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22.NTRから始まる宣戦布告

「ほえー!? ほええええー!?!? ふわわわわわ……」


 石畳の上にへたり込み、耳まで顔を真っ赤にし、普段からは考えられない程に素っ頓狂な声を上げ続けているのはエルミアであった。

 鬱屈とした気持ちで頭を抱え続けていたのは一体何だったのかと、先程とは違う意味で混乱していた。

 顔を両手で覆いながら、しかし目元を覆う指だけ微妙に隙間が開いており、そこから僅かに覗く目は真っ直ぐにその光景へと向けられている。


 この闇の中でも、昴の現状がどうなっているのかを確認する事は出来る。

 まるで第三者視点のカメラから映されるように、その光景をカード達は視認が可能なのだ。


 そう、見れてしまうのだ。

 昴とダンタリオンの情事を。

 あられもない姿を晒し、柔肌を汚され、荒い吐息で互いを貪るその様を。


「……意外と初心なのですねエルミアさんは」


 そんな初々しい反応を、冷めた態度で見下ろすインペリアルガード。

 尚、こうして自らの情事をカード達に見られてしまうという事をダンタリオンは承知の上である。

 そして、血涙を流して闇堕ちして世界全てを呪わんばかりに怨嗟の咆哮を挙げるアルトリウス。彼女は元から闇堕ちしているので堕ちるのは今更である。


「ななななな何でそんな平然としていられるんですかぁ!? あんな、あんな……あんなのを目の前で見せられてぇぇ!?」


 エルミアは、箱入り娘として育てられた。

 仮にもフィルヘイム国が誇る王族の血筋なのだ。それは別に不思議ではない。

 しかし軍に所属するという形でその箱を飛び出し、その身を置いても箱入りは改善されなかった。

 何故なら、エルミアの同期や上司や部下、全員がエルミアに遠慮して下世話な下ネタをエルミアの前でするのを自重していたからだ。

 何しろ、相手は王族だ。エルミア自身は普段から気さくに兵達と話す間柄ではあるが、それでも下ネタの話題を振ったらどんな事態になるか分からない。下手すれば、処罰も有り得る。

 そんな遠慮があった為、性的な事柄に対する知識や耐性がからっきしであり、まるで無菌室で育てられたかのような状態で、この年まで来てしまったのだ。

 そしてエルミアに突き付けられる現実。

 キャベツ畑やコウノトリを信じていた無垢な彼女に、無慈悲に叩き付けられた無修正ポルノ。

 イヤイヤと首を振るが、初めて見る衝撃的な光景から目を離せない。

 割と興味津々であった。


「別に今更ですからね。御主人様(マスター)が(自家発電)しているのを何百何千と見続けてきた訳ですし」

「なんぜん!?!?!?」


 目を白黒させるエルミア。

 インペリアルガードが肝心な単語を省略したせいで、今のエルミアの中で昴という存在は絶倫色欲エロ魔神へと変貌を遂げつつあった。

 そして、以前騎士達の間で話していた勇者という存在の逸話? を思い出してしまう。


 ――歴代の勇者達は皆、異性に対しだらしがなかったらしい。


 勇者という強い力は、誘蛾灯の如き引力を持っており。

 そこに引き寄せられた異性は、例外無く勇者の毒牙に掛かり、身も心も虜にされてしまう……らしい。


「うわー……ふあー……大人って、大人って凄い……」


 数時間に渡り繰り広げられる情事を、結局余す事無く、食い入るように見続けたエルミア。

 モジモジと内股を摺るような仕草をしつつ、感嘆の吐息を漏らすのであった。



―――――――――――――――――――――――



 昴とダンタリオンが男女の蜜夜を共にし、昴が疲れで眠りに落ちた後。

 ダンタリオンは昴の護衛をリッピに託し、何も無い暗闇――カード達の集う精神世界へと戻っていた。

 普段、昴の側に居ないカードはこの空間に留まっており。更に言うならば、この空間は昴が地球に居た頃から存在しており、ここでカード達は長い長い時間、雑談や情報交換を行っていた。

