175.撤退戦-3-
「バトルだ、連合特攻隊長 テツでジークフリートを攻撃」
「ヒャッハァァァ! そのスカしたツラァぶん殴ってやるぜェェェ!!」
アクセルをふかし、ジークフリート目掛けてバイクで特攻していくテツ。
連合特攻隊長 テツのパワーは1000。
ジークフリートのパワーは、脅威の13000。
勝てません。
でも攻撃しない、という選択肢がそもそも許されていない。
攻撃可能な場合、必ず攻撃しなければならない。
龍以外の連合名称のユニットが共通で有する、デメリットである。
最初のターンは、ルール上攻撃出来なかったからしなかっただけであり、このターンからは常に攻撃を強制される。
ただこいつ等、原則的に攻撃し続ける事が戦線維持に必須だから、コレがデメリットになる事はそこまで多くなかったりする。
「この攻撃宣言時、連合特攻隊長 テツの効果発動。デッキの一番上をめくり――めくったカードは呪文カード、突風だ。無色文明故にデッキの一番下に戻す」
テツの効果は、攻撃する事で発動する手札増強orマナブーストである。
但しめくったカードが赤文明の「連合」名称を持つカードじゃないと、不発になる。
デッキ内を連合名称カードばかりで埋め尽くせば、とんでもない量の手札とマナが増える。
だが、連合名称を持つカードって基本的に脳筋だから、そればっかりでデッキを埋めると、デッキパワーがかえって落ちるというオチである。
どうしても脇を固めるカードの比率は高くなり、それに比例してこのように不発になるパターンが多くなる。
これは要るカードだからな、めくって不発は仕方ない。
「更に連合特攻隊長 テツの効果により、俺の場に居る赤文明ユニットのパワーが1000アップし、このターン破壊されない」
連合総長 龍:パワー1000→2000
連合特攻隊長 テツ:パワー1000→2000
連合構成員 "鉄拳"のカツ:パワー1000→2000
そしてもう一つが、攻撃宣言時の全体バフ。
これにより、連合特攻隊長 テツのパワーは実質2000であるという見方が出来る。
それでも、2000。
ジークフリート目掛けて突撃するテツだが、すり抜けざまに叩き付けた鉄パイプによる一撃は、容易く弾かれた。
パワーが余裕で負けてるから、当然である。
だが、破壊はされない。
「連合構成員 "鉄拳"のカツの効果により、連合特攻隊長 テツの疲弊状態を回復。再度、連合特攻隊長 テツでジークフリートを攻撃」
連合総長 龍:パワー2000→3000
連合特攻隊長 テツ:パワー2000→3000
連合構成員 "鉄拳"のカツ:パワー2000→3000
そして、連合構成員 "鉄拳"のカツの効果は、一度だけ各々の疲弊を回復する効果。
鬨の声を上げ、全体を鼓舞し、追撃を行えるようにする。
巨大なバイクを自分の手足の如く振り回し、ホイールをジークフリート目掛けて叩き付ける!
手にした剣で、容易く受け止めるジークフリート。
これも通じない。
だが関係無い。
「攻撃宣言時、連合特攻隊長 テツの効果を再度適用する。デッキの上をめくり――めくったカードは、連合構成員 "剃刀"のマサだ。これはマナゾーンに置く」
"剃刀"のマサか……悪いが、あいつ等相手だとお前の効果は活かせなさそうだ。
マナブーストに使わせて貰う。
「そして連合構成員 "鉄拳"のカツでジークフリートを攻撃、テツの効果を適用する。めくったカードは、支援砲火だ。よってデッキの一番下に戻る」
その握り締めたメリケンサックを、剛腕と巨体を存分に使って、真上から勢い良く振り下ろす!
乾いた衝撃音が鳴り響き、カツの鉄拳はジークフリートに防がれる。
連合総長 龍:パワー3000→4000
連合特攻隊長 テツ:パワー3000→4000
連合構成員 "鉄拳"のカツ:パワー3000→4000
「"鉄拳"のカツの効果により、自身の疲弊を回復。そして再度、"鉄拳"のカツでジークフリートを攻撃する」
吠え猛りながら放たれる、カツの攻撃。
丸太の如く太い腕から繰り出される拳は、正に一撃必殺。
車ですらその剛腕でボコボコのスクラップに出来てしまうだろう。
その一撃必殺の鉄拳が、何度も何度も、ジークフリート目掛けて叩き付けられる!
連合総長 龍:パワー4000→5000
連合特攻隊長 テツ:パワー4000→5000
連合構成員 "鉄拳"のカツ:パワー4000→5000
既にカツのパワーは、人外の領域にまでパワーアップしている。
だというのに、届かない。
ジークフリートという男、色々とおかしい。
「連合特攻隊長 テツの効果適用、一番上をめくり……めくったカードは、連合総長 龍だ。これは手札に加える」
二枚目の龍を引き当てた。
もし龍がやられた時を考えて、リカバリー用として確保しておく。
「そして――連合総長 龍で、ジークフリートを攻撃、テツの効果も適用する」
「待ってたぜェ! ダチ公!!」
今か今かとばかりに、引き絞った弓の如く、その場から飛び出す龍!
