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#1.昴ってどんな人?~With インペリアルガード&リッピ~

#の付く話に関しては余談雑談回のようなものです

読まなくても本編の大筋には関係ありません

第二章……もうちょっと待って……


 ――この空間では、時の流れが外とは違う。


 カードになったという事実を受け入れ、落ち着いた頃にインペリアルガードから聞いた話だ。

 何でも、この空間では常に一定で時間が流れ続ける外の世界と違い、時の流れが任意で可変するらしい。

 試した所、私の感覚では半日程度は過ぎたはずなのに、外に出た時は一時間と経っていなかった。

 この時間の流れは、どうもカード達が各々自由に決められるらしい。

 早くする事も、遅くする事も、自由。

 しかし当然と言えば当然だが、時間の流れが違う状態だと他のカード達とまともにコミュニケーションを行う事が出来ないそうだ。

 10倍の速度で喋られたり、逆に10分の1で喋られても意思疎通がまともに出来る訳が無いのは容易に想像出来る。

 この話を聞いた際に「どの位まで変動幅があるのだ?」と聞いてみた所。


「――遅くするのであらば10万分の1、早くするのは1000倍。そこまでは試したとダンタリオンが言っていましたね」


 と、驚愕の回答が返って来た。

 ダンタリオンからの報告によると、どうもこれよりも更に遅く、更に早くする事も出来るらしいが、これだけ分かれば十分だろうという事と、面倒なので試していないそうだ。

 10万分の1というのは、流石に呆れてしまう。

 ここの空間での感覚で1日経過したつもりでも、外では1秒も経っていないのだ。

 それに、もっと遅く出来るという事はその気になれば、この空間で一週間、一ヶ月、一年分の活動をしておきながら、外では1秒たりとも経過していない、なんて事も可能だという事だ。


 この空間であらば、好きなだけ勉強が出来るな!


 ……と、一瞬だけ考え。

 即座にその考えを放棄した。

 どうも私は机に向かうのは性に合わないようだ。

 ペンを握る位なら、槍を握っていた方が気が楽だ。


 全員が全員こんな状態なので、皆が好き勝手に時間の流れを操作すると会話が覚束無い。

 その為「変動幅は10倍~10分の1まで、それ以上にする時は他の者に伝言する事。特に理由が無ければ外の世界と同じ時間の流れを保つ事」という、カード達の間で取り決められた暗黙の了解があるそうで、私にもそれを伝えられた。

 時間の流れが自由な為、この空間では余暇というのが自由に生み出せる。

 必要無ければ早回し出来るし、必要であらば1日分の休暇を1秒未満で捻出できる。

 そんな空間なので、その気になればカード同士、いくらでも雑談が出来る。

 丸一日雑談に費やして、1秒も経っていないという事すら可能だ。

 私が生きていた頃ならば、さぞ羨ましがっただろう。

 いや、今でも生きてはいるのか。状況が特殊なだけで。


「――スバルとは、一体どのような人物なのだ?」


 前々から気になっていた疑問を、カード達に質問する。

 私は、スバルという人物を自分なりに理解しているつもりだ。

 穏やかで礼儀正しく、優しい物腰の柔らかい人物。

 だがしかし、私が抱いているスバルの人物像と、他のカード達が認識しているスバルの人物像がどうも一致していないように思える。

 問いかけた所、インペリアルガードが口を開く。

 いや、物理的に開いてる訳ではないのだが。

 ここでは口を動かさずとも会話が出来るので、わざわざ口を動かす必要が無い。

 口を動かさずに口を開いた。


御主人様(マスター)がどんな人物か、ですか……そうですね、私が一番驚いた、印象に残っているのは、24時間続けて(カードで)戦い続けていた時ですね」

「に、24時間!?」

「仲間と共に、不眠不休で丸々一日です。眠気で頭が回ってないはずなのに、その動きは淀みも無く的確なものでした。流石に御主人様(マスター)のお仲間は途中で帰られて、別の方が途中でやって来ましたが、御主人様(マスター)自身は一切休息してませんでしたね」


 やっぱり、私とそれ以外で昴に対する認識が違う!

 丸々一日、不眠不休で戦うなんて聞いた事が無い!

 何処の狂戦士(バーサーカー)だ!?


