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154.族頭、魔物をしばき倒す

 ガタガタと揺れる車内、流れ込む熱風に顔をしかめつつも、リレイベルでの噂話とか世界情勢とか、耳にした話で気になった情報は一応、集めておく。

 フィルヘイムの周りは敵ばかりだとか、グランエクバークの軍拡が止まらないとか、正体不明の組織が暗躍してるとか、ナーリンクレイは相変わらず鎖国してるとか、戦争の気配が漂ってるとか……

 この世界の国は――いや、こっちの世界も、か。

 何処の国も仲悪いようで。

 国がどうとか、政治がどうのとか、俺にはサッパリ分からねぇけどな。

 情報集めろって言われてんだから、それっぽい情報位は集めるさ。

 精査するのは、俺の仕事じゃねえ。

 そういうのはもっと賢い奴に任せるさ、ダチ公(マスター)とかな。


「――居たぞ! サンドワームが五体だ!」


 切迫した声を受けて馬車から頭を出せば、上下から降り注ぐ熱気に……おーおーウヨウヨ居やがる。

 良いねェ。

 そうそう、こういう分かり易いのが俺からすれば一番ありがてぇ。

 んじゃあ、いっちょ殴り倒してやるとするかァ!



―――――――――――――――――――――――



 急遽発生した、サンドワームとやらの討伐依頼。

 どうやら本当に緊急だったようで、ギルドがどうとか関係無しにとにかく人手が欲しいという感じであり、だからこそギルドカードが無い俺でも依頼を受けられたわけだが。

 そして、割とアッサリ片が付き、貰うモン貰って特に何事も無く街に戻って来た、というのが今の状態である。


「お、お主! 血が!?」

「アァ? こんなモン、ちょっと額切っただけだろうが、この程度で人は死なねえんだよ、オロオロすんな」


 やたら心配そうに顔を覗き込んで来るシアリーズ。

 頭はちょっと怪我するだけで、致命傷でも負ったのかって位見た目派手になるが、別にこの程度は大した事無い。


「サンドワームとかいう魔物にちょっと二回位吹っ飛ばされただけだ、その後は返り討ちにしてやったけどな」

「サンドワーム!? 凄く危険な魔物だと本に書いてあったのじゃ!」


 シアリーズによると、体長は平均5メートルから10メートル程、岩のような硬い表皮で覆われており、主に砂漠に生息している魔物らしい。

 確かに大体その位あったような気がするな、あんま覚えてねえけど。

 どうも相当手ごわい魔物らしく、だからこそ緊急だったのだろう。

 まあでも木刀で殴り付けたら反撃で叩き付けられて、砂の上を転がって、後はキレて暴れてる内に何か全部片付いてたからな。

 魔物だろうが何だろうが、殴れば倒せる。

 真っ当に殴り合える相手ならば、俺は例え相手が神だろうが殴り倒せる、とはダチ公(マスター)の言だ。


「砂漠、か……砂がいっぱいある場所だとしか知らないのじゃ。どんな場所なのじゃ?」

「いやその通りだぞ、マジで砂しかねえぞ。たまにサボテン生えてたりするけどな」


 ここに来る時もうんざりする程見たが、一面砂。

 別に地球の砂漠を実際に見た訳ではないが、多分ここも地球も砂漠に関しては一緒だろ。

 草木がロクに生えねえ不毛の砂地、だから砂漠って言う訳で。

 この街周辺は、流石に首都という人が密集する場所だけあり、水も緑もある部類だが、少し街から出てバイクを走らせれば割とすぐ砂漠である。


「……どんな場所なのか、見てみたいのじゃ」


 遠い外壁、その外へと視線を向けるシアリーズ。


「つっても、ここから半日もしない距離で砂漠なんざ見れるじゃねえか。見た事ねえのかよ?」

「街の外を自由に出歩いた事は無いのじゃ」

「一度位はあるだろ」

「一度も、無いのじゃ。家に居れば何時も勉強ばかり。今こうして街中を出歩けているのも、ただ見逃されているだけなのじゃ。街の外に出ようとすれば、間違いなく止められる。わらわは街の外に出てはいけないと、父上から言われているのじゃ」


 一度も、街から出た事が無い。


「でも……一度位、街の外に出てみたいのじゃ」


 ポツリと、心の底から出たであろう、シアリーズの本音。

 出る事が、許されない。

 ここは、首都だ。

 確かに規模はデカいが、それでもここに缶詰めとなったら、息が詰まる。

 街中を出歩くのは見逃されている、と言っている辺り、もしかしたら家から出るのすら駄目なのかもしれない。


 とても自由とは呼べぬ、鳥籠の自由。

 この街に、シアリーズにとっての"自由"は存在しない。


「だったら、街の外に出て見てみるか?」


 ――それは、俺が一番"嫌い"なモノだ。


「えっ、だって……出る方法なんて無いのじゃ」

「あるだろ、そこにドデカい出入口が」

「あそこを出入りする時は人も荷物も全部検められるのじゃ」

「門なんかぶち抜きゃ良いだろ」


 魔物の襲撃なんかがありゃ、門は閉じられるのかもしれねえが。

 普段は人の行き来の為に門は開け放たれている。

 例え見付かったとしても、それを閉じられる前に、バイクで走り抜けちまえばそこからは外の景色だ。

 門が閉じられる速度より、こっちのバイクの速度のが圧倒的に上だからな、突っ切る位余裕だ。


「そ、それは駄目なのじゃ!」

「外に出たいんだろ? だったらお望み通り出してやるよ、ちょいと外覗いたら戻って来るけどな。それとも、街の外に出たいってのは嘘なのか?」

「……」


 シアリーズは、答えない。

 その無言は、否定ではないという証明。

 諦めた奴の沈黙だ。


 気に入らねえ。

 偽りとはいえ、かつての俺が良く見た眼だ。

 諦めるのが早すぎる、諦めが良すぎる。

 テメェの人生、そんなあっさりと諦めるなんざ勿体無さ過ぎるだろうが。


「外に抜け出して冒険するなんざ、ちょっとしたヤンチャだろ。ほらとっとと行くぞ、今から行けば日暮れ前には帰って来れるしな」


 そう言って、シアリーズを抱え込もうとした、その時。


「――それを許す訳には行かんな」


 冷たく、無機質な女の声が耳に届いた。

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