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31.“勇者”は俺ではない。俺は――

デュエルスタンバイ!

 デッキをシャッフル、初期手札の7枚をデッキからドロー。

 ……マリガン(引きなおし)は無しだ。この手札で確定する。

 デッキの上から召喚コスト5以下のユニットが出るまでめくる。

 ファーストユニット確定、英雄女王 アルトリウス。このデッキからすれば理想的展開。

 アルトリウス以外の残りはデッキに戻し、再びシャッフル。

 その後、デッキの上から裏側のまま5枚の(シールド)を展開。

 デッキから飛び出した、ファーストドローに手を掛ける。


「俺の先攻だな、ドロー」


1ターン目:


 1ターンの思考時間は180秒ジャスト。

 邪神の欠片のテキストを確認する。



 名称:邪神の欠片(1)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:獣/悪魔

 性別:不明

 パワー:2000

 1:【速攻】【条件】1ターンに1度

【効果】フィールドのユニット1体を選択し、破壊する。


 名称:邪神の欠片(2)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:獣/悪魔

 性別:不明

 パワー:5000

 1:【永続】このユニットは効果では破壊されない。


 名称:邪神の欠片(3)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:獣/悪魔

 性別:不明

 パワー:4000

 1:【永続】このユニットは1ターンに2度まで戦闘では破壊されない。



 効果把握。効果破壊耐性、限定戦闘耐性、速攻除去。

 1体はフィルヘイムの首都を襲った奴と同じだ。

 それ以外は新顔だな。だが、効果とパワーが分かった現状では最早脅威足り得ない。

 しかし邪神の欠片以外にも、フィールドに存在するカードが確認出来る。



 名称:傭兵トークン(1)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:無

 種族:人間

 性別:不明

 パワー:1000


 名称:傭兵トークン(2)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:無

 種族:人間

 性別:不明

 パワー:1000


 名称:騎士トークン

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:無

 種族:人間

 性別:不明

 パワー:1000

 1:【永続】このユニットは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。



 3体分のトークンが、俺のフィールドに最初から存在している。

 これは……そうか。一緒に車両の護衛をしていた人達か。

 トークンは、カードとして扱われないが、カードの効果等で生成される代替ユニットとでも言うべき存在だ。

 それが、開始時点から俺の場に存在する。

 以前、エルミアが俺のフィールドに唐突に現れた時の事を考えれば、俺がカードで戦う際、その近くに居る存在は戦いに巻き込まれるという事か。

 好ましくは、無い。

 この世界の人々は、カードでの戦いとは無関係なのだから。


 だが、これを利用しない手は無い。

 取れる手は全て利用して勝利へ向けて邁進するのが、カードゲーマーとしての相手への礼儀。

 手を抜いて全力を出さないのは、相手への無礼。


「アルトリウスの効果発動。デッキから装備呪文、結束の短剣-ユニオンダガーをアルトリウスに装備」


 この効果は発動条件としてアルトリウスに何も装備呪文が装備されていない事が指定されているが、開始1ターン目であらば当然ながら何も装備されていない。

 そして肝心の効果は、場所を問わず剣カテゴリに分類される装備呪文を、プレイコストを踏み倒して直接アルトリウスへと装備させるという強力な代物。

 しかも、この効果の発動はノーコスト。使わないという選択肢は無い。


剣よ来たれ(コーリングアームズ)!」


 自らの力の行使を宣言し、アルトリウスは自らの振るう剣を呼び出す。

 状況に応じて、最も最適な剣を、自らの手元へ。

 アルトリウスの空手に、一振りの短剣が手中へと舞い込む。

 その柄がアルトリウスの手でしかと握り締められ、銀の刃が強い輝きを放ち始める。



 名称:結束の短剣-ユニオンダガー

 分類:装備呪文

