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143."堕落"のエスメラルダ-2-

 デッキをシャッフル、7枚ドロー。

 別に問題は無い手札だが――ここは、少し欲張る。

 一度マリガンし、手札にあるアルトリウスを再度デッキへ。

 再度引き直した手札は……初手リッピ2枚か……だが、逆に言えばこれでファーストユニットがリッピになってしまう確率は、ほぼなくなった。

 デッキの上から召喚コスト5以下のユニットが出るまでめくり――よし、アルトリウスがめくれた。

 初手だけ見ると寧ろ悪くなったマリガンだが、今回は欲張りマリガン正解だな。

 盾を5枚セット、一通りの流れを終えて、相手を見やる。

 何かこう、妖艶な色香を漂わせる美魔女、って感じの相手だった。

 顔は全然違うけど、纏っている雰囲気がアスモデウスと似てるな。


「――成程ねぇ。アンタが正真正銘、本物の勇者様って訳ねぇ」

「違いますよ」

「誤魔化したって無駄さ、アタシには分かるよ」


 微笑を浮かべると――エスメラルダは、パチリと指を打ち鳴らした。


「……アンタも効かないのかい。厄介だよ本当」


 ん? 俺に対して何かした?

 でも、効かなかったと。


「そういう効果を持っていないからでしょうね」

「効果?」


 訝しむエスメラルダ。

 相手を洗脳? してる疑惑があり、俺に対して通用していない。

 つまり、プレイヤーには効いていないが、ユニットには通っている。

 うん、やっぱりユニットのコントロール奪取効果なんじゃないか?

 ならやっぱり、このデッキで正解だろう。

 効果の性質上、洗脳(それ)はアルトリウスにはほぼ通用しない。


 そして、デッキからカードが出て来ない。

 今回は俺が後攻のようだ。


「死人みたいな目してるねえアンタ……でも、顔はそこそこじゃないか。どうだいアンタ、アタシのモノにならないかぃ?」

「……勧誘なら間に合ってます」

「ふぅん、そうかい。折角アタシが直々に可愛がってやろうと思ってるのにさぁ」

「その汚らしい口を閉じろ雌犬が。閉じ方が分からないなら私が塞いでやるからそこで大人しくしていろ」


 ダンタリオン同様、辛辣に吐き捨てるアルトリウス。

 実に頼もしい限りだ、流石俺のフェイバリットカード。

 俺と話してる時と態度違い過ぎてちょっと怖い。

 これが女の二面性というやつなのだろうか?

 そしてアルトリウスの後ろから、エスメラルダの様子を伺う。



 名称:"堕落"のエスメラルダ

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 性別:女

 種族:人/悪魔

 カテゴリ:邪神の欠片

 マナシンボル:?

 パワー:2000

 1:???

 2:???

 3:???



 またしてもというべきか、効果が解らない。

 だが恐らく、この3つある効果の内のどれかがコントロール奪取絡みの効果なのだろう。

 そして、パワーが低めな事が分かる。

 更に……どう見ても人なのに、その異質なカテゴリ設定。


「ふん、生意気な口叩くのは良いが――」


 エスメラルダが、指をパチリと打ち鳴らした。


「あまりアタシを舐めない事だねぇ」


 アルトリウスが、剣を振り被りながら、俺の方を向いた。

 頭上高く振り上げたその剣が――俺に向けて振り下ろされる!

 だが、その剣は俺の盾に阻まれ、届く事は無い。

 まだ先攻1ターン目だから、俺に攻撃は出来ないぞ。

 というか、今のアルトリウスは何も装備呪文を装備していない。

 カードイラスト上では剣を持っているが、実体化した際にアルトリウスは特に剣を所持している様子が見られなかった。

 イラスト上では存在していたあの剣は、一体何処行ったんだと思ってたが――なんかもう、虚空から平然と取り出すのね。

 ただ、何か呪文の類を装備している訳では無いので、別にアルトリウスのステータスが変わっている訳では無い。

 いや、そうじゃなくて。

 何故アルトリウスが俺を攻撃した?


 ――そうか、これか!

 

 英雄女王 アルトリウスの持つ、第1効果。

 このカードを対象に指定しているならば、その効果を無効にする優秀な防御効果。

 相手がどうも、洗脳……コントロール奪取系の効果を持っているらしい事が解っていた為、その対策としてこのデッキを持ち出した。

 理由は単純に、コントロール奪取効果は大抵、ユニット1体を"選択"する効果であるパターンばかりだからだ。

 破壊だろうがコントロール奪取だろうが、選択しているならばアルトリウスには通用しない。

 だが……アルトリウスの効果が、何も反応しなかった。


 つまり、対象を選択していない、コントロール奪取……?


 いやいやいやいや、待て待て待て待て。

 選択じゃないなら、相手フィールド複数、最悪全部って事か!?

 俺の場のユニットをごっそり丸ごと奪う――!?

 インチキ効果も大概にしろ!


