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24.騙されているんです

 ゴブリンとの戦いを終え、再び消滅するアルトリウスを見送る。

 その際、「旦那様(マスター)は、ダンタリオンに騙されているんです」という言葉を残し、アルトリウスはその場から掻き消すように消えていった。


「なあ、ダンタリオン。さっき、アルトリウスの精神状態が明らかにおかしかったんだが、何かあったのか?」

 

 戦いが終わり、再び出現したダンタリオンに問う。

 尚、ゴブリンとの戦いは特に特筆した物は無い。

 アルトリウスの戦闘能力をもってすれば、正に鎧袖一触の有様であった。

 デッキも調整したし、手札事故も起きていなかったので当然の結末だ。


「――あー……女の子の日だよ、主人(マスター)だって知ってるよね?」

「……本当か? じゃあ、騙されてるって一体何の事だ?」


 いぶかしむ目線をダンタリオンへと向ける。

 何か、そういうレベルじゃなかったぞ。

 居た堪れなくなったのか、俺から視線を逸らす。


「――流石に気付かれるよね」

「何がだ?」

「うん。分かった、素直に白状するよ主人(マスター)


 白状?

 ダンタリオンは何か隠し事をしていたのか? それがアルトリウスが言っていた事か?


「最初に謝るね、主人(マスター)。ごめんなさい。私は主人(マスター)に一部、嘘を吐いていました」

「嘘?」


 深く頭を下げ、謝罪の意を示すダンタリオン。


「私ね、主人(マスター)が好きです。本当に、本当に愛してます。だから、主人(マスター)にとっての一番になりたかった。――それこそ、嘘を吐いて奪い取ってでも」


 奪い取って、の部分でダンタリオンの瞳が妖しく輝いた気がする。


「ねえ、主人(マスター)主人(マスター)は、私の事が好き? 私は嘘吐きだけど、主人(マスター)の事を第一に考えているのは本当です。悪魔みたいな私でも、愛してくれますか?」


 俺の左腕を抱き締め、持ち前の美乳を押し当てつつ、潤んだ目で不安そうに問い掛けてくるダンタリオン。

 悪魔みたいな、っていうか悪魔だよね。

 種族がエルフで悪魔っていうへんてこりんな種族設定がダンタリオンの特徴の一つだし。


「ダンタリオン。お前は、俺にとって大切な存在だ。嘘吐きだとしても、それは変わらない」


 アルトリウス程ではないが、ダンタリオンも結構な頻度で使っていたし、愛着もある。

 それにカードが嘘吐き程度で嫌いになってたら、そもそもエトランゼをやっていられない。

 カードの中には極悪人だったり、国家転覆を狙っていたり、更には世界を滅ぼそうとしている奴だっている。

 お近付きになりたいとは思わないような奴の多い事多い事。でもあるなら使うけど。

 嘘吐き程度、可愛いもんだ。


 ――というか、昨晩あんな事をしておいて。

 やっぱりお前嘘吐きだから嫌いだわバイバイ、ってクソ野郎じゃねえか。


「俺も大好きだよ、ダンタリオン」

主人(マスター)――!」


 ダンタリオンの目が熱を帯びる。

 目を伏せて、徐々にダンタリオンの顔が近付いてくる。

 そのまま自然な流れで、俺とダンタリオンは唇を重ね――


「ちょっと待て。嘘ってどういう事か説明しろ」

「あふん」


 る前にその頬を押し退け、中断する。

 流されそうになったが、そこは聞いて置かなければならない。


 ダンタリオンは観念した様子で、アルトリウスが言っていた騙していた箇所を訂正する。

 何でも、ダンタリオンが言っていたマナというのは、常に俺の身体からダダ漏れ状態で存在しているらしい。

 捻りっ放しの蛇口から出続ける水という名のマナを拝借し、身体を構築する事でダンタリオンやリッピなんかはこの世界に出現していたそうだ。

 そしてそのマナは、俺が死んでさえいなければ常に供給され続けているので、マナが不足するなんて事は発生しないらしい。


「――だから、私達にマナが切れるなんて事は無いです。特に意識してなくても、寝ている状態でも、主人(マスター)からマナは供給され続けます。だから主人(マスター)が生きてさえ居てくれれば、私達がマナが枯渇して困るなんて事は無いんです」