「あれは後半、考えるのではなく反射で動いているレベルだったな。もう動きが身体に染み付いてしまっているから、考えるまでも無く勝手に身体が動いてるのだろう」


 インペリアルガードの発言に頷きつつ、リッピが同意する。


「確かに。リッピの言う通りでしょうね」

「24時間、戦い続ける……」


 そんな事、私には到底不可能だ。

 いや、そもそも出来る方がおかしいのだ。

 普通やろうなんて考えない。発想からしておかしい。


「気が済んだのか睡魔に負けたのか、それが終わったら糸が切れたかのように眠ってしまいましたが……」

「起きたらまた(カードで)戦い始めるのだから、驚きを通り越して呆れすら浮かぶな」


 やれやれ、とばかりに翼を広げるリッピ。

 駄目だ、全然スバルの実像が掴めない。

 普段の物静かな態度と、彼等彼女等が伝える姿の乖離が激しい。

 文官と武官、いやそれ以上か。

 それでいて、夜は――


 ……いかんいかん! 何を考えている!


「それと、もう一つ気になる事があるのだが」

「何でしょうか?」

「貴方がたが、スバルにそこまで信頼を置いているのは何故なのだ?」


 これは、前々から気になっていた。

 スバルに仕える、彼等彼女等の力量は一線を画している。

 特に、ダンタリオンという人物の力は垣間見ただけでも圧倒的だ。

 あらゆる魔法を操り、数多の知識を有し。

 そして何よりも、他者の心や記憶を改ざんするという恐るべき能力。

 ダンタリオンの話では格下にしか通じないという話だが、そもそも彼女の力からすれば、この世界に住まう人々の大半が格下に分類されてしまうだろう。


 対し、スバル本人はハッキリ言って、弱い。

 私の目から見ても、私の力であらば容易く組み伏せられる程度だ。

 いや、私でなくともフィルヘイムの軍に身を置いている者ならば、全員が制せられると断言出来る。


 強者と弱者。

 それ等が手を取り合うというのは無くは無い。

 例えば、元々が兄弟姉妹だったりとか、竹馬の友だったりとか。

 そういった理由で手を結ぶ事は有り得る。

 だが、無くは無いというだけであり、この事例は珍しいといえる。

 人は基本的に、身の丈に合った仲間を作る傾向がある。

 その格差が大きいと、弱者側が萎縮してしまうのだ。必ずという訳ではないが。

 私も、フィルヘイムの王女という肩書きが付いていたが故に、軍に在籍していた時も微妙に遠慮されたり距離を置かれていたという事実を実感している。

 権力というのも、力の一種だ。

 その力の差が開いている為、萎縮してしまっているのだ。


 スバルは、彼自身は弱い。

 だが、スバルの周りに存在するカード達は、その誰もが強者に分類されるような者ばかりだ。

 弱者の周りにこれ程までに強者が集うのは不自然だ。

 だが、これはまだギリギリ理解出来る。


 ――カードが死んでもスバルは死なないが、スバルが死ねばカードも死ぬ、だったか。


 私も含めて、カード達の命はスバルの手中にある。

 言い方は悪いが、私達は全員、スバルに自分の命を握られているのだ。

 力量関係は、スバルの方が上。

 命令を聞かねば、お前達を殺す。

 そうスバルが脅してしまえば、カード達は従わざるを得ない。

 無論、カード達も反逆しようと思えば反逆出来るが、その時は自分の命も潰える時。道連れが精一杯だ。


 だがカード達は、誰もが嫌々ではなく、それ所か望んで忠誠を誓っているようにすら思える。

 ここまで来ると、珍しいではなく不可解だ。

 何故そこまでスバルを信じられるのか。


「――そうですね。簡単に言えば、"御主人様(マスター)は絶対に私達を裏切らない"からです」


 インペリアルガードが、力強く断言した。


「裏切らない?」

「ええ。御主人様(マスター)は、絶対に、私達を裏切りません。私達は確かに強いですが、御主人様(マスター)に裏切られれば、容易くその命を散らすでしょう。私達を背後から撃たない、その信用を置けるのが御主人様(マスター)です。御主人様(マスター)は、絶対に私達を裏切らないと、行動で示してみせました」


 その口調は、まるで動かぬ証拠があるかのようだ。


「何か、裏切らないと確信出来る理由があるのか?」

「……エルミア。人が、大切なモノを切り捨てる時とは一体どのような時か分かるか?」


 リッピが問う。

 大切なモノを、切り捨てる?


