145.欲しけりゃくれてやる、ついでにこれも
「……黒マナ1、白マナ1、無色マナ1、虹マナ2を支払い、英雄女王 アルトリウスを召喚」
引き込んだ2枚目のアルトリウスを召喚する。
「――旦那様、あの女の力、何か変です」
「それは分かってる」
変っていうか、インチキ臭いというか。
再び現れたアルトリウスの姿を見て、驚きの表情を浮かべるエスメラルダ。
「――確かに死んだ筈……一体、どんなトリックを使ったんだい? ああそうか、死んでないって分かってたからあんなに冷静だった訳かい、合点が行ったよ」
いや、1体目のアルトリウスは死んだぞ。
それ所か墓地じゃなくて追放ゾーンに行ったから寧ろ死ぬより酷いぞ。
追放ゾーンは墓地じゃないから、蘇生で帰って来れないからな。
「どんな手を使ってアレから生き延びたのかは知らないが……無防備に姿を晒したらどうなるか、まだ理解してないようだねえ」
何をされるか、アルトリウスも理解している為、身構えるが――何も出来ない。
エスメラルダの白い指がパチリと鳴らされた瞬間、再びアルトリウスが俺に対し牙を剥いた。
剣を振るうが、俺のターンなので別にその攻撃は届かない。
ターンを無視して攻撃なんて出来ませんよ。
小さく舌打ちするエスメラルダ。
「……一体、何なんだい。攻撃が通ったり通らなかったりして、意味が分からないよ」
「こっちのターンに攻撃は出来ませんよ、ルールなので」
そんな事言われましても。
ルール通りにやってるだけですし。
3:【速攻】【条件】1ターンに1度
【効果】相手フィールドに存在するユニット1体を???、そのユニットの?????????。この効果の発動に対し?????
更に浮かび上がる効果欄。
そのユニットの――コントロールを得る、だな。
1ターンに1度、相手フィールドのユニット1体を選択し、そのユニットのコントロールを得る。
浮かび上がったテキスト、浮かび上がっているタイミング、そして結果を見るに、それしか考えられない。
だが……それは結局、"選択"している効果じゃないか。
アルトリウスの効果が発動出来ない理由が分からない、もしかして相手フィールドのユニット全てを奪う効果なのではないか?
そういう風にも考えていたが――更に後ろにあるテキストで、何となく、察した。
この効果の発動に対し――このテキストの書き方、見覚えがあるし、凄く嫌なテキストでもある。
この効果、っていうのはつまりエスメラルダの持つコントロールを奪う効果を指している。
コントロール奪取効果の発動に対し――何かある。
そしてその何かってのは、恐らくこの一つしかない。
連鎖阻害。
エトランゼの専門用語の一つに、連鎖という単語がある。
この連鎖というのは、エトランゼというカードゲームを進行する上で無くてはならない処理であり、何度も見る事になる処理でもある。
アルトリウスの持つ、対象を選択する効果に対するカウンター効果。
相手が発動した効果に対して発動し、その効果を無効にする。
文章にするとこうなるが、より正確に書き記すのであらば……
相手が発動した効果に連鎖し、アルトリウスの効果を発動、その効果を無効にする。
と、いった具合になる。
連鎖という処理はゲームのプレイ中に頻繁に発生しており、それが仮にアルトリウスを選択するタイプのカード効果だったとしよう。
それに対し、アルトリウスの選択無効効果を発動する。
それを連鎖という処理に当て嵌めると、こうなる。
連鎖2:アルトリウスの効果
連鎖1:アルトリウスを選択する何らかの効果
このように連鎖が組まれ、このアルトリウスの効果に対して更に何らかのカード効果が発動するのであらば、それが連鎖3、連鎖4……といった形で積み上がっていく。
そして、最終的に一番上の連鎖から逆順処理していく。
これが、エトランゼにおける連鎖という処理の仕組みである。
だが――エスメラルダの効果は、それを許さない。
恐らく、あのテキストの全文は、この効果の発動に対してカード効果を発動出来ない、といった文章が書かれているのだろう。
発動出来ない。
エスメラルダのコントロール奪取効果でアルトリウスを選択する。
それは選択している効果だから、アルトリウスの効果発動条件自体は満たしている。
だが――アルトリウスの効果を、発動出来ない。
エスメラルダの効果に対し、一切のカウンターは不可能。
例え無効にする効果だったとしても、そもそも発動すら許されないのでは手も足も出ない。
絶対に防げない、コントロール奪取。
なんつーインチキ臭い効果だ。
「成程、ようやく、納得できる結論が出たな」
さて……アルトリウスが奪われてしまったが、関係無い。
事前情報から、恐らく相手がコントロール奪取絡みの効果を有しているであろう事は理解していた。
そして――"コントロール奪取殺し"のカードも、たった今、引き込めた。
「このユニットは、マナを支払う代わりに相手フィールドのユニット1体を生贄に捧げ、相手フィールドに召喚出来る」
……まーたエスメラルダが引っ込みやがったな。
