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134.蠢き出す闇

 ――殺した。

 殺してしまった。

 手からその感触が何時までも消えない、消えてくれない。


「嫌だ……! もう、誰か……いっそ殺してくれ……ッ!」


 どうして俺が、こんな目に遭わなければならないのだ。

 どうして俺が――最愛の妻を、殺さなければならないのだ。


 訳も分からずこんな場所に連れて来られ、殺し合いを強要された。

 そしてとうとう――


「おっ、遂に最後の一人になったようじゃのぉ。おめでとう、これで遂にゲームクリアじゃのお」


 それもこれも、全部この女のせいだ――!

 コイツが、俺達に殺し合いをさせた元凶!

 アイツも、こんな奴が居るから――!


「それじゃあ、次からは第二ラウンド(・・・・・・)が始まるから、それまでゆっくり休んで置くのじゃぞー?」

「は――? な、んだよそれ――!! ふざけるな!! 最後まで生き残ったら、ここから出られると――」

「勿論じゃよー、最後まで生き残ったら出してやるとも。じゃが、さっきの試合が最後だなんて、ワシは一言も言っておらんぞぉ?」


 姿を見せずとも、声色だけで分かる。

 高みの見物決め込んで、醜悪な笑みを浮かべ、さぞや御満悦なんだろう。

 ああ――そうか。

 この女は、最初から俺達を逃がす気なんて無かったんだ。


「ワシはなぁ……お主等に苦しんで欲しいんじゃよ。どうじゃ? 妻とやらをその手に掛けた気分は? あれだけ殺したくないとのたまっておきながら、結局の所自分の命が可愛かったという事じゃのお」


 胸が、苦しい。

 いや、胸どころじゃない。

 身体中が、張り裂けそうな程に痛い。

 憎い――あの女が、憎い……!

 殺してやる――何もかも、ぶち壊して――!!



―――――――――――――――――――――――



「――ふーむ、やっぱり今回も失敗じゃのお。ま、それでも手駒自体は増えてるから良いんじゃがの」


 監視映像を流し見しつつ、彼女――"冒涜"と呼ばれている、白衣の女は呟いた。

 画面に映されている室内に、人の姿は無い。

 そこに映っていた男は、"人では無くなって"しまった。

 巨大な蛇の姿をした、全身真っ黒な体躯……それは、この世界において――邪神の欠片と呼ばれている存在であった。


「"純粋な絶望"のぉ……それが一体何を指しとるのか、サッパリじゃ。この方法で邪神の欠片を増やす事は出来ても、ワシらのような"適合者"は産まれんからのぉ……」

「要は、あんな養殖の劣化品を植え付けられただけの凡人ではなく、"魔王"に認められた才能有る者が力を与えられてこそ、という事だろう」


 "冒涜"に対し、何を分かり切った事を、とでも言わんばかりに――"烙印"と呼ばれている男は鼻を鳴らした。


「じゃがのお、魔王様の力を与えられた者はそもそも邪神の欠片にすらならない者が多数じゃからなぁ……」


 二人が居る部屋の扉が、ノックも無しに押し開けられる。

 二人の視線が扉へと向く。 


「おお、よく来たの"堕落"よ」

「アンタが呼んだんでしょお? 相変わらず薬品臭い部屋ねぇ、匂いが髪に付いちゃうわぁ」

「お主が運んでくれた"材料"で取り敢えず一体出来上がったぞえ。好きに使うと良いぞ」

「あらそう、それなら有難く使わせて貰おうかしらぁ」


 その"完成品"の映った監視映像を指さしながら、"冒涜"はさも何でも無いかのように言ってのける。

 最早人では無くなった彼等彼女等に、人に対する思いやりなんて代物は、完全に消え失せていた。

 雑談もそこそこに、本題へと入る三人。

 最初に口を開いたのは、"烙印"であった。


「――"暗躍"がロクに情報も持ち帰らず、恐らく勇者に討ち取られたからな。だがそれはつまり、"暗躍"に逃げ帰る事も許さず、打倒する事が出来るだけの力が今の勇者には有るという事の証明でもある」

「弱いからパシリにしか使えなかったけどぉ、"暗躍"の奴は逃げ足だけは立派だったからねえ、弱いけどぉ」

「今後勇者にどう対応するかも考えねばならんが……何より、情報が欲しいのぉ。出来れば勇者が実際に力を使っている所を見ておきたい所じゃが……それを安全圏でやるとなると、お主が一番適任じゃと思うからの」


 自らを害し得る脅威――勇者という存在。

 勿論、勇者以外にも"適合者"達にとって脅威と成り得る存在は各国に点在しているが、そういった存在は国防を担う存在でもある為、そうそう容易くは動けない。

 その脅威が潜んでいるねぐらをわざわざ突きでもしなければ、いきなり飛び掛かって来る事も無いし、そんな強大な存在が動くとなれば、案外事前察知は簡単である。

 だが、勇者は違う。

 国にも何にも縛られていない勇者は、身軽に気軽に突如襲撃を仕掛け、そして自らの命を奪うだけの力を有している存在。

 自分達に関わらず放っておいてくれるのであらば無視しても良いが、今までの動きからして、既に明確に自分達をターゲットに行動している事はとっくに分かっている。

 既に勇者が牙を剥いている以上、放置は出来ない。


「――勇者を殺る時は、全員で掛かる。舐めて一人一人向かわせて、各個撃破されるのが一番情けないやられ方だからな」

「"暗躍"の二の舞は御免じゃしのぉ」

「下準備が居るならば手を貸してやる。討ち取れとは言わんから、お前の力で勇者の持つ手の内をある程度オープンさせろ、相手の手札が何も見えていない状態では対策もクソも無い」

「そうねぇ……だったら……」


 小さな間を開けた後、"堕落"が蠱惑的な笑みを浮かべ。


「この世界が誇る"最強の種"を勇者様に堪能して貰おうかしらぁ? じゃ、そういう訳だからナーリンクレイまで護衛して貰おうかしら?」


 そう、口にした。

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