130.抜け穴
――ミゲール。
それが、お前の能力の正体か。
まだ効果1の部分が読み取れた訳ではないが……主軸となる効果は、恐らくこれで全てと見た。
成程、伝説の魔法戦隊じゃ勝てない訳だ。
攻撃も、破壊効果も、全部追放ゾーンに自らを滑り込ませる事で、回避する。
フィールドに存在しなければ、戦闘でも効果でも破壊なんて出来ない。
馬火力も当たらなければ意味が無い、ってか?
俺の場に、ユニットは居なくなった。
ミゲールの奴が置いて行った、邪神の欠片(4)という置き土産。
パワー8000で3回攻撃とかいう、インチキ臭い能力。
それを耐え凌ぐ為、アルトリウスの効果を1回、アルトリウス自身を犠牲にして2回、俺のライフを犠牲にして3回。
最早ライフ2000と、盾1枚。
風前の灯であり、目の前にはパワー8000の邪神の欠片。
絶対絶命、だな。
邪神の欠片の背後を見る。
"ミゲールが地面に転がって"いた。
そしてこれで、決着だ。
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ――」
そもそも、マナはもう腐る程あるんだよ。
そして、元凶であろう男は始末した。
だからもう、無理矢理終わらせる事にする。
「――手札からカウンター呪文、天罰の火を発動」
膨大なマナをぶち込んだ、手札からの正規発動。
お前、破壊耐性は無いんだろう?
だったら――ぶっ飛びやがれ。
―――――――――――――――――――――――
「……な、何が起きたんだ?」
戦いは、終わった。
ミゲールは、最後の邪神の欠片を倒すと同時に、そいつと同じ様に、黒い粒子となって消えていった。
結果は、俺達の勝ちだ。
だが、何がどうして今の状況になっているのか、それを理解出来ていないエルミアが困惑していた。
エルミア視点では、急にミゲールが姿を消したと思ったら、次の瞬間には死体になって地面を転がっている状態だ。
訳が分からなくて当然だろう。
俺は、どうしてこうなったのかは理解しているが……
墓地って要は、そういう事だしなあ。
こうなるだろうと思ってたわ。
「チョロチョロ逃げ回られて、面倒だったからな。ツアーガイド並みに始末がダルい相手だったが……倒し方までツアーガイドと同じ手になるとはな」
俺の手元に、視線を落とす。
そこにあるのは、一枚のカード。
呪文カード、再転する運命。
俺のデッキの、キーカードの1枚にして、ミゲールを葬り去ったエンドカード。
このカード自体は、直接盤面を操作するカードではない。
手札やマナが強烈に増える訳でもなく、強力なユニットを呼べる訳でも、破壊出来る訳でもない。
カードゲームに対する造詣が深い者でないと、弱いカードに見られる事もある……そんな、カード。
名称:再転する運命
分類:呪文
プレイコスト:○○
文明:無
カテゴリ:
マナシンボル:無
このカードはゲーム中に1度しかプレイ出来ない
相手ターン中にこのカードをプレイする時、このカードのプレイコストは0になる
1:【速攻】【効果】以下の効果から1つを選択して適用する
・お互いの墓地に存在するカードを全てデッキに戻す。
・お互いの追放されたカードを全て墓地に戻す。この効果の適用後、ターン終了時までカードを追放する事が出来ない。
だがしかし、カードゲームにある程度知識がある者であらば、このカードの危険性が理解出来るだろう。
再転する運命が操作するのは――墓地と、追放ゾーンのカード。
しかも、その操作枚数が非常に豪快。
全て、戻す。
更に効果判定が速攻という、相手ターンでも使える始末。
このカードによって行える事は多岐に渡り、とても全てを説明し切る事は出来ない。
俺は普段、このカードの上の効果を重視している。
墓地を全てデッキに戻せるという事は、俺のデッキの基軸とも言える、アルトリウスのデッキコストをリチャージ出来るという、強力な効果になるからだ。
だが今回――俺は、下の効果を用いる事で、ミゲールにトドメを刺したのだ。
「そうだな……あのミゲールって奴は、性質としては異次元ツアーガイドと非常に良く似てるんだ。だから、異次元ツアーガイドというカードで説明すれば理解出来るだろう」
「異次元ツアーガイド……確か、以前グランエクバークの軍を相手にした時に居た者だったか?」
首を傾げるエルミアに対し、よく似た性質を持つ、異次元ツアーガイドを提示して説明する。
「ミゲールって奴はつまり、何時、どんなタイミングでも、追放ゾーンに逃げ込めるんだ。ツアーガイドと同じ様にな」
このままでは戦闘破壊――死亡してしまうような戦闘を行わずに、逃げる。
例えフィールド全てが破壊されるような大規模破壊が飛んで来たとしても、フィールドから離れる事で回避する。
しかも効果は、速攻判定。
タイミングを問わず、自分が死にそうになったら、後出しじゃんけんの如く、見てから回避する。
非常に厄介な、回避性能。
戻ってきたタイミングを狙い打っても、フィールドに戻った直後ですらラグ無し発動可能。
戦闘で破壊するのは、ほぼ不可能と言って良いだろう。
だから、伝説の魔法戦隊では勝てなかったのだ。
脳筋じゃ、勝てない。
この手合いを葬るには、少し捻ったやり口が必要だ。
「だからな、効果使わせた上で、追放ゾーンから、墓地に移動させたんだ」
次元の狭間に逃げ込んだ奴の襟首を掴んで、墓場に直葬するイメージ。
カードゲームにおいて、墓地ってのはつまり――死んだ奴が、逝く場所だ。
……エルミアがそうだったように。
そこに送り込むって事は……死ぬ、殺す、って意味だろう。