だが、もうそれはどうでも良い。
「邪神の欠片(5)を生贄に捧げ、円卓の反逆騎士 モルドレッドを召喚」
アルトリウスと良く似た、それでいて禍々しい色彩と形状のドレスがふわりと宙を舞う。
真紅の瞳が、俺を射殺さんとばかりに鋭く真っ直ぐ向けられた。
「あらぁ、ごきげんよう間男。早速ですけれど死んでくれます? 私と御父様との蜜月の日々の中に、間男は不要ですから」
「全くだ。こんな男相手に好意を抱いていたなんて――」
首を掻き切るような動作をするモルドレッドに、賛同するアルトリウス。
「んで、手札から永続呪文、洗脳解除を発動」
名称:洗脳解除
分類:永続呪文
プレイコスト:
文明:白
カテゴリ:
マナシンボル:白
1:【永続】【効果】フィールドに存在する全てのカードのコントロールは元々の持ち主に戻る
「トレードラゴン、アルトリウス、モルドレッドのコントロールを元に戻す」
「と、思いましたけどぉ……私、羊水の腐った女の下で働く趣味はありませんの♪」
「……! ち、違います旦那様! 今のは私の意思で言った訳じゃないんです!」
相手フィールドに行ったり来たり、目まぐるしくコントロールが変化するカード達。
何かこう……こうして実体化した状態だと、凄いシュールだ。
超掌返し過ぎてドリルになってるレベル。
そしてエスメラルダも、この状況に付いて行けてないのか、ポカンと口を開けたまま棒立ち状態である。
「それじゃあ、アルトリウスは返して貰うぞ。後、ついでにモルドレッドもな」
「ふふふ……私をついで扱いとか、首輪付けて馬で引き回してやりましょうか?」
モルドレッドが何か怖い事言ってるけど気にしない。
「――舐めるなァ!」
アルトリウスに向け、指を打ち鳴らすエスメラルダ。
でも何か、今までと違い、苦悶の表情を浮かべている。
……もしかして、無理矢理力を使おうとしてる?
1ターンに1度、ってテキストに書いてあるのに、それを無視しようとしている。
それは――以前、レイウッドと戦った時にもあったな。
「だが無意味だ」
一瞬、ビクリとアルトリウスが動き――かけたが、それだけだ。
「何で……! さっきまでは、効いた、じゃないか……ッ!」
「いや、効いてますよ」
エスメラルダのコントロール奪取効果は、余りにも理不尽極まりない。
連鎖不可のせいで、その効果に対して何かするという事が出来ない。
だからアルトリウスの対象無効効果も反応出来ず、むざむざ奪われる結果となった。
そして実は、今もアルトリウスのコントロールが奪われたのだ。
奪われて、一瞬でまた俺のコントロールに戻っただけだ。
洗脳解除の永続効果は、カードのコントロールを元々の持ち主に戻すという効果。
ただそれだけであり、それが全て。
エスメラルダのコントロール奪取効果は、発動を宣言してユニットを奪うという処理を行う効果。
だが洗脳解除は、永続効果。
このカードがフィールドに存在する限り、永久にその処理が行われ続ける。
「奪われて、またすぐに戻っただけです」
例えエスメラルダが何百何千とコントロールを奪おうと、奪った直後にまた元に戻る。
このカードがフィールドに存在する限り、エスメラルダの洗脳効果は死んだも同然だ。
そしてモルドレッドなのだが、このユニットは相手のユニットを生贄にする事で相手のユニットとして召喚する事が出来る。
ただこの場合、モルドレッドは敵のカードになる為、こちらに向けて牙を剥く。
……が、モルドレッドの元々の持ち主は俺である。
なので、洗脳解除がフィールドに存在する場合――モルドレッドは、勝手に相手のユニットを1体除去した挙句、自分の場に大型ユニットをノーコストで召喚するという、ブッチギリのインチキ効果と化す。
だけどどれだけインチキだろうがチートだろうが、コンボなら許される。
そう、カードゲームならね。
「うふふ……♪ 御父様との共同作業ですわねぇ」
「……勘違いするな、旦那様へ勝利を捧げる為に一時的に手を組むだけだ」
仲悪いね、お前達。
効果も仲悪いし――相性抜群でもある。
そして並び立つその様……実に、絵になる。
間に挟まりたい。
「英雄女王 アルトリウスの効果発動、デッキから装備呪文、受け流しの短剣-パリーイング・ダガーをアルトリウスに装備」
「剣よ来たれ!」
アルトリウスの手に収まる短剣。
「円卓の反逆騎士 モルドレッドの効果発動、アルトリウスが装備した受け流しの短剣-パリーイング・ダガーをモルドレッドへと装備変更する」
「剣よ従え!」
ヘイパース。
アルトリウスが装備した剣を奪う。
モルドレッドが有する、対アルトリウス効果だが、両者が並び立つと少し意味合いが変わって来る。
そして、これはアルトリウスの装備が外れたという意味でもある。
「アルトリウスの効果発動、デッキから装備呪文、雲竜紫電をアルトリウスに装備」
本当は耐性付与したいからこっちにもパリーイング・ダガー付けたいんだが……剣はピン挿しだからなぁ。
2枚以上積むと邪魔だし、こればっかりは仕方ない。
1:【永続】【条件】自分フィールドに他の???
