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168.ゴリ押し

「なっ、何だコイツぱわっ!?」

「魔女の使い魔風情に俺達がひゅっ!?」

「何だ一体!? 一体何が――!?」

「コイツ……やはり何らかの魔法を……!」


 防御していたのに、避けようとしたのに。

 防げず、避けれず、(ドラゴン)の拳が突き刺さった男達が、車に跳ね飛ばされた小石のように吹き飛ばされていく!

 (ドラゴン)のエンジンが、掛かり始めた。

 最初に劣勢だったのは、まだパワーが上がり切っていなかったから。

 だからこそ、容易く押し切れると、舐めて見積もった。

 その油断こそが、致命傷。

 いくら武術を幼少から学んでいるリィンライズの人々と言えど。

 (バケモノ)と戦う事は想定にしていない。


 技術も何も無い、単純に暴れ散らかすだけの、文字通り暴力。

 だがこの暴力は、既に人間の範疇から逸脱していた。

 拳を振り上げれば滝を割り、蹴りの一撃で城壁すら打ち砕く。

 そんな領域にまで、(ドラゴン)のパワーは引き上げられていた。

 しかも、まだ戦い(バトル)は続いている。

 戦いが続く限り、(ドラゴン)のパワー上昇に限界は無い。


「――魔女め……! コイツがヤツの切り札という訳か……!」


 民族的衣装を身に纏った一人の男が、(ドラゴン)の前に歩み出る。


「ロンさん!」

「お前達は一旦下がっていろ、この男、お前達では荷が重過ぎる」


 ロンと呼ばれた男が、(ドラゴン)の前に立ちはだかる。

 群衆の中でも頭一つ抜きんでた実力と見た(ドラゴン)は、ロンを注視しつつも、傲慢不遜な態度を改めはしなかった。


 睨み合う両者。

 相対したその空間が捻じ曲がって見えるような、濃密な闘志、殺気。

 どう出るのかを見計らっているのだろうが――先に動いたのは(ドラゴン)であった。

 そもそも、相手の動きを見てどうとか、そんな駆け引きとは無縁の男である。

 真正面から叩き潰せばそれで終わり、それこそが(ドラゴン)の在り方なのだから。


 真上から振り下ろされる木刀。

 その動き自体は、既にロンは見切っていた。

 が、受けはせず回避に動く。

 動きを見切れる事と、受け止められる事はイコールではない。

 事実、叩き付けられた地面が、まるで地雷でも爆発したかのように弾け飛んだ!

 もし受けていたら、その受けた個所がこの用に弾け飛んでいただろう。


「なんという力だ……! だが、当たらなければどうという事は無い!」


 単純な力比べでは、(ドラゴン)に軍配が上がる。

 その事をロンは認めた上で、尚向き合う。

 爆ぜた土埃の中から、狂気の笑みを浮かべた(ドラゴン)がロン目掛け飛び掛かる!

 木刀による真横一文字、薙ぎ払いの一撃。

 今の(ドラゴン)の攻撃力を受ければ、例え防御した上で尚、粉砕骨折、内臓破裂の重傷を避けられない。

 だというのに、それを極最小限の回避でいなしてみせるロン。

 木刀を振り抜いた直後、その隙は逃さないとばかりに伸びる手刀。

 力では比べるまでも無いが、その鍛え抜かれた技術によって放たれたそれは、(ドラゴン)の繰り出す拳や蹴りよりも早く鋭い。

 そう来るのは読めていたと、(ドラゴン)はその手刀に向け、木刀を握っていない空手の左拳が伸びる!

 今のパワーならば、(ドラゴン)の攻撃は当たりさえすれば何もかもを打ち砕く!

 当然、ロンもそれを受ける訳には行かない。

 手刀の軌道をまるで蛇の如く変化させ、(ドラゴン)の腕に添え、押し出し、横から軌道を変える。

 苦悶の声を上げながらも、ロンは(ドラゴン)の拳を逸らしてみせる。

 勢いを殺さず、伸ばされたその手刀は(ドラゴン)の既に負傷していた傷口を僅かに掠めた。

 しかしロンの腕が届く距離は、必然(ドラゴン)の腕も届く範囲。

 返す刀とばかりに再び真上から叩き付けるように木刀を振り下ろす(ドラゴン)

 身を屈めつつ、その場から後方へ向けて勢い良く飛び出し、くの字になりながらその攻撃を回避するロン。


「逸らすだけでこのザマか……!」


 先程、(ドラゴン)の攻撃を逸らす為に添えたロンの腕は赤く、そして徐々に赤黒く変色していく。

 軌道を逸らす為に横に添えただけで、この状態だ。

 直撃なんて以ての外だと、身震いするロン。

 痛みを歯噛みで誤魔化しながら、(ドラゴン)を睨む。


「……貴様の名は、先程名乗ったか。であらば私も名乗ろう。ロン・ジェンイン、幻螂毒手拳(げんろうどくしゅけん)のロン・ジェンインだ」


 強敵であると認め、(ドラゴン)に対して名乗りを上げるロン。


(ドラゴン)、と言ったな。同じ(ロン)の字を戴く者として、出し惜しみ無しの全力を以って潰させて貰う!」

「へえ、ちったあ骨のありそうなヤツが居るじゃねえか。実に――壊し甲斐があるねえ!」


 対し、余裕だとばかりに笑みを浮かべる(ドラゴン)

