17.英雄女王 アルトリウス《フェイバリットカード》
その在り方を体言するかのような、凛とした佇まい。
すらりと伸びた背丈は、女性にしてはかなり長身であり、それなりに背は高い昴と比べても一回り小さい程度でしかない。
精巧な彫刻の如き美貌を湛え、傷一つ無い白い肌が太陽の光で照らし出された。
全身を闇で塗り潰したかのような、ゴシックドレス調の鎧甲冑姿で、顔以外の素肌は覆い隠されている。
黒く艶やかな長髪が、風に舞ってはらりと靡く。
伏せていた目が開かれる。優しさと鋭さが同居し、怜悧さを滲ませる黒き眼光が、目の前の邪神の欠片を射抜く!
昴が最も信頼し、最も愛したカード。
英雄女王 アルトリウスが、この異世界という戦場へ舞い降りた瞬間であった。
「英雄女王 アルトリウスの効果、発動……バトル……」
身を貫く痛みと、心が負ったショックによって、うわ言のように呟く昴。
しかし半生もの間続けてきたが故に、魂の奥底にまで刻まれたその思考。
それはアルトリウスに対し、的確な指示を行う。
地に倒れ伏した、昴を見下ろしていたアルトリウスは、大切なモノを愛でるような、慈愛に満ちた優しい眼差しを送る。
「――すぐに終わらせます、旦那様」
そう昴に告げ、射殺さんばかりの視線を目の前の怨敵――邪神の欠片へと向ける!
「――良くも好き放題やってくれたな」
昴を傷付けられた怒りが抑え切れず、アルトリウスは語気を強めていく。
彼女は剣士ではあるが、その手に剣は握られておらず、また自前の剣を所有していない。
剣を持たない剣士とは奇妙ではあるが、剣を持っていないのと剣を使わないというのは別問題である。
「剣よ来たれ!」
吼え猛るような叫びと共に、昴が埋もれた瓦礫の側から何かが飛び出す。
それは、台座から意思を持ったかのように離れ、アルトリウスの手へと滑り込んだ。
王の勅命に従い馳せ参じたかのように現れたそれは、まるで元々の持ち主は彼女だとでも言いたげに、存在感を放つ。
瓦礫となった場所は、昴が叩き付けられた結果崩壊した祠であった。
寂れてはいるが威厳を感じさせる佇まいだった祠は、今は粉々に粉砕されており、威厳ではなく廃墟のような雰囲気を漂わせていた。
中央広場に存在していたその祠は、この国の建国の礎となった剣が祭られていた地。
手にしたその剣は、勇者――そして「英雄」にしか抜けないと言われた代物。
「……鉈代わり程度にはなるか」
そんな剣を手にし、彼女はまるでそこらに転がっていた木の枝でも拾ったかのような、手元に握る頼り無い物を見やり、吐き捨てるようにそう言った。
剣を構え、アルトリウスは邪神の欠片へ向けて一足飛びで踏み込む!
その一歩、一歩が石畳のはずの広間の地面を爆ぜさせる!
普通であらば有り得ぬ光景が、その強い踏み込みの威力を物語っていた。
「投げ掛ける言葉など無い。遺言も知らん。さっさと消えろ、塵芥と化せ!」
昴を傷付けられ、ここまで追い込んだ敵を討ち滅ぼさんと、アルトリウスはその剣を振り被る!
しかし、邪神の欠片がそんな直線的な攻撃を見逃す訳が無く、大地から自らの体躯を隆起させ、叩き潰そうと暴れ始める!
それを難無く横飛び、宙を舞い、時に邪神の欠片も踏み付けながら軌道を変え、柳に風と受け流し、懐目掛け駆け抜ける!
そんな動きを見て、自らを害し得る危険な存在だと感じ取ったのか、滅びの光がアルトリウスへと向けられる!
発射と着弾がほぼ同時の、絶死の光。放たれれば、見て避けるのは不可能。
容易く命を屠る黒の奔流が、アルトリウスを飲み込むべく放たれた!
回避出来るタイミングは既に過ぎている。避けられない。
迫る死の光。
その一撃を、自らが手にする剣で防ぐべく。身構える。
しかし余りにも巨大な攻撃範囲は、アルトリウスの小さな体躯では到底止められるとは思えない。
対峙するアルトリウスは――「それを待っていた」と言わんばかりの獰猛な笑みを浮かべた。
「私を"対象"にしたな」
破壊の衝撃。
それをアルトリウスは、何の苦も感じさせぬ涼しい表情で、手にした剣の刀身にまるで吸い込まれるかのように――受け止めてみせた。
英雄女王 アルトリウスには、自身を対象に指定するカード効果に対し耐性が有る。
邪神の欠片の効果はユニット1体を破壊する効果であり、それはアルトリウスを"対象"に指定する効果である。
よってその効果がアルトリウスに届く事は無く、無効にされる。
「魔鏡――」
しかしそれに留まらず、アルトリウスの持つ剣に黒白の輝きが宿る。
アルトリウスのこの効果には続きがある。
アルトリウスを対象に指定したカードの効果は無効にされるが、更にフィールド上のカード1枚を破壊するという追加効果が存在する。
「――滅流剣!!」
敵の魔力を受け止め、返し、更に自らの力を上乗せして叩き込む。
その美貌、その戦闘能力、全てにおいて昴が最も愛用し信頼を寄せた相棒。
斧を上段から叩き付けるような、力任せに降られたその一閃は、邪神の欠片の放った黒い光と共に、アルトリウス自身の白い輝きを上乗せして放たれた!
アルトリウスのカウンター効果は邪神の欠片へと直撃し、一切の抵抗を許さず、胴体を唐竹割りの如く両断し、消し炭と化す!
断末魔の呻き声すら上げる間も無く、その厄災は灰となって散り、風に流され消えていく――
フィルヘイムに騒乱と災いを呼び込んだ邪神の欠片との戦いは、アルトリウスの一閃によって幕を下ろしたのであった。
名称:英雄女王 アルトリウス
分類:ユニット
プレイコスト:黒○○○○
文明:黒
性別:女
種族:人間
カテゴリ:円卓の騎士
マナシンボル:虹
パワー:2000
1:【速攻】【条件】自身を対象とするカード効果が発動した【コスト】デッキの上から10枚を墓地へ送る
【効果】発動と効果を無効にし、このカード以外のフィールドのカード1枚を破壊する
2:【起動】【条件】自身に装備呪文が装備されていない
【効果】自分のデッキ・手札・墓地・フィールドからカテゴリ:剣の装備呪文を1枚選び、プレイコストを0にしてプレイし、このユニットに装備する
3:【永続】【条件】プレイヤーがダメージを受ける時
【効果】代わりにその数値分まで自身のパワーを下げる事が出来る
4:【速攻】【条件】ユニットの攻撃宣言【コスト】デッキの上から10枚を墓地へ送る
【効果】攻撃を無効にする
Q.何で旦那様と呼んでるの?
A.アルトリウスは俺の嫁、という昴の戯言にアルトリウスが答えちゃった