恐らくそういう解釈になるだろうと考えて、使ってみたが――結果は案の定、である。
特定の場所から場所へ、移動させるカード効果の処理は、その効果処理を行う前に、他の方法で別の場所へ移動してしまった場合、効果が不発となってしまう。
例えば墓地からフィールドに召喚する、いわゆる蘇生系カード。
あのタイプのカードは、"墓地から"フィールドに召喚するという効果であり、墓地から、という部分が満たされなくなると、その効果の適用対象外となる。
カード効果の発動自体が無効になっている訳ではないが、効果処理を行う段階で対象不在となっており、結果不発となっているのだ。
デッキからフィールドに呼び出す、手札からフィールドへ、墓地からデッキへ。
その移動先が何であれ、この処理に例外は無い。
別にエトランゼに限らず、他のカードゲームであっても、対象不適切ならそもそも発動出来ない、効果が不発になるというのは、当たり前の処理なのだ。
フィールドから追放ゾーンへ、そして再びフィールドへ。
ミゲールも、エトランゼのルールに則るならば、当然その処理に例外は無い。
その移動先に介入して、別の場所に移動させた時点で、ゲームセットだ。
「異次元ツアーガイドの倒し方は、基本的に効果を使わせて、その上で更に除去効果を連発するか、今回みたいに追放ゾーンに介入するのが基本だ。だから、今回も同じ方法で始末したって事だな」
……まあ、異次元ツアーガイドに関してはこうすれば除去できるが、この上更に「そこまでして除去したい相手なのか?」という心理的なためらい要素が生まれる。
所詮、あいつは1マナの弱小ユニットでしかないという点だな。
言ってしまえばこんな雑魚を倒すのに、何枚も手札使って貴重なマナ沢山使って、そこまでして倒すのか? その手札で他の強力なユニットを始末した方が良いんじゃないか? という葛藤だ。
まあ生憎、今回は倒せば勝ちなのだから、そこは問題にならなかった。
カードゲームだろうが何だろうが、それが戦いである以上、道中どれだけディスアドバンテージを背負う事になっても、最終的に勝てばそれが正解なのである。
尚、俺の場合は異次元ツアーガイドを見たら、形振り構わず無理矢理でも殺しに行きます。
ツアーガイドはロクな使われ方しないからな、アイツ残しておくと唐突に即死コンボに繋げて来るから、見敵即殺は必須だ。
――というか、"連ディメドラ"環境を経験した奴なら過剰反応レベルで対応して来るぞ。
「あのミゲールという男……邪神の欠片を、操っていた。"魔王"に与する者と見て間違いないだろう」
「ミゲールって奴、邪神の欠片って情報が見えたんだが……邪神の欠片って、あの黒塗りの巨大な異形みたいな見た目の奴だけじゃないって事か?」
「それは、初耳だが……」
エルミアの話によると、人数こそ時代によって変わるが、"魔王"には付き従う配下が存在する。
その配下は、獣の如く暴れ回る邪神の欠片を操り、まるで兵器の如く用いる事が出来るそうだ。
この世界を滅ぼそうとしてる奴に協力なんて、馬鹿げた話だとは思う。
でも破滅を願う奴って、どんな世界にも一定数居るモノだからなあ。
「ふはははははは! 面白い! 遂に盟約主の前に、世界を蝕む不遜な自称王とやらの息が掛かった駒が現れたという訳だ! だが、あの程度では世や盟約主を倒すには到底足りんな!」
急に出て来てめっちゃイキるバエル。
貴方、今回何もしてないでしょうが。
「そういや、マナ数増えてたりしない? エルミアとバエルはそのままで、計算したいから誰か出て来てくれ」
何か例外もあったが、どうも俺が有しているマナ数ってのは、邪神の欠片の討伐数に比例して増えているように思える。
エルミアが2、バエルが7、これで合計9だから、10である俺は、もうインペリアルガード辺りしか召喚出来なかったはずだ。
案の定、その数値は増えていた。
予想以上に。
「アルトリウスとハイネが召喚出来るだと……?」
つまり、合計マナ数は19だ。
倍近くになっている。
ハイネ達が倒した数も含まれてるのか?
あいつ等が死ぬまでに倒した数は聞いてなかったから、その数を問うが……倒した数は、3体らしい。
計算が合わない……もしかして、一体で2以上カウントされてる奴が居る?
だとすると、ソイツは恐らく――ミゲール、なんだろうな。
アイツだけ何か、規格外な感じあったし。
ミゲールも邪神の欠片っていうカテゴリに属してたみたいだしな。
「――帰るか」
考察をこんな砂浜でする意味は無い。
もうここで、俺達に出来る事もする事も無い。
住人の居ない廃墟を復興する意味も、無いからな。
真正面から殴り倒すだけがカードゲームに非ず
墓地にポイでハイサヨナラ!
名称:"暗躍"のミゲール
分類:ユニット
プレイコスト:???
文明:黒
性別:男
種族:人/悪魔
カテゴリ:邪神の欠片
マナシンボル:?
パワー:4000
1:【永続】【効果】このユニットとバトルしたユニットのパワーは4000ダウンする
2:【速攻】【条件】1ターンに1度【コスト】このカードを次の自分のリカバリーステップまで追放する
【効果】相手フィールドに存在するユニット1体を選択し、疲弊させる事が出来る。及び、手札からカテゴリ:邪神の欠片ユニットを1体選択し、フィールドに出す事が出来る
3:【永続】【条件】このカードが追放ゾーンからフィールドに戻った時
【効果】ターン終了時までこのユニットは戦闘では破壊されず、後衛から攻撃する事が出来、後衛ユニット・プレイヤーを攻撃対象に選択出来る




