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139.七天統べし覇者の咆哮

 静かな時間、静かな空間。

 そこに突如割り込む、轟音と振動。

 地震……じゃないな、この揺れは。

 地の底から揺れる感じじゃなくて、どっちかと言えば近くをダンプが通ったとかその類の揺れだ。

 その直後、カード達から通信機によってもたらされる、ドラゴン襲来の報。


「――ドラゴンかぁ。居るんだな、この世界にも」

「生息地や生息数の問題で、目撃情報が少ないですからね。あったとしても辺境が――あの、どちらへ?」

「いや、ちょっと」


 この世界のドラゴンとやらが一体どんなモノなのか見てみたい、そんな好奇心。

 そしてそれよりも重要なのが――この世界で"それっぽい"モノの近くに寄ると、今まで手元に戻っていなかったカード達が戻って来ている、という事実。


 もしかして、ドラゴンのカード、戻って来たりしませんか?


「ちょっと、何ですか?」

「まあ、少しだけ」

「少しだけ」

「見るだけだから、見て駄目だったらちょっと近付くけど」

「近付く」


 席を立ち、外に出ようとする。

 腕に抵抗を感じる。

 構わず進む。

 グイグイと後ろに引っ張られるが、ずっとそのまま前進を続けていると、途中から諦めたかのように抵抗が無くなった。



 ドラゴン。

 カードゲームに限らず、創作物においては食傷気味な程に登場し、非常に人気の高い存在。

 世界には多数のカードゲームが存在するが、その中には沢山のドラゴンが存在している。

 見た目が格好良いから人気が出易いし、力強いと共通認識があるから、そのカード性能も破壊力が高くなる。

 破壊力があるカードというのは、当然ながらエースカードとして運用される確率が高いし、実際フィニッシャーとして活躍するドラゴンのカードなんて、カードゲーム界隈では飽きる位見て取れる。


 人気がある、つまり皆が欲しい。

 皆が欲しいという事は需要がある。

 需要があるという事は、売れるという事だ。

 カードゲームは遊具だが、遊具を売る会社からすればカードは商品だ。

 商品を出すなら、売らねばならない。

 売れる商品なら、沢山販売したいのが会社として当然の考えだ。

 そんな考えによる物なのだろう、このエトランゼというカードゲームにも、沢山のドラゴンが存在する。

 そして沢山存在するという事は、当然ながら使い辛いカード、弱いカード――そして、強い、ぶっ壊れカードも存在する。

 それらが今まで、一枚たりとも使えなかった。

 それが、使えるようになるかもしれない。

 動く理由としては十分過ぎた。

 


 外に出る。

 そこには、紛れもないドラゴンが存在していた。

 龍じゃなくて、竜。

 東洋龍ではなく西洋竜の方の見た目の奴だな。

 ヘビ寄りじゃなくてトカゲ寄りビジュアルの奴。

 それを確認し、反射的にデッキケースに手を伸ばす。

 そして思い浮かべる、一枚のカード。

 小さな擦過音。

 飛び出したカードを引き抜き、視線を向けた。


 数多あるカードの中で、一枚だけ思い浮かべる。

 そういう時、最初に思い浮かべるカードというのは、良くも悪くも、強く印象が残っているカードである。

 昴にとって、エトランゼプレイヤーにとって。

 その一枚は、最強にして最悪とまで呼ばれた、悪名高き一枚。



 次元の支配者 ディメンションドラグネーター。

 七天竜(しちてんりゅう)の一角、俗称ディメドラ、またはゲーミングドラゴン。



 ユーザーから大ブーイングが巻き起こった、超問題児カード。


「……あーあ」


 反射的に口から出た言葉。

 とうとう来ちゃったか。


 カードゲーム、エトランゼの歴史。

 長く続くカードゲームというのはインフレから決して逃れる事は出来ないが、どんなカードゲームにも、そのインフレを引き起こす切っ掛け、というのは存在する。

 そのインフレの切っ掛けとなったカード、それが――このカード。


「そうかそうか」


 ――へえ。

 七天竜、戻ってきたんだ。

 なら――


「キーカード、戻ってきたなら――"連ディメドラ"、使って良いんだな?」


 それ以外のパーツが全て手元にあるのは確認済み。

 良いんだな? 必須パーツにしてエースのディメドラが無かっただけなんだ。

 それが帰って来たなら、もう組めるぞ?


「戦う気ですか? 旦那様(マスター)

「うーん、まあ、どっちでも良いかな。というか、倒したら駄目? 何か不都合が起きるなら止めるけど」

「倒した所で問題は無さそうですが、伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)が何だか凄くやる気出してますけど」

「そうなの? 任せた方が良い感じ?」

「どうなんだ、とっとと答えろ」

『えっ!? いや、団長(マスター)が出るというのなら俺達に異存はないというか』

「問題無いそうです」


 突如水を向けられ、返答の途中で即切られる伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)達。

 街を破壊してるようだし、倒して問題無いというのなら――


「――交戦(エンゲージ)


 "逐次投入ガイド"の亜種。

 その過剰過ぎる破壊力と制圧力をそのままに、速度と柔軟性を伸ばした近縁種。

 結果伸びたデッキ総合力は凄まじく――かつては、エトランゼの環境をそれ一色に染め上げた、恐怖の象徴。

 大会に出れば右も左も前も後ろも、皆同じデッキ。

 連ディメドラがヤバ過ぎて通常のデッキでは速度で追い付けず、速攻で蹂躙されて終わるので対抗手段(メタカード)を積み始めたら、それにも回答となる対策カードを引っ張られた挙句、そのメタカードを吸収して連ディメドラメタ搭載型連ディメドラが入賞し始めるとかいう、地獄絵図が展開された。

 どう考えても禁止カードに指定してでも止めなきゃいけない緊急事態であるにも関わらず、新弾パックの目玉となるトップレアだった為、発売して即禁止に指定するのは問題があるという先延ばし判断と、売り上げを重視した運営が規制を渋り、挙句の果てに世界大会にまで悪影響を刻み込んだ、狂暴凶悪理不尽ぶっぱ系デッキ。



 一点突破の"連ディメドラ"――行かせて貰おう。

七天の覇者、出陣。

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