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165.燃え上がる魂

 ダンタリオンの声で、我に返る。

 そうだ。

 そもそも何で、俺はこんな奴等の為にわざわざ命を張らなきゃいけねえんだ。

 とっとと見捨てれば良い話じゃねえか。

 付き合いもたかが数週間、そこまでする義理も、無いだろう。

 所詮は付喪神、カードである俺達の考えで唯一、一致している事。


 相棒(マスター)を守る、相棒(マスター)の命に従う。


 人種所か生物としての種も、意見も、何もかも違う俺達を団結させている、ただ一つの考えがそれだ。

 それ以外の全てが、些末。

 俺だって、別にこの世界の人間がどれだけくたばろうがどうでも良いと、そう考えてたじゃねえか。


 金も、女も、命も、何もかも奪って奪って奪い尽くして来た。

 略奪王 シャックスは、そういう男だっただろうが。

 平気で裏切るし、手下を使い潰したりもした。

 誰もが恐れる、天下の大悪党。

 それが、何だこのザマは。

 呑気にガキ共と遊び呆けて、家事の手伝いやら買い出しやら山菜摘みやら。

 アホか、俺は。

 女子供を守って大立ち回りだァ?

 一体何時から俺は正義の味方に鞍替えしたんだよ。

 本来の俺様は、寧ろ女子供から奪う側だろうが。

 欲しいモノを全部奪って来た、略奪王 シャックスの名はだからこそ付けられた。


 全く、ダンタリオンの言葉が耳に痛いぜ。

 そう、こんなのは相棒(マスター)の指示とも無関係なんだから――


「――嫌だ……!」


 合理的、理性に反する言葉が、口を突いた。

 俺の胸中がざわつく。

 金貨を山程積み上げてようやく買えるような酒を飲み干しても、極上の美女を抱いても、満たされない。

 およそこの世にある全てを奪って手に入れて、それでも俺の心は乾いたままだった。

 ああ、そうだ――俺は、乾いていたんだ。

 その心の渇きが、ここに居た時だけは感じていなかった。

 その居心地の良さが、俺をこの場から離れられなくしていたんだ。

 他愛も無い、何の実りも無い談話や、ガキ共やバーバラの無茶な指示に振り回される毎日。


 日常。

 ごく当たり前の、そして俺が一度たりとも手に入れられなかった――家族。


 俺に足りない、俺が渇望していたモノが、ここに在ったんだ。


『嫌ァ?』

「俺は、俺様は! 略奪王 シャックスだ! 欲しいモノは全て奪って来た!! 次は、こいつ等を手に入れる! 絶対にだ!!」


 見捨てられるか! 諦められるか!

 カードとして生まれ、ずっと抱えていたこの飢えを、乾きを、満たせるモノが、やっと見付かったんだ!


「誰でも良い! 俺に力を貸せ! いや、貸してくれ! そうだ、相棒(マスター)! 俺に力を――」

『これから主人(マスター)は寝る時間だから、静かにしてくれる?』


 何の感情もこもっていない、冷淡なダンタリオンの声。


『アンタを手伝おうなんて酔狂なヤツなんざ、居る訳無いでしょ。主人(マスター)なら手伝ったかもしれないけど、主人(マスター)の睡眠妨害する気ならすり潰すよ?』


 相棒(マスター)以外には、塩対応。

 ダンタリオンはこういう奴だ、知ってただろうが。

 それに、俺だって関係無い奴にはこういう対応をしただろう。


 俺様が手伝うとして、その対価にお前は何をしてくれるんだ?


 そう、言ったに決まっている。

 何故どうでも良い奴の為に俺がわざわざ労力を割かねばならないのだと、切って捨てただろう。

 だから、ダンタリオンの対応を責められない。

 そして俺には――その対価が、払えない。


「駄目だ……!駄目だ駄目だ駄目だァ! ここで引き下がったら、俺は俺で居られなくなる! 俺が俺である為に! 絶対にこいつ等は見捨てねえ!」

『あのさあ、子供のワガママなら他所でやってくれる?』

「それに――!!」


 曲げられねえ答えが、もう一つある!


「こいつ等を守ってやりてえって、"俺"がそう思ったんだ! 俺達の在りのままを見れない方が、嫌だと! そう相棒(マスター)が言ったじゃねえか! こいつ等を見殺しにしたら、それはもう俺じゃねえ! 在りのまま(・・・・・)じゃ居られなくなる! それは相棒(マスター)に対する裏切りだ!!」

『――アンタ、そうやって主人(マスター)の言葉を都合の良いように解釈して……』

「都合が良かろうが何だろうがどうでもいい! 相棒(マスター)の為にも、俺がここで退くのも! こいつ等を見殺しにするのも! 全部却下だ! だから誰でも良い! 今すぐ俺を助けろ!!」

 

 藁にも縋る思いで、救いの糸を手繰り寄せる。

 みっともなかろうが、知った事か!

 俺様は天下も揺るがす大悪党だ!

 どんだけ汚かろうが卑怯だろうが無様だろうが、何処までも足掻いてやる!


 何もかも、包み隠さず曝け出した本望。

 その叫びは――誰にも届かなかった。


「――!? な、んだ……!?」


 空気の爆ぜる炎の音も、怒号も、何もかもが消え失せた。

 俺が立っていたのは、知らない何処かの個室だった。

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