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172."最強"推参

 何処までも続く、荒野を走る。

 乾いた大地に(わだち)を刻み、誰も居ない、何も無い世界に、排気音(エキゾーストノート)が轟く。

 首都ツェントゥルムの喧噪を振り切り、その姿が後ろへ後ろへと、遠ざかっていく。


 シアリーズの目の前に広がるのは、砂しかない荒野。

 それは、バイクで走って1時間もしない程度の距離でしかない。

 だがそれでも。


「本当に、砂だらけなのじゃ……」


 シアリーズにとっては、初めて見る光景であった。

 本で読んだモノでも、誰かの口から聞いたモノでもない。

 自分の目で見て、自分の肌で感じて。

 本当の"世界"が、そこにあった。


「こんな近くの距離だってのに見た事無ぇのか、箱入り娘かよ」


 然程街からは離れていない。

 だというのに、この光景を見た事が無いという。

 さぞや息が詰まる生活だったのだろうな、というのがシャックスの感想であった。


 そして街からは離れていないという事は、まだ逃げ切ったとは到底言い切れない。

 当然シャックスはまだ、警戒を切っていなかった。


 だからこそ、反応は早かった。


 シャックスが走り抜ける空間、そのすぐ真横を、青白い光が走った。

 直後、地を揺るがす程の凄まじい衝撃が走る!

 砂漠の大地諸共、バイクもシャックスも、何もかもが破壊の余波で吹き飛ばされる!

 バイクからは振り落とされながらも、難無く着地してみせるシャックス。


「オイオイ、随分手荒い歓迎じゃ――」


 大破壊による砂埃が止んだ直後であった。

 足元から、この場に存在しない筈の――人影。

 反射的に、シアリーズを抱えたまま飛び退く!


「賊風情がこれに反応するか――!」


 完全に不意を突いた筈の一閃は、虚空を薙ぐに終わった。

 全身を黒衣に包み、一振りの短剣を携えた――リレイベル"最強"、ニーナはシャックスを睨む。


「生憎、暗殺や裏切りと仲良しこよしな世界で暮らしてたんでねぇ。ましてや逃げ切れてもいねぇのに、警戒を切る訳ねえだろ」


 そしてシャックスもまた、ニーナを注視していた。

 明らかに、そこいらの兵士とは比べ物にならない程の、気迫、殺気。

 更に、シャックスの足元から突然姿を現した、謎の能力。

 自分と同格、もしくはそれ以上。

 シャックスが要警戒対象と見定めるのに十分であった。


 そして何より――ニーナが手にした、禍々しい短剣。


 アレは、ヤバい。

 シャックスの身体が、精神が、その全てが危険だと警告していた。


「……おっと、お仲間まで引き連れてやがったか?」


 軽い口調で、今近付いてくる存在に言及するシャックス。

 おどけてみせたが――その実、今迫っている存在の方が、目の前の相手より脅威だと、既に感じ取っていた。

 その存在が、人間離れした移動速度によって引き起こされた大量の砂を巻き上げつつ、シャックス達の前へと現れる!


「――今のはわざと外した。シアリーズを離して貰おうか」


 服を着替えている暇は無かったのだろう。

 純白のタキシード姿のまま――ジークフリート・フォン・フィルヘイムが、シャックスの眼前へ立ちはだかった。

 その手には、先程手にしていた儀礼剣ではない、青白い光を刀身に宿した、両刃の剣が握られている。

 刃渡りはこの世界で一般的な、1メートル程のロングソード。

 その青白い光は、時折バチリと音を立てて爆ぜており、その正体は電撃であった。

 電気を発する、魔法剣。

 間違いなく何らかの業物だろうと、推測するまでも無く察せられた。


 ニーナより更にヤバい。

 アレは――本当に人間なのか?

 怪物が人間の皮を被っているだけなのでは?

 人外の領域、化生(けしょう)の者。

 明確に自分より、一回りではない、最低でも二回り以上の格上。

 そこまでしか分からない、実力差。

 まともにやり合ったら、死。

 逃げる以外の選択肢は無いと、即座にシャックスは断じた。


「……ん? 君は?」


 ニーナの存在に気付き、目を細めるジークフリート。

 その警戒している素振りを察したのか、ニーナは口を開く。


「ジークフリート陛下、共闘と行きましょう。私の目的は、シアリーズの奪還。目的は共通している筈です」

「……嘘は、言っていないと信じたいな」

「信じられないのであらば、戦っている最中に賊諸共、斬り伏せても構いません」

「いや、信じるとしよう。疑っていても仕方ない」


 ニーナからの申し出を受けるジークフリート。

 その視線は、シャックスへと向けられた。


 リレイベル"最強"、ニーナ。

 フィルヘイム"最強"、ジークフリート。


 六大国家が誇る世界最強、その二人が、タッグを組んでシャックスの前に立ちはだかる!

