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136.異世界ダーツ

「――旅行に行きましょう、旦那様(マスター)。気分転換もたまには必要ですよ」


 朝食を済ませ、食器をインペリアルガードが手早く片付けているのを横目で眺めていると、唐突に、アルトリウスがそんな事を言い始めた。


「それに旦那様(マスター)、ずっとこんな閉所に居ると、気が滅入りませんか?」

「いや、別に」


 閉所って。

 確かに外界から切り離された空間、っていう意味なら閉所ではあるが。

 こんな複合商業施設並みの広さにウン億円級の大豪邸内臓しておいて、閉所と言われてもピンと来ない。

 せめて四畳半ワンルーム程度の空間ならともかく、俺からすれば広過ぎて扱いに困る程なんだが。


「……他にも理由は有りますよ? 確かに広範囲を探る事は出来るようになりましたけど、それでも内陸部までは探れませんからね」


 約5万2000キロという行動範囲は、かなり広い。

 だが、大陸全部をカバー出来る距離かと言われれば、決してそんな事は無いようだ。

 ダンタリオンからの補足によると、何でもこのエイルファートという星は、地球よりも遥かにデカいらしい。

 マティアスが衛星を打ち上げ、この星を俯瞰的に観測出来るようになった事で発覚したとの事。

 地球ならこれで全部カバーし切れるらしいが、この星相手だとまだ足りないとの事。

 あれ? 地球って案外小さいのか? というか地球の大きさってどれ位なの?

 つーか、カード達の活動距離だけ倍々で増えていくから距離のインフレが激しいな。

 まあそれはともかく、海岸線から結構内陸まで移動出来るけど、島国ならともかく、大陸相手だと流石にこの数字では心許無いとの事。

 探し物が大陸中央とかに存在する場合だと、流石に俺が移動しないとカード達の活動範囲内に収められない。


 現状、邪神の欠片を倒そうにも、ユウとリンの両親を探す――これは正直絶望的だが――にも、手掛かりが全く無い。

 当てずっぽうで探すしか無い状態だ。


「――主人(マスター)、それじゃあズバッと行ってみましょうか」


 そんな事を抜かすダンタリオン。

 彼女から手渡されたのは、ダーツである。

 そして目の前には、コルクボードに掲示されたこの異世界(エイルファート)の世界地図。

 ダーツの(ズキューン)かよ、本当に当てずっぽうで行こうとする奴があるか。

 というか世界地図だと陸地より海の比率の方が高いじゃねえか、海のど真ん中に刺さったらどうする気だよ。


「邪神の欠片を探すにしても、動かなければ見付かりませんからね」

「さあさあ」


 ……ダーツを投げる。


 ぺしん。


 乾いた音を立ててダーツが床を転がった。

 さて、腹も膨れたから寝るか。


「刺さらなかったからって不貞寝しないで下さい!」

「やる意味無いだろ、お前達が好きに探すなり何なりすれば良いさ」


 それで俺が移動する必要があるなら、移動するだけだ。

 知恵を絞るにも武力を行使するにも、俺自体はカード達と比べて無力に等しい。

 何が悲しくて、山火事の前で火を求めて木と木を擦り合わせなければならないのだ。

 カードの力があればどうとでもなるのだから、俺が頑張る意味なんて無いじゃないか。



―――――――――――――――――――――――



「ベルクライムに行きましょう」


 ベッドでゴロゴロしていると、唐突にアルトリウスが提案してきた。

 アルトリウスが行きたいというなら、止める気は無いので、二つ返事で了承した。

 そこに何故行くのかと興味本位で聞いた所、本当にダーツで行き先を決めたらしい。

 マジでそれやったのかよ。

 何にせよ、カード達が行きたいと言うならば理由や経緯はどうでも良いので、早速そのベルクライムという場所に向けて舵を切った。



 フィルヘイム領である海峡を繋ぐ、巨大な橋がある場所、それがベルクライムという場所だとの事。

 その橋を中心として構築された大都市の一つであり、世界中を巡る主要海路が通る場所でもある、物流の要。

 そんな場所なので、船の往来がとても多く、メガフロートで近付くと非常に目立つ。

 目立たない為にはかなり離れる必要があるのだが、そうすると今度はカード達の活動圏に収められる範囲が狭くなってしまう。

 俺が直接移動した方が良いという条件を満たしている場所である為、この場所に行ってみようという事になったようだ。


 若干距離を置きつつ、ベルクライムまで接近。

 主要航路から大きく外れている場所に陣取った為、見付かるという事は無いだろう。

 見付かりそうになったら、移動すれば良いしな。

 その上で、念の為天候の悪化を待つ。

 主要海路が通っているベルクライムは、当然ながら船の往来も頻繁だ。

 360度何処を見渡しても、隔てる物の無い大海原のど真ん中。

 そんな所を飛んでる奴が居たら、凄く目立つだろう。

 船乗りが視力悪いってイメージ無いからな、間違いなく飛んでたら姿を捕捉されると考えて良い。

 まあ、鳥とかの飛行してるユニットならばそこまで不自然ではないが……リッピ位の大きさの鳥ならばともかく、俺が乗って移動出来るような大きさの鳥になると、この異世界でも普通に魔物扱いされるような巨体になって警戒されるとの事。