 プレイコスト:○○

 文明:無

 カテゴリ:剣

 マナシンボル:○

 1:【永続】装備ユニットのパワーは、自分フィールドに存在するユニットの数×1000アップする。



 一緒に来た護衛の兵達が、トークン扱いでフィールドに存在している。

 数が3、そしてパワーは一律1000。戦力としてはあてにならない。

 邪神の欠片に攻撃されれば、容易くその命を吹き散らす。


 だが、水増しとしては充分な力を持つ。


「フィールドのユニット合計はアルトリウス含め4体、よって、ユニオンダガーによってアルトリウスのパワーは4000アップする」


 パワー、6000。

 フィールドに3体存在する邪神の欠片、その全てのパワーを上回る。


 ――直後、迸る黒い閃光。

 それは以前見た、エルミアの命を奪った闇の波動。

 俺のターンにも割り込んでくる、速攻分類のカード効果。

 それが真っ直ぐに――アルトリウスへ。


 何だ? 通じないのを知らないのか?

 だが、むざむざ破壊される訳にも行かないから、当然処理させて貰う。


「アルトリウスの効果発動」

「私を"対象"にしたな」


 首都での光景の焼き直し。

 その破壊の衝撃は、ユニオンダガーの短い刀身でいなされ――

 

魔鏡(まきょう)滅流剣(めつりゅうけん)!!」


 鎧袖一触、一閃。

 狙いは邪神の欠片(1)、速攻効果でこちらの妨害をしてくる方だ。

 敵の力を逆利用し、自らの力も上乗せした黒白の波動が唐竹を割るが如く、邪神の欠片1体を容易く葬り去った。


「アルトリウスがカード効果の対象になった事で、俺のデッキの上から10枚を墓地へ送り、その効果を無効。そしてフィールドのカード1枚を破壊する」


 これで1体、始末完了。

 何かしてくるかと思っていたが、単に学習してないだけのようだ。

 だが、油断はしない。破壊されたり墓地に溜まるのが条件となるような隠し玉があるかもしれないからな。


「先攻1ターン目の攻撃は許されていない。マナゾーンにカードを1枚セットし、俺はこれでターンエンドだ」


 攻撃出来るのであらば、このターンで1体葬れるのだが。

 これがエトランゼのルールなのだから、従わねばならない。


 時が、動き出す。

 アルトリウスの放った一撃による風圧で、戦場に舞っていた砂埃の半分以上が吹き飛ばされ、視界の一部が開けた。

 驚愕、動揺、困惑、そんな色の浮かんだ声が耳に届くが、意味は理解しない。する気も無い。

 邪魔をしないのであらば、興味も湧かない。

 今俺が気にする事は、目の前のカード達だけだ。それ以外の全てが瑣末。


 残った邪神の欠片2体が動揺した――ように見えた。

 その巨体故に、仰ぎ見られているのはアルトリウスだというのに、力量関係はアルトリウスの方が圧倒的に上。

 鼻で笑い、邪神の欠片を睥睨(へいげい)するアルトリウス。


 その威圧に気圧されたのか、アルトリウスから逃げるように、邪神の欠片2体は傭兵達に襲い掛かる。

 再び、死の刃が自らへと向けられた事に気付き、絶叫と共に逃走を試みる人々。


 彼等が破壊されるのは、心情的にという意味もあるが、ユニオンダガーの効果という面でも不味い。

 ユニオンダガーは現在、ノーコストでフィールドに飛んできておきながら4000ものパワー強化というとんでもない効果を発揮しているが、それはこの傭兵及び騎士がトークンとして最初からフィールドに存在しているという特殊な状況が生んだもの。

 増強幅は俺の場のユニットの数に左右され、1体減る都度1000のパワーダウンが強いられる。

 故に、トークンが破壊されるとアルトリウスの弱体化に繋がる。

 そして現在、相手の場にはパワー4000とパワー5000の敵が存在している。

 トークンが全滅したら、アルトリウスのパワーは3000まで落ち、パワーで押し負ける。

 現在はアルトリウスに装備呪文が装備されているので、改めて装備呪文をアルトリウスの効果で装備する事も出来ない。


 だから当然、ここは防御だ。


「そんな単調な攻撃は通らない。アルトリウスの効果発動。デッキの上から10枚を墓地へ送り、その攻撃を無効にする」


 ドーム状に展開される、半透明な白銀の膜。

 水泡の如き見た目からは想像出来ない程の強度を有したそれは、邪神の欠片の突進攻撃を真正面から受け止め、膜の表面に波紋を広げつつ、その全てを防ぎ切った。

 突如自らを守るようにして現れた防壁を見上げ、ポカンと口を開けたまま棒立ちになる傭兵達。


英霊の領域(スピリットガーデン)!」


 攻撃に対し、デッキ枚数という回数制限付きの、アルトリウスの効果による絶対防御、英霊の領域(スピリットガーデン)

