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242.汗水流して稼ぎました

 四方何処を見渡しても海の水面が広がるばかり、そんな大海原を漂う巨大構造物、メガフロート。

 全長3キロという海上とは思えない広大な敷地の中で、昴とカード達、そして彼等彼女等と縁を結んだ、この世界の人達が肩を寄せ合って暮らしている。

 そんなメガフロートの一室で、普段あまり見ない組み合わせの二人が顔を突き合わせていた。


 一人は名をバーバラと自称している、40代の女性。

 元・グランエクバーク薬学研究所所長という御大層な肩書きを持っているが、今は孤児達の面倒を見ているだけの一人の女性である。


 そしてもう一人は――


「そういう訳で、これなんだけど」

「何がそういう訳で、なのかは知らないけどね」


 72魔将にして七罪(セブンスシンズ)の一角、情欲の化身 アスモデウス。

 この世のあらゆる男を虜にする妖艶な美貌の持ち主で、今はその顔に満面の笑みを浮かべている。

 アスモデウスがバーバラに差し出したのは、小瓶であった。

 中には琥珀色の液体が入っており、この小瓶に入っているのは、情欲の化身 アスモデウスの本体である毒蛇から採取した毒である。

 この毒蛇が分泌する毒。

 毒である事は確かなのだが、分泌する毒がよりにもよって催淫毒なのである。

 精力増大、心拍数増加、体温上昇、興奮状態、知覚過敏になったり――


「この催淫毒、別に直ちに命の危機に繋がるってタイプではないんだけど、それでも毒は毒なのよ」


 症状は色々あるが、でも結局の所は毒である。

 死ぬタイプの毒ではないのだが、健康や寿命に影響が出るのは間違いない。


「効力が弱まっても良いから、人体に及ぼす悪影響を薄める事って出来るかしら?」


 そんなモノを、(マスター)に対して使う訳には行かない。

 使うなら副作用を取り除いておきたいとアスモデウスは考えた。

 要は、催淫毒ではなく媚薬として使いたいのだ。

 だが利用目的があまりにもしょーも無さ過ぎるので、他のカード達からの協力を取り付ける事は出来ず、それでも何とかならないかと考えた結果、今に至る。

 バーバラは元々薬品を製造する事で孤児達を養っていたので、薬学に関しての知識という面では文句無しだろう。


「一体何に使うつもりだい?」

「個人的利用。だから別に数を用意する必要は無いよ」


 そう、個人的()に利用するだけである。

 他に使うのであらば健康に配慮する必要は無いので、この毒を直接相手にぶち込めばそれで済むのだから。


「毒は薬で、薬は毒だ。毒の効果を薄めるって事は薬の効果も薄めるって事だよ」

「そこは承知の上よ」


 副作用を徹底的に取り除く。

 その上で、性的興奮を煽る効能が多少残ってくれればそれで良い、というのがアスモデウスの目論見である。


「……何をするにしても、そもそもこれの成分を分析してからでないとどうにもならんね。材料も機材も足りないし、道具が無い事にはお手上げだよ」

「それなら用意したよ」


 アスモデウスに別室へと引率され、その部屋に踏み入るバーバラ。

 そこに立ち並ぶのは、そんじょそこらの研究所と比較してもなんら見劣りしない、数々の分析・調合機器の数々。


「――冗談だろこんな高級機材まで……これも、勇者様の御力があれば、ってやつかい」

「違う違う、汗水流して働いて稼いだんだよー。気持t大変だったなあー」


 何故か下唇をペロリと舐めながら、思い出すかのように呟くアスモデウス。

 大変だったとは口にしているが、その顔色に苦労の色は全く浮かんでいなかった。


「稼ぐってあんた、これ買い揃えるに一体金貨何千枚必要だと思ってんだい……!?」


 バーバラの言う通り、本格的な研究で使うような設備だ。

 金属売買で定期的に金を入手するルートは確保しているし、共有資金のプールもあるが、研究所で使うようなハイテク設備を買い揃えるような真似が出来る程、潤沢に金貨を抱え込んでいる訳ではない。

 日本円にすれば安くて数百万、下手すれば億に届くような高級機材。

 稼ぐといっても、普通に働いていたら何十年掛かるか……それだけ働いても足りないかもしれない。

 そんな大金、一体どうやって稼いだというのか。


「だから稼いだんだってー。それで、出来るんだよね?」


 この設備を買い揃える為に、アスモデウスは文字通り汗水流して稼いだのである。

 具体的な方法は、言わないが。

 アスモデウスだけでは手が届かない範囲は、同じ72魔将であるダンタリオンと取引し、報酬と引き換えに協力して貰った所はあるが、ほぼほぼアスモデウスの独力である。



 汗水流したというか、汗水含めて色々流したというか。

 本人は楽しんでいただけのようだが。



「確かにこれだけの設備があれば分析は出来る、か。でも、こういうのはアルティミシアの方が得意だったんだけどねえ……」

「アルティミシアって誰?」

「……昔の同僚だよ、今はもう死んでるけどね」

「ふーん」


 聞いてみたはいいものの、アスモデウスの興味が湧かなかったのか、そこから先に踏み込む事は無かった。

 壁に背を預けて、腕組みしながらバーバラの作業をぼんやりと見詰めるアスモデウス。

 組んだ腕が自らの胸を強調するように押し上げているのは、無意識にやっているのだろう。


「……ねえ、もしかして結構時間掛かる?」

「当たり前だろう、日を改めて出直すんだね」

「ちぇー」


 口を尖らせるアスモデウス。

 一体何が入っているのか、未知の物質かもしれない毒の解析である。

 そんな作業が一時間二時間で終わる訳が無い。

 文句を言った所で作業スピードが上がる訳がないのもアスモデウスは理解しているので、大人しく日を改める事にするのであった。

ダンタリオンがした事:娼館の主に対する精神操作、精密機器の運び入れ

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