「めくったカードはファイアー・ソウルだ、連合名称を持っていないのでデッキの下に戻る」
それ引きたかったなあー。
流石に欲張り過ぎか。
連合総長 龍:パワー5000→6000
連合特攻隊長 テツ:パワー5000→6000
連合構成員 "鉄拳"のカツ:パワー5000→6000
そして、上昇する打点。
技術も何も無い、木刀によるメッタ打ち。
だが、木刀を振り下ろす度に周囲の砂が余波で吹き飛び、軽い砂嵐の如き様相を呈す。
「――このバトル終了時、連合総長 龍の効果発動」
連合総長 龍:パワー6000→12000
「このユニットのパワーを、倍にする。そしてカツの効果を適用する事で、連合総長 龍の疲弊状態を回復する。俺はこれで、ターンエンドだ」
他の連合ユニットに巻き込まれ、雪だるま式に上昇したパワー。
最後のシメとして、疲弊状態を回復する事で前衛を無視して俺やシアリーズに手出し出来ないようにしておき、龍の効果で更に倍。
それでもまだ、ジークフリートに届かない。
いや、おかしいだろ。
ここまでやって何であの龍がまだパワーで負けてんだよ。
エトランゼ全てのカードプールを見渡しても、ことパワー勝負に限定したなら、龍は上位層の顔触れなんだぞ?
ターンを終了し、再び相手の時間が動き出す。
ジークフリートが手にした剣から、まるでテスラコイルのような紫電の光が弾けた。
その光は徐々に強くなり――臨界点を超えたのか、巨大なレーザーとなり、砂漠を溶解させてしまう程の膨大な熱量を宿しながら、こちらへと伸びる!
その光の先には――連合総長 龍。
龍がヤバいと踏んだか。
実際正解だよ、次のターンでお前を超えるからな。
「赤マナ1を使用し、手札から呪文カード、見間違いを発動」
名称:見間違い
分類:呪文
プレイコスト:○
文明:無
マナシンボル:○
カテゴリ:
1:【速攻】【条件】フィールドのカードを対象に選択する効果が発動した時
【効果】その対象を別の正しい対象に移し替える
「その効果対象を連合構成員 "鉄拳"のカツへと変更する」
レーザーの前に、カツが躍り出た。
光の前で腕を組み、身を挺して龍を庇う!
龍には指一本触れさせぬと、その全身を盾とし、光の奔流へ飲まれて――消えた。
「カツ……!」
「あの野郎、無茶しやがって……!」
効果破壊耐性は無い、散るしかない。
だが、この効果を使うにはジークフリートが疲弊する必要がある。
疲弊した以上、あの連続攻撃をこのターン行う事は不可能だ。
ジークフリートによる光の砲撃とでも言うべき効果破壊が過ぎ去った直後。
間髪入れず、意識の隙間を縫うように強襲してくるニーナ。
「赤マナ1を使用し、手札から呪文カード、トリガーロックを発動」
名称:トリガーロック
分類:呪文
プレイコスト:赤
文明:赤
カテゴリ:
マナシンボル:赤
1:【速攻】【条件】相手のバトルステップ時
【効果】相手フィールドの前衛ユニット1体を選択し、そのユニットを疲弊させ、このターンのエンドステップまで効果を無効にする
「ニーナを疲弊させ、このターンのエンドステップまで効果を無効にする」
お前の攻撃は許さない。
何かに足を絡め取られたかのように、その場で体勢を崩すニーナ。
そこで大人しくしてろ、お前とまともに戦う気は皆無なんだから。
これで、相手の攻撃は終了した。
次は、俺のターンという訳だ。
なので――エアフロートボードを起動する。
頃合いと見た。
「じゃ、少し失礼しますね」
「えっ?」
よいしょ。
シアリーズを背中に背負う。
まだ少女だから、俺でも背負える位の重さしかない。
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ」
身体に伝わる浮遊感。
何時でも飛び立てる状態だ。
「地盤は固めた、お前等後は時間稼ぎ頼んだぞ」
「了解!」
俺のターン中、効果発動条件を満たしていたりしない限り、相手は動けない。
だけど、俺は動けるんだよな。
動けた所で、俺の身体能力で移動出来る距離なんざたかが知れてる訳だが。
エアフロートボードのような移動手段があると、話が変わって来る。
俺の1ターンは3分。
3分間、自由に移動出来る。
無論、思考時間も込みでの時間だが、猛スピードで遮るモノの無い空を飛んでいける。
これは、相当な移動距離を稼げる。
「マナゾーンを疲弊させ赤マナ4を得て、赤マナ3を使用し、手札から呪文カード、太陽の恵みを発動」
名称:太陽の恵み
分類:呪文
プレイコスト:赤赤〇
文明:赤
カテゴリ:
マナシンボル:赤
1:【起動】【効果】デッキから3枚ドローする。その後、このカードをマナゾーンに疲弊状態で置く
「3枚ドローし、このカードをマナゾーンに置く。カードをマナゾーンにセット、追加で疲弊させ赤マナ1を得る」
目減りした手札を補給し、次の防御手段を――っと、これを引いたか。
「再び投入だ、連合構成員 "鉄拳"のカツを召喚」
龍を庇って光の中に消えた、カツを再度フィールドに召喚する。
「そして赤マナ2を支払い、装備呪文、突撃ハチマキを連合総長 龍に装備」
名称:突撃ハチマキ
分類:装備呪文
プレイコスト:赤○
文明:赤
カテゴリ:服飾
マナシンボル:赤
この装備呪文は種族:人間のユニットにのみ装備出来る
1:【永続】【効果】相手はこのカードを装備したユニットしか攻撃・効果の対象に出来ず、装備ユニットは攻撃可能な時、必ず攻撃しなければならない
2:【永続】【効果】このカードを装備したユニットはカード効果では破壊されない
3:【強制】【効果】自分のエンドステップ時に1度
【効果】以下の効果から1つを選択して適用する
・自分は2000ダメージを受ける
・自分は盾ゾーンのカード1枚を墓地へ送る
・このカードを墓地へ送る
さて。
これだけパワーが上昇した龍に、突撃ハチマキを装備した。
「そして――バトルだ」
これでもう、崩れんだろう。