 2回分、計20枚。

 デッキの上から墓地へ送り、その攻撃を全てアルトリウスが止めてみせた。


「これで、お前の攻撃は終了だ」


 再び世界が、灰色に染まる。

 静寂が支配する、時の凍った世界。

 返しの俺のターン。


2ターン目:


「ドロー。リカバリーステップを経てメインステップへ」


 デッキの残りが少ない。

 アルトリウスの効果で30枚もデッキから墓地へ送った為だ。

 デッキの枚数は60枚で固定であり、たった1ターンでデッキの半分を使い切ってしまったのだ。

 否、ファーストユニットや初期手札、盾も含めればもう3分の1も残っていない。

 マナを要求しないのがアルトリウスの優秀な点だが、デッキを削る速度がえげつないのが欠点とも言える。

 アルトリウスの効果によってデッキをコストに出来るのは、もう1回分しか残っていない。

 ライフや盾が残っていても、デッキからカードをドロー出来なくなった時、プレイヤーは敗北する。

 故にこのセルフデッキ破壊とでも言うべきコストは、通常であらば俺に対し非常に重く圧し掛かってくる。


 デッキからゴッソリ墓地へ送るコストが欠点になるかメリットに転換出来るかは、デッキ構築とプレイヤーの問題なんだがな。

 このデッキは、俺が構築した。アルトリウスの効果を信頼し、その全てを生かし切る為に、今使えるカードの全てを注ぎ込んだ。

 そんな構築で組み上げられたデッキが、このコストをメリットに転換出来ないとでも思ってるのか?


