128."暗躍"のミゲール-2-
「虹マナ1を支払い、更に手札から装備呪文、身代わり人形をジャンヌに装備。俺はこれで、ターンエンドだ」
そして、エンドステップ。
「永続呪文、朽ち果ての惨歌の強制効果発動」
名称:朽ち果ての惨歌
分類:永続呪文
プレイコスト:○
文明:無
マナシンボル:○
カテゴリ:音楽
1:【強制】【条件】自分のエンドステップ時
【効果】フィールドに存在する全てのユニットにカウンターを1つ乗せる
2:【永続】【条件】このカードの効果で乗っているカウンターの数が、そのユニットの召喚コスト以上の時
【効果】そのユニットは破壊される
その、地獄の音色が響き渡った。
踏み潰したカエルの鳴き声のような、不快で不気味な歌声。
その歌はアルトリウスやジャンヌにも不快なようで、反射的に耳を抑える。
そして、その音色は敵味方の差別無く、平等に襲い掛かる!
さて、この効果は通るのか?
歌声という、空気の振動が相手フィールドに迫る。
邪神の欠片も、この不気味な歌声が不快なのか、のたうち回るような動作を見せた。
そして、ミゲールも当然――
消えた。
不自然に映画のフィルムを編纂したかのように、その場から消え失せたのだ。
直後、再び姿を現すミゲール。
「何だ? 今の耳障りな声は……」
舌打ちしつつ、スッと腕を伸ばすミゲール。
その合図を受け、邪神の欠片(1)――トカゲ型の邪神の欠片が、口を開く。
その口腔から迸る、黒い閃光。
不気味な光が放たれ、その閃光は真っ直ぐに、ジャンヌを貫く!
「装備呪文、身代わり人形の効果発動。装備ユニットが破壊される時、代わりにこのカードを破壊する」
ジャンヌは、黒い光に飲まれて尚、健在。
更に邪神の欠片(2)――四足歩行の獣のような姿をした邪神の欠片が、吠えた。
その咆哮は雷雲を呼び、空から一筋の天雷をもたらした。
その落雷は意思を持ち、真っ直ぐにジャンヌを貫いた!
パワーダウン効果の奴か。
その直撃を貰い、ジャンヌのパワーが5000から3000へダウンした。
アルトリウスの方を狙ってくれれば、カウンター打ち込んでやったんだが……駄目か。
しかしそれでも、退魔の剣を装備したアルトリウスと共に、どちらもパワーは3000。
邪神の欠片(3)のパワーでは、こちらの布陣を崩す事は出来ない。
迫る邪神の欠片。
トカゲ型の邪神の欠片が、前腕を振るい、ジャンヌに襲い掛かる!
「ジャンヌの効果、このユニットは1ターンに1度だけ戦闘で破壊されず、このユニットと戦闘を行ったユニットはバトル終了時に破壊される」
迫る前腕と、切り結ぶジャンヌ!
パワーでは負けているのに、その自重を乗せた一撃を、見事受け止めてみせた。
それを強引に跳ね除け、ついでとばかりに一閃を見舞う!
そして……破壊されない。
邪神の欠片(1)もまた、1ターンに1度だが、破壊耐性を有しているからだ。
直後、横から飛び出した四足歩行の獣型、邪神の欠片(2)がその顎門を開いてジャンヌに喰らい付く!
間髪入れない猛攻に、流石のジャンヌも防ぎ切れない。
戦闘で破壊されない、その効果は1ターンに1度だけ。
二度目は、無い。
飲み込まれ、咀嚼。
骨の砕ける、嫌な音が響いた。
それと同時に、肉を貫く音。
「――戦闘を行った、って事実は変わらないからな」
邪神の欠片(2)の頭部から、剣が生えていた。
死なば諸共、その身を散らしながらも、ジャンヌは邪神の欠片(2)を討ち取ったのだ。
斃れ、黒い粒子となって消えていく邪神の欠片(2)。
一番パワーの高い奴は討ち取れたか、しかし……他の奴は厄介だな。
やれやれと、一息吐く。
そして――ミゲールが居ない事に気付く。
何処だと視線を動かし――
「死ね」
それは、俺の懐に潜り込んでいた。
そして、盾がその凶刃を阻む。
前衛には、アルトリウスが居る。
前衛ユニットが居る限り、俺へ攻撃は届かない。
だから、その刃は俺に届く事無く。
盾を砕いた。
――ああ、そうか。
「お前、直接攻撃能力か」
アルトリウスは、盤面に健在。
だと言うのに、その攻撃は俺の盾を砕いた。
それが可能だった時点で、もう効果はそれしか有り得なかった。
名称:"暗躍"のミゲール
分類:ユニット
プレイコスト:???
文明:黒
性別:男
種族:人/悪魔
カテゴリ:邪神の欠片
マナシンボル:?
パワー:4000
1:?????
2:【速攻】【条?】?????【コ?ト】?????
【効果】?????
3:【??】【??】
【効?】?????
ミゲールの効果欄が、浮かび上がっていた。
だが――レイウッドの時と違う。
一部が浮かび上がったが……まだ、読み取れない。
何だ? 一回見たらそれで完全に浮かび上がる訳じゃないのか?