【効果】このユニットは?????????対象にならず、??????
2:【起動】【条件】1ターンに1度
【効果】???からカテゴリ:邪神の欠片ユニットを任意の数選択し、召喚する
3:【速攻】【条件】1ターンに1度
【効果】相手フィールドに存在するユニット1体を???、そのユニットの?????????。この効果の発動に対し?????
……まだ、全ての効果が完全に見破れた訳ではない。
だが、もう問題無い。
その文脈的に、おおよその効果は割れた。
そしてその効果で……
「じゃあ、バトル」
凌ぎ切れると思うな。
そしてこれが、最初で最後のバトルだ。
アルトリウスとモルドレッドが並んだ以上、その程度の布陣、ベニヤ板程にも役に立たない。
「モルドレッドで邪神の欠片(4)を攻撃、この攻撃宣言時、モルドレッドの強制効果発動。このカード以外の自分フィールドのカード1枚を選択し、破壊する」
対象は当然。
「アルトリウスを選択し――それに連鎖してアルトリウスの効果発動。デッキの上から10枚を墓地へ送り、その効果を無効にする」
「よくも私に旦那様を――!」
何かめっちゃ禍々しい声色が聞こえた。
モルドレッドかと思ったが、その声の正体はアルトリウスだった。
どうした、一体何があった。
モルドレッドが片手を振ると、闇の衝撃波が放たれた。
それをアルトリウスは剣で受け止め、その力を受け流し、更に自らの力を乗せて、撃ち抜く!
「そして、邪神の欠片(6)を破壊する」
本来、モルドレッドのデメリットとして設定された、自軍へのフレンドリーファイア効果。
それをアルトリウスを中継する事で、メリットへと変換する。
これが、相性最悪にして相性最高、アルトリウスとモルドレッドによるコンボ。
「モルドレッドは2回攻撃しなければならない。よって、2回目の攻撃だ」
これで、エスメラルダを守るユニットは誰も居なくなった。
「モルドレッドで攻撃。そして強制効果はアルトリウスを選択し、更にその効果に連鎖してアルトリウスの効果発動、デッキから10枚を墓地へ送り――エスメラルダを破壊する」
ユニットだったりプレイヤーだったり、チョロチョロ立場を変えていたが、これで完全に逃げ道は潰した。
ユニットで居るならば、アルトリウスの破壊効果で吹き飛ばす。
プレイヤーになると言うのであらば、パワー14000のモルドレッドで一刀両断にするまで。
円卓の騎士に属し、俺の信じる最強のコンビ。
この二人が連携した以上、そこに敵など存在しない。
「あの世で私に詫び続けろ!! この売女風情がアアァァ!!!」
めっちゃキレてる、怖い。
アルトリウスの黒白の波動が空間を飲み込み、それ諸共、モルドレッドが一刀両断。
全てが終わったその後に、残るモノは欠片も存在していなかった。
名称:"堕落"のエスメラルダ
分類:ユニット
プレイコスト:???
文明:黒
性別:女
種族:人/悪魔
カテゴリ:邪神の欠片
マナシンボル:?
パワー:2000
1:【永続】【条件】自分フィールドに他のユニットが存在する時
【効果】このユニットは攻撃対象・カード効果の対象にならず、破壊されない
2:【起動】【条件】1ターンに1度
【効果】???からカテゴリ:邪神の欠片ユニットを任意の数選択し、召喚する
3:【速攻】【条件】1ターンに1度
【効果】相手フィールドに存在するユニット1体を選択し、そのユニットのコントロールを得る。この効果の発動に対し相手はカード効果を発動出来ず、効果を無効に出来ない
絶対洗脳するウーマン。
問答無用で仲間を裏切らせるのは確かに恐ろしい。
もし他の勇者が相手だったならば、仲間を人質にされ、敗れる事もあったのかもしれない。
だが命が軽いカードゲーム相手には通用しなかった模様。
取り返すなんて面倒な事しないで奪われたなら始末すればええねん、大抵の場合再召喚の方が楽ですわ。