「マナゾーンへカードを1枚セット、そして2枚を疲弊させ虹マナ1と黒マナ1を得る。そして、墓地から霊鳥 リッピの効果発動だ」


 デッキの半分を削り落とした。

 そしてこれだけ墓地へ送れば、当然ながらリッピがその墓地の中に含まれる確率は非常に高い。

 それも、1枚と言わず。



名称:霊鳥 リッピ

分類:ユニット

プレイコスト:緑

文明:緑

性別:男

種族:翼鳥

マナシンボル:虹

パワー:1000

1:【強制】【条件】このカードが破壊された時

【効果】○マナ1を得て、1枚ドローする

2:【起動】【コスト】○○○

【効果】相手フィールドのカード1枚を破壊する

3:【起動】【コスト】墓地のこのユニットを追放する

【効果】○マナ1を得る



 リッピとアルトリウスの相性は非常に良い。

 アルトリウスの効果を発動すれば、デッキで眠っているリッピは簡単に墓地に落ちてくれるからな。

 墓地に落ちれば、リッピの3番目の効果でマナプールを増強出来る。

 効果1もアドバンテージを失わずに戦線を維持するものであり、この優秀な効果のせいで「リッピは死ぬのが仕事」とまで言われる程だ。

 効果2? 知らんなそんなもの。


「俺は墓地から3体のリッピを追放し、無色マナを3得る」


 デッキに入れられる同名カードは4枚まで。

 俺はこのデッキにリッピを4枚フル投入……ガン積みとも言うな、これによりアルトリウスの爆発力を限界まで上げている。

 その内の3枚が落ちたので、落ちとしては良い方だ。残りの1枚はデッキの底に沈んでいるか、もしくは盾の中に紛れているかだろう。


 アルトリウスの効果は、確かに俺のデッキを削り、デッキ切れという敗北を近付ける。

 だがそれと同時に、俺に対して大量の墓地アドバンテージというプレゼントを贈るという意味でもある。

 何も考えず、思考停止でアルトリウスの効果起動トリガーを引き続けると、手痛いしっぺ返しを喰らうぞ。

 このターンみたいにな。それを口にした所で、通じる相手かは知らないが。


「虹マナ1を使用し、俺は手札から幻影家政婦 インペリアルガードを召喚」


 虹マナは、どんな色のマナコストとしても使用する事が出来る最高のマナ。

 なので黒文明で召喚に黒マナを要求するインペリアルガードにも使用する事が出来る。

 但し、虹マナを生成出来るカードをマナゾーンに置く時は疲弊状態で出さねばならないという基本ルールが存在している。

 最初の1ターン目にマナゾーンにカードを置いただけでマナを生成しなかったのは、このルールに基づくモノだ。



 名称:幻影家政婦 インペリアルガード

 分類:ユニット

 プレイコスト:黒

 文明:黒

 性別:女

 種族:人間

 マナシンボル:虹

 パワー:1000

 1:【起動】【コスト】○

 【効果】自分フィールドに家政婦トークン1体を生み出す、そのトークンはこのカードと同じステータスとなる

 2:【速攻】【条件】1ターンに1度

 【効果】自分フィールドのユニット1体を破壊する。その後、フィールドのユニット1枚を疲弊させる

 3:【起動】【コスト】○

 【効果】「幻影家政婦 インペリアルガード」を全て疲弊させる。疲弊させた数と同数の黒マナを得る



「そして無色マナ2を支払い、結束の短剣-ユニオンダガーをインペリアルガードに装備」


 手札から、2枚目。

 初期手札の時点でユニオンダガーとインペリアルガードの組み合わせは引き込んでいた。

 この組み合わせは、今俺の手持ちのカードの中では一番破壊力を生み出せる組み合わせ。ゲーム用語で言う、コンボだ。

 ユニオンダガーは自分のユニットの数だけ装備ユニットのパワーを上げるが、インペリアルガードは自身の効果でユニットの数を水増しする事が可能なのだ。

 自分自身の幻影を生み出し、主へと仕える。幻影家政婦という名は、この効果から由来する。

 そしてこのインペリアルガードの恐ろしい点は……生み出した幻影が、自分と同じステータスを有するという事だ。


「無色マナ1と黒マナ1を支払い、インペリアルガードの効果発動。自分フィールドに家政婦トークンを2体生成する」


 インペリアルガードにマナが注がれ、彼女と瓜二つ、2体のインペリアルガードが生成された。

 当然ながら、その片手にはユニオンダガーが装備されており、先程よりも更に強い輝きを放っている。

 インペリアルガードと同じ種族・文明・名前にパワーを有する。

 それがどれ程恐ろしい事なのかは、目の前の光景が証明している。


旦那様(マスター)、御命令を」

御主人様(マスター)の望むがままに、この剣を振るいましょう」


 (かしず)くアルトリウスとインペリアルガード。

 1ターンに2度まで戦闘では破壊されない、だったか?

 だったら、3回攻撃するだけだ。


「これで、俺の場のユニットの合計は7体になった」


 それはつまり、ユニオンダガーの強化値が7000もの数値に跳ね上がった事を意味する。

 アルトリウスのパワーは9000、最早最上級ユニットのパワーに匹敵する破壊力である。

 更にインペリアルガードのパワーも8000、そしてインペリアルガードの効果で生成されたトークンのステータスは常にインペリアルガード自身を参照し続けるので、この2体のトークンも当然、パワー8000である。


