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179.その後の顛末-2-

 婚姻の儀の最中、突如教会に乱入した賊。

 シアリーズの奪還と賊の討伐の為、追跡を試みるも、(ドラゴン)と呼ばれていた男によって追跡を阻まれ、シアリーズを見失う。

 交戦していた賊も消えてしまい、連れ去られたシアリーズも行方知れず。

 申し開きのしようが無い程に、完全敗北であった。

 

 ……賊と交戦した際に得た情報は、全て当主様へ報告として上げる。

 以前、街中で戦った(ドラゴン)という男と交戦した際、それを撃退した事。

 そして今回、同じく戦った際は、勝ち目すら見えない程の化け物と化していた事。

 襲撃犯は半裸の男だが、その男も(ドラゴン)と呼ばれた男も、恐らく召喚師(サモナー)が呼び出した者だと推測。

 そして、これらの男の背後に立ち、シアリーズを連れ去った全身を覆い隠した人物――奴こそが、その召喚師(サモナー)

 事実、あの人物は呪文のようなモノを詠唱しながら、"召喚"という単語を用いているのは確認している。


 多方面から入手した、信憑性が高い情報から眉唾物までを含めて推測するに――もしかしたらあの者こそが、今代の"勇者"かもしれない、と。

 これは、タダの勘でしかないが……

 だがもしそうなら、何故勇者がシアリーズを拉致したのか、という動機が見えてこない。

 金か? 否、もし勇者ならば、何処か適当な宮仕えでもすればいくらでも金など入って来るだろう。

 何しろ、勇者というのは歴代の面々、その誰を見ても、規格外の能力を有する者ばかりだ。

 何らかの生産能力を有していたり、突き抜けた戦闘能力を有していたり――どちらにしろ、その能力を金に変換するのは、実に容易いだろう。

 シアリーズに、何らかの価値があった?

 あの娘に何か隠された能力があるとか、そういう話は聞いた事が無い。

 まだ芽生えていない才覚があったとしても、世の中を揺るがす程の代物では無いだろう。

 色恋か?

 ……わざわざ力尽くで攫う程か? いくらでも交渉の余地があるだろう?

 やはり、アレが勇者だと仮定すると動機が一切思い付かない。

 シアリーズを攫う意味が無い。


「――まさか、お前がしくじるとはな」

「申し訳ございません」


 バルフリート邸、その主たるガルディニア・バルフリートの執務室にて、事の顛末を当主に報告する。

 さぞやお怒りだろうと肝を冷やしたが、意外にも反応は淡々としたモノであった。


「仕方ない。捜索は続けるし、手配書も出すが、シアリーズの件から一旦、お前は手を引け」

「しかし当主様――」

「有能なお前をこの一件だけに注力させている余裕は無い、というのだ」


 こちらを流し見し、何らかの書類を手渡して来る当主様。

 恐らく、次に当たる仕事の詳細が記載されているのだろう。

 手を煩わせる訳にもいかないので、即座に受け取り、内容に目を通していく。


「やらねばならん仕事が山積みなのだ、お前には別の任務がある。失態だと感じているなら、そちらで取り戻せ」

「この命に代えてでも、次こそは」

「命を安易に捨てるな、と前々から言っている筈だ。命を捨てた所で銅貨1枚にすらなりはしない」


 ――所詮は、ただの工作員の一人にしか過ぎない私を、当主様はこうして気に掛けてくれている。

 徹底した損得勘定の上での発言かもしれないが、安易に使い潰す運用を由としないのは、人徳もあるのだろう。

 上に立つ者として、冷酷な一面を見せる事もあるが、本当は優しいお方なのだという事は、十分に理解しているつもりだ。

 ……屋敷から出さないという話だった筈なのに、結局街中まではシアリーズの外出を目溢ししてくれる程には、優しいのだ。

 結局、それがシアリーズに伝わる事は無かったようだが。


 身代金を要求してくる、などと言っていたが……結局、そんな要求は何時まで経っても届かない。

 どうやら適当に並べ立てた嘘だったようだ。

 もしそれを要求してくる人物が現れたり、脅迫状でも届いてくれれば、そこからシアリーズまで辿れるかもしれないのに。

 何も手掛かりが無い状態で、雲隠れされてしまっては、流石に探りようが無い。

 砂漠で砂粒を探すような話だ。


 シアリーズの安否だが、これは案外大丈夫なのでは? という、自分でも驚く程に楽観視していた。

 シアリーズと(ドラゴン)という男が、この街中で行動していた際、それを私も観察していた。

 結局、(ドラゴン)はその粗暴な振る舞いからは信じ難い事だが、シアリーズに危害を加える事は一度も無かった。

 シアリーズを拉致した人物と(ドラゴン)は裏で通じていた。

 (ドラゴン)という男が側に居るのであらば、シアリーズに危害が加わる事は恐らく無いのでは、と。

 ただの希望的観測、願望でしかないが。


「――次は、グランエクバークでの任か」


 頭を切り替えて、次の任務へと取り掛かる。

 何時までも過去の失敗に囚われては、ズルズルと失敗を繰り返すだけだ。

 手渡された書類には、架空の戸籍に架空の経歴、偽造された身分証明書が同封されていた。

 今度は、この架空の人物になり切っての任務という事か。



 確か、グランエクバークではお家騒動に勇者が絡んでいた、という話もあったな。

 この任務を終わらせて、時間に余裕があればそちらも探ってみるとしよう。



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