 ダンタリオンは断言する。

 つまり、昨晩マナが切れて辛そうにしていたダンタリオンのあの様子は、ただの演技だったという事になる。

 ――昨晩、ダンタリオンと身体を交えた行為。

 それこそが、マナの供給とか何も関係無い、ダンタリオンの言う嘘であり、アルトリウスの言っていた「騙されている」の意味である。


「案外、バレないものなんですね」


 言われてみれば、何で気付かなかったのだろうか。

 エルミアの死という状況に直面し、情報の濁流に飲み込まれて混乱した状態で、カードを全面的に信頼していたのが原因だろうか?


「アレは、マナ供給と何も関係無かったのか……」

「いやだって、エロゲじゃないんだから。主人(マスター)××(バキューン)を私の××(ズキューン)にぶちまけてマナ補給とかそんな訳無いじゃないですか」

「ちょっとは濁せよ」


 ド直球で伏字不可避の単語を平然と連発するダンタリオン。


「それに、主人(マスター)の世界でも言うじゃん。『取り敢えずナマで』って」

「それ使う所おかしいですよ?」


 意味が思いっきり変わってしまう誤った用例の使い方をするダンタリオン。


「……何で、こんな嘘吐いたんだ?」


 ダンタリオンが意味も無く嘘を吐くようには思えない。

 何か、嘘を吐いた理由があるはずだ。

 無意味な嘘を吐き続けるようなキャラではないはずだ。

 嘘を吐いた理由を問い質すと――ダンタリオンの目元に、溢れんばかりの涙が浮かんでいた。


「だって、主人(マスター)はアルトリウスばかり見続けて。私の事を決して嫁と呼んでくれなかったじゃないですか!」


 声を張り上げた途端、表面張力でギリギリ保っていた水面に波紋を起こしたが如く、ボロボロと涙を零すダンタリオン。

 一度零れたらもう耐えられないとばかりに、ダンタリオンの頬を涙が伝っていった。


「私だって、主人(マスター)に愛されたい! 主人(マスター)に尽くすのは当然として、主人(マスター)からの寵愛を受けたいんです! 主人(マスター)に、『愛してる』って言われたいんです……っ!」


 言われてみれば、俺はダンタリオンに対し何かを言った覚えが無い。

 アルトリウスに対してだけは覚えている。独り言だったり、仲間内で馬鹿騒ぎしている最中に愛してるだとか、俺の嫁だとか、何度も言っていたから記憶にも残っていた。

 今でも俺は断言出来る。アルトリウスは俺の嫁だ。


「だから、私を主人(マスター)の一番にして下さい」

「いや、でも俺の嫁はアルトリウスだから」


 一番好きなカードは何か、と言われれば俺は間違いなくアルトリウスを挙げる。

 それこそが俺にとっての不動の一位であり、差し置いてという考えは欠片も浮かばない。


「――騙されたとは言え、主人(マスター)は私の初めてを奪いましたよね? 何度も何度も貪るように、激しく突き立てて。それに最後の方は主人(マスター)の方から求めて来る程に。今更、アルトリウスに対して操を立てても、もう説得力はありませんよ?」


 妖艶な、だけど悪魔のような笑みを浮かべるダンタリオン。


 ――絶対に逃がさない。


 そんな幻聴が聞こえた気がして、背筋に冷たいものが走った。


「だから主人(マスター)。これからも沢山、私を愛して下さいね? 主人(マスター)の劣情なら、私は喜んで受け止めます。これからもずっと、私を主人(マスター)の側に置いて下さい」


 涙を拭い、頬を赤らめながら念を押すようにダンタリオンは耳元で囁く。

 一線は、越えてしまった。

 だけど、俺にとっての一番はやっぱりアルトリウスな訳で。

 他のエトランゼプレイヤー達ならばダンタリオンにここまで迫られて、首を縦に振らないなんて死すら生温い! って激昂するかもしれないけど。


 やっぱり、俺の嫁はアルトリウスだよ。それだけは変わらない。

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