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37.異邦人の妖艶な夜

「がんばれ。がんばれ。大好きですよ旦那様(マスター)××(ズキューン)してる時の男らしい顔本当素敵ですよ」

「唐突な○○(バキューン)ライフはやめてくれ」

「……もうこんな時間か」


 蔵書庫に、俺がイメージしているような日本の現代文明のような照明は存在しない。

 灯りは存在しているのだが、ロウソクの火という原初的な照明で、光源としては実に心許ない。

 なので、例え窓際に居ようとも外の明るさが直に室内の明るさに直結する。

 外が日暮れ時なので、室内も大分暗くなってきた。

 流石に、文字を見る必要があるデッキ編纂はもうお仕舞いだろう。

 ロウソクの灯りでやるのは流石に無理がある。

 今使用しているロウソクは、この蔵書庫に元々あった物だ。

 一度蔵書庫を消して再度出現させれば元通りになるので、一応無限資源ではある。

 しかしあくまでもここは本を収める場所なので、ロウソクの数は必要最小限しかない。

 豪勢に使うのは手間が掛かるので、常識の範囲内で使っている。

 光を発するようなユニットでも居てくれれば良いんだが、生憎俺の手持ちカードの殆どは騎士や動物系だ。

 ダンタリオンなら魔法使いだけあり、簡単な光源を出す事は出来るらしいが、たかが光を出す為だけに3マナを占有するのはどうかと思うので、使用を控えている状態である。


「くっ――ぐぅ~」


 大きく身体を伸ばす。

 同じ姿勢で居たせいで身体がガチガチだ。

 思わず唸り声が漏れる。


「御疲れのようですね、御主人様(マスター)


 カードをデッキケースに片付け、ロウソクに火を灯しているインペリアルガードに視線を移す。


「差し支えなければ、私がマッサージをさせて頂きますが」

「マッサージなんか出来るのか」

御主人様(マスター)にお仕えするメイドたるもの、この程度は出来て当然です」

「あー……じゃあ、お願いして良いか?」

「では、失礼致します」


 ふっ、と柔らかい笑みを浮かべるインペリアルガード。

 俺が座っている椅子の背後に立つと、インペリアルガードは白く細い指をそっと俺の肩へと添える。

 その指が肩から首筋へ、ゆっくりと触診するかのような手付きで移動していく。


「……やはり全体的に凝っていますね、御主人様(マスター)。これではさぞお辛いでしょう」


 トントンと、軽く触れるように指先が動く。

 そこから徐々に、揺する、擦るような手捌きへと変わっていく。

 首筋、肩、肩甲骨周りへと、手が伸びる。


「――胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきんは非常に疲れやすい筋肉ですから、ここもほぐしておきます。筋肉は全体が繋がっていますから、マッサージといっても一か所を揉めばそれで良いという訳では無いのです」

「きょうさ……何だそれは」

胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきんです。首を左右に向けると浮き出てくる筋の事ですね」


 へー、そうなのか。

 インペリアルガードから豆知識を得つつ、されるがままに流される。

 擦るから押すへ、そして押すから揉むへと変化する。


「力任せに揉むと筋肉の筋を痛めますから、具合を見ながら適切な力加減が必要なのです。本当は肌を痛めない為にもアロマオイルやクリームなんかがあれば良かったのですが……申し訳ありませんが、御主人様(マスター)には我慢して頂く他ありません」


 強張った肩の筋肉に血がザッと流れていき、緊張と疲労がほぐされていく。

 なんか、俺が考えていたマッサージと全然違う。

 おばあちゃんへの孝行として子供が肩を叩く、的なイメージでいたが。

 インペリアルガードの手付きは、正にプロ。

 いや、プロのマッサージなんて受けた事無いからただの憶測だけど。

 でも、凄い効いてるというのは実感出来る。


 ロウソクの灯が揺らめく、薄暗い室内。

 炎と一緒に踊る影、古書の香りが鼻を擽る。

 周囲にある音は、時折インペリアルガードが俺の衣服に触れて発せられる衣擦れの音程度。

 静まり返った空間に加え、緊張した筋肉がほぐされていく事で、自然と眠気がやってくる。

 電気の光が存在しない、現代日本とはかけ離れた場所に居る為か。

 夜は眠るという、人間の生活リズムに自然と引き戻されていくような気がする。

 薄闇が尚の事、その傾向を助長する。


「――食事はまだですが、お休みになられますか?」

「ん……いや、食事は取るよ」


 睡魔に負けて、眠りに落ちそうだった意識を何とか揺り戻す。

 食事もしないで寝ると、基本的に小食な俺でも流石に空腹で眠れなさそうだからな。


「かしこまりました。では、食事の用意を致します」


 頭を下げ、インペリアルガードがその場から消える。

 食事の用意と言っても、俺が発動した仮面立食会、その会場から食事を一部持ってくるだけだ。

 周囲に集落も何もない場所なので、遠慮なく発動出来る。


 インペリアルガードが運び込んだ食事を確認し、仮面立食会の発動を終える。

 異世界特有の妙な食材を利用していない、食べ慣れた食事ばかりなので、淡々と食事を終える。

 美味しいとは思うが、感動的な程美味い訳でも無いし、毎日食べてれば有難みも薄れる。

 食べ終えた食器はインペリアルガードが片付けるので、そのままにして寝所へと向かう。


 代り映えのしない、毎日。

 波乱も何もない、平々凡々。

 こうして今日も一日、俺の毎日は過ぎ去っていく。



―――――――――――――――――――――――



 寝所に腰掛け、一息吐く。

 そのタイミングに合わせたかのように、とても良く知る顔が現れる。


旦那様(マスター)