「……その周りにあるのは、バリアの類って訳かい」

「まあ、そんな感じですね」

「さぁて勇者様ぁ? お仲間に裏切られた気分はどうだい?」

「ちょっと予想外でしたね」

「…………それだけかい?」

「そうですね」

「気に入らないねぇ……その余裕、何時まで保てるかねぇ!」


 地面に、黒い波紋が広がった。

 その水面が泡立ち、泡の中から現れる異形――邪神の欠片。

 その数、3体。 


 デッキからカードが排出される。

 俺にターンが移った。


「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ」


 まさか、アルトリウスが奪われるとはな。

 こんな事なら、ファーストユニットはリッピ辺りの方が良かったまである。

 普通にしんどい。

 何も出来ない程酷い手札じゃないのが救いか。


「マナゾーンにカードをセット、疲弊させて黒マナ1を得る。手札から呪文カード、因果応宝(いんがおうほう)を発動」


 敵の数が多いのに加え、アルトリウスまで奪われた。

 奪われたという事は、アルトリウスが相手フィールドに存在するという事。


「自分と相手のカード差の数だけ虹マナを得る。俺の場のカードは今発動している因果応宝(いんがおうほう)の1枚、相手フィールドのカードは5枚。よって俺は虹マナ4を得る」


 劣勢故の、暴力的なマナブースト。

 仕込んだ劣勢切り返し札が早速役に立ってるな。

 このカード、元々は1ターン目からブンブン回し始めないようにする為にこんな効果設定されてる筈なんだけどなぁ。

 普通に1ターン目から大活躍なのですが。


 カード効果の処理を行いながら、相手の布陣を注視する。



 2:【起動】【条件】1???

【効果】???

 3:【速攻】【条件】???

【効果】???



 エスメラルダの隠された効果欄、その闇の一部が剥がれ落ちていた。

 しかし、肝心の効果は一切不明。

 だが、これだけの情報でもある程度推測は出来る。

 条件に1という数字が浮かび上がっている。

 条件欄で使う1なんて、大抵の場合は1ターンに1度、というテキストに決まっている。

 極稀に例外があるかもしれないが……今までにエスメラルダが行った行動、その何かが1ターンに1度しか出来ないという事、それはほぼ確定と見て良い。

 そして起動効果という分類上、それは自分のターンでしか出来ないという事。

 何も分からない状態と比べて、大分推理がし易くなった。



 名称:邪神の欠片(1)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:獣/悪魔

 性別:不明

 パワー:2000

 1:【永続】このユニットは破壊されない。



 名称:邪神の欠片(2)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:獣/悪魔

 性別:不明

 パワー:5000

 1:【永続】攻撃回数+1



 名称:邪神の欠片(3)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:獣/悪魔

 性別:不明

 パワー:3000

 1:【永続】【条件】自分フィールドのユニットが破壊される時

【効果】代わりにこのユニットを破壊する事が出来る。



 更に、邪神の欠片の能力に目を通す。

 こちらはエスメラルダと違い、最初から全て見えている。

 アルトリウスの効果は暗記しているので注視する必要無しだ。

 1は破壊されない低打点、3は自身を身代わりにして他のユニットを守る効果。

 2が少し厄介だな、パワー5000で2回攻撃するという事は、直撃するとそれだけで即死するという事だ。


「……俺はこれで、ターンエンドだ」


 リッピを召喚出来るが、出さない。

 出した所で、即奪われるのが目に見えている。

 アルトリウスを含め、5体の直撃が飛んでくるが、関係無い。


「……何だい? 急に身体が動かなくなったと思いきや……ただそれだけかい」

「貴女のターンです」

「ターン……? 何だか知らないけど、もう打つ手は無いって事かぃ? だったら――アンタのお仲間の手で、殺してやるよォ!」


 迫る、黒い殺意。

 無論、それは盾で防ぐが――全ては防がない。

 邪神の欠片(2)の連続攻撃、そして邪神の欠片(3)の攻撃のみ盾で防ぎ――


「その攻撃は、ライフで受ける」


 邪神の欠片(1)とアルトリウスの剣、その身で受ける!

 ……まさか、アルトリウスの攻撃をリアルで受け止める事になるなんて、思いもしなかったなぁ。

 ――その刃を受ける瞬間、アルトリウスと目が合った。

 その目には……光が無いとか生気が無いとか、言えたら良かったんだろうが、サッパリ分からん。

 目は目だろ。

 そして発動しない、安定のカウンター呪文。

 そんな事を考えながら、ゴリッと俺のライフが持っていかれた。


 盾枚数:5→2

 LP:10000→6000


「……まさか、本当に打つ手が無いのかい? それとも、狸寝入りかねぇ? それか平静を装っていても、仲間に手は上げられないってヤツかねえ!」


 そして、エスメラルダの攻撃――が、来ない。

 何か、警戒してる?

 こちらを揺さぶる為なのか、口撃を仕掛けてくるが……うーん、それ全部当たってるんだよなぁ。

 打つ手が無いのは、本当だ。

 エスメラルダが俺に殴り掛かって来るようなら、普通に直撃コースなのだから。

 そして……狸寝入りなのも、本当だ。

 だって俺は、防御手段を持っているのだから。

 そして今、相手の攻撃で破壊された盾ゾーンから、反撃手段を手中に収めた。

 圧倒的な数の暴力に晒されるという絶望的な状況に見えて、実は案外そこまででも無いのだ。

 カードゲームにおいてちゃんと手札とマナがあるって、重要よ?


「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ。マナゾーンにカードをセット、疲弊させ黒マナ1と無色マナ1を得る」


 デッキから排出されたカードが、再び俺のターンの到来を告げる。

 前のターン、何もせずにマナを温存した事で、これで7マナを溜める事が出来た。

 さて、エスメラルダ側はどう出る?


「――俺はこれで、ターンエンドだ」


 仕掛けられる、が。

 少し捻るぞ。

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