 後ろには、守らねばならない女子供を背負い、多勢に無勢。

 だがそれでも、エンジンが掛かった(ドラゴン)はもう止められない。

 既にそのパワーは人外の域に足を踏み入れ、そしてこの上昇に限界は無いのだから。


「威勢の良い事だ、貴様は既に私の術中に嵌ったというのに」

「ア゛ン?」


 目を細める(ドラゴン)

 そんな(ドラゴン)に対し、ロンは自らの片腕を誇示するかのように突き付ける。


幻螂毒手拳(げんろうどくしゅけん)の鍛錬は、自らの腕に毒を宿す事から始まる」


 毒草、毒虫、毒魚、毒蛇――あらゆる猛毒生物の持つ毒を混合し、それを混ぜ合わせた砂を壺へと詰める。

 その砂に向けて、自らの腕を何度も、何度も、突き入れる。

 砂によって肌が傷付き、徐々に傷付いた個所から毒が腕を侵していく。

 突き入れた手が毒によって倍程にも晴れ上がり、凄まじい激痛と熱に襲われるが、その都度配合した薬品によって毒を和らげる。

 この鍛錬を何年も続けていく内に、毒への耐性を手に入れ、そして自らの腕を毒手という武器へと変質させていく。


「――これこそが、幻螂毒手拳(げんろうどくしゅけん)。既に貴様の身体は、私の毒によって侵されている。そろそろ、身を以って痛感し始めている頃だろう?」

「……どいつもこいつも毒を使いやがって……! そんなに怖ぇのか? この俺と真っ向勝負するのがよォ!?」

「これこそが私の拳法、私にとっての真っ向勝負だ」


 先程掠めた(ドラゴン)の傷口が、熱と強い痛みを発し始める。

 ロンの発言が、嘘偽りの類でない事を(ドラゴン)は痛感した。

 (ドラゴン)の身体は、既に毒によって蝕まれ始めている。

 その毒は徐々に(ドラゴン)の体力を奪っていき、やがて死に至らしめるだろう。

 既に定められた未来であり、それを覆す手段は、(ドラゴン)には無い。

 (ドラゴン)が何らかの治療手段を持っていたら話は変わるのだが、そんなモノを使う様子は無く、実際毒を治療出来るような薬は無い。

 実は孤児院の中には毒を消し去る治療薬も材料もあったのだが、既に孤児院は大火に包まれており、薬も燃えてしまっていた。


「どうせ奴等は逃げられん! 回避を第一に、徹底してあの男を叩け!」

「分かりやした!」

「飛び道具を使える奴を守れ! 奴とて不死身じゃない!」


 かわし、いなし、回避に徹していれば、毒が回って死に至る。

 何なら、(ドラゴン)が激しく動き回れば回る程、毒が回る速度が速くなる。

 だから、ロンは馬鹿正直に(ドラゴン)と打ち合う必要は無いと考えていた。

 どうせ放っておけば、死ぬのだから。


「だったら、毒が回る前にぶっ殺す!!」


 自らの死期が背後に迫っている事を実感した(ドラゴン)

 死が避けられないにしても、目の前の敵だけは全て打ち倒す!

 その鬼気迫る猛攻に一人、また一人、(ドラゴン)の馬鹿力によって群衆が打ち倒されていく。

 そして同時に、(ドラゴン)にも毒が回っていく。


「次ィ!」


 その毒は、(ドラゴン)の身体から力を奪っていき――


「次ィ!!」


 その動きも精彩を欠いて――


「お、おい!?」

「どういう事だ……!?」


 困惑するロン。

 あれだけ激しく動き回り、(ドラゴン)の息も荒い。

 ロンの毒手を受けてこれだけ時間が経っていれば、普通はもう死んでいる頃合いなのだ。

 (ドラゴン)という男が、例え化け物じみた豪傑だったとしても、これだけ長時間暴れ続けていれば、全身に毒が回ってまともに動けなくなっている筈なのだ。

 なのに、全く毒が効いている気配が無い。


「お、おのれェ!」


 恐らく、この男にも毒耐性があったのだと予測したロン。

 そう考えるのが自然なのだが、この予測は完全な間違いであった。


 (ドラゴン)に、毒耐性なんてモノは無い。

 毒は今も尚、確実に(ドラゴン)の体力を奪い、衰弱させ続けている。


 (ドラゴン)(パワー)を、奪って(さげて)いる。


 2000(手練れ)から4000(化け物)へ。

 4000(化け物)から2000(手練れ)へ。

 (ドラゴン)の効果でパワーが上がり、ロンの毒によってパワーが下がり。

 単に、数値の上下が拮抗しているだけ。

 これ以上強くなる事は無いが、毒によって倒れる事も無い。

 物凄く単純で、物凄く力押しの回答。



 (ドラゴン)攻撃し(暴れ)続けている限り、(ドラゴン)がこの毒によって死ぬ事は無い!


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[気になる点] 毒の使用こそ真向勝負というパワーワード。
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