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132.運命の胎動

結構短め





 ――俺は、その戦いから、目が離せなかった。





 ベイシェントを襲い、ミゲールの力でそこに住む連中を全て拉致し終えた。

 あの神出鬼没な能力があれば、戦う力すら無い人間相手など、実に容易かっただろう。

 殺さず生かして、騒動も起こさずに……となると、中々骨なのだが、それもミゲールの能力を鑑みれば十分可能な範囲だ。

 最後に、証拠隠滅の為に一匹、邪神の欠片を置いて行く。

 こうする事で、後ろに居る俺達の痕跡を隠滅するのが目的らしい。

 ……のだが、集落を破壊し終えて早々、余りにもあっさりと邪神の欠片が討たれてしまった。


「――お前は、コレを持って先に戻れ」

「ミゲール様は、どうされるのですか?」

「連中が気になるからな、少し様子を見て来る」


 その後、今回拉致した人間達を入れた魔法的な能力を付与された袋を持っていけと言われた。

 ミゲールは、先程邪神の欠片を倒した連中の様子を伺うべく、接触を試みるようだ。

 救済の門サルヴェイションゲートの中じゃ、一番の下っ端だが――"適合者"の名は、伊達では無かった。

 多少、手駒を削られはしたものの、馬鹿馬鹿しい程の破壊力を振り撒く、あの化け物共相手に見事勝利を収めた。

 その後、逃げた奴を追って追撃を仕掛け――




 そこで、"その男"を見た。




 これといった特徴の無い、死んだ魚のような目をした、生気を余り感じない男。

 俺とは、面識も何も無い。

 初対面なんだから、当たり前だ。

 だがその男を……何故か、知っているような気がした。



「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ――」



 男が、口にした言葉。

 意味不明な、言葉の羅列。

 だというのに……何故だ。

 意味が、理解出来てしまう。


 カード、デッキ、装備、墓地――

 その単語の意味が、分かる。

 あの男が、一体何をしているのか。

 そして……どうして、こういう結末を迎えたのか、その理由も。



 結局、最終的にミゲールは敗れた。

 無敵に思えた回避・逃走能力、その唯一の欠点を突かれた形であった。

 助けに行くか、そう考えもしたが――あんな死地に、何の得も無いのに赴く程馬鹿じゃない。

 そんな義理も、無いしな。


「――追放ゾーンから墓地に移動させられて、効果処理が不発にさせられたのか。ひでぇやられ方だ、ああはなりたくねえな」


 ……何だ……?

 俺は一体、何を口走ったんだ……?

 頭を振って、意識を切り替える。

 ミゲールに言われた通り、俺は今回攫った連中を連れて、アジトに戻る。

 それで、今回の仕事はおしまいだ。



―――――――――――――――――――――――



「――あらぁ? アンタだけ? "暗躍"の奴はどうしたのぉ?」


 夜会のドレスを思わせる、黒い装束に身を包んだ、妖艶な魅力を振り撒く女。

 やたらと肌面積が広い、持ち前の美貌を前面に押し出す見た目だが……既に年齢は200を超えているらしい。

 長命種という訳ではなく、元々は人間である。

 "堕落"と呼ばれ、ミゲールと同じ様に"適合者"と呼ばれる、人の身を外れた力を有する者達、その一人だ。

 他者を操る力を持っているらしく、この女もまた、ミゲールと同じ様に、人間を攫う役目を受け持っている者である。


「これを先に持って、帰るように言われました」

「あらそう。ならその袋は受け取るわねぇ」


 一見、肩に担ぐ程度の大きさの、革袋にしか見えない代物、それを"堕落"へと手渡した。

 ミゲールが死んだ事は、報告しない。

 俺は、あの場に居なかった。

 その方が、余計な言及もされないだろう。


 この中には、今回攫って来た百人以上の人間が詰め込まれている。

 普通では有り得ない、超技術によって生み出された代物。

 詳しくは知らんが、何でも過去の適合者が作り出した道具らしい。

 この人間を"材料"にして、こいつ等は何かしているようだが……興味は無い。

 ついでに言えば、"魔王"が何を企んでようとも、それすらどうでもいい。


 俺が、比較的安心して身を置ける場所が、救済の門サルヴェイションゲートだった。

 人の営みの場に、俺の居場所なんて無い。

 ここに居る理由なんて、ただそれだけだ。

 理想だとか思想だとか、そんなモノは俺には関係無い。



 同朋は、もう既に皆、死に絶えた。

 過去の勇者によって、俺の同族は皆、根絶やしにされた。

 家族も友も無く、子を作る事も出来ず、最早絶滅が確定したこの身。

 "冒涜"の奴が研究をしているらしいが、それも期待薄だろう。


 どうせ、この世界でたった一つ、最後の命だ。

 精々、好き勝手に生きてやるさ。

 誰にも、俺の邪魔はさせない。

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