 ダンタリオンがこの空間に現れた途端、何も無い闇の中に始めは霞のように、そしてすぐにハッキリとした図書館が現れた。


 図書館に備え付けられた椅子を引き、そこへ腰を下ろすダンタリオン。

 ここはダンタリオンのカードイラストの背後に映っている図書館であり、ここが普段ダンタリオンがその身を置いている空間であった。


「ああ……初めての体験……それも主人(マスター)と……これ、病み付きになるかも……♪」


 内股をすり合わせながら、両腕を交差させ自分を抱き締めて身体をくねらせるダンタリオン。

 普段は感情に乏しく、大して表情を変えないダンタリオンだが、今この時は普段の様子からは信じられない程に、顔を上気させて恍惚に満ちた緩み切った表情を浮かべていた。

 昴と共に、女の階段を駆け抜けたダンタリオンが、思わず砂糖を口から吐き出したくなるような色気を図書館内に蔓延させる。


 だがそこに、色気とは正反対の。

 まるで地獄の底から悪霊の断末魔もかくやという絶叫が轟いた!


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!! ダンタリオンんんんんんんん!! 貴様ああああああああぁぁぁぁぁ!!!」


 ダンタリオンの居る、図書館の空間と隣接した空間からそれは届いた。

 決して届かぬ、火の粉の舞い散る闇の空間から、吠え猛る怨嗟の声と共に放たれた拳!

 それはダンタリオンの居る図書館へと真っ直ぐに伸び――それが届く事は無かった。


「いや、うん。多分激昂するだろうなとは思ってた」


 やってきたそれに視線を向け、スッと目を細めるダンタリオン。

 そんな自らを害し得る、殺意を宿した拳は決してダンタリオンの元へ届く事は無い。

 何故なら、その火の粉舞い散る空間とダンタリオンの空間の間には、まるでそこで断絶したかのような、不可視の壁としか思えない隔たりがあったからだ。


「……残念だけど、この空間では私達は言葉を交わす事は出来ても、干渉する事は出来ない。出来るならそれはそれで良かったんだけど、どうもこっちの世界でもこれは変わらないみたいだね」

「許さん! 絶対に許さんぞこの魔女!! 悪鬼が!! 私が出られない事を良い事にいいいいぃぃ!! 旦那様(マスター)の純潔を……ッッ!! 表に出ろダンタリオン!!」

「出るのは構わないけど、貴女は現実()に出られないよね?」

「くぁあああああぁぁぁぁぁ!!!」


 先程エルミアに対して向けていた怒りとは比べ物にならない程の、我を失う程の殺意。

 拳を振り上げ、血涙を流しながらダンタリオンへ恨みの声を上げていた人物の正体は、アルトリウスであった。

 常人であらばその眼光だけで十人位は呪い殺せるのではないかという、恨みの炎を宿した目でダンタリオンを睨み付ける!

 そんなアルトリウスを椅子に腰掛けたまま、足を組みつつ普段通りの冷めた態度で応対するダンタリオン。

 現在の昴のマナ上限は4。

 ダンタリオン()は出る事は出来るが、どう足掻いてもアルトリウス()は出る事は出来ない。


「魔女だし、悪鬼ってのも否定しないよ。だって私、悪魔だし。こうなるだろうなって分かっててヤったからね」

「殺してやる!! どうせ死なぬのなら何度でも死の苦痛を味わわせてやるうううぅぅ!!!」


 ダンタリオンは、アルトリウスの気持ちを知っていた。

 その気持ちとはつまり、アルトリウスが昴を心の底から愛しているという、その情愛だ。

 それを知った上で、ダンタリオンは昴と、その身体を寝床の上で交え合った。


「アルトリウス。貴女と主人(マスター)の相思相愛は知ってるけど、だけど私だって諦められない。私だって、主人(マスター)を愛している。主人(マスター)の寵愛が欲しい、主人(マスター)と常に隣にありたい。主人(マスター)の、一番になりたい。恨まれるの覚悟でやった。こうでもしないと、きっと二人の関係に私は割り込めない」


