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20.慰めと慰み

「……ダンタリオン、どうしたんだ?」


 何だか、呼吸が荒い気がする。

 良く見れば白い肌は熟した林檎の如く真っ赤に染まり、しっとりと汗ばんでいるようにも思える。

 あまり感情を顔に出さないダンタリオンが、表情を変える程の痛みや苦しみ、そんな物に耐えているような……


「――主人(マスター)が倒れた後、色々大変だったからね……立ってるのが辛い位、消耗してしまったの。主人(マスター)に説明だけはしないといけないと判断したから、少し……無理し過ぎたかも……」


 さっきまでそんな風には、見えなかったが。

 だが、普段のダンタリオンは表情に乏しいように思える。

 もしかしたら、俺が疲労の色を読み取れなかっただけかもしれない。


「あの戦いの後、終わった直後に私はすぐに自分を実体化させた。でもその後、主人(マスター)からのマナ供給が途絶えた。その状態で主人(マスター)を宿に運んだりしてたから、自分で思ってたより、無理してたみたい……」


 気付いたらこの部屋に居たが、ダンタリオンが運んでくれていたのか。


「だから、そろそろマナが切れそう……主人(マスター)から、マナを貰えないと……このままだと、消滅する」


 ――ダンタリオンが、消える……?

 それは、今までのように勝手に消えるという事か?

 だが、そんな今更な事をわざわざダンタリオンが、こんな辛そうな表情を浮かべながら言うだろうか?

 勝手に出たり消えたりしている事とは別の意味の――消滅……?


 目の前で倒れた、エルミアの姿がフラッシュバックする。

 エルミアは、その魂自体は俺に縛り付けられる形ではあるが残ってはいる。

 だが、ダンタリオンは――魂すら、消滅する……?


 俺の大切なカードに宿った、その魂が、消える。

 その事実をダンタリオンから聞かされた事で、言い表しようの無い程の焦燥感が喉元まで込み上げてくる。


「どうすれば良い? どうすれば、お前が消滅しなくて済むんだ?」


 焦燥に突き動かされ、反射的に言葉が口を突く。

 俺の頭を引き寄せたダンタリオンは、そのまま俺の頬を、白魚のような指で優しく撫でる。


「そんなに、心配しなくても……大丈夫。主人(マスター)のマナさえ、貰えれば……すぐに回復する」


 自分が辛い状況だというのに、俺を案じてその顔に微笑を浮かべるダンタリオン。


「だから、お願い……主人(マスター)のマナを……私に注いで……」

「マナを注ぐ、って言っても、一体何をどうすれば」


 そんなファンタジーな所業、俺に出来るとは到底思えない。

 何故かこの世界ではエトランゼというカードゲームで起こる現象を現実の物として起こす事が出来るが、それもどうしてそんな事を出来ているのか理解出来ていない。

 何か、回復系のカードを使えば良いのだろうか? 確かさっき、デッキを確認している時に回癒光(かいゆこう)が――


主人(マスター)


 そう一言呟き、ダンタリオンが俺の肩を掴む。

 そのまま引き寄せられた結果、ダンタリオンの上に覆い被さるように倒れ込んでしまう。

 火照った吐息が掛かる所か、上気した顔の体温が伝わる程の距離。

 咄嗟に起き上がろうとしたが、掴んでいた肩の手が俺の背へと回され、密着した状態から動けない。

 潤んだ、熱を帯びた瞳が、真っ直ぐに俺の目を見詰めてくる。

 何だ、何だ、この状況。

 心臓の鼓動が嫌に早く感じられる。


 ダンタリオンの顔が、スッと近付く。

 距離を置こうとするが、ダンタリオンが俺の背に手を回していたせいでそれ以上動く事が出来ない。


「ダンタリオ――」


 唇が、重なり合う。

 それ所か口蓋を抉じ開けるようにして、ダンタリオンの舌が、まるで求めてくるかのように俺の口の中へ滑り込んでくる。


「ん――」


 俺の口内を余す所無く貪るように、ダンタリオンの舌が俺の舌へと絡み付いてくる。

 突然の状況に思考が停止し、成されるがままの状態で身体が硬直する。

 ぐわんぐわんと脳を揺さ振られ、口から麻痺毒でも流されたのかと思う程に、時間の感覚が曖昧になる。

 ぷはっ、という吐息と共にダンタリオンが唇を離す。

 俺とダンタリオンの間を繋ぐように、ねっとりと糸を引く銀の雫が、室内の明かりに照らされキラリと光る。


「私からだけじゃなくて、主人(マスター)からもして欲しい……」

「だが、これは……」

主人(マスター)、私は主人(マスター)の事を愛してる。だから私は気にしない。いや寧ろ、して欲しいって思ってる」





 そこから先は、何も覚えていない。

 気付いた時には、既に窓の外から煌く陽光が差し込んでいた。

 右手に何かが絡み付いている事に気付き、視線を向ける。

 そこには所謂、恋人繋ぎをしているダンタリオンの手があった。

 手を繋いだままの状態で、眠ってしまっていたようだ。


「……ん。おはよう、主人(マスター)


 俺のすぐ傍らに身体を横たえたダンタリオンがそう口にした。

 ゆっくりと身体を起こし、俺の耳へと顔を近付け、耳たぶを甘噛みしてくる。

 肩へと顎を乗せる。


「……凄く良かったよ、主人(マスター)


 甘えたような口調で、悪戯っぽい笑みを浮かべてダンタリオンは頬ずりをしてきた。

カットさせて頂きましたよ

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