「我等カードというのは、(マスター)の世界では財産という例え方もされた。この世界で例えるならば、我等は奴隷という存在が近いな。その財産を、切り捨てる――売るという決断を下す時だ」


 切り捨てる、時……?

 私が言葉に詰まっていると、リッピはその答えを提示する。


「我等という価値が、下がる時だ。損切りという言葉で表せるな。元々は金貨10枚の価値がある存在が、ある事を契機に金貨9枚、金貨8枚と、徐々に徐々に価値を落としていく。今、売って手放してしまえば、金貨2枚の損害で済む。だが、手放さなければ損害が金貨3枚、金貨4枚とどんどん被害が大きくなる。そのような状況になれば、誰もが傷口が浅い内に、少しでも高く売れる内に手放そう。そう考えるのが自然だ。人は誰しも、損を恐れるのだから」


 リッピはそこまで口にし、一呼吸置いた後に続ける。


「だが、(マスター)は我等を見捨てなかった。例え、(マスター)の居た世界では愚かな行為だと言われようと、その価値が消え失せても、我等を手放さなかった。自らの財産を減らす、マイナスの存在と我等は成り果てたというのに。それでも(マスター)は、我等を見捨てなかった。損得よりも、情を取ったのだ」


 情か、金か。

 その選択肢を突き付けられたならば、私は迷わず情を取る。

 だが、それは金という存在に苦しめられた経験の無い、小娘の考えだというのは自覚している。

 金が無いから傷付き、金が無いから餓え、金が無いから命を落とす。

 そんな事例が、この世界にはごまんと存在するのだから。


(マスター)は、最強などではない。(マスター)よりも遥かに腕の立つ、頭の回る人物は、それこそ両手の指で足りない程に存在する。だが、我等を裏切らないという証明をしてみせたのは、(マスター)以外に存在しない。例え自らの財産を減らす、金食い虫であろうとも見捨てない。それを、(マスター)は行動で示した。これが、我等を(マスター)が裏切らない理由だ」


 ――実力ではなく、信頼。

 スバルの従える、カード達は強い。

 邪神の欠片をあそこまで容易く退けられる強者ならば、地位も金も名誉も、望むがままに得られるだろう。

 だが、信頼はそうも行かない。

 信頼は、地道に積み上げる事しか出来ない。

 カード達は、強者だ。寝首をかかれるような事さえ無ければ、カード達は決して負ける事は無いのだろう。

 だからこそ、寝首をかかれる、裏切られる事を恐れる。

 そして、裏切らないと行動で示したスバルという人物の存在は大きい――そういう事、なのだろう。


「信頼されているのだな、スバルは」

「私が仕えるに値する、御主人様(マスター)ですから当然です」

「――何? コソコソと一体何を話してるの?」


 話も一段落、というべきタイミングでダンタリオンが姿を現す。


御主人様(マスター)が、如何に信頼が置ける人物かという事を話していたのです」

「何を今更」

「エルミアが何故我等がここまで(マスター)に忠誠を誓っているか、それを疑問に思っていたようでな。今まで理由を説明していた所だ」

「そういえば、その、アルトリウスとダンタリオンはスバルに対して忠誠とか、そういうレベルじゃないモノを感じるのだが。スバルと過去に一体何があったのだ?」

「!」


 ――あれ?

 何か、急に空気が変わった気がする。


「すまないが急用を思い出した」

御主人様(マスター)の様子を見て来ます」


 リッピがこの場を立ち去り、インペリアルガードが外の世界へと出て行った。


「そう。聞きたいなら聞かせてあげるわ。私と主人(マスター)がどんな風に出会って、互いに愛し合っているかを。そう、アレは丁度雪解けが始まる春の――」



 ――時間を早送りしたい。

 尽きる事無く溢れる言葉の渦に、砂糖の嵐でも来たかのような甘ったるい空気に身と心を切り刻まれていく。

 私はただただ、ダンタリオンのノロケが1秒でも早く終わる事を祈りながら、そんな事を考えるのであった。

「リッピとインペリアルガードが逃げた理由が良く分かりました」

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