 地球に居た頃からの記憶があり、ダンタリオンは聡明故に理解していた。してしまった。

 普通に真っ直ぐ進んでいるだけでは、昴とアルトリウスは普通に相思相愛になり、割って入る隙間が無くなってしまう。

 地球に居た頃の昴という男をダンタリオンは良く知っており、昴は想い人に対する態度は割りと一途なタイプであった。

 それは幾度と無く地球で聞き、決してブレる事の無かった「アルトリウスは俺の嫁」発言が証明している。

 だから、そのままの状態では昴とアルトリウスが結ばれ、それで終わってしまう。

 それを防ぐ為には、昴という男の根本的態度を破壊する必要があった。


 故にダンタリオンは、暴挙に出た。


 奇跡的なタイミング、奇跡的な立ち位置を利用し、邪魔されない事を良い事に昴を誘導し、言い方は悪いが、昴を罠に嵌めた。

 エルミアを結果的に死に追いやったと憔悴した昴が、そこから回復し切る前に揺らし、自分の身体の味を覚えさせた。

 そしてそれを、アルトリウスは見抜いていた。 


「それだけじゃない!! 貴様は、旦那様(マスター)の事情よりも己の私欲を優先させた! しかも、虚実を告げてまでだ!!」


 アルトリウスの言う通り、ダンタリオンは昴の考えや事情を無視し、自分の私欲を重視した。

 それは否定出来ない事実なので、ダンタリオンは素直に受け止め肯定する。


「……確かにそうかもね。でも、これは主人(マスター)の立場を悪くするような事じゃない。なら、きっと主人(マスター)は許してくれる」

旦那様(マスター)の優しさに付け込む気か!」

「そう、主人(マスター)は優しい。そして強くもあるけど、極端に弱くもある。だから隣に立てない貴女の代わりに私が主人(マスター)を守る。主人(マスター)へと降り掛かる火の粉は私が払う。私は絶対に主人(マスター)を傷付けないし裏切らない。これだけは、嘘偽りの無い本音。この意思だけは嘘は無いと誓っても構わない」


 だから5マナは黙ってろ。

 ダンタリオンはそう吐き捨て、アルトリウスは自らの奥歯を噛み砕かん勢いで食い縛った。


「それに、今の主人(マスター)の隣には誰も居ない。かつて居た人々は、皆居なくなってしまった。だから、主人(マスター)の孤独を癒す存在が必要」


 ――カード達は、付喪神として地球で生まれた。

 故に、昴がどういう経緯で今、この場に立っているかも全て知っていた。

 家族との死別という、大きく心を砕いた事故の事も。その後の経緯も。

 カード以外には、もう何も無い。

 倒れればもう立ち上がる気力を持たない、ボロボロの昴を支える存在が必要だと。ダンタリオンは述べ――


「私が、そこに立つ。私が、主人(マスター)の妻になる」

「!?!?」


 ――ダンタリオンは、アルトリウスに対し宣戦布告した。


「それに、主人(マスター)の童貞は私が食ったし、主人(マスター)に初めて処女を捧げたのも私。この事実はアルトリウス、例え貴女だろうがもう変えようが無い事実として主人(マスター)に刻まれた。このまま、私の味を忘れられないように、身体で覚えさせる。私抜きでは生きられない程に溺れさせる」


 勝ち誇った笑みを、アルトリウスへ向ける。

 妖艶な舌使いでチロリと自らの唇を湿らせる。

 溢れ出る色気は、既に一線を越えた女からのみ発せられる物で、目に見えぬ重圧と衝撃をもってアルトリウスを襲う!

 その破壊力はアルトリウスをもってしても防げるものではなく、片膝を付かせるに値するだけの力を持っていた。


「だからアルトリウス。貴女はそこで見守ってて欲しい」


 挑発するように、ニタリと笑みを貼り付けるダンタリオン。

 アルトリウスの心を知った上で、この所業。

 カードで決められた種族設定通り、今の彼女は間違いなく悪魔であった。

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