあるんだけど、今まで主人の所に戻って来たカードの中に、治療のスペシャリストが居なかったから二の足を踏んでたのよ。失敗したら、取り返しが付かないからね。でも、ブエルが居るなら取り返しが付くかもしれない。多分、この絶好の機会を逃したら、次はそう簡単には来ないと思う。好機が来たなら、即行動よ」
ダンタリオンは、自分の考えをブエルへと打ち明ける。
これから、共犯者になるのだ。
一から十まで知る権利が、ブエルにはある。
「――と、いう事よ」
「……うわー、引くわー。流石のアタシもそこまで考えた事無いわー。お前悪魔か何かかよ」
「悪魔でエルフよ。というか、貴女も悪魔でしょ」
どちらも種族設定は悪魔なので、ダンタリオンのツッコミはごもっともである。
「ブエルが居るなら、村人を治療してたから時間が掛かったっていう理由付けにもなるからね。だから、言い訳の為に村人も治療して貰うから宜しくね」
「しゃーねーな……」
昴を理由にされては、ブエルとしては従う他無いので、しぶしぶながらも了承する。
「よーし☆ 村人さんの為に、えるえる頑張っちゃうぞーv(>∀<*v)三(v*>∀<)v」
気分を切り替え、テンション上げていくブエル。
ダンタリオンの言う"実験"とやらの為に、ダンタリオンとブエルは実体化し、ネーブル村へと向かうのであった。
―――――――――――――――――――――――
ネーブル村へと到着したダンタリオンとブエルは、村人達と軽く顔合わせを行う。
ガラハッドやジャンヌの仲間だと伝えた事と、ブエルが傷付いた村人達へと治療を行った為、信頼はすぐに勝ち取る事が出来た。
……男にはあのテンションで、女には面倒くさそうに適当に治療していくスタイルに、村人達は表情を引き攣らせたが。
ブエルが治療を行っている最中、村の周囲に賊が潜伏していないかをダンタリオンが確認する。
ボロを出さない為に、この辺りはしっかりと行っておく。
「――教会以外はここしか、無事な建物が無かったので」
「分かった、ありがとうございます」
村の外れ、薪を貯蔵しておく小さな倉庫へと案内され、ダンタリオンとブエルがそこへ足を踏み入れる。
薄暗い室内に、ダンタリオンが魔法で明かりを灯す。
薪が積み上げられた壁面、木片が散乱した床、そして。
中央の柱に縛り上げ、拘束された襲撃犯の姿が確認出来た。
フェンリルやロビンは襲撃犯を殺害したが、マーリンは殺害せず、拘束に留めた。
殺すのであらばすぐに出来るのだから、拘束可能な賊は殺さず拘束し、情報を得るべきだとマーリンは考えたのだ。
実際、マーリンの判断はダンタリオンにとって非常に好都合であった。
「――おいおい、こりゃまた随分色っぽい女じゃねえか」
拘束された賊達は、威勢か、それとも楽天か。
ダンタリオンやブエルに対し軽口を叩いた。
ブエルは天使のような笑顔を浮かべ、ダンタリオンは表情一つ変えない。
「こんな女に尋問されるなら、男冥利――」
『連れ去った村人は何処へ運んだ?』
軽口に付き合わず、言葉を被せるダンタリオン。
同様の質問を、他の全員に行う。
無論、口を割る者は誰も居なかったが、ダンタリオンの前ではそんなものは無意味であった。
『何の目的で村を襲撃した?』
『首謀者は誰?』
ダンタリオンは次々に、襲撃犯へ質問する。
当然、誰も口を開かない。
拷問された訳でもないのに、ペラペラ喋る馬鹿は居なかった。
「……必要な情報は手に入った。じゃ、最後に実験ね」
ダンタリオンは詠唱を済ませ、魔法を発動する。
拘束された男の一人に青白い光が宿り、その後霧散した。
「――ウィンドスラッシュ」
風の刃が迸り、襲撃犯の一人、その地面にだらしなく放り出した両足を両断する!
ギロチンか何かでザックリと切り裂かれたかのような、鋭利な断面。勢い余り宙を舞う両足。
「うがああぁぁぁぁ!!? あ、足が――あ、あれ!? 痛くねぇ……! な、なんで――」
「……うん、どうやらちゃんと効いてるみたいだね。じゃ、ブエル。治療よろしく」
「ぴーりかほにゃららなんちゃらかんちゃら~ヾ(☆゜∀゜★)ノ゛」
両断した両足を固定し、ブエルが治療魔法を行使する。呪文は適当である。
緑黄色の光が傷口に宿ると、先程切り裂かれた男の両足は傷跡一つ残さず、綺麗に固着した。
床に広がった血痕だけが、生々しさを物語るのみである。
「――回復に問題なし、と。じゃあ、この人間が主人と同じ構造であらば、この呪文は主人にも有効って事だね」
ブエルの治療が済んだ後。
ダンタリオンは、再度魔法を行使する。
今度は、違う。
簡素な小屋の中に、断末魔の如き悲鳴が上がる。
同様の"実験"を、他の襲撃犯にも行うダンタリオン。
それは最早、拷問というより処刑であった。
「や、やめろ! やめてくれ!! 話す! 全部話すから!!」
「別に話さなくて良いよ、全部『知ってる』から」
「こんな非道な真似、許されるとでも思ってんのか!?」
「人権を踏み躙った貴方達が、人権を主張するんだね。面白いね」
面白いとは言ったが、ダンタリオンの顔には欠片も笑みが浮かばない。
「それでも人間か!?」
「私? 私、人間じゃないし。人権で守られないけど、人権に縛られる必要も無いからね」
人間ではなく悪魔でエルフである。
「用は済んだから――死人に口無し、って事で」
「言い訳どうするのさ?」
「根城を炙り出す為に敢えて逃がした、追い掛けて根本から断つ――って事で」
「いやだって、死体あるじゃん」
「死体が無いなら問題無いでしょ?」
検証の為、昴の為。
悪人とはいえ命を実験台にするダンタリオン。
――今の彼女は、間違いなく悪魔であった。
昴的に拷問はNG。