 柔らかい笑みを浮かべる、アルトリウスが出現した。


 今回のアルトリウスは、普段のゴシックドレス調騎士鎧ルックではない。

 長い黒髪を後ろで括って纏めた、シニヨンというヘアースタイル。

 ネイビーカラーのワンピースドレスに加え、剣を交差させた紋様をあしらったリングを通したシルバーネックレスを首元から下げている。

 足元は黒のパンプスに、飾り模様付きの黒のストッキング。

 ファンタジーなファッションである通常時と違い、割と現代日本の社会に放り込んでも然程浮かない、現代的なファッションだ。

 全体的に、黒い装いなのは通常時と変わらないが。

 加えるならば、片手には黒の携帯鞄も持っているのだが、その鞄はさっさと床に投げ捨ててしまった。


 カード達がその姿を出現させる際、所持品や服装はカードイラスト等で設定された通りの状態で出現する。

 また、一部のカードだけではあるが、出現する際に選択肢(・・・)がある事も判明してる。

 アルトリウスは、その選択肢があるタイプのカードであった。


 イラスト違い。

 カードゲームにおいて、時々発生する事象だ。

 カードは無数に存在し、そしてカードゲーマーというのも多数存在する。

 カードゲーマーは各々、その中から自分が気に入った、推し(フェイバリット)カードと呼ばれるカードを自然と見出すものだ。

 中でも、特に大衆から支持された、人気の高いカードはちょっとした贔屓を受ける事もある。

 稀少度(レアリティ)に変更が加わったり、イラスト違いという特別なカードになる事もあるのだ。

 目の前に居るアルトリウスは、そのイラスト違いのカードイラストを基にした服装をしている。

 イラスト違いのカードは生産数が限られていて稀少で、しかも人気が高いが故に、通常イラストのカードとは比べ物にならない程に高騰する事は良くある。

 俺も、このイラストのアルトリウスは36枚までは集めたんだけどそこで断念したんだよなぁ……無念。


 尚、イラスト違いのカードは、ただ単にイラストが違うだけであり、カード効果は何も変更されていない。

 それは実体化出来るようになった現状でも変わっていないらしく、この状態でもアルトリウスは戦闘に支障は無いらしい。

 ファンタジーでこそあるが辛うじて戦闘装束だった通常時ならともかく、その現代でも馴染むファッションでどうやって戦うのだとは思うが、戦えるものは戦えるのだからそういうものだと納得するしかない。

 歌って踊れる聖職者で悪魔なアイドルとかいるのに、この程度気にしても仕方ない。


「あれ? アルトリウス、今は出たら不味いんじゃないか?」


 今現在、ガラハッドとジャンヌが出ている都合上、俺やカード達が自由に出来るマナ限界量は3だ。

 その3マナで衣食住をやりくりしている現状なので、マナコスト5のアルトリウスは出てこれない。

 出ると、ガラハッドとジャンヌが維持出来なくなってしまうからだ。


「今は、現状報告の為に二人には戻ってきて貰っています。なので、今は問題ありません」

「そうなのか」


 アルトリウスは俺の隣に自然な動作で腰掛け。

 一呼吸間を置き、俺の手の甲の上にそっと手を重ね、柔らかい指を俺の指に絡めてくる。

 横を向けば、そこには白磁の如き肌を桃色に染めたアルトリウスの顔が、息が掛かる程の距離にある。


「久し振りに、二人きりですね。旦那様(マスター)


 アップでまとめた黒髪の向こうからチラリと覗く、白いうなじ。

 吸い込まれそうな程に深く、黒い瞳。

 沸き立つ色香が、鼻腔を蝕む。

 ゆっくりと、吐息が掛かる距離から、唇同士が触れ合う程の距離に――


「あっ、ちょっと待って」

「?」

「俺、今日はまだ身体拭いてないし歯も磨いてないんだ。だから、さ」


 ……アルトリウスの笑みが、スッと抜け落ちる。


「問答無用」


 直後、左肩に強い力が加わる!

 寝床の上に転がされ、そのままアルトリウスが上から伸し掛かる。

 唇が重ねられ、下顎をこじ開けるかのように、ぬるりと舌が滑り込んできた。

 貪るかのように、舌と舌が絡み合い、されるがまま――



エルミア「はわわわわわ」

ダンタリオン「ふぎぎぎぎぎ……ッ! おのれ……ッッ!!」(血涙)

ジャンヌ「うわーお……」

インペリアルガード「…………」



チョキチョキ

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