そして……気付く。
生き残っている邪神の欠片と、アルトリウス。
それ等には、朽ち果ての惨歌によってカウンターが乗せられている。
どれを見ても、ぼんやりと「1」という数字が浮かび上がっていた。
だが、ミゲールには――それが見えない。
……あっ、駄目だこれ効いてねえ。
先程ミゲールが見せた挙動も併せて、ある程度効果を絞り込んでいく。
コイツ、もしかして――フィールドから自発的に消えるタイプの効果なのか?
朽ち果ての惨歌は、ユニットに乗っているカウンターの数を参照し、そのユニットを破壊していく呪文。
召喚コストがいくつなのかは知らないが、これで破壊出来なかった以上、今居る邪神の欠片連中の召喚コストは2以上なのだろう。
そして、ミゲールにはカウンターが乗っていない。
朽ち果ての惨歌の効果処理時に、ミゲールが姿を消した。
つまり……あの姿を消した時に、朽ち果ての惨歌の効果をかわした、って事か。
ああ、はいはい了解了解。
駄目だこりゃ。
「――俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ。マナゾーンにカードをセット、疲弊させて虹マナ1、黒マナ1、白マナ3を得る」
前ターン、天啓の聖杯によるマナ加速によって、豊富なマナを確保出来るようになった。
これで今後の動きの自由度を上げられた。
「しょうがない。アルトリウスに装備している退魔の剣の効果発動。アルトリウスを疲弊させ、フィールド上に存在する全ての呪文を破壊する」
駄目だった時の為、自発的に解除する手段を用意してある。
この朽ち果ての惨歌は、コストが軽い代わりに敵味方無差別に破壊を振り撒く呪文だからな。
相手に効いてないのに残しておいても、こっちの首絞めるだけだ。
退魔の剣を装備しておいた理由は、この自発解除の為である。
「更に虹マナ1を支払い、手札から呪文カード、緊急脱出を発動」
アルトリウスの足元から、突如戦闘機の座席のようなモノが現れる!
それにアルトリウスが腰掛けさせられ、白い煙を吐き散らしながら、凄まじい勢いで俺の手札に突っ込んできた!
「アルトリウスを俺の手札に戻し、俺は黒マナ5を得る。黒マナ5を支払い、手札からアルトリウスを召喚する」
そして一旦姿を消し、再度手札から現れるアルトリウス。
無駄に手札とマナを使って、ただアルトリウスを出し入れしただけに見えるこの行為。
しかしその実、こうする事で先程退魔の剣の為に疲弊したアルトリウスの疲弊状態がリセットされ、活性状態に戻るのだ。
つまり、攻撃が可能になる。
それ以外にも緊急脱出は相手ターンでも使えるから、色々トリッキーだったり怪しい使い方されてんだけどね!
1キルには使うなよ! お兄さんとの約束だ!
「そしてアルトリウスの効果発動。デッキから装備呪文、雲竜紫電を装備」
アルトリウスの手に収まる、一振りの刀。
竜のような意匠と、青白い刀身。
所謂日本刀と呼ばれる形状の代物であり、3マナの装備呪文としてはかなり優秀な部類に入る。
名称:雲竜紫電
分類:装備呪文
プレイコスト:青○○
文明:青
カテゴリ:剣
マナシンボル:青
1:【永続】【効果】装備ユニットのパワーを3000アップする。
2:【永続】【条件】装備ユニットの攻撃宣言時
【効果】ターン終了時まで装備ユニットのパワーを2000アップする。
3:【永続】【条件】装備ユニットが相手ユニットとバトルする時、装備ユニットのパワーが相手のパワーより大きい
【効果】上回ったパワーの数値分、相手に戦闘ダメージを与える
これで、アルトリウスのパワーは5000、そして攻撃宣言時のみだが、パワーは7000まで上昇する。
だけど……邪神の欠片(3)がとても邪魔だ。
アイツ、破壊されないんだろう?
戦闘だろうが、カード効果だろうが、回数制限も無く。
パワー自体は大した事無いが、本当に効果が厄介だ。
……じゃあ、こうするか。
「手札から白マナ1を支払い、装備呪文、無垢なる剣を邪神の欠片(3)に装備」
装備呪文は、普通は自分のユニットに装備する。
だがそれは、自分のユニットに装備しなければならない、という事にはならない。
相手ユニットに装備するのも、可能である。
「無垢なる剣を装備したユニットのパワーは3000アップし、そのカード効果は無効になる」
さっき、ジャンヌに付けるかどうか迷ったが……敵ユニットの耐性が硬いからな。
耐性潰しの為に使わせて貰おう。
無垢なる剣が、邪神の欠片(3)に装備された。
でも邪神の欠片(3)って……魚みたいな見た目してるんだよな。
空中にふよふよ漂ってる感じ。
手も当然、無い。
どうなるのかと思ったら、何か体表にぺたって張り付いた。
うーん……シュール。
「バトルだ。アルトリウスで邪神の欠片(3)を攻撃」
無垢なる剣を装備した事で、邪神の欠片(3)のパワーは5000までアップしてしまっている。
そのパワーが厄介だが、同時に今まで厄介だった強力な破壊耐性が消滅している。
雲竜紫電の効果により、攻撃時のみだがアルトリウスのパワーは7000にまで跳ね上がる。
その鋭い切れ味により、邪神の欠片(3)は三枚おろしにされた。
……違うか、これは輪切りって言った方が良いな。
これで、残すは邪神の欠片(1)とミゲールのみ。
「ターンエンドだ」
その宣言と共に、ミゲールが再び姿を消した。




