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176.撤退戦-4-

 先程打ち合った限り、大した賊ではないと思っていた。

 何故か死なない、殺した筈なのに再び蘇るという一点を除いては。

 だが、死なないだけならば、こちらに対し手を出す事も出来ない。

 事実、相手の攻撃は全て対処出来ている。

 ならば負けない、負けないならば何時かは勝つ、そう考えた。


 だが、何だこれは。



 連合総長 (ドラゴン):パワー12000→13000→14000→15000→16000

 連合特攻隊長 テツ:パワー6000→7000→8000→9000→10000

 連合構成員 "鉄拳"のカツ:パワー1000→2000→3000→4000→5000



 幾度となく、戦場に身を投じて来た。

 自らそれを名乗る気など毛頭無いが、それでも民衆から向けられる"フィルヘイム最強"という肩書きに恥じぬ程度には、強くなれたという自負はある。

 世界を蝕む人類の脅威、邪神の欠片とて、何度も討伐してきた。

 だがそれでも――ここまでの、怪物が居ただろうか?


「さっきは良くもまあ好き放題ボコってくれたなァ?」


 言動全てが、品の無い、知性の無い、ゴロツキと何も変わらない男。

 先程まで打ち合った様子では、戦闘技術すら大して身に付けていないだろう。

 だというのに……何故だ。

 今のあの男に、勝てる未来が見えない。


「歯ァ食い縛れェェ!」


 目を血走らせ、相も変わらず考え無しの猪突猛進。

 武術という概念が見て取れない、喧嘩殺法。

 だがその一挙手一投足、そこから放たれる全てが、まるで神話の戦いの如き破壊力。

 ただの木刀を振るっているだけなのに、その振り抜いた風圧で砂の山が嵐となって吹き飛ぶ。

 かわしても風に煽られ、体勢が揺らぐ。

 何故、これ程までに強い!?

 そしてこれ程強いなら、何故最初は手を抜いていた!?


 そんな思考の隙間を縫ったのか、それとも単に己が未熟なだけか。

 横薙ぎの一撃が来る。

 避け切れない、防ぐしかない。


 たかが木刀の一撃。

 そして俺が今手にしているのは、かつて古の勇者が振るっていたと言われる王家伝来の剣、ブリッツシュトラール。

 打ち合ったら砕けるのは木刀の方だ。

 だというのに――砕けない、伸し掛かる衝撃。

 受け切れない、踏ん張りが効かない――!

 ならば、せめて踏み止まるのを止め、素直に殴り飛ばされて少しでも衝撃を逃がす!


 振り回される視界。

 何度も砂の上をバウンドしながら、無様に転がっていく。

 額に走る痛み。

 そこから遅れて、目元を伝ってくる血を拭い取る。


 あの男は――本当に、人間なのか――!?


「ハッ! ちったあ男前になったじゃねえか!」



 連合総長 (ドラゴン):パワー16000→32000



ダチ公(マスター)に言われたんだよ、時間稼ぎしろってなァ。こんだけお膳立てされといて、この俺が負ける訳無ぇだろうが!」


 目の前の男から伝わる、威圧感。

 それがどんどん、膨れ上がって来る。

 自らの足が、震えている事に気付く。

 これは、先程のダメージが響いているのか?


 それとも……恐怖しているのか?


 どちらなのか、判断が付かない。

 だがどちらだろうが、今この状況が危険であるという事には変わりが無かった。



―――――――――――――――――――――――



 あの時戦った、(ドラゴン)という男は、そこいらのチンピラに毛が生えた程度の実力しかないと、そう判断した。

 その判断は、間違いで無かった筈だ。

 だが、今目の前に居る男は――違う。

 アレは、何なのだ。

 自分の物差しでは計り切れない、正真正銘、規格外の化け物。


 その化け物の視線が――こちらへと向けられる。


 背に走る、悪寒。

 今――あの男と打ち合ったら、死ぬ。

 理由は、説明出来ない。

 ただの、私の直感でしかない。

 だがこの直感こそが、今日まで私が生き延びた一因に一役買っている事に違いは無かった。

 だから、私は自分の直感を裏切らない。

 奴から逃れるべく、自らの影へと潜伏する。


 この影に身を潜ませる能力こそが、私の持つ能力。

 私と私が持っているモノを、影世界へと持ち込む。

 この影世界に潜っている限り、表世界から物理的な干渉を受ける事はなく、影のある範囲ならば自由に移動し、また別の影から再び表世界に戻る事も出来る。

 影に潜った私に対し、触れられた事など今まで一度も存在しなかった。


 だが、それは最早過去のモノとなった。

 初めて、影世界に潜った私に対して干渉してくる者と遭遇した。

 私以上に念入りにその身を隠蔽するあの人物。

 奴は、一体何者――


「チッ、オイオイガン逃げかよ。前みてえにお得意の毒とやらを使ってみろよ? 出来ねぇのか?」


 ……挑発に乗る気は無い。

 今、あの男と打ち合えば死ぬのは私だ。

 当主様から受けた大恩、返さず死ぬなど以ての外だ。


 どうやら、この影世界に潜伏している限り、あの男は私に干渉する事は出来ないようだ。

 それは幸いだが、同時に私もまた、あの男に対して干渉出来ない。

 毒塗りの刃をあの男に届かせるには、この影世界から出なければならない。

 だが出れば――


「チッ、ちょこまかと逃げ回りやがって……結局、殴れず仕舞いじゃねえか。これじゃ消化不良だぜ」


 手をこまねいて何も出来ない自分に辟易していた所、異変が起きる。

 (ドラゴン)という男、そしてその取り巻きを含めて皆、賊の存在が希薄になっていく。


「だがまあ……格の違いは理解(わか)っただろ? 随分とビビり散らかしてるみてえだしなあ?」


 影に潜む私を見下ろし、侮蔑する(ドラゴン)

 何も言い返せない、手出し出来ない。


「安心しな、ダチ公(マスター)はテメェ等の命まで取る気はねえとよ。だから俺等も、見逃して(・・・・)やるよ。有難く思え?」


 その気になれば、殺せたと。

 念を押すかのような口調。


「んじゃ、アバヨォ!」


 (ドラゴン)達が、光の粒子となって消えた。

 この感じは、見覚えがある。

 召喚師(サモナー)と呼ばれる、魔物や精霊の類を行使する能力者が呼び出した存在が消える、その時の光景にそっくりだ。

 と言う事は、あの正体不明の賊は召喚師(サモナー)という事か。

 意図的に濁声(だみごえ)へと声質を変えていたから聞き取り辛かったが、戦いの最中に召喚、という単語を使っていた。

 恐らく間違い無いだろう。


 念には念を入れ、様子見しながら影世界から帰還する。

 負傷したジークフリート陛下以外に、生命の反応を感じられない。

 ……生き延びた。


 激戦の爪痕が刻まれた不毛の大地に、敗北の事実と生還した安堵で、その膝を折るのであった。



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