124.火急は突然に
世界の脅威を瞬殺した後、追撃があるかもしれないと多少の警戒をしつつも、救助した二人を休ませるべく、一旦の休息を取る一同。
水分と軽い食事を取った事で、体力が回復したのか、ようやく喋れるようになった二人から、事情の聴き取りを行う。
この少年少女の名は、ユウとリンと言うらしい。
青髪の子供にしては引き締まった身体つきの少年がユウで、若草色の細い髪質をした線の細い少女がリンである。
二人は兄妹であり、ユウの方が一歳年上だとの事。
どうして集落がこんな状態になったのかを訪ねるが、明確な答えは帰って来ない。
友人達と一緒にかくれんぼで遊んでいる最中、地下の物置に隠れていたら何時の間にか――との事だ。
「結局、こうなった理由は分からないままか」
砂浜に腰を下ろし、海に背を向けた状態で、ベイシェントの惨状をぼんやりと眺めるエルミア。
生存者が居たものの、有益な情報は何も無し。
ここで何かが起きた事だけは確かであり、かつてここに集落があったという痕跡だけが残されていた。
「――ああ、そんな。何て事だ……!」
この場に居る、誰の者でもない声に気付き、一斉に視線がその場に向けられた。
声の質と体格からして、その者は男なのだろう。
すっぽりと全身をフード付きの外套で覆っており、手荷物らしきバッグを一つ肩に提げているだけであり、他には特に何も手にはしていない。
「……貴方は?」
「俺は、ミゲールってモンなんだが、これは一体、何がどうなってるんだ? アンタ達は?」
「私達も、良くは分かっていないのだが――」
首を傾げているミゲールに対し、状況を説明するエルミア。
漂流していた船を見付け、その船を送り届けようとした事。
その船のあるべき場所が、こうして滅んでいた事。
瓦礫の中に、こうして生存者を見付け、保護した事――それを、ミゲールに対して説明した。
何でも、このミゲールという男は、ベイシェントに居る旧友を訪ねて来たようだ。
大きな音に驚きつつも、ここを訪ねた所――今に至る、という事だ。
音の正体は恐らく、先程ハイネが放った攻撃音だろう。
「後は、見ての通りだ。捜索はしたが、この二人以外には影も形も無い有様だ、残念だが、貴方の友人というのも――」
「そう、ですか……」
顔を覆い、その場に膝を付くミゲール。
そんなミゲールの感情を察し、一旦その場から離れるエルミア。
この集落の惨状では、このミゲールの旧友といのも、恐らく無事では無いだろう。
「――スバルと連絡は出来ないのか?」
「まだ、無理だな。衛星というのは、その星の周りをグルグルと周回する形で回り続けている代物だ。一度繋がらなくなった以上、再度通信可能になるのは、この星を一周する頃……つまり、まだまだ先という事だ」
現状を報告しようにも、通信手段は一時的に使用不能になっている。
各々の判断に基づいて行動する他無い状況だ。
「……すみません、少し取り乱してしまったようです」
「謝る必要は無い。誰だって、友人の故郷がこんな有様になれば、取り乱しもするさ」
頭を垂れるミゲールに対し、頭を上げるように伝えるエルミア。
「それに、この惨状の原因だと思われる邪神の欠片も倒したが、まだ安全になったと断言出来る訳でもない。二体目が居ないとも限らないからな」
「邪神の欠片ですって……それに、倒した――!?」
ハッとした表情を浮かべるミゲール。
「も、もしかして……貴方がたは、噂の勇者様って奴ですかい……!?」
エルミアと、その側に居た伝説の魔法戦隊達に視線を向けるミゲール。
「いや、俺達は勇者ではないな」
「でも、勇者の仲間ではあるだろう?」
「仲間、っていうのも何か違うけどなぁ……」
「そもそも、一心同体みてえなもんだしな」
伝説の魔法戦隊達は、カードの設定上、軍人である。
なので戦闘要員かと言われれば頷きもするが、勇者かと言われれば否である。
そして、昴とカード達の関係は……仲間、なのだろうか?
通常では有り得ない状況であるが故に、既存の言葉の枠組みでは表現が難しいように思える。
「しかし、邪神の欠片すら退けられるなんて大した腕前だ」
そう言い残し――ミゲールが、消えた。
目の前で突如、人が消える。
有り得ない状況に、一瞬生じる、意識の空白。
「――邪魔だな、手前等」
友好的な態度を見せられ、完全に、油断し切っていた。
背後から響いたその声に、反応が遅れる。
黒く、鈍い輝きを宿したその不意打ちの刃は、ハイネの急所を深々と切り裂き、返す刃で近くに居たシズも凶刃に斃れる!
「くっ――!?」
更に続けてグラッツも、とは流石に行かない。
多少腕を切られはしたものの、体勢を立て直した。
まだ少し、混乱が残っているものの、構えねばならない状況だという事を頭ではなく身体が理解し、咄嗟に武器を構えた!
「チッ、まあまあ数は減らせたか。後はどうにかするしかねえな」
「貴方は、いや、お前は一体――」
舌打ちし、先程とは態度を一変させた男――ミゲールを睨み付けるエルミア。
「あー、答える義理はねえし意味もねぇ。良い女がいっぱいなのが残念で仕方ねぇけど、お前等危険過ぎるからな」
ミゲールが、懐から取り出した黒い不気味な塊を地面へと放る。
それは地面へとポトリと落ちた後――爆発的な膨張と共に体積を増やし、生物の形を形成していく。
そして生まれたのは、生物の形をしただけの、異形。
「さっさと死んでくれや」
災厄の塊にして、恐怖の象徴――邪神の欠片であった。