 舌打ちするシャックス。

 逃げる為の(バイク)は、どこかの砂の山に埋もれてしまったようで、もう使えない。

 倒して逃げるという選択肢など、論外。


「……予定が狂っちまったが、しょうがねえ。お前等、下手な動きはするんじゃねえぞ? お前等の剣が俺に届く前に、この小娘の首を圧し折る位なら出来るんだからなァ?」


 口元を禍々しく歪めながら、片手でシアリーズの首を掴むシャックス。


「たんまりと身代金をせしめてやる予定だったが、ここで死ぬ訳には行かねえからな。おいお前等、この娘の命が惜しかったらとっとと武器を捨てやがれ」


 当然だが、シャックスにその気は無い。

 シアリーズを連れ出す。

 それが、(ドラゴン)との約束。

 ここで捕まれば、それを果たす事が出来ないし、シアリーズを殺すなど猶更無しだ。

 だが、それは相手視点では分からない。

 貴人を拉致して、身代金を要求する。

 そして、追い詰められれば人質を盾にして逃げようとする。

 賊としての振る舞いで、一番それっぽい行動がこれだったから、適当な嘘を並べただけである。

 シャックスは、目的を達成する為ならば手段は選ばない。

 極悪非道と呼ばれようが、必要ならやる。

 何故ならば、悪党だから!


「――私が隙を作る、陛下は賊を斬り伏せるか、シアリーズを賊から遠ざけて欲しい」

「分かった、やってみよう」


 小声で、短くやりとりを済ませるニーナとジークフリート。

 具体的な作戦やら何やら、そこまでは話さない。

 シャックスに聞かれて対処されるというのもあるかもしれないが……悪く言えば、行き当たりばったりの行動。

 だが、ニーナとジークフリートは、それで状況を打破出来てしまう。

 良く言えば、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に立ち回り、事態を解決する。

 言うは易しを、本当に成し遂げてしまうのだから始末に負えない。


 だからこそ――"最強"と呼ばれているのだ。


 邪神の欠片という、生きる災害が現れる、こんな世界で。

 人類が滅亡せずに存続している、最大の理由。

 邪神の欠片という化け物すら葬り去る、人側の化け物。

 それは、昴が持つカード達と比較しても何ら見劣りするモノではなく、何なら上回ってすらいるかもしれない。


「……コイツは、無理かもな」


 ポツリと、シャックスの口から弱音が漏れた。

 戦う必要はない。

 逃げればそれで勝ちなのだから、逃げれば良いだけだ。

 だが……相手が格上過ぎて、逃げる隙すら見いだせない。

 シアリーズを人質にして、大規模な攻撃を封じるという小細工をしているが、それも恐らく破られるとシャックスは考えていた。

 下手な事すれば人質を殺すとは言ったが、まさか本当に殺す訳には行かないし、殺したら何もかも御破算だ。

 背中でも見せようモノなら、その瞬間に首を落とされる。


 力自慢の男だろうが、核兵器を落とされれば問答無用で死ぬ、そんな無茶苦茶な例えでもしたくなるレベル。

 単純に実力差が、開き過ぎている。

 今、シャックスの前に立っているのは、その理不尽の権化とでも言うべき相手であった。


(ドラゴン)に大口叩いといてこれじゃ……無様極まりねえな」


 約束を果たせず、ここで無様に散るんだろうなと、数秒後の自分の未来を幻視して――






『ギリギリ間に合った感じか?』


 通信機から届いた、シャックスにとって馴染み深い声。


「――本当、ギリギリだぜ! 美味しい場面まで待ってたのかって具合によぉ! 相棒(マスター)!!」


 空から高速で飛来する影。

 シャックス達の間に境界線を引くように砂埃を立てながら、一人の男がその場に乱入する。


「話聞いてた感じ、後は逃げれば良いんだよな?」

「そういうこった。……何だよその格好?」

「ど、どちら様なのじゃ……?」

「兄上……!? 兄上が何故ここに――?」


 砂埃でジークフリートとニーナの視界が一瞬、覆い隠された。

 見えない空間から、ジークフリートにとって、聞き覚えのある声が聞こえて――


「なら――交戦(エンゲージ)


 並び立つ二人の最強を前に、男――昴は、カードという名の剣を抜いた。




良い所だけど中盤ここまでー

終盤はもうちょい待たれよ

終盤の完成度は現在93%位

終盤投下はそんなに時間掛からないと思われる

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― 新着の感想 ―
[一言] 前にダンタリオンが言ってたマスターに厄介ごとを押し付けたら良いと思ってないか?問題が現実のものになってきたな ユニット側がどう思っているにしても問題解決を結局押し付けちゃうんだわなあ
[気になる点] 武器盗んだくらいじゃあひっくり返せない差なんでしょうなあ。
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