 そして当たり前だが、船も駄目である。

 そのまま接岸すれば間違いなく職員の目に留まりアウト、なので最初から論外である。

 ダンタリオンならば職員の記憶を誤魔化す事位は出来るが、船がそこにあるという衆目の事実を覆す事は出来ない為だ。

 一番当たり障りの無い移動手段は、曇天になるまで待って、雲を目隠しにして雲上を移動する方法である。

 これならどれだけ目が良かろうが、往来する船舶の目に留まる心配は皆無だ。

 理想は更に雨に紛れつつ人気の無い場所に降りて、さも陸路で普通に移動してきましたけど何か? と、しれっとしている事だろう。


 海の天気は変わり易いと言うが、ベルクライム付近に着く前から天候が悪化し始めた。

 以前マティアスが打ち上げていた衛星からの映像によると、結構巨大な雷雲らしく、ベルクライムをスッポリ覆って尚余裕で余る程の広範囲で、落雷や豪雨が予想されるとの事。

 一雨来そうな曇り空、位で十分だったのだが、何にせよ人目に付かずに移動する為の天候としてはパーフェクト。

 ちょっと距離があるが、このままベルクライムまで移動を開始しよう。



―――――――――――――――――――――――



 特にトラブルも無く、私達は陸路で来ましたー、みたいな感じで普通にベルクライムへと入る事が出来た。

 普通ではないか、証明書とかその辺り誤魔化したし。

 タイミングを選んだのだから当然ではあるが、到着したベルクライムは若干嵐気味の悪天候だった為、着くや否や即座に宿泊する事になった。

 路銀は足りてるが……若干、心許ない。

 何時かメガフロートで暮らしている人達が外へ出て行きたいと言った時、その足掛かりとなるお金位は用意してないと駄目なんだよな。

 それを考慮すれば全く足りないと言って良い位だ。

 一応、グランエクバークとの金属取引による外貨入手手段を確保してはいるが、あれは一回の取引で得られる金額としては中々だが、その一回が来る頻度がそこまででもない。

 別口の方法で金銭を稼ぐ手段を確保しておくか?

 カード達が出稼ぎするとか? あいつ等の能力なら稼ぐ手段なんざいくらでも有りそうだしな。

 カード達は俺から離れても活動出来るが、離れている間は食費等が掛かる訳だし、カード達が持つ金銭というのも必要だろう。

 何処の世界でも金は重要だなぁ。


 宿を確保し、俺自身は特に用事が無い為、ただぼんやりと天井を眺めたり、時折頭に降りてきた閃きをデッキの形にして試運転を試みたりしていた。

 食事は海峡という海の近くだからか、海産物が主体であった。

 ただ魚ばっかりという訳ではなく、香辛料とかでしっかり味付けしてあり、若干スパイシーな感じがした。

 食事代も味と量に対して結構安かった、と思う。

 この世界の物価、完璧に理解してる訳じゃないから何となくだけど。


 嵐が収まるのには思いの外時間が掛かり、天候が回復するのに二日程掛かった。

 ただ、俺の役割はこの街にいる事、ってだけだから天候は関係無いんだけどな。

 天候が荒れてたから俺は宿に篭っていたが、カード達はこの宿に到着した時点で活動を開始していた。

 それでも外が嵐じゃ活動し辛いだろうからな、そういう意味で晴れてくれて助かった。

 取り敢えず、この街に滞在するのは1~2週間位にしておこうという事になった。

 成果が有ろうが無かろうが、それで一旦撤収。

 そもそも当てがある訳でも無いからな、ダーツで決めたし。

 空振りである事の方が多いのだから、駄目なら駄目と見切りを付ける事も必要だ。


 探索は全てカード達に任せた。

 俺に出来る事はただここに存在する事だけだからな。

 なので、淡々と時を送るだけだ。


「――ここがベルクライム海峡大橋ですね」


 馬車に乗り、この街の中核を成すその地に立つ。

 ベルクライム海峡大橋は、この世界でも有名な観光スポットでもあるらしい。

 世界有数の巨大建造物の一つであり、観光地になっている為、仕事ではなく休暇で訪れているであろう人達も多数見受けられた。

 物流の要と言われるような場所が不便なアクセス地な訳無いしな、交通の便も良いから観光客も来易いのだろう。


「そう言えば、このベルクライム海峡には言い伝えがあるそうですよ」

「言い伝え?」

「はい。何でもここには極稀に水の精が現れる事があって、一人で出会う事が出来れば願いが叶うという話です」


 一人で、ねえ。

 観光名所と化しているこの場所でか?


「無理だろ、一人でって条件が不可能じゃねえか」

「そうですね。この言い伝えも、この海峡に橋が架かる二百年以上も昔の話らしいですから、今では無理なんでしょうね」


 橋が架かる前なら……ここの地形的に、集落程度ならあったとしても、そこまで人は居なかったのかもしれない。

 それに加えて人の寝静まる夜とかなら、そんな存在に一人で出会う、なんて事も有り得たのかもな。

 でも今は無理だ。

 街灯も整備された結果、昼夜問わず積み荷や人が往来する状況だから、一人静かにそんな幻想的な存在と相まみえるとか……


 発展は人々の暮らしを豊かにするが、そういった夢物語の存在を遠くへ追いやってしまう。

 少し寂しくもあるが、発展により幻想が駆逐されていくのはどの世界でも同じ、なのかもな。

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