147.広がる世界
戦いが終わり、街は壊滅的なダメージを受けた。
俺達はその街を襲撃した元凶を倒しはしたが、それで街や失われた命が戻る訳ではない。
街の人々の暮らしは変わらざるを得ず、そしてまた、俺の周りにも変化が現れた。
何か、アルトリウスがめっちゃよそよそしいというか、腫れ物に触るような感じというか。
今までは実体化してる最中はピッタリ貼り付くレベルの距離だったのだが、今は1メートル程距離を開けている。
何でかは知らないけど、仮に親密な仲だったとしても、それ位の距離が本来普通なんじゃないかな?
そういう意味では、普通に戻ったと言うべきなのか? 分からん。
「……なあ、アルトリウス。何かあったのか?」
「――旦那様は、不甲斐ない私を許して下さいますか……?」
縮こまり、怯えた子犬のような目で見詰めて来るアルトリウス。
不甲斐ない? 何が?
「あれだけ大口を叩いておきながら、私は旦那様を傷付けてしまった。旦那様に、合わせる顔がありません……」
……ああ、エスメラルダとの戦いの事か。
確かにアルトリウスに切り掛かられるとは思わなかったが……俺も思いっ切りアルトリウスをふっ飛ばしたからなぁ。
「あれはカード効果の処理に従っただけだろ、俺は何も気にしてない。それに、仮に何かカード達がミスをしたとしても、俺がそれ以上にミスしてるし、そして助けられてる。だから、気に病む必要なんて無いぞ。アルトリウス、お前には何時も通り、笑ってて欲しいな」
「旦那様――!」
ギュッと、俺の手を握り締めるアルトリウス。
俺が見ても分かる位頬を赤くしながら、熱っぽい視線をグサグサと刺して来る。
以降、距離感が一気に今まで通りに戻った。
一体何なんだ。
それから変化と言えば、何より大きく変わったのが――俺のマナ数上限だ。
俺が死ぬと、カード達も死ぬ。
それがあるから、どうしても自衛の為にある一定量のマナ数を浮かせておく必要があった。
絶対守護障壁とか発動すれば、ターン終了という時間制限付きだが間違いなく俺は死なないだろうけど、アレも結局5マナ使うからな。
そのマナ数が何か、今までチマチマ増えてたのが一体何だったんだってレベルで急激に増えてる。
合計マナ数が19から30にまで激増し、自衛の為に5マナ分浮かせていたとしても、25マナも浮いているというのは今まで以上に自由度が上がっている。
カード1枚に5マナ使ったと仮定しても、同時に5体、世界中で活動可能という事だ。
これからは、カード達にこの世界で自由を満喫して貰いつつ、邪神の欠片を探すという方針になるだろう。
カード達の活動範囲も――何かもう、良く分からない。
取り敢えずカード達が星の裏側まで移動出来たのは確認済みであり、また宇宙にも進出し始めたようだ。
もうこれで事実上、この世界でカード達が単独で行動出来ない場所は無くなったと言える。
そしてそれは、俺がメガフロートの外に出る理由もほぼほぼ消滅したという事でもある。
全世界をカード達の活動圏内に収められるなら、活動限界距離という制約絡みで俺が動く理由が無い。
「――そんな訳で、そろそろ本格的にカード達に自由行動を許してあげたいと思います」
流石にもう、どんなカードだろうと自由にして良いだろう。
5マナでも充分なのに、基本的に俺の側にはアルトリウスがくっ付いて来る(あとダンタリオンも)。
最悪の場合アルトリウスを引っ込めれば、それで10マナ。
10マナもあれば、並大抵の問題や荒事は片が付く。
いや自惚れとかじゃなくて、カード達の力があれば割とマジで断言して良い。
ユニットで10マナ使う奴とか、もうゲームエンド級の効果ばっかりだからな。
あんだけ酷い効果大量搭載の七天竜共ですら、7~8マナだし、なのに10マナって……
潤沢に10マナを自衛で残しても、まだ20マナも浮いている。
だったらもう良いだろう。
問題児も含めて、自由にさせたって良い。
「誰か行動したい人居る?」
「勿論、邪神の欠片の捜索を行う、という条件付きだがな」
アルトリウスやダンタリオンは、これに加えて問題児は解放したくないようだ。
トラブルを持ち帰って来そうなのが目に見えてるから、理解は出来る。
だが、それでも俺は自由にしてやりたい。
自分が好きだから嫌いだからで、カード達の自由を縛りたくない。
「――美味い酒がある場所は何処だ? ビールでもワインでも何でも良いぜ?」
「失せろ呑兵衛」
「これだからおこちゃま舌はよぉ。異世界に来たならご当地の酒飲まずして大人の男に非ずだぜ?」
「そもそも何だよあの部屋にあるスッカスカのワインセラーはよぉ。中身入れないとみっともなさ過ぎだろうが」
「どうせだし世界中の酒で埋めようぜ」
「良いねぇ! それ採用!」
「これまでに団長が訪れたという場所はココか。六大国家の内半分の首都は既に行ったのだな、ならば情報収集という意味では他の三国の首都に一度位は顔を出すべきだと思うのだが、どうだろうか?」
「イケメンがいっぱい居る場所とか無いのー? (・3・)」
「ミーも気になる所でーすねぇ! 創作意欲を搔き立てる美男美女はいくらでもんぅウェルカムゥ!」
「今回被害を受けたベルクライムを見捨てて他に行くのはちょっと……勿論、最初から最後まで面倒を見てはいられないというのも理解出来ますが、少し位は復興を手伝った方が良いのでは?」
「フィルヘイムの首都ガン無視してる時点で今更でしょ」
余剰マナが増え、一度に出られるカード達がどんどん増えて行く。
メガフロート内に設置された豪邸みたいな俺の自室も、こうしてカード達が実体化すると、割と適正、何なら少し手狭な感じすらある。
和気藹々藹々、一触即発……一触即発である事多くね?
もうちょっと仲良くしろよお前等、カード効果的に相性良い奴等が険悪な事もあるし。
アルトリウスとモルドレッドとか……でもアレはデザイン段階からそういう設定だからもうどうしようも無いのか。
もう見れないと思っていた、そんな光景が目の前にある、すぐ手が届く位置にある。
友も家族も皆居なくなってしまったが、それでもその思い出は、カード達は、ここに在る。
彼等彼女等には、ただの一枚の例外も無く、偽らずありのままの姿であって欲しい。
"異邦人"は、自由であるべきなのだから。
という訳で第七章終了となります。
カードゲームのドラゴン、帰還。
第八章は何時出来るのかは知らん。
でも恐らくだが第九章は節目になる予定。