 カードがもっと沢山手元にあってくれれば、更に動く事も出来るんだろうが。

 今の手持ちでは、ここが限界。

 アルトリウスの効果を不用意に起動させるとどうなるか、つまりはこういう事だ。


「バトル。アルトリウス、そしてインペリアルガード3体で邪神の欠片を攻撃」


 バトルの開始を宣言すると同時に、時の流れが動き出した。

 切迫するアルトリウスとインペリアルガードに邪神の欠片は反応を示すが――既に遅い。

 記された効果の通り、1体の邪神の欠片はインペリアルガードの攻撃を2度まで耐えた。

 しかし、そこで終わり。

 倍もあるパワーを有したインペリアルガードの鮮やかな三閃目は、熱したナイフをバターに突き立てるが如く容易く体表を食い破り、勢いのまま両断。

 頭部らしき先端が、黒い血飛沫のようなものを噴出しつつ宙を舞う。

 アルトリウスも同様であり、効果破壊されない? そんなものは知らんとばかりに、真正面から正々堂々、戦闘破壊にて切り捨てる。


 2ターンキル。随分とあっけない幕引きだ。


 戦いと呼ぶには余りにも短過ぎる、ユニオンダガーによる力こそパワーの蹂躙劇によって、3体の邪神の欠片は塵へと帰った。

 まあ、1体はただの自爆で消し飛んだのだが、それが無くても結果は変わらない。

 護衛の兵達や、車両への被害無し。完璧な勝利であった。

 今後どうなるかは置いておいて、少なくとも特に車両や人的被害が無いのだから、この輸送の旅は続くのだろう。

 なので再び車両に乗り込む為に、踵を返す。


 そこには、有り得ないモノを見たと言わんばかりに、開いた口が閉じれずにいたレイモンドの姿があった。


「な、なんだ……? 一体、何が、あったんだ?」


 ポカンとした表情のまま、俺を真っ直ぐに見るレイモンド。

 いや、俺を見ていない。

 良く観察すると、その視線は微妙に右にズレていた。


「ふむ……そうだな。この世界において、お前達が『勇者』と呼ぶ存在……それが、私だ」


 凛とした、清涼感のある声色。

 視線を右へ移す。

 艶やかに光を反射する黒髪は、まるで夜空に煌く星々のようで。

 ゴシックドレスを基調とした鎧姿に身を包み、思わず見惚れる美貌。


 英雄女王 アルトリウス、その勇姿がそこにあった。


 さも当然だと、堂々たる風格を漂わせ、自らを勇者だと断言するアルトリウス。

 彼女は王という設定があるので、自らを勇者だと名乗るその在り様も堂に入っており、様になっていた。

 少なくとも俺みたいなヒョロッとした奴が名乗るより、余程人々の心に自然に刻み込まれるだろう。


「勇者、さま……?」

「ああ、そうだ。どうも今の勇者は男だという誤情報が流れているようだが、見ての通り、今代の勇者は女だ」


 レイモンドの視線が、完全に俺から外れてアルトリウスを注視している。

 ……あれ?

 もしかしてアルトリウス、俺が目立たないように立ち回ってる?


「先程の敵……邪神の欠片だったか? 見ての通り、私の力をもってすれば容易い相手だ。勇者の騙りでない事は、先程の戦いで信じて貰う他無いがな」


 多分、そうだ。

 何だか妙に自分が勇者だと、念を押しているような発言が目立つ。

 そしてさり気無く、俺が勇者じゃないという発言も織り交ぜている。


 俺に対する勇者疑惑は、完全には消えないだろう。

 だが俺が目立つ以上に、カード達が目立ってしまえば。

 そしてカード達がそれを名乗ってしまえば。

 その強烈な閃光で俺の影は薄くなる。

 俺の愛するカード達であらば、勇者なんて肩書き程度、どうとでも成し遂げるだろう。


「そ、そうか……所で、スバルも一緒に居たみたいだが、お前も、勇者様の仲間だったのか?」


 俺は、勇者なんかじゃない。

 さりとて、こんな異常な力が自分に宿ってしまった以上、今まで通りの一市民だと名乗る事も出来ないのだろう。

 ならば俺は一体、何なのか。



 ――何なのか、か。そんなモノ、最初から決まってるじゃないか。考えるまでも無かったな。

 勇者じゃない。英雄でもない。

 あえて名乗るのならば、そう――



「俺は――"異邦人(Etranger)"だ」



カードは絶望的なまでに足りない

でも知識が無くなった訳じゃない

カードゲーマーならばこの位、出来て当然である

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