152.少女と族頭
バイクは良い。
轟くエンジン音に頬を切るような風、何もかもを後ろに置き去りにしていく感覚。
こうして走っている間は全てを忘れられる。
ただまあ、ここは街中だから全速力で突っ走る、なんて事は出来ない訳だが。
爆音と共に街中を走り、目的地も無く、適当な場所で一旦二輪を止める。
ふらふらと、やって来たのは港湾であった。
海からは生暖かい湿った風が吹いている。
ダチ公が根城にしてる場所の都合上、そんな潮風は珍しくも何とも無いけどな。
港は如何にも海の男、とでもいうような体格の連中でごった返している。
荷の積み下ろしをし、その積み荷をチェックし、馬車に移し替えていく。
それはこの港町では、ごくごくありふれた光景なのだろう。
……志願した俺が今更こんな事考えるのもアレだが、道草食ってて良いのかねえ。
邪神の欠片とやらの捜索と討伐、それがダチ公が今の所、目標としてる事柄みてえだが。
それが何処に居るのか、というのが分からないせいで、当てもなくブラブラせざるを得ない。
俺には、そういうのを探し当てるような魔法みたいな力は無い。
勿論、邪神の欠片とやらを見付けたら容赦なくダチ公にチクってやるつもりだが、運任せではある。
明確に俺に出来る事なんざ、精々目の前の相手を殴り飛ばしてやる位だ。
……今後を考えると金が要るってのも言ってたが、ギルドとやらで俺なんざがチマチマ小遣い稼ぎしててもたかが知れてる。
一発デカいの殴り倒して大金ゲット、なんてモンでもありゃやる気も出るってもんだが、そんな仕事も簡単に転がってる訳無ぇし、そもそもそんな内容の仕事があるならそういうのは警察や軍隊の仕事だろうしな。
「――ふぅ、中々に早いのぉ。しかし、これは乗り物だったのじゃな。ところで」
まあ何にせよ、人の多い所をブラ付いている事がダチ公の役に立つってんなら、俺に異存はない。
この街中を適当気ままに、フラフラさせて貰うさ。
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次に向かったのは、この街にあるって話のギルドとかいう場所だ。
ここもまた、港のように人が多く集まっている場所であり、ダチ公の言う人気の多い場所という条件を満たしている。
港とはまた違った意味での筋骨隆々とした連中が多く見られる。
……要は、職安みてえな場所だろ?
日本と違って魔物なんて存在が居るから、警備だけじゃ手が足りないのか、荒事なんかの仕事が貼り出されてるみたいだが。
ギルドカード、ねえ。
身分証明書も兼ねるって話だから、作った方が動き易いのは間違い無いんだろう。
ただ、作ったら持ち帰らなきゃいけねえんだよなあ。
俺がカードに戻る時、一緒にギルドカードは付いて来ない。
普通の手段で荷物を持ち帰らない限り、改めて取りに戻らなきゃならない。
面倒だし、多分その時は紛失扱いだろう。
再発行出来るらしいが有償だって話だし、ダチ公にムダ金吐かせる気は無い。
それに、ギルドに情報が残るってのも何か気持ち悪い。
そもそも、俺以外のカード連中が既に作ってる訳だし、なら俺一人作らなくても特に変わらねえだろ。
「何じゃお主! 人の事を無視しおって! 失礼千万な男じゃのお!」
……うるせえなあ。
「何だちびっこ、何か用か?」
振り切ったはずなのに、こんな所まで付いて来やがったか。
赤髪の少女が、ピーピーわめいていた。
「ようやく反応しおったか! それと、ちびっことは何じゃ! これでももうすぐ成人なんじゃぞ!」
「成人ん? いくつだよテメエ」
ちんちくりんじゃねえか、これで成人とか冗談だろ。
「むっ、レディに歳を聞くとは無礼じゃの」
「レディって歳かよお前」
「失敬じゃのお主、確かに花も恥じらう14歳故に歳を気にする年頃でも無いのじゃが」
「ガキじゃねえか」
ガキに構ってる場合じゃねえんだよ。
とっとと振り切るか。
一際大きく排気音を轟かせ、バイクを走らせる。
あんなちびっこの足じゃ、付いて来れる訳が無い。
「おおっ! おおおおおぉぉぉぉほおおぉ!? 馬車なんかより余程早いぞ!」
付いて……引っ付いてやがる!
「おいコラチビスケ! 手離せ! いや離すな!」
「どっちじゃ!!」
この速度で手を離したらそれはそれで大惨事だ。
うっかり振り落とさないよう、ゆっくりブレーキを掛ける。
「降りろ! ガキと二ケツする趣味はねえんだよ!」
「嫌じゃ! 乗ってみたいのじゃ!」
子供って妙に掴む力強かったりするよな。
引っぺがそうとするが、何か凄い力で引っ付いて離れない。
無理矢理引き剥がそうと思えば出来るだろうが、服が千切れるか骨が折れる未来が見えた。
見るからに高そうな服なのは分かるが、高い服=頑丈って訳じゃねえからな。
結局、振り切るのは諦めた。
一時的に引き離す事は出来るのだが、何処からともなく現れて来やがる。
何か、良い所のお嬢さんってのは見た目で分かるんだが……親も護衛っぽいのも見当たらないし、何なんだコイツは。




