#7.顔合わせ
シアリーズとバーバラ、孤児院の子供達がメガフロートに来てから数日。
ここで保護するという決断は変わらないが、それは何もしなくて良いという訳ではない。
衣食住の住はあっても、食は自動で出て来る訳ではないので、最低限の自活位はしなければいけない。
食糧を確保する為、農作業、そして漁は彼等彼女等の日課として組み込まれている。
とはいえ、農作業はともかくとして、漁はレーダーによって魚群を探知し、そこに網を投下して自動で巻き上げるだけなので、農作業程の過酷さは無い。
だが、機械の操作方法は覚える必要がある。
「――おや、ここにも子供が居たんだね」
既に漁作業に従事していた、若草色の髪の少女と青髪の少年。
ここを案内された際、見掛けた人物は成人ばかりだったが、子供もいたのかと反応を示すバーバラ。
「ん、ああそういやそうだったな。えーっと、何て名だボウズ」
特に一緒に居る意味も無いが、バーバラ達に付き添っていたシャックスが二人に尋ねる。
「ぼ、僕はユウって言います。こっちは、妹のリンです」
以前、マーリンレナードのベイシェントで起きた騒動。
"暗躍"のミゲールという邪神の欠片を使役する人物によって、滅び去った集落。
そこで唯一生き残っていた住民が、この兄妹であった。
ミゲール自体は昴が撃退を果たしたが、居なくなってしまった住民、崩壊した家屋は元には戻らない。
子供二人があの滅びた地で自活するのは無理だと、エルミアの提案で保護したのだ。
今はこうして、漁作業を中心とした仕事をして生活している。
元々、二人はベイシェントで漁の手伝いや干物を作ったりしていた事もあるらしいので、その経験を生かしている形である。
「折角だから、あんま歳の近い奴が居ねぇし、ついでにこいつ等の面倒も見てやってくれねえか? こんだけ子供居るんだし二人増えても変わらねぇだろ?」
「これからここで世話になるんだし、それ位は構わないよ」
快く了承するバーバラ。
元々孤児院を経営していたので、ユウとリンの二人が増える程度、問題無いのだろう。
「ユウとリン、って名前かい。歳はいくつなんだい?」
「12歳です」
「ほう、じゃあトーマスの1個下じゃないか」
子供ばかりの孤児院の面々だが、その中で最年長の男が、このトーマスであった。
孤児院で日々、非力な子供の代わりに力作業を担当していたので、13歳とはいえ相応に鍛えられている。
漁の手伝いをしていたというユウと比較しても、何ら見劣りしない体格である。
「俺、トーマスって言うんだ! 宜しくなユウ!」
「こ、こちらこそ、宜しく」
グイグイ来るトーマスに気持ち引き気味だが、握手で答えるユウ。
「お前等、ここの機械の使い方分かるんだろ? こいつ等に教えてやってくれ」
「はい、分かりました」
「シャックス、あんたは分からないのかい?」
「興味も無ぇし、なーんも聞いてねえからな、知らねえ」
「つまり、ロクに働いて無いって事かい。ユウとリンは立派にやってるのに、情けない男だよ全く」
「オイオイオイ、働いて無い訳じゃねえっての。邪神の欠片を探してるって前に言っただろうが!」
ニート疑惑を否定するシャックス。
昴によって与えられた仕事があれば、それはキッチリやっているのでニートではない。
本当に何もしていない期間は、そもそも実体化を解除している状態なので、タダ飯食らいをする事すら不可能なのだから。
「ここには居ないんだろう? だったら教わるついでにあんたも働きな」
「何で俺様が……!」
口では文句を言いつつも、網に絡まっていた魚を取り除いたり、子供では運ぶのがキツそうな大物をヒョイヒョイと運ぶシャックス。
生臭かったりヌルヌルする魚に顔をしかめつつも、何だかんだこの空間に馴染んでいる御様子であった。
―――――――――――――――――――――――
「うおお……! 風が凄いのじゃ……!」
赤い髪が強風で凄い事になりつつも、甲板で海風を堪能するシアリーズ。
「飛ばされんなよ、拾うの面倒臭ぇからな」
「流石にこの程度の風で飛ばされる程軽くないのじゃ」
はしゃぐシアリーズを、頬杖付きながら、昇降口にもたれかかってぼんやり眺める龍。
「……つーか、こうやって連れて来たは良いものの、本当にこれで良かったのかねえ?」
籠の中の鳥。
シアリーズは正にそれであった。
大事に育てられ、衣食住には困らない。
少なくとも、貧困やらなんらやの外的要因による病気や死なんかとは、無縁の生活だったのは間違いない。
この世界においてそれは、ある意味最も幸せな環境だったのかもしれない。
だがそれを、龍とシャックスはぶち壊した。
自由を望む少女の為に、安全という籠を破壊した。
「結局このままじゃ、自由とは言い難いんじゃないのか?」
自由に世界を見てみたい。
だがこのメガフロートに居るだけでは、結局館に押し込められているのと何も変わっていない。
「そうか? 割とわらわは楽しいぞ?」
「つっても、見るモンなんか無いだろ」
「そうでもないのじゃ。見ろ、この見渡す限りの大海原! わらわの屋敷に居た頃は見る事なんか出来なかったのじゃ!」
「でも海位あそこからでも見えただろ、港があったんだし」
「このメガフロートという場所は色んなモノがあって新鮮なのじゃ! リレイベルに居た頃は見た事無いモノばかりじゃ!」
龍の考えている事なんて意に介さず、メガフロート内外の散策を存分に堪能するシアリーズ。
ここはマティアス監修の下生み出されたメガフロートという、超技術の塊と言うべき構造体だ。
シアリーズの目には目新しいモノばかりが映るのだろう、退屈はしていなさそうである。
「それに、これは船なのじゃろう? その気になれば、何処にだって行けるのじゃ! 世界中のどんな場所にでも、自由に!」
「行くのはダチ公の許可が要るだろうけどな」
他国の法に縛られないよう、このメガフロートは公海上をランダム航行している。
その為、当然ながら他国の陸地に近付く事も無い。
それがあるとすれば、目的を持って昴の命で近付く時位だ。
だが割と世捨て人のようなスタイルの昴が、そんな命令を出す日が来るのだろうか。
「……あの者が乗っていた空飛ぶ板、借りられんかのぅ?」
「んー? ああ、何かそんなの在ったな。どうだろうな?」
シアリーズを拉致する際、移動手段として使っていたエアフロートボードに興味を示すシアリーズ。
以前、マティアスが何かに使えるんじゃないか、という感じで作って昴に与えたモノである。
何かに使う、なんて軽いノリで作ってる辺り、マティアスにとって大した代物ではないのだろう。
「借りられるか、聞くだけなら聞いてやるよ」
「本当か!?」
「聞くだけだ、駄目なら諦めろよ」
目を輝かせるシアリーズ。
何か出力がおかしいが、マティアス的にアレはただの遊具らしいし、ワンチャン借りられるかもしれないと考えたのだ。
代わりに対価を要求されるようなら、龍は早々に諦めるつもりだ。
そこまでしてやる程のモノではないと考えたからである。
結果。
マティアスが「こんな事もあろうかと!」をする為に実は複数作っていた事が発覚。
しかもIEコアによる時間逆行の対象にも既に指定済みだったらしい。
つまり、勝手に増える!
シアリーズはエアフロートボードを手に入れた!
やったね!
ゲットだぜ!




